徒然なる日常

タグ：ジャスティン・ティンバーレイク

2013年03月29日

カテゴリ:: 映画の話

TIME/タイム

かの有名な秦の始皇帝が最後に望んだのは「永遠の命」だった。
それから２千年後のフランスの作家アルベール・カミュはこんな言葉を遺している。「死への絶望なしに生への愛はありえない」と。また、ドイツの哲学者マルティン・ハイデガーはこう語っている。「人はいつか必ず死ぬということを思い知らされなければ、生きていいるということを実感できない」。
ではもしも本当に、命か永遠に続くとしたら、はたしてそれは幸せな人生だと言えるのだろうか。２０１１年、アメリカ映画。上映時間：１０９分。

遠くない未来。遺伝子操作により全て人類は２５歳から年を取らなくなり、人間の寿命は左腕に埋め込まれた体内時計で管理されていた。これによって価値基準は、貨幣から「時間」へと変わり、そこでは時間が金銭の代わりとして取引されていた。

コーヒー１杯が５分。主人公のウィル・サイラスは、余命の時間がその人の価値を決める世界で生まれ育った。だが工場で一日中働いて彼が得られるのはわずかばかりの賃金（時間）。生活は苦しく賃金のほとんどがローンに消えてゆく毎日。ところがある日、サイラスの身に大きな転機が訪れる。

他人から時間を略奪する凶悪なギャングに狙われたハミルトンという富裕層の男を救ったことをきっかけに、男が持っている莫大な財産を譲り受けたのだ。それは１１７年という時間。今のサイラスが一生働いても得られない時間だった。だが男が本当に得たかったのは、永遠の命ではなく安らかな「死」。男は５分間だけ残してサイラスにすべてを譲った後、橋から身を投げてしまう。

一夜にして大金（時間）を手に入れたサイラスは、街を離れて「富裕ゾーン」へと向かう。その頃街では、ハミルトンの遺体が発見されたことで時間監視局員（タイムキーパー）が動き出していた。厳格な法の番人であるレイモンド・レオンは、監視カメラに写った映像から、サイラスが事件の関与していると直感し、その行方を追うのだった。
そうとは知らないサイラスは、大富豪フィリップ・ワイスの娘のシルヴィアと出会い、互いに惹かれ合うようになるが、ついにそこへレオンが現れて──。

アンドリュー・ニコルと言ったら、断然『ガタカ』である。デビュー作となるそれが米国で公開されたのは１９９７年のこと。出演はイーサン・ホーク、ユマ・サーマン、ジュード・ロウと当時の美しい俳優たちが登場し、さらに洗練されたストーリーとモダンでスタイリッシュな映像から「美しいものしか見たくない、できれば不細工なもの排除したい」といった監督の強い美意思が現れたようなＳＦスリラーの傑作だった。しかしそれ以降、彼らしい作品が発表されたとは聞こえてこない。

はっきり言って『シモーヌ』（２００２年）は期待外れだったし、『ロード・オブ・ウォー』（２００５年）は、イーサン・ホークやブリジット・モイナハン、ジャレット・レトなどが出演している（主演はニコラス・ケイジ）ものの、映画全体としてはけっして美しいと言えるものではなかった。『トゥルーマン・ショー』（１９９８年）や『ターミナル』（２００４年）の脚本が評価されたことで、もうメガホンはとらないのかと思っていた。

ところが、彼は帰ってきた。やはりアンドリュー・ニコルは『ガタカ』である。本作は１０数年前に観たその「廉価版」といった印象だが、その面影は確実に残っている。それはキャストやストーリー、映像に。

キャストは、主人公の貧しい青年サイラスを演じるのは、『ソーシャル・ネットワーク』『人生の特等席』のジャスティン・ティンバーレイク。ヒロインのシルヴィア役には『マンマ・ミーア！』『レ・ミゼラブル』のアマンダ・セイフライド。そしてタイムキーパーのレオン役に『インセプション』『レッド・ライト』のキリアン・マーフィーと、極上とは言えないが、個性的な美しい俳優たちである。そしてストーリーは、名作を彷彿させるＳＦスリラーと、何と言ってもこの世界観である。

