大賞
『美醜記』(岩里藁人さん)
優秀賞
『本家の欄間』(沙木とも子さん)
『水晶橋ビルヂング』(仲町六絵さん)
佳作
『でいだら』(石居椎さん)
『祟りちゃん』(影山影司さん)
『波動』(烏本拓さん)
『球体関節リナちゃん』(君島慧是さん)
『ぼくと新しい神さま』(国木映雪さん)
『おまもり』(黒木あるじさん)
『梨園のマネキン』(紺詠志さん)
『山羊の足』(葉越 晶さん)
『さらばマトリョーシカ』(ヒモロギヒロシさん)
『蛾』(我妻俊樹さん)
愉しませてもらいました賞
『冥福を祈る』(小瀬朧さん):加門七海・選
『柿をとる人』(小島モハさん):福澤徹三・選
『東の眠らない国』(白縫いさやさん):東雅夫・選

★怪談を意識した作品が集まった

東 今年の全体の印象はいかがでしたか?

福澤 全体におとなしめの印象でしたが、作品の力量差は大きかったと思います。上位は実力が拮抗していて大接戦でした。候補を選んだいまでも迷うところがあります。

東 たしかに総じてレベルは高いんですが、大賞候補が決まらない。悩みました。

福澤 これ1本で決まりだという作品はなかったですね。

加門 同意見です。上位レベルは高いんですが、前回までのように、「絶対にこれを推したい」というものがなかったですね。

東 投稿できるのが3作品までということで、皆さん堅実路線というか、あえて冒険をしていないというのか。なにも3篇だからといって守りに入らなくても(笑)いいと思うんですが……。

福澤 50選に入っておけばいいか、みたいな感じもありますね。聞き書き形式の作品がわずかしかなかったのもさびしいです。

東 まあ、聞き書きは大変ですよね。ふだんの生活環境とか、対人面での資質の問題とか、アマチュアにとってはハードルが高いのかも。

福澤 取材で人と会うのが苦手という方もいそうですね。

東 そうですね。ネットばっかりやってるとかね(笑)。

加門 前回の選考会で、私、「怪談以外の作品は選ばない」と言ったじゃないですか。

東 加門さんの直言は効果があったと思います。前回までと比べて、怪談的なもの、あるいは「怖さ」ということを意識した作品は増えたと思いますね。

加門 ええ、それは感じたので嬉しかったです。けど、出来はいいのに怪談じゃない、という人もあいかわらず多かった。掌編としてレベルは高いけど、怪談じゃないから選べないな、と。正直、惜しい気持ちがしましたよ。いや、もちろん今後も怪談以外は選びませんけどね(笑)。
 それと、句読点も文章の一部だということをわかっていない人が、意外と多い。800字という制限があるからかもしれませんが、句読点もちゃんと打とうよ! 読みづらいから、行替えもしようよ! そういうバランスも、文章表現の一部だとわかってほしいですね。

福澤 自分が好きなものを書いて投稿するのはいいんですが、人に作品を読ませたいのなら、読ませる工夫が必要ですね。毎回おなじことを言っていますが、擬古文なら擬古文で書く必然性が欲しい。

東 そうですね、擬古文系と、それから七五調で書かれた作品もありましたが、どちらも傾向が似ているというか、形式優先で肝心の内容、特に怪談としてのオリジナリティに欠けるきらいがありました。

福澤 擬古文の場合、文体でそれらしく見えるんですが、時代性を取り除くと、大して内容がないものが多いんです。

加門 擬古文が悪いとは言いません。要はそれが作品にとって効果的であればいいんですが。

東 同じ内容を、擬古文ではない普通の文章で一度書いて、虚心坦懐に読んでみるといいと思いますね。そうすれば怪談文芸として、どこが弱いのか、足りないのか、見えてくるのでは?

