風による自立型煙突の振動(その2)-(2)no.460

【4】3次元模型による風洞実験
4.1 実験諸元
対象とする実物模型の形状および板厚を図―4に示し、設計諸元を表―1に示します。2次元バネ支持実験結果の検証を目的に、以下の3次元模型による実験を行いました。

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図―3 螺旋板の高さの影響


風洞は最大風速:20m/s、気流の乱れは1%以下であります。筒身頂部における流の3次元性が風洞壁(天井)によって影響を受けないためには、模型の高さが有効な測定部高さの80%以下であればよいと言われています。このことから、模型の幾何学的縮尺は1/45としました。模型の動的な相似条件については、模型と実物の間で、次元解析から求まるつぎの三つの無次元数を一致させることが必要です。
なお、減衰については実物煙突の実測を行っていません。しかし、実験の目的は螺旋板も制振効果を検証することであり、螺旋板を取り付けない状態で模型が十分不安定な状態になる程度に減衰を小さくしておけば、特に問題はないと考え、δm=0.02としました。

(fp×Dp)/V_p =(fm×Dm)/Vm    (1)
Mp/(Dp^3 )=Mm/(Dm^3 )      (2)
δp=δm                 (3)

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図―4 実物煙突    図―5 三次元模型図

ここで、 f:固有振動数   V:共振風速
M:質量      δ:対数減衰率
D:筒身径

添字p、mは実物および模型の値であることを示します。模型の剛性は断面中央のアルミ棒で相似させ、幾何学的形状は補剛棒の周囲に木製(バルサ材)の外皮を取り付けて満足させました。外皮は剛性を受け持たせないために全体を8分割し、互いに接触しないように作製しました。図―5は3次元模型の説明図を示します。
表―1に実物と模型の諸元比較を示します。対象とする振動モードは1次振動で、2次振動は共振風速が設計風速以上になるので問題にはなりません。計測は頂部の振幅を光学的非接触変位計を用いて行いました。変位計は風洞天井(アクリル製)の外側に設置しましたので、気流への影響は与えません。

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4.2 実験結果
図-6は螺旋板の高さと取り付け長さの振動応答に及ぼす影響を求めた実験結果を示します。螺旋本数は4本、ピッチ角は40°であります。d/D>0.075の螺旋板を頂部30%の部分に取り付ければ、制振効果の大きいことが分かります。

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図―6 螺旋板の取付長さの影響


実験は一様流中で実験しており、気流の鉛直分布の相似は考えていません。
図―6の結果からも明らかなように、煙突頂部の30〜40%の部分の空気力が振幅に大きく寄与し、境界層近辺の風速はそれほど振幅に関係していいません。このことから、気流の鉛直分布は螺旋板の制振効果にそれほど大きく影響しないと考えられます。
図―7は3次元模型の共振風速を示します。螺旋板を取り付けたときのストローハル数は
S=(fm×Dm)/Vm =(0.39×0.089)/2.8=0.20

となります。ただし、高さ方向にテーパーがあるので、高さの2/3の位置における直径を代表径とした。

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図―7  三次元模型の共振風速


4.3 螺旋板を取り付けたときの抗力係数
以上の実験によって渦励振に対する螺旋板の制振効果を確認することができました。しかし、螺旋板を巻くと抗力が大きくなるので、風洞実験によってその場合の抗力係数を求めておくことが必要となります。
螺旋板を取り付けたときの抗力係数:CDはつぎのように定義されます。
CD=F/(1/2×ρ×V^2×A)          (4)

ここで、 F:抗力  ρ:空気密度  
V:風速  A:螺旋板を取り付けない筒身の見付け面積

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図―8 抗力係数の実験結果

図―8はピッチ角:40°、巻き付け本数:4本として螺旋板の高さを変えたときの抗力係数を示します。風洞の特性上、レイノルズ数はRe>1.5×106の
範囲にあります。ただし、螺旋板を巻くとはく離点の移動が阻止されますので、レイノルズ数の影響はそれほど大きくはありません。d/Dの値が大きくなると抗力係数が大きくなり、d/D=0.1では約1.2となります。


【5】設計諸元の比較
最後に本煙突と既往の煙突について設計諸元の比較をしてみます。図-9は既往の設計例について、煙突高さとライニングを含めた総重量の関係を整理したものであります。図中X印は本煙突の場合を示しています。この結果から明らかなように本煙突は著しく重量が小さくなっており、このため共振時の振幅が大きくなったものと考えられます。
ただし、既往の設計例はすべて鋼製煙突であり、用途的には火力発電所の煙突が75%を占めています。これに対して、ここで問題としている煙突は化学会社内の排ガス用煙突であり、用途的に見た場合の影響が存在するように思われます。
図-10は煙突高さと共振風速の関係について同様の整理を行った結果であります。図中、データにかなりばらつきがありますが、これは発現風速の観点からではなく、排ガス量から断面が決定されているとも考えられます。本煙突の場合、共振風速はかなり低い値となっております。

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図―9 既往の設計における高さと重量


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図―10 既往の設計における高さと共振風速


図-11は煙突高さの代表径に対する比(H/D)と煙突高さ(H)との関係について整理したものです。本煙突のH/Dは既往の設計に比較してかなり大きいことが分かります。H/Dは煙突の高さとともに増加する傾向にありますが、一定の値以上には大きくなっていません。これは高さに応じて直径を大きくすると、煙突が一定高さ以上になったとき、不経済な設計になることを示しています。
しかし、螺旋板を取り付けることによってH/Dの大きな設計が可能となり、高さの高い自立型煙突が比較的経済的に設計できるものと考えられます。

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図-11 既往の設計における高さとH/Dの関係


【6】まとめ
1)自立型煙突に取り付けた螺旋板のカルマン渦による振動防止効果を調べる目的で、バネ支持2次元模型による風洞実験を行いました。その結果、螺旋本数を3本以上、螺旋板の高さが筒身径の7.5%以上であれば制振効果が大きく、ピッチ角は10°〜30°の範囲では制振効果にそれほど大きく影響しないことを実験的に確かめました。
2)風によって大きな渦励振を起こしている自立型煙突の振動抑制を目的に、3次元模型を製作して2次元実験で得た制振効果を3次元実験によって確認しました。
3)風洞実験結果を実物煙突に適用するに際し、制振工事前後の実物計測を行いました。これによって、螺旋板の制振効果を自然風中で確認することができました。
4)既往の鋼製煙突の設計例について、総重量、共振風速、断面径を調査し、本論で取り上げた設計値と比較しました。その結果、螺旋板を取り付ければ経済設計が可能になることを示しました。


(参考文献)
1) 島田忠幸、原 公、石崎溌雄:自立型煙突に用いる渦励振抑制用螺旋板の効果に関する実験的研究、日本建築学会構造系論文報告集、第341号・昭和60年8月
2)C.Scruton: Note on a device for the suppression of the vortex-excited oscillations of flexible structure of circular or near-circular sections, with special reference to its application to tall stacks, NPL Aero Note 1012
3)Robert D. Blevins : Flow Induced Vibration, Van Nostrand Reinhold Co.,1977
4)C.Scruton: On the wind-excited oscillation of stacks, towers and mass, NPL, Paper 6
                                                     (文責 島田忠幸)


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