時は金なり。

とはよく言ったものだ。映画の中では、誰もが年を取らないということや、時間と金銭の等価性について上手く説明されているおかげで、はじめの違和感は解消され、その世界観を受け止めることができる。
たとえば、主人公のジャスティン・ティンバーレイクの母親役を実年齢は年下のオリヴィア・ワイルドが演じていたり、一杯のコーヒーやバスの運賃などの物価設定。そして時間のやり取りをプリペイドカードのようにチャージするといったアイデアの数々。それにドラマにテーマ性をもたせたことでしっかりと映画に入り込める。これは脚本力が高い監督の強みである。
愛する人のために自分な時間を分け与える。つまりお金では買えない命の重みが、そのまま愛する人に対する重みになるのだ。
またファッションや小物が「未来らしくない」ところも『ガタカ』を踏襲しているポイント。それは未来ではなく、もう一つの現在のようにもみえるの彼のＳＦ映画の特徴である。こういった、『わたしを離さないで』のような感じの映画が好きだ。

惜しむらくはヒロインだろう。シルヴィア役のアマンダ・セイフライドは最近、メキメキと頭角を現す注目の若手女優だが、やはり美しさの点においてはユマ・サーマンにはおよばない。それに彼女の顔は個性的すぎる。それでも十分に美しい。好みの問題だ。
そう言えぱ、監督の妻は『シモーヌ』のヒロインの超美人女優レイチェル・ロバーツ。美しい彼女も出演している。見事な監督の惚れっぷりである。で、結論。

やっぱり、みんな美人には弱い。

タグ：: #アンドリュー・ニコル; #アマンダ・セイフライド; #ジャスティン・ティンバーレイク; #キリアン・マーフィー; #オリヴィア・ワイルド; #マット・ボマー; #アレックス・ペティファー; #ジョニー・ガレッキ; #ヴィンセント・カーシーザー; #レイチェル・ロバーツ

2012年11月25日

カテゴリ:: 映画の話

人生の特等席

暑くもなく寒くもない空調が効いた部屋で、缶ビール片手にお気に入りのソファーに身を預けながら、大画面テレビで野球中継を見る。
これこそまさに「人生の特等席」だが、やはりスポーツは実際にスタジアムに行って、そこでその場の雰囲気を肌で感じるのが醍醐味だ。たとえそれが外野の安い席でも、やはり「生」で見る興奮にはかなわない。２０１２年、アメリカ映画。上映時間：１１１分。

ジョージア州アトランタ。「鷹の目」を持つと言われたメジャーリーグ「ブレーブス」の名スカウトマンのガス・ロベルは、そのキャリアに終焉を迎えようとしていた。それは昨今導入されたコンピュータによる分析についていけない時代遅れであるということと、年齢による視力低下に、獲物を見る目が衰えてきたからだった。

そんなガスを心配した三十年来の付き合いがあるスカウト主任のピートは、ある日、弁護士事務所に勤めるガスの一人娘のミッキーのもとを訪ねる。ピートの用件とは、彼女に父親のスカウトツアーに同行してあげてほしいという頼みだった。
ところが、彼女はいま大きな案件を抱えていて、成功すれば出世が約束されるという大事な時期。彼女はただ「忙しい」とだけ告げ、その頼みを断るのだった……。

ノースカロライナ。今年の注目選手は、右の強打者ボー・ジェントリー。彼がプレーをするこの地には、各チームのスカウトマンが詰めかけ、スタジアムはちょっとした賑わいを見せている。ガスもそこで衰えた目を隠しながらも、チームがドラフトで１位指名をして良いかを見極めようとしていた。そしてジョニー・フラナガンという若者もその一人。彼は以前、ガスのスカウトでピッチャーとしてメジャーリーグのマウンドに立ったものの、その後、度重なる登板で肩を壊し、今ではライバル球団のスカウトマンに転向していたのだった。

