・渡良瀬川合流

今回の講座は、カスリーン台風決壊地点のわずか数百メートル下流の渡良瀬川合流の話です。

利根川東遷以前の江戸時代、渡良瀬川は、現在の江戸川である太日川(ふといがわ)を経由し江戸湾に流れていました。

現在は、渡良瀬川も鹿島灘に流れる利根川の支流として、埼玉、東京、千葉、茨城の重要な水道水源となっています。

渡良瀬川は、栃木県日光市足尾町と群馬県沼田市との境にある皇海山(すいかいさん)を源とし、草木ダムを経て巴波川(うずまがわ)、思川と一緒になり渡良瀬遊水池を経て、利根川に合流しています。

草木ダム
【 写真1:草木ダム 】

1977年(昭和52年)に草木ダムが竣工しました。ダムより上流は正確には松木川ですが、足尾町の源流から渡良瀬川と呼ぶ人が多いようです。草木ダムの下流は、紅葉が美しい渡良瀬渓谷となっています。

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図1は、利根川上流域のダム群と利根川の位置関係の概念図です。本講座の利根川(3)で使用した図に利根大堰より下流を加えて図示しました。

渡良瀬遊水池航空写真 文字入り
〔 図2:渡良瀬遊水池付近の航空写真(google mapより 〕

図2は、渡良瀬川が利根川に合流する付近の航空写真です。


     足尾鉱毒事件

渡良瀬川を語る上で、足尾鉱毒事件は歴史的に避けて通ることは出来ませんので、簡単におさらいをしておきます。たくさんの文献や小説などがあります、詳しくは、皆さんで調べてください。

 

*事件1 足尾銅山の精錬過程で排出された鉱毒ガス(主成分は二酸化硫黄と云われています)や酸性雨により、上流の松木渓谷の水源林はすべて枯れ、日本のグランドキャニオンとも呼ばれるようにすべての植物が完全に死枯してしまいました。

足尾砂防堰堤
【 写真2:昭和52年当時の松木渓谷(親水公園看板より)】

足尾銅山閉山後40年を経て、現在も回復工事、植林工事が行われています、一般の人は、ゲートがあり親水公園より上流の松木渓谷に立ち入ることはできません。

造林工事看板
【 写真3:松木渓谷植林工事(工事説明書看板より2011.8撮影) 】

*事件2 足尾銅山の下流では、鉱毒によるものと思われる稲の立ち枯れ、住民の健康被害などが多く発生しました。

田中正造【1841年〜1913年、足尾銅山鉱毒事件を告発した政治家、衆議院選挙当選6回】を中心とした農民運動が起きました。また、田中正造は、国会でたびたび質問しますが、政府の第一次の調査委員会では、原因、被害調査は進みませんでした。そこで、明治34年(1901年)足尾鉱毒事件について明治天皇に直訴を試み、失敗しますが、号外が発行され、多くの東京市民が直訴状の内容を知るところとなり、あわてた政府は、翌年、第二次鉱毒調査委員会を設置しました。

 

*事件3 第二次鉱毒調査委員会の報告を受け、政府は、鉱毒沈殿用の渡良瀬貯水池を作ることにしました、場所は、田中正造が住んでいる谷中村となり、1906年(明治39年)谷中村は、強制収用、強制廃村となりました。渡良瀬遊水池は、1905年(明治38年)着工され1989年(平成元年)完成しています。


谷中湖(国交省HP)
【 写真4:第一調整池(谷中湖)(国土交通省HPより) 】

     渡良瀬川は水道水源として支障はないか

鉱毒事件当時の群馬県の調査では、鉱毒の主成分は、銅の化合物、亜酸化鉄、硫酸、カドミウム、鉛などとなっています。

戦後、首都圏の自治体は利根川に水源を求めます、渡良瀬川も同様で、水道用水の水源となりました。

1977年(昭和52年)治水、水道用水、発電等の多目的ダムとして、草木ダムが竣工しました。

水道水源として支障があるのではと、一部では危惧されましたが、ダム竣工が足尾銅山の閉山後だったこともあり、下流浄水場で浄水処理された水道水の水質検査では水質基準を満たしています。

水質浄化と若干関連しますが、渡良瀬遊水池では、毎年3月下旬、湿地環境の保全や害虫駆除を目的として葦焼きが行われています。写真5.6は、葦焼きの様子です。

葦焼き2
【 写真5:渡良瀬遊水池の葦焼きの風景1 】

葦焼き1
【 写真6:渡良瀬遊水池の葦焼きの風景2 】


     カビ臭などのくさい水

水源を河川表流水に求める様になり、昭和の中頃から、琵琶湖水系、霞ヶ浦水系などで、水がくさい、

墨汁のような臭いやカビ臭がするといった、苦情が多くなりました。

くさい水は、(湖沼の富栄養化により繁殖した)藍藻類を含んだ原水を浄水処理した場合に発生するとされています。

渡良瀬遊水池では、毎年1月から4月にかけ、第一調整池の谷中湖を干し上げ、異臭の原因となるプランクトンを死滅させる作業を行っていますが、上流域の館林付近の沼などにも藍藻類の発生源があり、利根川に影響を与えています。

上流河川で臭気原因物質が確認された場合、下流の浄水場では、活性炭の注入や高度浄水処理などの対策を行い異臭味水の発生を防止しています。




【 Coffee−Break 】

1995年(平成7年)、福井県敦賀市にある高速増殖炉「もんじゅ」がナトリウム漏れの事故を起こしました、その後、2010年(平成22年)8月には原子炉内で装置の落下事故が起きています。

一部の水道関係者は、福井の原発銀座で放射能事故が発生すると、琵琶湖の水が飲めなくなると警鐘していましたが、福島で現実に起こってしまいました。

水道利用者、水道事業関係者の水道に対する感情が、福島第一原子力発電所事故で一変してしまいました。

環境や地域住民を犠牲に行われた足尾銅山の国策事業と原子力発電事業のリスク管理の杜撰(ずさん)さが重なって感じられます。

安心、安全、信頼と云った水道に関する評価が揺らいでいます、否、失ってしまったのかも知れません。

厚生労働省は、原水に塩素消毒を行い、速やかに活性炭を添加すれば、放射性ヨウ素はある程度除去できる。放射性セシウムは、粒子として挙動するため、濁質と共に沈殿させ、水道水の指標値を上回らないように水道事業者を指導しています。

本講座は、水道の蛇口の向こう側を様々な視点から眺め「水道」に少しでも親しんでもらえれば、との思いで始めましたが、放射能汚染が、顕在化するとは全く想像していませんでした。

放射性ヨウ素の指標値は、大人300Bq/Kg、乳幼児100Bq/Kgとされていますが、本当に指標値以下は安全なのか、他の水道水質基準項目についても、信頼を崩してしまったのではと心配しています。

厚生労働省のHPでは、『 指標値を超える水道水を一時的に飲用しても健康影響が生じる可能性は極めて低く、代替飲用水が確保できない場合には飲用(乳児による水道水の摂取を含む)しても差し支えありません。また、手洗い、入浴等の生活用水としての利用は可能です。 と発表しています。

浦安 飲料水の列
【 写真8:スーパーマーケット前の風景(2011.3新浦安駅前にて)】


今回は、大変ブルーな講座となってしまいましたが、本講座も始めたことですから、拙生も気を取り直し、時間の経過で新しい明るい情報が出てくることを期待して、もう少し続けてみようかと思っています、お付き合いの程、宜しくお願いします。



               
                                                      by: m.nakao





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