さて問題。以下のもののうち「仲間はずれ」はどれ? ただし、その理由も答えなさい。

イ)アヒル
ロ)鴨
ハ)コインロッカー

まるで有名私立幼稚園の試験問題のようだが、はたして正解は…、もちろん最後のページに書かれている?!


No animal was harmed in the making of this film.

(この映画の製作において、動物に危害は加えられていません)
─ 映画のエンドクレジットによく見られる但し書き

 腹を空かせて果物屋を襲う芸術家なら、まだ恰好がつくだろうが、僕はモデルガンを握って、書店を見張っていた。夜のせいか、頭が混乱しているせいか、罪の意識はない。強いて言えば、親への後ろめたさはあった。小さな靴屋を経営している両親は、安売りの量販店が近くに進出してきたがために、あまり良好とは言えない経営状態にあるにもかかわらず、僕の大学進学を許してくれた。一人暮らしの仕送りを出すことを決断してくれた。そんなことをさせるために大学にやったのではない、と彼らが非難してくれば、そりゃそうですよね、と謝るほかなかった。
 細い県道沿いにある、小さな書店だ。
 午後十時過ぎ、国道が近くを走っているはずだが、周囲は薄暗かった。車の音もない。周りには、昔ながらの民家がぽつぽつとあるだけで、人通りも皆無だった。

現在。この春、大学に入学するために仙台にやってきた椎名は、引っ越してきたばかりのアパートで、河崎という男と出会う。全身黒ずくめでどこか悪魔めいたこの男は、いきなりこんなわけの分からない話を持ちかけてきた。

一緒に本屋を襲わないか。

男の話を要約すると、隣の隣の部屋に住む、アジアのどこかの国から来た友人に贈る「広辞苑」を奪いたいので付き合ってくれ、ということだった。もちろんそれに付き合う道理はない。ところが決行日の夜、椎名はモデルガンを片手に、本屋の裏口を見張っていた。

裏口から悲劇は起きるんだ。

話はさかのぼること二年前。最近この街で犬や猫などが虐待されて殺されるという物騒な事件が多発していた。ペットショップに勤める琴美と、その恋人でブータンからの留学生であるキンレイ・ドルジの二人は、ある日ペット殺しと思しき男女三人組の若者と遭遇する。その日を境に、琴美とドルジの周辺は、不穏な空気に包まれていった。
深夜琴美は、帰宅の際に一人でいたところを暴漢に襲われる。その危機を救ったのが彼女の元恋人で、今はドルジに日本語を教えている河崎だった…。

首尾よく「広辞林」を強奪することに成功した椎名と河崎。そしてペット殺しに狙われる羽目になってしまった琴美とドルジに、それを助けた河崎。二年前の三人の物語の終わりに、現在の椎名が飛び入り参加したとき、四人の物語は完結する。

次号を刮目して待て─!

…次号はない。本屋大賞の第3位に輝いた本作は2003年刊行、その翌年には中村義洋監督によって映画化されている。そして、例によってそれは観ていない。だが今回は趣向を変えて、登場人物をどの俳優が演じたのかをイメージしながら読んでみた。出演者は以下のとおり。

アヒルと鴨のコインロッカー [DVD]
濱田岳
デスペラード
2008-01-25


・椎名:濱田岳
・河崎:瑛太
・ドルジ:田村圭生
・琴美:関めぐみ
・麗子:大塚寧々
・ペット殺し・江尻:関暁夫
・ペット殺し・男:杉山英一郎
・ペット殺し・女:東真彌
・謎の男:松田龍平
ほか多数

31302758気が弱い主人公の青年・椎名の役を、映画『ゴールデンスランバー』『フィッシュストーリー』、そして今年の五月には新作『ポテチ』の公開が控えている、伊坂幸太郎映画作品常連の濱田岳が演じている。初めて出会った男女が一瞬で恋に落ちるがごとく、次の瞬間には一緒に強盗を働いていたというコメディータッチな展開も、彼ならはきっとこう演じるだろうとイメージしながら読むと、あり得ない設定も割りとすんなり受け入れることができる。こういった読み方もたまには面白い。
琴美やペットショップの店長の麗子の配役にも特に違和感はない。あえて言うなら、なぜペット殺しの江尻をスティーヴン・セキルバーグが演じているのか、といった疑問ぐらい。でも、それは脇に追いやる。問題なのはドルジと河崎である。

もう一度言うが、映画は観ていない。

ポイントは、冗談のような書店襲撃事件が二年前の事件とどう繋がってゆくのか、それとドルジと河崎の関係性である。繋げるのが大好きな小説家は、一見、関連性が見えてこない二つの事件を簡単に繋げてみせる。その接着剤の役割を果たしているのが河崎という男前と、日本人に顔がそっくりなドルジというブータン人なわけだ。河崎がアヒルで、椎名が鴨。あらためてこの小説家に拍手喝采を贈りたい。

で、やっぱり気になるのが映画版。はたして椎名と一緒に書店を襲ったのは瑛太なのか、それとも田村圭生なのか。それが気になってしょうがない。

ところで映画の編集とは、捨てる作業だと誰かに聞いたことがある。小説の中で特に気に入った、幼い姉弟が動物園からレッサーパンダを盗み出そうとする話は、ちゃんと映画にも生きているのだろうか。それを今度じっくり検証してみるつもりだ。

登場人物のセリフ使いがユニークな伊坂幸太郎の中で、琴美が川崎に言ったこのセリフがなぜか心に残る。今日から家訓にしよう。

楽しく生きるには二つのことだけ守ればいい。車のクラクションを鳴らさないことと、細かいことを気にしないこと。

で、コインロッカーは?