そこへ現れたスーツ姿の女性。それは大事なこの時期に会社を休んで父親に会いにやってきたミッキーだった。だが彼女がここへきたのには、実はもう一つのワケがあった。それは早くに母親を亡くしたミッキーが６歳の頃、１年間まったく知らない親戚に預けられたことの理由。彼女はそれをずっと、父親に嫌われて捨てられたと思っていたのだ。

こうして短気で口下手な父親と、男勝りな娘が観戦する中、ゲームは始まった。スカウトマンたちが注目する中、安打を量産するボー。ガスが耳で聞き、ミッキーが目で見る。そんな彼らが導き出した注目選手への評価は「カーブに難あり」。彼はカーブがまったく打てない選手だと確信する。

早速、ガスはスカウト主任であるピートに報告する。彼をドラフトで１位指名してはいけないと。しかしそれに対して球団が出した答えとは…。そしてこれまで娘の気持ちを汲んでやれずに、頑なに口を閉ざしていた父親の口から出た娘を手放した本当の理由が明らかになる──。

この映画を無謀にも、かなり大雑把に、そしてザックリとひと言でいうなら、野球映画である。もちろんテーマは「親子の愛」とか「失われた絆の再生」ということになるだろうが、とにかくこれは野球映画だ。それはタイトルがそう言っている。
なお、原題は『Trouble with the Curve』。つまり「カーブに難あり」。これはカーブを人生にたとえたのかどうかはわからないが、間違いなくこれは野球映画ですと宣言している。

ところで、つね日ごろからこう思っている。アメリカの野球ファンは、日本人よりも野球に対する見る目が厳しいと。国民の多くがたかがボールを投げて、それを打つだけのゲームに熱狂する。それは老若男女、スタジアムに足を運ぶ人の数がそれを物語っているからだが、それだけに野球映画と言われる中でも名作は数多く存在する。たとえば、貧乏球団のＧＭが奮闘するブラッド・ピット主演の『マネー・ボール』や、弱小球団の選手が奮闘するあのチャーリー・シーン主演の『メジャー・リーグ』などなど。人生、表もあれば裏もある。そして、誰でも九回裏の一発逆転のチャンスはある。野球とは人生をたとえるのに最も適したスポーツなのだ。

そこでこの映画。実は野球映画と言いながらも、その野球に対してかなり目をつぶっている箇所がある。もちろんそれはストーリー上、わざとそうしているわけだが、野球が好きなら容易に気づいてしまうささいな設定は、映画にありがちな「ご都合主義」と名前を変える。
たとえば、球団がドラフト１位の指名を決める大事な情報をスカウトマン一人に委ねるということ。これから何億もの契約金が動くというのに、スカウトマンだけがそれを決めてしまうものなのか。たとえば１位指名をしようとしていた選手が、カーブを打てないこと気づいてしまうのがガスたちだけなんてことがあり得るのか。
現代はデータ野球である。どのコースのどの球種が苦手か、他チームもすぐに気づくはず。それにカーブが苦手ならプロに入ってから学べばいい。ストレートであれだけ打てればカーブなんてすぐに攻略できそうなものだ。それにガスがプロに誘ったジョニーについてもそうだ。そんなに優秀なピッチャーなら、なんで肩なんて壊すのか。

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やっちゃったのが、ミッキーが偶然見つけた左ピッチャーだ。たまたま泊まっていたモーテル（名前が「灰色のリス」というのも笑ってしまうが）の女主人の息子が、メジャーリーガー級の豪腕投手だったなんて。しかも彼は、親から野球をすることを反対されていたとしたら。この設定は完全に余分だった。
今までのは目をつぶっても、さすがにこれは無理。ということでこの映画の正しい楽しみ方は、上映時間の１１１分のうち、１００分ぐらいを真剣に観て、あとの時間は別の映画だと思えば良い。実際、１００分はかなり密度の濃い、俳優たちのパフォーマンスを観ることができた。

