April 29, 2008

透明人間は二度死ぬ "The Invisible Man Marder Case"

初出 小説推理 1973年4月号

あらすじ>ジェフ・オズワルドは新進気鋭のハードボイルド作家である。その処女作にして「私立探偵ルーフ・アームコック」シリーズ第一作「殺しはお静かに」は大ベストセラーになり、このたび推理作家協会の会合で記念のスピーチを行うことになっていた。幼い頃からの探偵小説マニアのジェフは、古典的推理小説の大家であり、彼が大ファンでもあったカーク・エヴァンダーが出席すると聞いて、喜び勇んで会合に参加したのだが、念願の対面をはたした当人は、ジェフの今風のライトなタッチを嫌い、作品を徹底的に酷評するだけにあき足らず、彼の人間性までこき下ろす始末。実はカークはジェフと同じ出版社から推理小説を出しており、ジェフの人気のためにカークの本格ものが受けなくなってきて売り上げも下がり、はたまた出版契約まで打ち切られそうになっているということが背景にあったのである。その対面から数日後、ついにカークの契約の打ち切りが決定する。ところがそれと同時期に、ジェフの担当となっていた出版社のエージェントが何者かに殺されてしまう。その手口はまさしく「密室」での殺人であり、さらには別の出版社からでたカークの新作と瓜二つの内容でもあったのだが・・・。

解説>1958年に発表したスレッサーのSF風中篇ミステリ。古典的本格推理もののジャンルが、新進のハードボイルドや実録風小説に取って代わられようとしていた時代背景をベースに、得意のアイロニーとユーモアでまとめ上げている。「欲」に絡めたオチのつけ方も見事だが、相変わらずSFやミステリに対する愛情や思い入れの薄いことが災いして、核となるトリック部分がおろそかになっているため、中盤部分ががたるんでしまっているのが残念。まあ全体がスレッサー流の「皮肉」の結晶ともいえなくもないのだが。

----------------------------------------------
 さて。
 一応本作を持って、ヘンリー・スレッサーの邦訳作品はすべて紹介したこととなります(もれはあるとは思うのですが、それは随時追加していく予定です)。かなり前から「ヒッチコック劇場」のページと同じく、ブログではなくちゃんとしたhtml版のページに移行して、年代別・発表誌別等にきっちりまとめようと準備を進めているのですが、怠惰のためなかなかうまくいっておりません。すみません。まあ、それと平行して、ここのブログは今後は未訳作品や映像化作品を中心に紹介していこうかなと考えております。
 しかしまあ、なんとか当初の目標を達成することができたのは、数少ない(笑)ここを訪れてくださった皆様のご訪問と暖かい励ましのおかげです。更新頻度はさらに低くなるとは思いますが、今後もお付き合いいただけたら幸いです。ホントにありがとうございました。


geshicchi at 22:45|PermalinkComments(2)TrackBack(0)clip!その他 

April 13, 2008

批評家はもうけっこう "One Critic Too Many"

初出 ヒッチコックマガジン1959年9月号

あらすじ>巷の「ゴシップ趣味」の強い顧客に人気の画家ルイ・フェジ。彼も昔は謙虚な人間であったのだが、その名声と共にいつしか傲慢で尊大な芸術家に変わり果てていた。ところがそんなフェジを奈落の底へ突き落とす出来事が起こる。ことの発端はフランスの著名な批評家オーギュスト・ブージェールが、彼の作品を酷評したことに始まる。途端にフェジの作品の価値は暴落し、彼はくだんの批評家に対する恨みを糧にして名声を取り戻そうと躍起になるのだった。やがて、ブージェールが再びフェジの新作を批評する機会が訪れるのだが・・・。

解説>ジョン・マレイというのも、ヘンリー・スレッサーの別ペンネームのひとつだが、日本で紹介されている作品はこれ一作のみ(本国でもどれほど書かれているかは不明)。批評家に対する芸術家のアンビバレンツな想いをコミカルに描いた作品で、その視点が新疎な批評家や無知な顧客ではなく、虚栄心まるだしの芸術家自身に当てられているあたりが面白い。

March 20, 2008

借りもの "Something Borrowed"

