1.はじめに

 水道水用に河川から取水した水を浄水することで除去された泥(発生土)について、放射能濃度の分析値が、関東では茨城県を除く都県から公表された。茨城県の場合、住民および浄水場で働く従業員の健康を考えるならば、当然分析する必要があるのにしていないのは問題である。*(注釈参照)


関東地方では、一方では、ホットスポットと呼ばれる局所的に高い放射能濃度を示す地帯があることが知られている。霞ヶ浦西岸の美浦村・阿見町から牛久、取手市、利根川を越えて、我孫子市、柏市、松戸市、などの東葛地域に広がるホットスポットがもっとも注目されている場所である。


このホットスポット地帯では、地表での放射線量値が0.3から0.6マイクロシーベルト毎時を示す。それは土壌に相対的に多くの放射性物質、現在では放射性セシウムが濃集していることを示す。雨が降り、土壌が流出すると、地表面に定置している放射性物質はその一部が土壌とともに流出し、下水や川に流れ、いずれこのホットスポット地帯を縦断している河川、特に大河川の利根川や江戸川、水かめである霞ヶ浦、東京湾にその影響が現れるはずだ。


利根川や江戸川、そして霞ヶ浦は、関東地方においては大事な水道の源水である。ホットスポット地帯からの流水の影響はどうか。極めて気になるところである。本記事では、茨城県が極めて由々しき問題であるがまだ発生土の分析をしていないため、利根川と江戸川について、この点を検討する。霞ヶ浦については、茨城県の分析値を待って検討したい。


2.東京都と千葉県による浄水の発生土の放射性セシウム濃度


 4月から6月にかけて測定されたセシウム134とセシウム137を合わせた全セシウム濃度(Bq/kg)を比較すると、河川系による汚染濃度の違いがわかる。下記に3都県の浄水の発生土に関する放射性セシウムの濃度を示す。

いずれも各都県発表データによる。

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浄水場名称:取水河川、発生土の放射性セシウム濃度平均値、濃度の備考

東京都

 金町浄水場:江戸川  6000 Bq/kg 
       4月2回分平均

 朝霞浄水場:江戸川/荒川>多摩川 4220 Bq/kg 
       4月2回分平均

  小作浄水場:多摩川>江戸川/荒川 778 Bq/kg 
       4月2回分平均

  東村山浄水場:多摩川>江戸川/荒川 1187 Bq/kg 
       4月2回分平均

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千葉県

 北千葉浄水場:江戸川 4618 Bq/kg 
       5-6月5回分平均

 ちば野菊の里浄水場(栗山含む):江戸川3863 Bq/kg
       6月20,29日平均

 北総浄水場:利根川 1544 Bq/kg  
       6月20,29日平均

 柏井浄水場(東と西):利根川と印旛沼 805 Bq/kg 
       6月22,29日平均

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千葉県の主な浄水場は、表のとおり、4カ所ある。そのうち、江戸川下流部からだけ取水する「北千葉」、「ちば野菊の里」の両浄水場は、4000Bq/kg前後の高い濃度を示すが、利根川系の「北総」「柏井」の2カ所はその1/2以下と際立った放射能濃度の差を示す。


利根川と江戸川の違いは、境町近くで江戸川が利根川から分流することを考えると、そこから下流で両河川へ流れ込む支流の水質の違いが原因である。利根川には鬼怒川、小貝川という大河川が合流するが江戸川には下総台地からの小河川がほとんどである。


では、東京都ではどうだろうか。

東京都のおもな4カ所の浄水場のうち取水河川別にみると、江戸川からだけは、「金町」であり、江戸川を主な取り入れ河川としてるのが「朝霞」、多摩川を主な取り入れ河川とし、江戸川からも取り入れているは「小作」「東村山」である。上記の表に示した放射性セシウムの濃度は、江戸川の影響が大きいほど、高濃度であることがわかる。


すなわち、江戸川からだけの「金町」は、6000Bq/kgともっとも高い。千葉県の「北千葉」、「ちば野菊の里」よりも高いが分析期日が一月早いことを考慮すると、だいたい同じくらいの値であろう。これら3カ所の浄水場の取水口は距離にして10km範囲内にあり、発生土の放射能濃度が類似していることと調和しているともいえる。


