従来、私の所属する東大の同窓会である千葉銀杏会では、識者に講師をお願いして、朝談会などが行われてきました。しかし、先端的なテーマでは講師を確保することが困難でした。そこで、こうしたテーマについては、読書会という形式でしたらどうかという提案があり、今回やってみました。
 対象とした書籍は、ジェフ・ホーキンス氏が2021年に出された「A Thousand Brains : A New Theory of Intelligence」の日本語翻訳版「脳は世界をどう見ているのかー知能の謎を解く『1000の脳』理論(2022年4月25日、蠢畧扈駛屡行、大田直子訳)」です。原書は、2021年のフィナンシャル・タイムズ紙のベストブック、ビル・ゲイツ氏の「今年のおすすめの5冊」に選ばれ、「利己的な遺伝子」や「神は妄想であるー宗教との決別」の著者であるリチャード・ドーキンス氏の序文を得ています。

ジェフ・ホーキンス氏は、モバイルコンピューター事業で築いた資産を投じて、自分のやりたい研究ができる研究所(ヌメンタ社)をみずから設立し、脳の(特に新皮質の)機能理論を探求し、さらにその理論を機械知能に応用する方法に取り組んでいます。
 大田直子氏は、東京大学文学部社会心理学科の卒業です。このような難しい本を分かりやすく翻訳されており、皆感心しました。

大田氏の訳者あとがきの記述に従い、本書の内容の概要をまとめると、以下のとおりです。


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ホーキンス氏は、脳がどうやって予測するかを解明した。第1部でその理論的枠組が明らかにされる。カギは「動き」と「座標系」。予測するにはまず、世界はこういうものだというモデルを学習する必要がある。たとえばコーヒーカップという物体がどういうものかを知るのに、一点に触れたままでは何も学習できない。指を動かすことによって、指で感じるものがどう変わるかを知るのが学習だ。そうするとカップのふちや底や取ってのような特徴の位置関係、つまり物体の構造を記憶することになり、その記憶をしまうために脳がつくり出すのが、地図に似た座標系である。しかもその座標系を、新皮質を構成する何千何万という「皮質コラム」という要素それぞれがつくり出し、それをもとに皮質コラムそれぞれが予測を行なう。言ってみれば、脳はひとつではなく何千もあるというのが「1000の脳」の意味なのだ。
さらに興味深いのは、座標系はカップのような外の世界の物体を認知するためだけでなく、人が直接感知できない知識を整理するのにも使えるという主張だ。たとえば政治や数学といった、概念についての知識もすべて座標系に保存されるので、物理的空間内を歩きまわるのと同じように、座標系内の概念から概念へと動いていくことが思考だという。数学者は方程式という数学の概念を座標系にきちんと保存しているので、似たような方程式に遭遇したとき、どういう演算でその座標系内を動きまわればいいかがわかる。しかし数学に疎い人の場合、脳が座標系をつくっていないので、方程式を解こうとしても数学の空間で迷子になる。地図がないと森で迷子になるのと同じだ。このように脳の動きを動的にとらえ、どこも同じように見えるのに異なる機能を果たす新皮質の各領域が、じつは共通の基本アルゴリズムを実行しているとする理論は画期的である。
 こうした脳理論を踏まえて、第2部では著者の考える知能を備えた機械について詳述される。・・・・・・・・・・・・・・
 人間の知能こそが人類にとって脅威になりうる。その論点から、人間の知能について掘り下げるのが第3部だ。人間には知性の新皮質だけでなく、当然、衝動を優先する古い脳もある。あらゆる動物が生き延びて繁殖するのを助けるように進化してきた古い脳の生存欲求が、知能を備えた新皮質の生み出すテクノロジーを支配するとき、人口過剰、気候変動、核兵器、遺伝子編集といった、人類の生存を脅かしかねない問題が生じる。結局、機械知能は人間にとって道具であり、どんな道具も使い手次第なのだ。・・・・・・・・・・・・ 
そして新皮質を進化させた人間は、「利己的な遺伝子」の命令に逆らい、方向と目標をもって生きることができるのだと著者は説く。・・・・・・・・
 詳しくは、本書を熟読して下さい。
   水谷潤太郎(千鉱エンジニアリング株式会社)
   
 脳は世界をどう見ているのかー知能の謎を解く『1000の脳』理論
 (2022年4月25日、蠢畧扈駛屡行、大田直子訳)

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