主人公のガス・ロベル役と製作には『グラン・トリノ』以来、４年ぶりに俳優として復帰した名監督でもあるクリント・イーストウッド。俳優イーストウッドの勇姿がまだ観れてうれしい。「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」とダグラス・マッカーサーは語ったが、イーストウッドも死ぬ間際までスクリーンで活躍してほしい。妻の墓の前で、「君は僕の太陽、かけがえない僕の太陽……」とジミー・デミヴィスの歌詞を力弱く唇を震わせながら暗唱するシーンは、妻を失った不器用な男の物悲しさがよく表れている。

共演は、ガスの娘のミッキー役は『ダウト～あるカトリック学校で～』『ザ・ファイター』のエイミー・アダムス。クリント・イーストウッドの娘役が彼女というのもまたおかしな話。イーストウッドは１９３０年５月生まれの８２歳。一方のエイミー・アダムスは１９７４年８月生まれ３８歳、しかも設定はで３３歳となっているからその差は４９歳。いくらなんでもこの差は…。スカウトマンに転向するジョニー役には『ソーシャル・ネットワーク』『バッド・ティーチャー』のジャスティン・ティンバーレイク。
そのほか、ガスの親友のピート役に『アーティスト』『アルゴ』のジョン・グッドマン。ものすごく良い演技をするのに、ありえないほど賞に縁がない彼の手に、いったいいつオスカーが抱かれるのだろうか。今回もかなり良い演技をしているのだが…。ガスのライバル・スカウトマンのフィリップ役には『ファミリー・ツリー』の浮気男のマシュー・リラード。
球団のＧＭヴィンス役には『ターミネーター２』の「Ｔ－１０００」の印象が強かったロバート・パトリック。今回はその呪縛にやっと解放された気がする。

監督と製作には『マジソン郡の橋』でイーストウッドと初めて仕事をして以来のイーストウッド組ロバート・ロレンツ。今回が初の長編映画の監督作となるが、その手腕はベテラン監督のよう。特に失策はなかったように思う。ちょっとした設定以外は。
最近は監督業ばかりで俳優は辞めたのでは。そう訊かれると彼は、「引退など考えたことがない」と答えたという。そんな老兵の勇姿を、まだまだスクリーンで観ていたい。

タイトルは邦題の方がシックリくる。

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2011年01月25日

カテゴリ:: 映画の話

ソーシャル・ネットワーク

世界最大の映画祭の一つである第８３回アカデミー賞授賞式が、今年も２月２８日の未明に行われる。
ノミネート作品の発表は、２月５日（※訂正：１月２６日）。現時点（１月末）ではまだ発表されてはいないが、本作が最有力候補になるのは間違いない。
その理由とは、アカデミー会員の多くが「フェイスブック」の利用者だから？　それとも……。２０１０年、アメリカ映画。上演時間：１２０分。

２００３年のある夜。アメリカで最も古く、最も権威あるハーバード大学でコンピュータサイエンスを専攻していた２年生のマーク・ザッカーバーグは、バーでガールフレンドのエリカを怒らせてしまう。それはマークの心ないひと言からだった。

どうせボストン大だろ。

エリカにフラれたマークは、寮の自室に戻ってヤケ酒のビールをアオりながら、彼女の悪口をブログにカキコんでいた。酔いが回ってきたマークが、ほんの遊び心から大学のサーバーにハッキングし、名簿の顔写真で女子学生をランク付けするサイト「フェイススマッシュ」を親友のエドゥアルド・サベリンらと作ると、それがたちまち男子学生の間で噂となり、数時間で数万アクセスに達して大学の回線をパンクさせてしまう。