3.放射能濃度の高さは江戸川、利根川、多摩川の順、およびその原因の考察
 

2節で説明したように、千葉県と東京都との浄水場について、水道源水として取り入れている河川と発生土の放射性セシウム濃度の違いから、荒川を除く、利根川、江戸川、多摩川の3大河川については、河川水の放射能汚染度は、江戸川>>利根川>多摩川 の順であると判断できる。


河川の放射能汚染度の違いは、各河川流域の地表面における放射線量の違い、そしてそれから懸濁物が流出しやすいかどうかの2つの要素により、説明できる。


すなわち、放射能濃度の高い江戸川は、その流域のほとんどが東葛域のホットスポット地帯にあたる。そこから流出する中・小河川からしか流入を受けておらず、3つの浄水場の取水口はそれらの下流にあたる。

 一方、利根川では、ホットスポット地帯からの流入もあるが、その中心となる手賀沼は、広大な湖であり湖岸に干潟が発達する。貯水池として懸濁物を滞留する機能がある。したがって、利根川へ懸濁物の流出はかなり食い止められるだろうと予測できる。そして、左岸からは、こうしたホットスポットを流域としてあまりもたない鬼怒川、小貝川という大河川が合流する。


4.結論と今後に向けて


 茨城県境町で分流する江戸川と利根川下流部という河川系では、本記事で説明したように、千葉県と東京都の浄水場で分析された浄水の発生土の放射性セシウム濃度によれば、両河川では放射能濃度の違いは、3-5倍にもなる。その原因は、両河川流域の地表面における放射線量の違い、そしてそれから懸濁物が流出しやすいかどうかの2つであると理解される。


 したがって、この2点の特性を各河川について比較し、評価することから、各地域を流れる河川の放射能濃度を予測することができよう。その上で、必要な測定、モニタリングを効率的に行うこともできよう。


 あと一つ。浄水場の取水対象となる大河川だけでなく、地域の生活環境としては、小河川も重要である。そこでは住民にとって貴重な水辺環境として自然に接する場となり、子供たちが遊ぶ場になる。しかし、下総台地の東葛地域をはじめ、放射能で大なり小なり汚染された地帯では、地表から流出した堆積物が集積されやすいところでは、小河川はときには極めて危険な放射能汚染地帯となりうる。


 懸濁物が流出しやすいかどうかについて、手賀沼は利根川に対しては放射能物質のせき止め湖の役割を果たしたが、手賀沼そのものはどうだろうか。おそらく、高濃度に汚染された懸濁物が集積されているものと予想される。しかしその調査はまだまったくなされていない。そして、関東の水瓶と呼ばれる日本で2番面に広い霞ヶ浦はどうであろうか。上記のホットスポット地帯から大小の河川が流れ込んでいる。しかし、茨城県は冒頭に指摘したように、浄水場の発生土の放射能濃度の分析さえ実施していない。


 我々は、人類史上もっとも過酷な原発事故に遭遇し現在その事態は進行中という異常事態に遭遇している。その中で、東北、関東という広大な地域が放射能で汚染された。我々はその汚染地帯で生活を続け、子供達を健康被害から守らなければならない。そのためには、放射能汚染の実態を正確にとらえ、極力被曝されないように、必要なところから除染し、危険な汚染地帯マップをつくり、そこに人が立ち入らないようにしなければならない。


 この点で、今回の記事で整理したデータと考察が役に立つことができればと願う次第です。

*7月1日にツイートした内容とそれに説明を補填したもの
今日茨城県の企業局に浄水発生土の放射能濃度の分析をしないのかと電話で聞くと,担当者は、「測定する予定なし」「水では放射能の検出がない」と信じがたい回答をしました.関東の他の全都県が分析値を公表し、しかも国がその対象方針も示している中で、なぜ茨城県では分析しないのかと、指摘したところ、それでもやっと「上司に打診する」といっただけでした.茨城県の場合、比較的高い放射能汚染地帯からの河川水および閉鎖水域の霞ヶ浦の水を利用していることを考えると、分析/実態把握が他県以上に不可欠なところです.このままではらちがあかないので、ツイートされている数人の県議・市議に要望しました。一人の県議の方が、企業局に申し入れをされました。しかし分析値はまだ公表されていません。確認を近くとる予定です(7/10追記)