今回の主題は斜面崩壊です。
近年、土砂災害が頻発しているので認知度も上がっていると思います。
平成26年の広島市災害は危険区域の指定が遅れたことも一因ですが、本来は人間が近づかない場所でした。地名や古老達の言い伝えからも「危険」が近いことを示しているものです。
都市開発が自然への畏敬の念や分別をなくして行われ、「欲」が優先した結果でありましょうか。古い民家などは立地をよく考え、地盤が良くて災害のない場所をしっかり選択しています。科学が発達した現在の方が危ういというのは考えさせられるものであります・・・。
さて、土砂災害とは大概、斜面崩壊と落石と地すべり、そして土石流です。裏山が崩壊した、とか道路や鉄道を遮断したというのも斜面崩壊や土石流の結果です(地すべりは安定と不安定(5)で述べてありますから触れません)。
人工的に盛土をされている斜面の崩壊はのり面崩壊として区別しています。
まずは斜面崩壊の現場写真を並べてみましょう。
崩壊の原因はやはり豪雨などです。
なぜ斜面は崩壊するのでしょうか。
地層は地上に顔を出した瞬間から風化・劣化を始めます。気の遠くなるような時間を経過して地層は強さ(土質力学強度)を失い、斜面の傾斜角を支えきれなくなって崩壊落下します。
降雨によって土の間隙を水が満たすと土そのものが重くなり、自重が土の強度を上回ると崩壊するパターンです。斜面が円弧状にすべると仮定して模式的に安定計算を示すと次のようになります。
土が重くなって円弧に掛かるすべり力を増大させ、土が持っている抵抗力(土質力学強度;粘着力cと内部摩擦角φ)を上回るとすべりが発生するわけです。これは、斜面の勾配が大きく関係し、強い土ほど急斜面を支えることができます。逆に弱い土は緩い勾配しか支えられません。
そして、土の強さは風化によって低下しますから今安定していても、いつの日か崩壊することも考えられます。
自然には様々な斜面が存在し、見方によっては安定か不安定かよくわかりません。人によっても異なるでしょう。
ただし、人家が近いところや重要な道路、構造物が近接している斜面は安定に関しては厳しい安全率を求められます。
さて、房総半島で見る斜面、崖面です。
これは危ないなあと思われる斜面はどれでしょうか・・・。
なお、二つおまけ。
斜面の安定を保っていても表面の風化や劣化、さらには降雨による浸食などがあります。その為には斜面の表面を保護する必要があります。
さて、どのような防護を行うのか、悩ましい問題であります。
ただ、はっきりしている前提条件は斜面の勾配が安定しているということです。
地山の種類によって多彩な防護工法が存在しますので一部(擁壁類は除く)を紹介します。
まずは、単純な張り芝など・・・。
次はコンクリートモルタル吹きつけ工
そして、単純な落石防護の網掛け・・・。
また、コンクリート法枠工とロックボルト併用。
それでも抑えられないとアースアンカーがあります。
なお、今回は擁壁に類するものはあげておりませんが、大規模な特殊防護工がありますので紹介します。その名をロックシェッドといい、千葉県には二箇所あります。落石や崩壊が発生しても道路は守という構造です。
以上のように斜面崩壊は房総半島だけではなく、日本全国で膨大な数の危険箇所を抱えています(9,764箇所)。危険区域の指定も遅々として進みません。指定されると地価が下がるし建築も制限を受ける・・・そんな現実的な話の前に行政の踏み込みも遠慮がちです。
われわれは災害に直面して初めて現実を見直してルールを決めることでやってきました。いろいろな災害関連の法律も「契機となる大災害」が発生した後に立法されています。
ちなみに土砂災害防止法(土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律:平成12年5月)は平成11年6月の「広島の土砂災害」が契機となっています。
しかし、それから15年後、また同じ地方で同じ災害が発生したもので、何ともやるせない思いが募ります。
あらゆる人が、
立地を考えるとき、
行政や専門家だけに任せるのではなく
自然界に生きる一個の生き物として安全を確認するという「意識」だけでも持ちたい厳冬の空・・・。
<参考記事>
ロックシェッド記事→土木の風景 no.294 no.351 no.378
<土木の風景TOPへ> <土木の風景分類TOPへ>