加門 また擬古文に限らず、今回、無駄な文章が多いなと感じたんです。たった、800字なのに一文、またはこの数行いらないんじゃないか、という作品が目につきました。句読点を惜しむ前に、文章をもっと研いでほしいですね。

★選考委員が選んだベスト20

東 では、今年もそれぞれ大賞候補の20選を出していただきましょう。

◎加門七海・選

『忘れがたき』/日原佑遊
『未明の獣』/仲町六絵
『写真の落書き』/安部孝作
『兄と名乗る男』/三和
『水晶橋ビルヂング』/仲町六絵
『隣の部屋』/室津圭
『美醜記』/岩里藁人
『駆毛落ち』/江賀根
『本家の欄間』/沙木とも子
『ぬるんの子』/君島慧是
『うらべ様』/太田工兵
『葬儀』/多麻乃 美須々
『梨園のマネキン』/紺詠志
『遺髪』/宇津呂鹿太郎
『祭りばやし』/日野光里
『手を鳴らす』/名倉永理
『冥福を祈る』/小瀬朧
『古本奇譚』/猫吉
『山羊の足』/葉越 晶
『薫』/我妻俊樹


◎福澤徹三・選

『梅雨の電話』/葉越 晶
『磯女』/添田健一
『梨園のマネキン』/紺詠志
『三柱』/有井聡
『シミ』/影山影司
『球体関節リナちゃん』/君島慧是
『おまもり』/黒木あるじ
『美醜記』/岩里藁人
『水晶橋ビルヂング』/仲町六絵
『祈り』/金魚屋
『波動』/烏本拓
『海外フェスの話』/松音戸子
『さらばマトリョーシカ』/ヒモロギヒロシ
『ジョン』/間遠浪
『でいだら』/石居椎
『ぼくと新しい神さま』/国木映雪
『海鬼燈賣り』/山本ゆうじ
『ハルビンの猫』/しらみずさだこ
『視線』/沙木とも子
『蛾』/我妻俊樹


◎東雅夫・選

『坂をのぼって』/炭酸水
『やまんぶの帯』/朱雀門出
『狸の葬式』/葉原あきよ
『東の眠らない国』/白縫いさや
『鈴』/埜木ばにら
『僕と兇巣』/烏本拓
『百人腐女(ひゃくにんくさめ)』/よっちゃん
『水晶橋ビルヂング』/仲町六絵
『ならわし』/黒木あるじ
『美醜記』/岩里藁人
『夏の記憶』/野棲あづこ
『さらばマトリョーシカ』/ヒモロギヒロシ
『本家の欄間』/沙木とも子
『迹祭』/君島慧是
『春恋し』/国木映雪
『でいだら』/石居椎
『つゆはらい』/屋敷あずさ
『漬物』/貝原
『古い隧道』/田辺青蛙
『祟りちゃん』/影山影司
『帰りのあいさつ』/青井知之
『さくらの咲くあさ』さとうゆう
『蛾』/我妻俊樹
『山羊の足』/葉越 晶

★接戦の末に~怪談大賞の決定まで

東 3人のうち、2人以上が選んでいる作品を見ていきましょう。

・『水晶橋ビルヂング』/仲町六絵
・『美醜記』/岩里藁人
・『さらばマトリョーシカ』/ヒモロギヒロシ
・『本家の欄間』/沙木とも子
・『でいだら』/石居椎
・『梨園のマネキン』/紺詠志
・『蛾』/我妻俊樹

以上7作品ですね。それ以外に大賞に推したいものがあれば推薦してください。とくになければ、このなかから大賞を決定したいと思います。

福澤 この中からでいいと思います。順当に考えた場合、3票が集まっている『本家の欄間』・『美醜記』・『水晶橋ビルヂング』のいずれかでしょうね。ただ『水晶橋ビルヂング』はすばらしい作品なんですが、怪談としてはどうでしょう。

加門 そうですね。どうかなあ。まあ、実際のことだと考えてみれば、『水晶橋ビルヂング』は、結構な怪奇現象が起こっているのですが。

福澤 『美醜記』の岩里藁人さんは他の二作、特に『――おとす』もいい作品でした。

東 今年は充実しているなと思いました。3票以外で『でいだら』は、私しか選ばないと思ったら、福澤さんも選んでいて嬉しかったですけど。これ、ちょっと面白いですね。でも、怪談かどうかというと……。

