■巨石・猫伏石を運んだ男

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熊本市郊外のベッドタウン・益城町の住宅街に、猫伏石(ねこぼくいし)と呼ばれる奇妙な大岩があります。

大きさはちょうど大型の乗用車、ライトバンと同程度でしょうか。重さはざっと10トンはくだらない。それが交差点のど真ん中に、どーんと二つある。

猫伏石なんて可愛らしい名前ですが、実はニャンコちゃんとは全然関係ない。猫伏(ねこぼく)ってのは、藁で編んだ厚手の大きな風呂敷みたいなもので、農家の人が荷物を背負って運ぶのに使われた道具なんです。

この大岩がなぜ、猫伏石というか。

次のような伝説が残っています。

【猫伏石の伝説】
熊本城を築城する工事人夫の中に、横手五郎という怪力男がいた。
横手五郎は城の土台用の大石を探して川を遡り、西原村(阿蘇の一歩手前あたり)までやってきた。
そこで立派な石が見つかったので、猫伏で“背負って運んで”いた。
道中で猫伏が破れて大石が二つ転げ落ちた。
仕方ないので、小さい方の石だけを手で抱えて、お城へと運んだ。
残った石は、重すぎて誰も動かせないので、道の真ん中に放置されたままになった。


重さ10トンのライトバンくらいデカい石ですよ! それを2つ計20トンを背負って運ぶって! スクワット世界記録(475キロ)の40倍以上! 怪力にもほどがある! 

しかし、この20トンを持ち上げる怪力男“横手五郎”の伝説、桃太郎や浦島太郎と同列のファンタジーな昔話とは、ちと様相が異なります。

というのは、この猫伏石以外にも、横手五郎の痕跡や逸話がたくさん残っているんです。つなげてみると、空想上の人物にしては細部の設定まで凝っていて、妙にリアリティーがある。

しかし、とはいえ本当に20トン抱えられる人間なんているはずがない。

実在か、非実在か。伝承を調べていく中で、横手五郎伝説が、熊本県の人特有の性格、すなわち熊本人の“県民性”に深く関わっていることが分かったのです。

横手五郎という怪力男の正体に迫っていきたいと思います。


■横手五郎とは何者か

まずは、横手五郎の伝説についてみてみましょう。

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【横手五郎の伝説】
熊本城の工事人夫であった横手五郎は、加藤清正を暗殺する機会を探っていた。
怪力で働きぶりもよく、加藤清正の目にも止まった。
しかしその目論見がばれたため、空井戸に突き落とされて、生き埋めにされてしまった。


以上が基本ラインのストーリー。

さらに、以下のようなエピソードも伝わっています。

【豪傑・力自慢】
・まだ子供のころに、九州一の力自慢という暴れ者を投げ飛ばした。
・清正公の行列の前に立ち塞がった牛を、担いでどかした。
・約1.8トンの“コの字”型の石を首に掛けて一人で運んだ(※首掛石といって、熊本城観光の見どころの一つになってます)。

【一本気・義と情に厚い】
・実は横手五郎は肥後の猛将・木山弾正の遺児だった。父・木山弾正は戦で加藤清正に打ち取られたため、仇討ちのために工事人夫となって、清正公に近づいたのだ。

【反骨心・意地っ張り】
・井戸に落とされてからも、兵の投げ込んだ石をすべて受け止め逆に投げ返し、「そんなものじゃオレは殺せんぞ! 殺したいなら砂利で生き埋めにしてみろ!」と叫んだ。そのため兵はついに生き埋めにした。

【大雑把で呑気?】
・工事の仲間が、ある時「五郎よ、なぜそんな熱心に働くのか」と尋ねると「やがてこの城はオレのものになるんじゃ、そう思えばどんな仕事もきつくないわ」と答えた。工事仲間は驚き城の役人に報告したため、横手五郎の狙いが発覚した。


など、細かいエピソードや異説もたくさんあるのですが、横手五郎が怪力で、熊本城築城の人夫で、加藤清正の命を狙っていた、というのが、この伝説の基本ライン。

そしてこの基本ラインは、どうやら真実味がある。横手五郎の住宅跡地まで残っているくらいですから。

その(2)伝説の男は実在の人物か に続く。