水道の歴史シリーズも今回で、区切りにしましょう。

平成の20年間の水道は、「質の向上」の時代と云えるでしょう。

 

* リスク管理の導入

 この平成の20年で思い出されるのは、平成13年(2001年)9月11日の米国同時多発テロではないでしょうか。
一方、我が国での最も大きな出来事は、平成7年(1995年)1月19日に発生した阪神淡路大地震ではないでしょうか。6400人を超える尊い命を奪った大災害でした。応援給水活動中の写真を何枚か紹介しましょう。
(アナログ写真の複写)
 IMG_1859-2
 
 写真1:倒壊店舗(東灘区)

 IMG_1862-2
 写真2:橋脚の座屈(東灘区)

 IMG_1856-2
 
写真3:給水車に並ぶ市民(東灘区)

地震国日本でこのような被害が発生し、技術立国日本の自信が揺らぎ、インフラ関連のすべての分野で、耐震や免震等の対策強化がはじまりました。

以前は事故が起こった後の対応として、緊急連絡体制やマニュアルの整備、訓練などの危機管理対応が中心でしたが、ISOの影響もありリスク管理の考え方が導入され、事故の発生確率から、事故の回避や被害を低減化するリスク管理の重要性が指摘されました。リスク管理を実践するためには、どこまでリスクを許容するかで異なりますが、それなりの費用を必要とします、水道に限らず、優先順を定め、取り組みが始まりました。

 

       安心・安全の水道

我が国では、水俣病やイタイイタイ病のような甚大な災害(人災)の経験があります。国民の健康被害は絶対に避けなければなりません。健康意識の高まりや水道水質への不安から、ボトル水や家庭用浄水器が普及しました。

国は、日本の水道水は、直接飲用に差し支えない「安全な水道水」とし、厳しい水質基準を定めています。このため、水道事業者は、水質基準に適合する水質管理を行い給水を行っています。

水質基準では、重金属や大腸菌群など、検出されてはならない項目や、毎日飲み続けても健康被害を起こさない項目の基準値を定めています。また、健康被害の可能性のある物質が新たに発見された場合などは、水質基準の改正を行っています。最近では、トリハロメタンや塩素酸の例があります。トリハロメタンは、発ガン性物質とされ、水処理中の有機物と消毒用の塩素が化合して発生します、汚染が進んだ河川を水源とするような浄水場では、塩素消毒の仕方を工夫して、発生を低減化したり、オゾンなど他の消毒方式を採用するなど、浄水場ごとに、取り組んでいます。

水道水を直接飲まない、あるいは、飲みたくない人へのアンケートでは、水道水への不満として、多くの人が塩素臭やカビ臭を上げています、オゾン処理や活性炭処理や生物処理を組み合わせた高度浄水処理によるカビ臭原因物質の除去の外、塩素濃度の低減化なども行われるようになってきています。また、高性能の膜の開発が進み、中小の浄水場で使われるようになりました。

 PA160001
 写真4:膜処理浄水場(今市市)

 PA160003
 
写真5:膜の展示品(今市市)

       安心と安全の違い

安全性は、基準値を定め基準値内を安全としています。

水道水質基準について、簡単に説明しましょう。水質基準値は、厚生労働省の厚生科学審議会・生活環境水道部会・水質管理専門委員会で改正等も含め審議決定されています。例えば、化学物質であれば、WHOの飲料水の基準設定を参考に、生涯に渡る連続的な摂取をしていても人の健康に影響が生じない水準として設定されます。閾値がある物質については、*1日に飲用する水量を2リットル、*人の平均体重を50Kg(WHOでは60Kg)の条件で値が算出されています。

安全性は、科学的に説明されますが、安心は概念のため基準では説明できません。イギリスの医師ジェンナーの種痘や胸部X線なども当初はリスクが過大評価されましたが、現在は社会的に受容されています。社会的受容は、時代や地域によって変化し、基準のように数値化できません。

安心は、長期間の信頼の上に構築されるものです。信頼の構築には何年もかかりますが、失うのは1回の事故で充分です。水道の安心も同様です、水道水は、関係者の不断の努力を経て家庭の蛇口に届けられています。

20100412145844_00001


by:m.nakao


<千鉱エンジニアリング(株)HOMEへ> <土木の風景TOPへ>