福澤 話の構造も面白いし、表現も新鮮ですけどね。

東 800字とは思えないほど、時空の広がりを感じさせるところが凄い。

福澤 母親と娘の心理描写が非常に巧みです。場面の転換も切れ味がいいし、800字という文字数の中で、かなり高度なことをやられていると思います。

東 常連の我妻俊樹さんはどうでしょう。

加門 高め安定株で、どれもいいんですけど。

福澤 相変わらずハイレベルですが、過去の作品とくらべると微妙な感じがします。ほかの常連ではヒモロギさんの『さらばマトリョーシカ』も、いつもながらの芸を見せていただきました。今回はいくぶん怖めかな。

加門 ヒモロギさんは世界が独特なんですけど、その分、作品に慣れると飽きやすいという弱点がある。ゲームと同じで、一作目がすごく面白くて、では、と二作目をやってみたら、テンション同じなのに、つまらなく感じるという……。難しいですね。

東 となると、有力候補は『本家の欄間』か『美醜記』か……『梨園のマネキン』はどうですか?

福澤 不気味さという点では、いちばんかもしれません。「カカシ」や「セミ」といった小道具の使い方が上手いんですね。最後に不条理へ持って行くところも意表をつかれました。

加門 私も小道具の使い方が上手いと思いました。『本家の欄間』はかなり気持ち悪い。最後は少し落とし話ぽくなっているかなとも思うんですけど。『美醜記』はどうですか?

東 かなりエグいネタなんですけどね。それをエログロな話ではなく、一種宗教的といってもいいような荘厳な話にしている。狂気と醜穢の極みに顕現する崇高美みたいなところまで到達しているのは大変なものだと思います。

福澤 描写に説得力があるんです。その絵はほんとうにきれいなんだろうなあ、と思わせる。今回は下がらみの応募作がいくつかありましたが、ただグロテスクな話で終わっている印象です。その点『美醜記』は、醜を描いて美を感じさせるという極めて困難な表現に成功している。まさにタイトルどおりの世界を構築したのがすばらしいと思います。

東 あえて甲乙をつける参考に、いま名前が挙がった作者の他の作品も見てみましょうか。『本家の欄間』の沙木とも子さんは『視線』、『彼の精髄』ですね。

福澤 『視線』は、ラストのどんでん返しがよかったですね。

東 沙木さんも以前から応募してくださっている方ですが、今年の三作は一皮剥けたかな、という印象がありますね。とはいえ、岩里藁人さんの充実ぶりも目立つわけで……。

福澤 岩里さんの過去の応募作を振りかえると、その成長ぶりがめざましいですね。今回は超自然的な要素が薄い感じはありますが。

東 そうすると『美醜記』か『本家の欄間』のどちらか、でしょうか。

福澤 どちらでも異存はありません。

加門 『梨園のマネキン』は怪異的な部分を取り出すと少し弱いかな。最後のオチは偶然とも読めてしまうし。怪談的なものがはっきりと出てくるのは『本家の欄間』のほうじゃないかと思います。

東 大賞が『本家の欄間』、優秀賞の二作が『美醜記』と『梨園のマネキン』という感じですか?

加門 三人ともが候補に入れた『水晶橋ビルヂング』が落ちちゃっていいんですか?

福澤 そうですねえ。確実に優秀賞か佳作にはなる作品ですけど、これを大賞に、と思って候補に入れたわけじゃないような……そのへんはいかがでしょう。

東 そうなんですね。3人が揃って選んだからといって、必ずしも評価が飛び抜けていたわけではないということもあるわけで。

加門 ちょっと、可哀想な気もしますけど(笑)。東さんは『梨園のマネキン』はどうなんですか?

東 悪くないですよ。やや新鮮味に乏しい気がして、20作の中には入れなかったけれど、ボーダーには食い込んでいましたね。

福澤 『梨園のマネキン』の紺詠志さんは、最終候補になるのは初めてですが、すごい力量だと思います。

加門 じゃあ、『本家の欄間』、『美醜記』、『梨園のマネキン』のどれかですね。スーパーナチュラルな部分を重視すると、『本家の欄間』なんですが。

東 私は『本家の欄間』か『美醜記』であればどちらでも。『梨園のマネキン』はほんの少しですが劣るかな、という感じで。

福澤 私も『本家の欄間』か『美醜記』でいいと思いますけど、どちらか決めかねますね。

加門 個人的な好みではどうですか?

