2012年06月26日

台地と谷のこと (1)ー目黒川流域


以前に「住宅地盤の見方」というシリーズ記事の中で、台地の「谷」の問題を取り上げたことがあります。台地側にお住まいの方の中には、
軟弱といわれる低地に比べると一般に地盤が良いといわれるためか、地盤に対して不安を感じている方は比較的少ないようです。
しかし、自然の地形や地盤は一筋縄ではいきません。台地といえども、谷(埋没谷ともいう)をはじめとして、腐植土地、急傾斜危険箇所な
ど、地震や土砂災害などの自然災害に対して注意を要する場所が少なくありません。

そこで、今回から何回かに分けて、こうした台地特有の問題となる地形や地盤などを取り上げてみることにします。まずは、先にも触れた
「谷」を取り上げます。なお、谷を取り上げるに際しては、その谷をつくった張本人「河川」流域ごとに分けた上で、話をしていくことにし
ます。「谷」の第一回目は、目黒川流域です。下に、目黒川流域の谷(池尻大橋駅周辺から天王洲アイル駅周辺まで)と、流域沿いの主要駅
付近の断面図(左右1.5km)を示しましたので、こちらを参考にしながらご覧ください。
 
目黒川流域/谷の分布図

目黒川は、世田谷、目黒、品川の3区を流れ下り、天王洲アイル付近から東京湾に注ぐ延長約8kmの中小河川の一つですが、上流と下流周辺
ではずいぶん趣が異なります。池尻大橋駅から目黒駅付近まで(約3.8km)は、川の両岸にソメイヨシノ(約800本)が植えられ、花の時期とも
なれば、目黒川の両岸は目にも華やかな桜並木に変わり、都内でも桜の名所として知られているので、一度は訪れた方もいるのではないでし
ょうか。
その目黒川も、目黒駅を過ぎるあたりから川幅がやや広くなり、高いコンクリートの護岸が目につく、典型的な都市河川の一つになります。
以前は、やや殺風景な印象の強かった下流周辺ですが、現在では上流の中目黒あたりに負けじと、両岸に桜並木が設けられるなど散策路とし
ての整備も進んでいるようです。

■かつての目黒川は、川幅400m以上の大河?

さて現在の目黒川は、地図で見てもおわかりのように、細いブルーのラインで示される中小河川の一つにすぎません。しかし、この目黒川流
域の谷(埋没谷)を見ると、かつての目黒川の川幅は狭いところでも300m、広いところ、たとえば中目黒駅付近では400m、五反田駅付近では
600mにも達しようという、ちょっとした大河。かつては、こうした大河が護岸に閉じ込められることもなく、台地をところ狭しと流れていた
はずですから、現在の細々と流れる目黒川が、妙に可愛らしくさえ思えてきます。
そんな”大河時代”の目黒川が、武蔵野台地を削り、その凹み部分に上流から運んできた土砂を堆積させてきたのが、この薄いブルーで示され
た谷底低地(または谷底平野)と呼ばれる低地になります。

東京の台地には、この目黒川以外にも中小河川によってできた谷が数多くあり、台地上に”樹枝状”に広がっていますが、こうした台地の谷に
ついてはご存知の方も少なくないと思います。しかし、谷がどこに、どのように広がり、谷の地下がどうなっているかとなると、実は専門家
でも頭を悩ます問題になります。ではなぜ、台地では谷が問題になるのか、疑問に思う方もいると思いますので、少し説明を加えておきます。

■台地の「谷」が、なぜ問題になるのか?

先ほど、川が削った凹み部分に、上流から運んできた土砂を堆積した場所が谷底低地だと説明しましたが、この川が運んできた土砂の質や量
が、防災上は見過ごせない問題になります。つまり、この土砂は後から運ばれてきたため、まだ出来たばかり、半乾き、また怖い腐植土など
の混じるいわゆる「軟弱土」の可能性があるためです。
この谷を埋めている軟弱堆積物の厚さは、場所によってもだいぶ変わります。一般に、谷の上流よりは下流、また谷の両岸では谷底に近いほ
ど軟弱堆積物の厚さが増すことになります。しかし、誤解しやすい点ですが、現在見ている目黒川の川筋=谷底とは限りませんので注意が必
要です。つまり、目黒川の近くにあればあるほど、軟弱地盤は厚く、地盤は軟弱と考えるのは間違いということになります。

谷の危険性ばかり触れてきましたが、谷のすべてが軟弱で危険というわけではありません。東京の台地では、一方が高台があれば、一方でそ
れより低い低地(谷底低地)がワンセットで存在します。谷が防災上で問題となるのは、その谷に軟弱な堆積物が厚く溜まっている場合です。
ちなみに東京都では、こうした谷の軟弱性を判断する基準として、軟弱堆積物の層厚「10m」を目安にして、台地の谷の危険性を強く訴えて
います。

■目黒川の谷には、腐植土、泥炭が多い

さて断面図を見ると、谷が両岸の台地に比べて相対的にかなり低い場所であることが、あらためてわかると思います。池尻大橋駅付近で10m
前後、中目黒駅付近で20m、目黒駅付近では20m前後、それぞれ台地より低くなっています。一見すれば、台地と谷とでは、ただ単に地盤が
高い、低いかの違いのように思えますが、両者には本質的な違いがあります。いうまでもなく、台地と谷底低地では、その地下の地質、地層
がまるで異なります。

では、その谷の地下地質や地層を見てみましょう。谷に堆積した土砂の中で、明るい黄緑色で示された部分がありますが、これは「腐植土」
です。また目黒駅付近の断面図では、この黄緑色の部分がない代わりに、薄いグレーで示された「泥炭」が見られます。腐植土にしろ泥炭に
しろ、いずれも手で握れば簡単にグニャリとするほど、その軟弱さについてはあらためて説明するまでもありません。住まいの地盤として不
向きであることは、いうまでもないことでしょう。

こんどは、この軟弱土の厚さを見てみましょう。池尻大橋付近で4〜5m、中目黒駅付近で2〜3m、目黒駅付近や五反田駅付近では最大6m近く
にもなる軟弱堆積物が溜まっています。とくに注意したいのが、五反田駅周辺です。黄緑色の腐植土の下に、薄いブルーで示された軟弱な
「シルト層」が見られます。これは、かつてこの五反田駅付近まで海に浸かっていた動かぬ証拠となるもので、東京低地の地下に広がる広大
なシルト層が、この目黒川の河口付近にまで及んでいることを示しています。
シルト層の軟弱さについては、あらためて申し上げるまでもありませんが、腐植土にこのシルト層を加えれば優に10mを超える軟弱層が地下
にひそむことになります。五反田駅周辺にお住まいの方は、こうした谷の地盤特性にも目を向け、日頃から注意していただきたいと思います。



断面図A (池尻大橋駅付近)   断面図B (中目黒駅付近)    断面図C (目黒駅付近)     断面図D (五反田駅付近)
目黒川流域/断面図-A目黒川流域/断面図-B目黒川流域/断面図-C目黒川流域/断面図-D 


断面図の凡例はこちら

↓応援がなによりの励みになります
にほんブログ村 住まいブログへ にほんブログ村 その他生活ブログ 地震・災害へ にほんブログ村 住まいブログ 防犯・防災へ



geologistyouna202 at 19:47コメント(0)トラックバック(0)東京の地形・地盤  

トラックバックURL

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
広 告
記事検索
住まいの地盤が気になる方へ
プロフィール

東京低地地盤研究会

  • ライブドアブログ