初出 週刊スリラー 1959年7月3日号

あらすじ>ロイ・ヴォルマーは何年ぶりかでかつての妻ヴァーナと息子のフレディが住むこの町へと帰ってきた。刑務所から出てからひとりで細々と暮らしていたのだが、にっちもさっちも行かなくなってしまい、ある計画を持って家族の元へ戻ってきたのである。ヴァーナも最初は拒絶したが、内心彼に今でも惚れている彼女は、ロイの要求をはねつけることは出来ない。それがたとえフレディを危険にさらすことであったとしても。翌日、早速ロイは学校を休ませたフレディを連れて、町の銀行を訪れることになるのだが・・・。

解説>「週刊スリラー」とは昭和34(1959)年、いわゆる「週刊誌創刊ラッシュ」(週刊少年漫画雑誌の「マガジン」「サンデー」の創刊もこの年)の中で生まれた、政界や金融業界の実情やスキャンダルの暴露を売りにしていた雑誌。ルポライターとして有名な竹中労も、芸能関連の記事を執筆していた。発行元の「森脇文庫」は「高利貸しの帝王」と呼ばれ、数々の疑獄事件に関与したといわれる政商・森脇将光が運営していた出版社。編集者には「ぼくらの七日間戦争」の宗田理や大藪春彦夫人(同誌での連載が縁で結婚)らがいた。
 同誌には松本清張や高木彬光らによる「社会派推理小説」の作品が数多く連載されていた(高木彬光の代表作「白昼の死角」など)が、その反面、海外作家の読みきり作品については「ヒッチコックマガジン」や「エラリイクイーンミステリマガジン」に載っているような、軽めの作品がたびたび掲載されている(C・B・ギルフォードやR・アーサーらの作品も掲載)。またヒッチコック自身のグラビア紹介記事や、当時放送されていた「ヒッチコック劇場」の内容紹介のコーナーもあった。
 スレッサーの作品は都合三作が紹介されている。この後同年7月31日号に「愛の巣」が、翌1月1日号に「埋もれた記憶(別題「愛犬」)」が掲載(どちらも「夫と妻にささげる犯罪」に収録)。さて本作はまさしくスレッサーの全盛期に描かれた、愛すべき小悪党の奮闘とその顛末を描いた小品。親が自分の都合で自分の子供を利用するというやや不快になりがちな内容を、軽いユーモアにつつまれたテンポのいい展開で、洒落た一品に仕上げている。

geshicchi at 10:05|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!その他 

March 09, 2008

サムのハート "Sam's Heart"

初出 ヒッチコックマガジン1961年8月号

あらすじ>「安静」こそがサムにとって必要なことであった。心臓に病が見つかってからは、そこに変な負担をかけないように、平穏な毎日を送るべく、努力と忍耐を怠りなく。ましてや取引先のいやな相手と週末にまで顔を合わすなんてもってのほかである。だがしかし、アイヴァスンは上客であり、名指しで呼ばれたからには、いつ何時であろうとはせ参じなければならないのである。サムは安定剤を服用する代わりに、一丁の拳銃を胸のホルスターに隠してアイヴァスンと会うことにするのだが・・・。

解説>わがままな顧客はいつの時代でも耐えることはない。いつの日か相手のツラを殴り飛ばしたいと思っている人間も多いだろう。だがそれはあくまで空想上での出来事で済ましておくことが最良だ。たとえ自らを罰せられない立場においたとしても、つい本性をあらわにすると予期せぬ落とし穴が待ち構えている。ありきたりな話を見事なツイストで処理した、意外な佳作の一品。

March 02, 2008

あなたはタバコがやめられる "How to Stop Smoking"

初出 ヒッチコックマガジン1962年12月号

あらすじ>葉巻をふかすことはルー・バックバークの唯一の趣味といっても良かった。たとえ妻が医者が世間がその喫煙の習慣を、同情からあるいは憎しみから止めるよう忠告をしても、彼は一切きく耳を持たなかった。とりわけ妻のスェラの小言は日に日にきついものとなり、そのことがかえってルーを意固地にさせるのであった。そんなある日、寝る前にルーはスェラが彼のコーヒーカップに何かを入れているところをみてしまう。彼は妻がとうとう自分を殺そうとしているのだと考え、いろいろな対策を練り始めるのだが・・・。

解説>今日から再開します。
 本作はスレッサー得意の夫婦間のいざこざを軽いユーモアタッチで描いた作品。原題と邦題は当ハーバート・ブーリンの書いたノンフィクションから。まさしく究極の禁煙方法がここには書かれている。また、こと犯罪においては「お人よし」ほど痛い目にあう確立が高いようで。