福澤 作品の傾向がまったく違うので、比較するのがむずかしいですね。タイトルを込みで考えると『美醜記』のほうが完成度が高いような……。

加門 ええ。怪異の有無を別にして、怪談特有の後味の悪さ、生理的な気持ち悪さを考えると、『美醜記』のほうが『本家の欄間』より勝っているんですよね。

福澤 たしかに『美醜記』のほうがディテールまで印象に残っています。

加門 ただ、スーパーナチュラルなことを描いているということでは『本家の欄間』なんですよ。

東 加門さんが「怪談原理主義で『本家の欄間』に!」と言えば、それで決まりですよ(笑)。

加門 また、すぐそう言う(笑)。でも、確かに怪談原理主義でいけば『本家の欄間』なんですよ。それこそ、人から怪談として聞かされたときは、『本家の欄間』のほうが怪談として成立している。でもね、『美醜記』も確かに怪談なんです。スーパーナチュラルの分量で怪談の質が決まるわけではないですから。

東 帯に短し、たすきに長しということですか。『美醜記』にはスーパーナチュラルが足りないし、『本家の欄間』はある種の怪談のパターンといえなくもない。

加門 そうですね。『本家の欄間』は、まさに「欄間」を使っているところが上手い。

東 あれって民俗学的な裏付けがちゃんとありますよね。遠野なんかでは、ザシキワラシが欄間から手を出して「おいで、おいで」をするという伝承があるじゃないですか。
 うーん、しかし難しいですね。でも、いままでの話を総合すると『美醜記』のほうがやや優勢じゃないかと思いますが、いかがですか?

福澤 そう思います。汚穢を描いて美しさを表現するというのは、なかなかできることではないですよ。あえてハードルが高いことに挑戦する意欲を感じます。

加門 じゃあ、怪談の幅を広げるという意味で『美醜記』で。

東 では、今年の大賞は岩里藁人さんの『美醜記』に決定したいと思います。(拍手)

★優秀賞2作品

東 優秀賞は沙木とも子さんの『本家の欄間』、紺詠志『梨園のマネキン』でいいですか?

加門 異論はないですけど、やっぱり『水晶橋ビルヂング』は惜しい。せっかく三人が選んだのに(笑)。800字のなかでノスタルジックな雰囲気を見事に書いています。

福澤 ティンパニ、ピアノといった音の描写も効果的です。

加門 あくびをしている、とか。のんびりとしたいい感じがあります。

東 最後まで大賞を競った『本家の欄間』は当確として、『梨園のマネキン』と比較してどうかですね。

加門 東さんが『梨園のマネキン』を推さなかった理由は?

東 細部の描写は冴えているんですが、怪異発現へのもっていきかたが、ちょっと段取りっぽく読めてしまうところが弱いかなと思ったんですね。それと今年は「密集」系の話が多かったので、印象が薄められたのかな……。

加門 埋もれたという感じがあるなら、『水晶橋ビルヂング』にしましょうか。

東 最初から三人全員が選んでいましたからね。福澤さんも異存はありませんか?

福澤 ありません。

東 では、『本家の欄間』と『水晶橋ビルヂング』を優秀賞にします。


★佳作と選外の中で印象に残った作品

東 佳作の選考に入りましょう。候補を挙げていきましょうか。まず、烏本拓さん。作品違いで二人以上挙げているので、どちらかで。福澤さんが『波動』、私が『僕と兇巣』を挙げていますね。私はどちらも好きな話なので、『波動』が佳作でもいいと思います。

加門 君島慧是さん。『球体関節リナちゃん』ですね。

東 君島さんはジャパネスクな『迹祭』も絶妙ですけどね。でも、こっちは従来の君島調かな……。

福澤 『球体関節リナちゃん』は、君島さんの作品の中では斬新ですね。

東 では、『球体関節リナちゃん』で。
国木映雪さんも、私と福澤さんが挙げていましたね。『春恋し』と『ぼくと新しい神さま』……ちょっと奇想系というか、不思議なセンスの持ち主ですね、この方は。

加門 私は『ぼくと新しい神さま』を選んでいます。

東 それでは『ぼくと新しい神さま』にしましょう。『春恋し』は『でいだら』と微妙にかぶってるし。
影山影司さんも初参加の個性派ですが、私は妖怪ものの『祟りちゃん』に注目しました。

福澤 私は『シミ』のほうでした。

加門 私は『祟りちゃん』でした。

東 福澤さん、『祟りちゃん』でもいいですか?

