人工知能のこれからと建設コンサルタント

私は東大の同窓会である東京銀杏会の幹事を務めており、本年のトップフォーラムを担当致しました。トップフォーラムとは、年に1回、時宜のテーマで、トップの方をお招きして、講演とディスカッションをするものです。本年は3月4日に、「人工知能のこれからと人類の未来」をテーマとして開催しました。

基調講演をお願いした甘利俊一氏(理化学研究所脳科学総合研究センター脳数理研究チーム特別顧問ならびにシニアチームリーダー、東大名誉教授)は、「人工知能の歴史と現状、そして未来への展望」という標題で話されました。現在は深層学習(ディープラーニング)を契機とした第3次人工知能ブームに突入しており、パターン認識や囲碁・将棋では人間以上の識別能力をもつに至っていることが述べられました。ただ人間の脳と違うのは、人間の意識では予測(先付け)と後付けのdual dynamicsになっているのに対して、深層学習では後付けを欠いている点にあると述べられました。社会への影響としては、格差の拡大と人類の家畜化を指摘されました。未来社会での政治経済社会制度の崩壊を人工知能が助けるのかどうかが課題であるとまとめられました。

コーディネーターをお願いした松尾豊氏(東大グローバル消費インテリジェンス寄付講座共同代表特任准教授、産業技術総合研究所AIセンター企画チーム長)は、「人工知能は人間を超えるか−ディープラーニングの先にあるもの」と題して講演されました。今後の日本のAI(人工知能)の方針として、眼を持った機械を実現し、(生物が急速に進化・分化した)カンブリア爆発に匹敵する大変革をもたらしたいと述べられました。現在のカメラは目の網膜のようなイメージセンサーとしての役割しか果たしておりませんが、その後段に脳の大脳皮質の第1次視覚野に相当するものを、ディープラーニングを用いて設けようという構想です。この部分については、英国ARM社のSpiNNakerコンピュータで対応する予定のようです。現状の日本の人工知能は決して世界の最先端というわけではなく、米国などに差をつけられているのですが、このようにハードの部分では外国の力を借り、その運用ソフトの面で勝負しようという方針のようです。日本は生産技術分野では世界のトップクラスですので、人工知能のこの分野での応用では勝てるかもしれないということです。

ここでディープラーニングという言葉が頻繁にでてきましたが、ここで定義しますと(フリーライブラリで学ぶ機械学習入門−堅田洋資他著、蟒和システム参照)、深いNeural Network(NN)+(機械)学習のことです。前段は隠れ層が2層以上のNNで、NNはパーセプトロンを積み上げたものです。学習で重みを更新して予測精度を向上させます。後段では、大量のデータを用いるなど様々な手法を駆使して、NNの重みの学習を行うものです。

早稲田大学政治経済学術院教授の若田部昌澄氏は、「期待を実現し、不安に備える:第2次機械時代の経済社会構想」という標題で、講演されました。現状ではAIの影響は、期待も不安も誇張されているようであり、当面は特に(人手不足の)日本にとって福音たりうるが、経済格差の拡大等に対し将来の備えが大事である。(負の所得税等)ベーシック・インカムなどを導入していく必要があると指摘されました。

作家で法政大学国際文化学部教授の島田雅彦氏は、「人工知能雑感」という標題で講演なさいました。人工知能がどんどん広がっていくと、人類には何もやることがなくなる?人工知能のペットとして養ってもらうか、野生化してイノシシや野犬や山猫みたいに暮らしていくことになる。後者は自給自足のきつい労働が待っているし、前者の場合には生産活動からは解放されるが退屈極まりない。しかし、遊んで暮らすことに馴れているホモ・ルーデンスや手作業や職人気質を好むスローライフ実践者は今まで通りの暮らしを続ければよい。このような人工知能のdystopiaを描かれました。

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このように人工知能の社会に与える影響は、特に長期的には大きなものがあるようですが、はたして本当だろうか疑う方もあろうかと思います。現状の人工知能ができること、できないことについて、ヤフーCSOの安宅和人氏がまとめられております(知性の核心は知覚にある、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2017年5月号)ので、紹介したいと思います。
『知的生産の本質は、何らかのイシュー(いま置かれた局面で白黒をはっきりすべき論点)にケリをつけること、答えを出すことにある。こうした課題解決には二通りある。一つが病気を治し健康にするようなタイプの課題解決(タイプA)。もう一つが、あるべき姿(ゴールイメージ)からして定める必要があるタイプの課題解決(タイプB)である。

タイプAの課題解決の場合、あるべき姿は明快であり、この場合で言えば健常状態である。ありうる原因を頻度と深刻さからチェックし、ロジックツリー的に原因を絞りこんでいく。おそらく世の中の課題解決の9割以上がこのタイプで、「ギャップフィル型の課題解決」と呼ぶことができる。
タイプBの課題解決の場合、そもそもゴールや目指すべき姿の見極めから、課題解決を始めなければならない。これは「ビジョン設定型の課題解決」と言われる。さらに、仮にそのような姿が見えたとしても、どのようにしたらそこにたどり着けるか自体も明確な答えが簡単には見つからない。このタイプの課題解決は、世の中の課題解決の1割もあるかどうかであると思われる。
現状の人工知能が対処できそうなのはタイプAに限られ、タイプBこそが、AI×データの時代に人間に求められる真の課題である。』

建設コンサルタントの業務はタイプBではないかと思われますが、タイプA的な部分も少なからずあるように思われ、そうした部分はしだいに人工知能に蚕食されると思われます。

では、遠い将来はどうなるのだろうか?
AI研究の世界的権威であるレイ・カーツワイル氏は、2045年に「シンギュラリティ−」(技術的特異点)が起きると予言しています。人間の知能を上回るAIが誕生する時であり、AIみずからがさらに優秀なAIをつくり、進化を続けていくものです。もっとも有望なアプローチは、人間の脳のニューラルネットワークのアルゴリズムをベースにして、学習能力を持たせる技術です。その技術開発の壁は相当に高く、2045年までに可能になるとはなかなか思えないが、理論的にはいつか達成可能であるとされています。こうなると、タイプBの課題も人工知能が対処できるようになり、人間の優位性も危うくなります。建設コンサルタントも引退して、ベーシック・インカムをもらいながら、ホモ・ルーデンスとしてスローライフを楽しむということになる?

レイ・カーツワイル氏は、さらに先の進歩も予測しています。いずれは、コンピュータを人間の脳に接続できるようになり、脳の中にある記憶・考え方・性格・技能もすべてデジタルデータ化でき、それをAIにインストールすることも可能で、人間のコピーAIが実現できると言っています。それを搭載したロボットはコピー元の人間と同じ人格を持ち、思考し、行動する、と考えています。

しかし以上の点については、今日の脳科学ではまだ人間の「意識」や「質感(クオリア)」を解明できておらず、AIにどう実現するのか全く分かっていないから、これが人間の脳に残された最後の砦かもしれないという主張があります(前野隆司、「心の質感」が創造性の源泉になる、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2017年5月号)。人工知能でタイプBの問題の解決を図るには、その前に人間の意識や質感(クオリア)を解明し人工知能にビルトインすることが不可欠であるとされ、したがって当面、タイプBの問題は人工知能では対応できそうにないと言われています。この考え方でいけば、建設コンサルタントも、タイプBの業務で生き残っていけそうです。

いずれにしても、えらい時代になってきたようであり、こんな時代を生き抜く建設コンサルタントの課題は重いのかもしれません。
                                        2017.4.28 水谷潤太郎(千鉱E)

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