足かけ二年近くをかけて、じっくり準備を進めてきた〈怪談えほん〉第二期のラインナップが、このほど版元の岩崎書店から公表されました。

 http://www.iwasakishoten.co.jp/special/kaidan/

 綾辻行人、岩井志麻子、小野不由美、恩田陸、高橋克彦(五十音順)・・・・・・いかがでしょうか。
 第一期と同じく、これ以上はない顔ぶれに御参集いただくことができました!
 今回もまた、いずれ劣らぬ怖い話のスペシャリストたちが、本気で子どもたちを震えあがらせるべく、筆を執ります。
 発刊を記念して、上記の方々にお送りした監修者の企画趣意書を、一部改訂のうえ、ここに公開させていただきます。

〈怪談絵本〉プロジェクト/企画監修者の緒言

 われわれが人生で最初に出逢う書物――それは多くの人にとって「絵本」ではないでしょうか。
 色鮮やかで不可思議なフォルムに満ちた装画の数々に惹き寄せられ導かれて、まだ不馴れで、どこか呪文めく活字の世界へ、わくわくどきどきしながら参入した遠い日々・・・・・・。
 とうに作者もタイトルも忘れ果ててしまった絵本の中のワンシーンを、いまだ強烈に記憶されている向きも少なくないと思います。
 紙という平面の上にひらける無限/夢幻の沃野に、思うさま眼と心を遊ばせる幼児期の体験は、読書という習慣を涵養するためにも、きわめて重要なものと申せましょう。

 しかしながら、こと「怪談」や「怖い話/不思議な話」といった観点から眺めるとき、絵本が置かれた現状は、なんとも寥々たるものがあります。
 恐怖、怪奇、残酷、不条理・・・・・・等々、民話や昔話の中には本来あふれていたはずの仄暗い領域から、ことさらに子どもたちを遠ざけようとする傾向は、近年ますます強まっているようです。
 クリーンに滅菌された読書環境に育つことが、子どもたちの情操教育に良い影響を与えるとは、とても思えません。むしろ、幼いころから書物の世界で、さまざまな怖い思い、不思議な体験を重ねておくことが、長じて後の人生を豊かにすることは、われわれ自身の経験が教えてくれるところであります。

 このほど、岩崎書店編集部の大胆な発意によって実現へと動きだした〈怪談えほんプロジェクト〉は、怪奇幻想文学のプロフェッショナルたる作家諸賢と手を携え、子どもたちを本気で震えあがらせるような怖い絵本を生みだそうとする、真に画期的なプロジェクトであります。

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 思いかえせば、今からちょうど2年前のハロウィン前夜――以上の文章を起草することから、岩崎書店版〈怪談えほん〉シリーズの第一期計画は幕を開けました。
 まだ海のものとも山のものとも、先行きの不明なプロジェクトです。
 監修役の私にとって、『幻想文学』や『幽』の活動などを通じて長年にわたり気心の知れていた作家の皆さん――皆川博子、宮部みゆき、京極夏彦、恒川光太郎、加門七海の五氏に、おそるおそるオファーを差しあげたところ、驚くべきことに、すぐさま全員の方から御快諾を賜り、幸先の良いスタートを切ることができました。

 その後、打ち合わせを重ねて、文章パートが完成。子どもたちを本気で震えあがらせたり、もうひとつの世界へ誘おうとする熱意と奇計に満ちた作品が揃いました。
 それぞれの作風や世界観に合致する描き手を選定する作業も、絵本づくりのプロである編集部の堀内日出登巳さんと佐々木幹子さんの好アシストによって順調に推移し、皆川作品には宇野亜喜良氏、宮部作品には吉田尚令氏、京極作品には町田尚子氏、恒川作品には大畑いくの氏、加門作品には軽部武宏氏と、斯界の長老から新鋭まで個性的な画家陣が腕を競うこととなりました。
 こうして〈怪談えほん〉第一期全五巻――『マイマイとナイナイ』『悪い本』『いるの いないの』『ゆうれいのまち』『ちょうつがい きいきい』が、完成したのでした。

 果たして、この新しい試みが、どのように受けとめられるのか・・・・・・不安含みのスタートでしたが、幸いにも発刊直後から、絵本としては異例の大きな反響を頂戴しました。
 心配された教育現場での反応もおおむね好意的で、ホッと胸なでおろした次第です。
 そして〈怪談えほん〉の原画展や朗読会、シンポジウムなどのイベントが全国各地で開催され、今まさにムーヴメントとしての拡がりを示しつつあることも、予想外の出来事でした。

 こうした大反響に力を得て、このほど私どもは〈怪談えほん〉第二期の企画・刊行を決意した次第です。
 第一期の五冊を見ても明らかなとおり、怪談としての絵本には、書き手と描き手の組み合わせ次第で、それこそ十人十色の百物語めく豊饒多彩な可能性が秘められているように思います。
 そうした点を踏まえつつ、今回のオファーでは、監修者と編集部が「この作家が書く怖い絵本/不思議な絵本を是非とも読みたい!」と切望する皆さまに、御多忙は重々承知のうえで、思い切ってお願いをさせていただくことに致しました。
 もしも〈怪談えほん〉というプロジェクトに、いささかなりと御関心を抱いていただけるようでしたら、ぜひ一度、御相談の機会をお与えいただきたいと存じます。

 2012年11月7日

 〈怪談えほん〉〈妖怪えほん〉監修
 東 雅夫