福澤 はい。あとは葉越晶さんも作品違いで挙がっていますね。

東 葉越さんはプロの方ですね。第3回ムー伝奇ノベル大賞最優秀賞を受賞した『逢魔の都市』という作品が単行本になっています。『リトル・リトル・クトゥルー』にも作品が入っています。私は英国怪談風の味わいがある『山羊の足』を選びました。『塀の上』も気持ち悪い話ですが、やや理に落ちるところがあったので。

加門 私も、『塀の上』はオチがちょっと平凡かな、と思いました。

福澤 私は『梅雨の電話』を選んだんですが、『山羊の足』でもいいです。

加門 『山羊の足』は、私の50選には入っています。

東 では『山羊の足』で。
 黒木あるじさんはどうですか?

福澤 『おまもり』か『ならわし』です。黒木さんは初参加ですが、プロの作家かな、と思わせるような力量です。

東 どれもお上手というか、実に堂に入った書きぶりですよね。余裕すら感じさせる。私はもう1作の『ぶつだん』も、かなり気に入ってるんですが。

加門 『おまもり』は交通事故にあってお守りが粉々に砕けるって話ですね。印象に残っています。

東 『ならわし』も捨てがたいですけどね。「暗闇から牛」という言い回しさながら、牛の群れが粛々と闇の中に消えていくという玄妙な話でした。

加門 福澤さんは『おまもり』を選んでいるんですよね。

東 ならば『おまもり』でいいんじゃないですか? 甲乙つけがたいのですから、この場合は多数決で(笑)。
 佳作はこれで10篇になったので決定しましょう。
 そのほかに佳作には届かなかったけれど、面白かった作品があれば挙げてください。

福澤 有井聡さんの『三柱』。有井さんは、前も入賞していますね。

東 一昨年、『磯牡蠣』という作品で優秀賞を受賞されています。

福澤  今回は虫聖(マテ)貝の話ですが、三柱や祖父の描写が不気味でした。ただ虫聖貝が「何万といた」というのは、いくぶん大げさな感じがしました(笑)。あとは加門さんと50選まで広げればかぶっている『九十八円』(小瀬朧)。

加門 狐か狸かって感じで面白かったですね。

福澤 途中でネタがわかっちゃうのが惜しいところです。

加門 『忘れがたき』(日原佑遊)も印象に残りました。外国に払い下げられた電車の話です。

東 加門さんは太田工兵さんの『うらべ様』を候補に入れていましたね。太田工兵さんは昨年の『告訴状』は告訴状の書式でしたが、今年は年表形式できましたな(笑)。

加門 この方は、こういう話が上手いですよね。

福澤 東さんが20選に選んでいて、私は50選の『漬物』(貝原)もよかったですね。

東 ちょっと不条理系ですが、舞台を京都に設定したことで、さもありなんと思わせる。ディテールが魅力的です。

加門 あと、私が気になったのが『ハルビンの猫』(しらみずさだこ)

東 福澤さんも20選に入れていますね。

福澤 こういう素朴な聞き書きは、怪談の基本として大切にしたいですね。これは日本各地に伝わっている「猫魂」と同じ現象なんですけど、しらみずさんはそれをご存じないのかも……。書き慣れている感じではないんですが、そこがまた味になっている。

加門 技巧に走らず、淡々として。でも、奥行きのある、いい感じの怪談ですね。

福澤 聞き書きふうの作品では、ほかに『カメラ』(松村佳直)が印象に残りました。文章もこなれているし、顔認識のカーソルという先端技術で怪異を表現しているのもいい。

★「愉しませてもらいました賞」

東 「愉しませてもらいました賞」は、皆さんお決まりですか?

