関宿で江戸川と分流した利根川は、茨城県と千葉県の県境の役割を果たしながら、
東へ東へと流れていきます。
【 図1:利根川のかたむきと河口までの距離 】(水資源機構HP資料より)
利根川は、守谷市で鬼怒川と更に取手市で小貝川と合流します、図1で明らかですが利根川下流域は、
河川勾配はほとんどなく、太平洋に向かってゆったりと流れていきます。
江戸時代は、舟運が盛んでした。
・河川はだれのもの
ところで河川はだれのものでしょう、考えてみましょう。
明治29年(1896年)施行の河川法では、かんがい用水(農業用水)や洪水から生命財産を守る治水が目的でした。
その後、昭和39年(1964年)河川法が改正され、治水に利水の整備が加わりました。
利水とは、農業用水、工業用水、水道用水、他の河川浄化用水等です。更に、平成9年(1997年)に改正された
河川法では、河川環境の保全が加わり、地域の意見を反映した河川整備の計画制度が導入され、地域住民も意見を
述べることが可能となりました。
「河川はだれのものか」答えは、地域住民、魚貝類や河川敷の植物、河川敷をねぐらとする鳥など全ての動植物のものと云えます。
河川が河川であるためには、それなりの流水が確保される必要があります。上流で多く取水され、下流で流水が消えてしまう瀬切れや、
流量低下による塩水遡上などが発生すると正常な河川機能とは云えません。
図2で判かりますように、河川と湖沼、運河、導水路、用水路等が一体で運用管理され、利根川の水が農業用水、
水道用水、工業用水等に活用されています。
【 図2:利根川下流域の用水図 】(利根下流河川事務所HP資料より)
・霞ヶ浦や利根川河口堰が、東京、埼玉の水道水源?
水道水源施設は、上流のダムや遊水池等の施設だけではありません。
利根川下流域では大規模な河川整備が行われています。
その目的は、治水だけでなく首都圏の水道水源開発も含まれています。霞ヶ浦導水事業や利根川河口堰は東京、埼玉など
の水道水源施設となっています。
霞ヶ浦の水が直接、東京や埼玉の浄水場に送られている訳ではありません。下流域で河川整備が行われ、
北千葉導水路などが整備され、河川の機能を維持しながら水の融通ができるようになります。
こうした事業に水道事業者が参画することで、江戸川などで取水する権利、水利権を得ることになります。
図3は、霞ヶ浦導水事業の計画図です、平成24年度現在まだ完成していません。
課題が多く完成の目処も立っていません。
《 写真1:霞ヶ浦の風景 》(行方市玉造 霞ヶ浦ふれあいランド 虹の塔より撮影)
【 図3:霞ヶ浦導水事業の計画の概要 】(国交省 霞ヶ浦導水工事事務所HPより)
・利根川河口堰
利根川河口堰は、昭和46年(1971年)に竣工した利根川最下流の堰で総延長835m、調節門2門、
制水門7門等を擁しています。
目的は、塩害の防止と東京をはじめとする首都圏の水道水源となっています。
鹿島灘からさかのぼってくる海水の状況に合わせて河口堰のゲートを操作することで利根川下流域を塩害から守っています。
こうしたゲートの制御や船の運航の閘門など運転管理は水資源機構が行っています。
《 写真2:利根川河口堰付近の航空写真 》(Google Mapより)
【 図4:利根川河口堰の水利権 】(水資源機構HPより)
図4は、利根川河口堰に参画している用水事業者の水利権の一覧です。利根川河口堰から遠くの東京都や埼玉県に
水道水利権が与えられています。
・利根川河口
《 写真3:利根川河口付近の航空写真 》(Google Mapより)
《 写真4:利根川河口の風景(パノラマ合成) 》(銚子市 銚子ポートタワーより撮影)
【 図5:利根大堰のサケ遡上グラフ 】(水資源機構HP資料より)
写真3は、利根川河口付近の航空写真です。
写真4は2月中旬の、河口の写真です、鹿島灘にゆったりと注ぎ、大水上山の源流から322kmの「利根川の水」
の旅が終わりました。ここから大海に旅立つ鮭もいます。
図5は、河口から約150km上流の利根大堰の鮭の遡上状況のグラフです。
鮭は、10〜12月にかけて上流の川で産卵し、その後3〜4月にかけ8cm程度に成長し、鹿島灘に降海し、
1〜6年後に、母川利根川に回帰してきます。
鮭が、喜んで帰ってこられる環境を作ることが求められてます。
【 Coffee−Break 】
利根川は、1783年、1938年の浅間山大噴火で下流に多くの被害を出した記録があります。
また、1890年前後の足尾鉱毒事件にも見舞われました。そして、2011年3月には放射性物質が広範囲に飛散しました。
環境や生態系に与える影響は現時点では判断できません。
この講座では、利根川について、源流から下流域まで7回に分けて駆け足で見てきました。
奥利根の矢木沢ダムをはじめとしたダム群、利根大堰、利根川河口堰など全て水道にとって重要な施設であることを説明しました。
こうして見ると利根川そのものが、水道の幹線と云って過言ではないでしょう。
利根川に限らず、我々を取り巻く全ての環境が改善されていくことを願って、利根川編をひとまず終了します。
By : m.nakao