福澤 私は『柿をとる人』(小島モハ)です。文章もいいですが、幽霊が毛虫に刺されて「いたた」って言うあたりやラストの1行が微笑ましいですね。

東 あ、マズい。私も小島モハさんだ(笑)。趣味に偏して『怪獣図鑑』を「愉しませてもらいました賞」にしようかなと思っていましたが……ちょっと再考しますね。

加門 私は『冥福を祈る』(小瀬朧)にします。ストレートな話なんだけど、怖いっちゃあ、怖いんですよ。葬式の夢を見るんだけど、それが「知らない、若いニーチャン」っていうオチが、逆にリアリティを感じます。

東 『九十八円』の人ですね。

加門 生活感があって、そのなかでちょっと怖い話が出てくるところが、この人の作品は面白い。でも、『九十八円』だと、民俗学的な動物怪異をベースにした『ハルビンの猫』とかぶるので。『ハルビンの猫』が佳作に入るんだったら、『冥福を祈る』でいきます。

東 私は白縫いさやさんの『東の眠らない国』を特別賞にします。小泉八雲幻想というのか、はるけさの感覚がある優れた作品だと思います。
 これですべての賞が決定しました。お疲れさまでした。


★選考を終えて


東 今年の選考を終えての感想を、それぞれお願いします。

加門 今年はたいへんな接戦でしたね。昨年があっさりと決まったので、今年もそうなるかなと思ったんですが、よく言えば実力が拮抗している、悪く言えばずば抜けたものながかった。どちらかはわかりませんが。難しかったです。

福澤 上位は大接戦でしたから、入賞を逃した方も落胆しないで欲しいですね。

加門 そうそう。佳作になったもので、私が選んでいなくても、次点には選んでいたり。20選、50選、次点の違いがどこにあるかというと、自分の中でも曖昧です。読んだ順番や、そのときの気分に左右されちゃった部分があるとしたら申し訳ないなあ、と思うくらい。
 ただ、今回、大賞、優秀賞の3作が、テイストの違う作品になったのは、怪談というものの幅を知っていただくためには良かったのかなと思いますね。

東 今年は怒らずに済みましたか!?(笑)

加門 疲れました(笑)。悩み疲れたというところはありましたね。でも、怒ったということで言えば、まだまだ人に読ませることを考えていない独りよがりな作品が多い。来年からは「いちばんダメで賞」も出したいかな、と(笑)。

東 ……と、暴走する加門七海選考委員!

加門 これだけは許せない、みたいな作品を上げて、さらす(笑)。

東 こ、怖え~。

加門 逆に言うと、それだけ真剣に読んでいるんだから。

東 いいこと言った! 福澤さんはいかがでしたか?

福澤 最初にも似たようなことを言いましたが、これをほんとうに読ませたいんですか? と、聞きたくなる作品がけっこうあります。「これしか書きたくない」というのはわかりますけど、それを毎回我々が読んで、結果は毎回おなじになっちゃう。
 内容もさることながら、話に引き込むのも技術だと思うんです。物書きを商売でやっている人間は、パッと見ただけで、ある程度、作品の良し悪しがわかるんですよ。うまい人は漢字と仮名の使い分けにこだわりがあるから、視覚的なバランスがとれているんですね。書き出しにも読みやすさへの配慮があるから、すっと話に入っていける。
 反対に下手な人は奇をてらったり、難しい漢字を羅列したりで、肝心の話がつかめない。雰囲気に酔っているような作品は、ほとんど内容が薄いんです。まずは読ませることを心がければ、おのずと内容の良し悪しも見えてくるんじゃないかと思います。

加門 選考委員の好みだけで選んでいるんじゃないかと思う人もいるかもしれないけど、そうじゃないんですよ。好みに合わなくても、これは残さないと、と思わせる作品はありますからね。

福澤 私の場合、最初に選んだのが120作くらいあったんです。そこから絞りこんでいったんですが、かなりの僅差でした。とりあえず50作は選んだけど、残りの70作と大差がついているわけじゃない。

東 私のリクエストとしては、常連さんたちの新作を楽しみにしている一方で、新しい書き手にもどんどん入ってきてもらいたい。ただ、新しい方の作品を読んでいると、『てのひら怪談』をすべて読めとは言いませんが(笑)、せめて一冊くらいは読んで、過去の選評も一応見てから臨んでほしい。別に傾向と対策を立てろと言っているわけではないんですが、自分が応募するのがどういう性格の賞なのかを把握するのは基本中の基本ですからね、ぜひ実践していただきたいなと思いました。
 結果的に、大賞・優秀賞は常連組が占めましたが、とはいえ、紺さん、黒木さん、国木さん、影山さんなど、強烈な個性の新規参入組がほぼ互角の闘いを演じているのは心強いですよ。本当に今年は大接戦で、選にもれた方の中には、昨年度の入賞者もいたわけですし。そういうハイレベルの切磋琢磨の中から、黒史郎さん、勝山海百合さん、田辺青蛙さん、朱雀門出さん……『てのひら怪談』に作品が収録された方の中から作家デビューされた方も何人も出ているわけですからね。

加門 ここで入賞したことがプロデビューにつながるわけではないんだけど、でも、実力のある方がやはり残るんですね。

東 それと今、お名前を挙げた皆さんが、作家デビューしたあとも変わらず、本賞に投稿してくださっているのも嬉しいですよね。なんか、お中元代わりに新作怪談を送ってきてくれるような感じで(笑)。この賞はもともとが「お祭り」ですから、踊りの輪の中に率先して飛び込んで、一緒に盛り上がることに、まず意義がある。
 その意味でも、前にも言いましたように、あまり守勢に入らず、攻めの姿勢で作品を書いてほしいなと思います。常連の方の中には、すでに完成されたスタイルを持っている方もいて、それはそれで素晴らしいことなんですけど、そこからさらに、どう拡げていくかというのが、次のステップアップの課題だと思うんですね。

加門 私はほかのお二人と違って、作者を見ないで作品を読みます。『さらばマトリョーシカ』を読んで、「あ、やっぱりヒモロギさんだ」と気づく感じですね。常連だ、新顔だ、ということは気にせず読んでいますので、東さんが仰ったように、自分で自分のタイプを決める必要はないし、また、選になかなか入れないとか、初めてだということで萎縮する必要もないと思います。

東 作者名は見ていますけど、常連だから有利かというと、むしろ逆じゃないかと思いますよ。なまじ手の内を知っているだけに(笑)、かえって厳しく見ちゃいますもん。

福澤 800字という短い作品だから、よけいに個性が出る。その分「またこのパターンか」と思われがちなんですね。

東 思い切って冒険をしてみることで、違う可能性が開けることもあるでしょう。応募者ひとりひとりの絶えざるチャレンジが、ひいては「てのひら怪談」全体の活性化にもつながるわけで、ぜひ来年も、果敢に挑戦していただきたいと期待しています。

加門七海ベスト50
『忘れがたき』日原佑遊/『未明の獣』仲町六絵/『写真の落書き』安部孝作/『兄と名乗る男』三和/『水晶橋ビルヂング』仲町六絵/『隣の部屋』室津圭/『美醜記』岩里藁人/『駆毛落ち』江賀根/『本家の欄間』沙木とも子/『ぬるんの子』君島慧是/『うらべ様』太田工兵/『葬儀』多麻乃 美須々/『梨園のマネキン』紺詠志/『遺髪』宇津呂鹿太郎/『祭りばやし』日野光里/『手を鳴らす』名倉永理/『冥福を祈る』小瀬朧/『古本奇譚』猫吉/『山羊の足』葉越 晶/『薫』我妻俊樹/『坂をのぼって』炭酸水/『床下』小島モハ/『波動』烏本拓/『自転車』皿洗一/『ちい子ちゃん』純太郎/『おまもり』黒木あるじ/『さらばマトリョーシカ』ヒモロギヒロシ/『ゆびおり』松本楽志/『迹祭』君島慧是/『豆腐仙人』安導麗/『スナスナが観たい日』紺詠志/『月間約40cm』椎名春介/『球体関節リナちゃん』君島慧是/『春恋し』国木映雪/『エンヤーター・スラビア』よいこぐま/『でいだら』石居椎/『夜明けの発見』乱地獄/『カーラジオ』豆傘馬/『ぼくと新しい神さま』国木映雪/『おぼえがき』Momi/『殻の中』ハム/『祟りちゃん』影山影司/『シミ』影山影司/『鵺』山本ゆうじ/『塀の上』葉越 晶/『うつる』告鳥友紀/『X氏の実験』庵堂知風/『九十八円』小瀬朧/『NOU―能生―』勝山海百合/『蛾』我妻俊樹

福澤徹三ベスト50
『梅雨の電話』葉越 晶/『磯女』添田健一/『梨園のマネキン』紺詠志/『三柱』有井聡/『シミ』影山影司/『球体関節リナちゃん』君島慧是/『おまもり』黒木あるじ/『美醜記』岩里藁人/『水晶橋ビルヂング』仲町六絵/『祈り』金魚屋/『波動』烏本拓/『海外フェスの話』松音戸子/『さらばマトリョーシカ』ヒモロギヒロシ/『ジョン』間遠浪/『でいだら』石居椎/『ぼくと新しい神さま』国木映雪/『海鬼燈賣り』山本ゆうじ/『ハルビンの猫』しらみずさだこ/『視線』沙木とも子/『蛾』我妻俊樹/『トイレを借りにくる者』青井知之/『九十八円』小瀬朧/『水』拉麺科/『漬物』貝原/『ハーメルン』櫻井文規/『床相撲』黒史郎/『支度』夢乃鳥子/『戦友の光』松本浄/『NOUー能生ー』勝山海百合/『自転車』皿洗一/『口紅』小原庄子/『楽光師匠最期の高座『死神』の録音テープ』葦原崇貴/『カメラ』松村佳直/『母の似姿』青木 美土里/『夏祭り』崩木十弐/『みっちゃん』とちみ/『かいもの』珠子/『柿をとる人』小島モハ/『焼け仏様』GIMA/『封印?』歴史楽者/『ママ』湯菜岸 時也/『草小僧』鈴木文也/『炎天』明神ちさと/『遊び』斜 斤/『霊感』小太郎/『半夏生のころに』都田万葉/『石碑の上の男』わんだら/『生放送』峯岸可弥/『胃植え』三十六/『河豚中毒』坂巻京悟

東雅夫ベスト50
『姑獲鳥の一索』KIJISUKE/『ママ』湯菜岸時也/『トワイライト八千代』有井聡/『市松人形』武田若千/『腹話術』崩木十弐/『与介の嬶』御於紗馬/『坂をのぼって』炭酸水/『やまんぶの帯』朱雀門出/『狸の葬式』葉原あきよ/『東の眠らない国』白縫いさや/『鈴』埜木ばにら/『涼み売りと三毛猫』友井燕々/『怪獣図鑑』小島モハ/『故郷の思い出』綾倉エリ/『白いワンピースを着た、忌まわしい女』金魚屋/『かいもの』珠子/『ワゴンの乗客』飛雄/『僕と兇巣』鳥本拓/『梅雨』迷跡/『百人腐女』よっちゃん/『水晶橋ビルヂング』仲町六絵/『ならわし』黒木あるじ/『日陰の子』圓眞美/『美醜記』岩里藁人/『夏の記憶』野棲あづこ/『さらばマトリョーシカ』ヒモロギヒロシ/『ゆびおり』松本楽志/『本家の欄間』沙木とも子/『ランデブー』五十嵐彪太/『迹祭』君島慧是/『NOU―能生―』勝山海百合/『4月1日霧の日の花のスープ』高山あつひこ/『春恋し』国木映雪/『にらめっこ』夢乃鳥子/『でいだら』石居椎/『つゆはらい』屋敷あずさ/『三つ又』有坂トヲコ/『この家につく猫』サイトウチエコ/『床相撲』黒史郎/『漬物』貝原/『古い隧道』田辺青蛙/『遺髪』宇津呂鹿太郎/『祟りちゃん』影山影司/『帰りのあいさつ』青井知之/『影つなぎ』名倉永理/『さくらの咲くあさ』さとうゆう/『自然薯』クジラマク/『蛾』我妻俊樹/『山羊の足』葉越晶/『蟹』明里佑甫/『梨園のマネキン』紺詠志