こうしてマークの名は一躍校内に知れ渡ることとなった。
女子学生からの反感とともに……。

結局マークは半年間の観察処分。そんなマークにハーバード大の社交クラブ「ポーセリアン」の主要メンバーである双子のウィンクルボス兄弟から依頼が舞い込んでくる。
それは、クラブのメンバーが気軽に利用できるＳＮＳ（ソーシャル・ネットワーク・サービス）サイトを作ってほしいというものだった。クラブの入会を望んでいたマークはこれを快諾、早速プログラミングに取り掛かった。

その後マークは、進捗状況を確かめようとするウィクルボス兄弟からの連絡を「都合が悪い」「試験がある」と言ってのらりくらりとかわし、彼らが望む仕様とはまったく違うサイトを作り上げていた。
それが全世界で５億人が利用する「フェイスブック」の誕生である。マークはサイト運営のために会社を設立し、千ドルの資金を提供したエドゥアルドをＣＦＯ（最高財務責任者）に、そして自らはＣＥＯ（最高経営責任者）に就任した。

２００４年２月。どんなに待ってもマークと連絡が取れないウィンクルボス兄弟は、爆発的に会員数を増やしている「フェイスブック」という人気サイトの存在を知る。サイト創設者の名前はマーク・ザッカーバーグ。自分たちが依頼した相手だと知ったウィンクルボス兄弟は、アイデアが盗用されたとして、弁護士を通じてサイトの停止警告を送った。

その後もマークは警告を無視し、会員数を順調に増やし続けていた。その頃エドゥアルドはと言えば、そろそろ資金が底をつく会社のために、広告主探しに奔走していた。ニューヨークでは会合を開き、投資家たちに売り込むエドゥアルド。しかし、クールではないという理由から広告掲載を嫌うマークと衝突してしまう。実はマークが親友のエドゥアルドを避けるようになった理由の一つに、ハーバードの社交クラブにエドゥアルドだけが入会できたこともあったのだ。

マークが別人のように変わってしまったのには、もう一つの原因があった。それはマークと同い年で音楽ファイル共有ソフト「ナップスター」を作ったＩＴ界のカリスマ、ショーン・パーカーとの出会いだった。ショーンの派手で現実味のない夢のような話と、現実路線として会社を成長させようとするエドゥアルドとの折り合いの悪さが遂に決定的となり、マークは親友のエドゥアルドと距離を置くようになった。
やがて、会員数は百万人を超え、会社の資産価値は数億ドルに達していのに、エドゥアルドだけは蚊帳の外だった……。

こうしてマークはウィンクルボス兄弟からも、エドゥアルドからも訴えられてしまう。自分のすべてである「フェイスブック」のために、親友を裏切ってしまった史上最年少の億万長者、マーク・ザッカーバーグ。彼が友と引き換えに手に入れたものは何だったのだろうか──。

フェイスブックの利用者数は、約５億人。これは２０１０年に国連が取りまとめた世界人口の推計６９億人で計算すると、１４人に１人という勘定。国としてとらえれば中国、インドに次ぐ世界第３位の大国ということなる。しかもこの国民は高度な知能を持ち、圧倒的な経済力を持つ。これはもう「世界最強の国家」と言えるのではないだろうか。その国の王に君臨するのが、弱冠２６歳のマーク・ザッカーバーグである。フォーブス誌によると、彼の推定資産は６９億ドル。日本円に換算したら、約５７００億円。想像を絶する金額だ。

ハンバーガーや牛丼が、一体何杯食べられるのだろう。

現在の億万長者ランキングでは、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏や、アップルのスティーブ・ジョブズ氏、オラクルのラリー・エリソン氏、グーグルのサーゲイ・ブリン氏とラリー・ペイジ氏、アマゾンのジェフ・ベゾス氏など、ＩＴ業界のカリスマが上位を独占する。ちなみに、第２位にはウォーレン・バフェット氏がランクインしているが、彼は投資家。つまり、みんな、

無から金を生み出す錬金術師。

である。こんなことを言ったら負け犬の遠吠えでしかないが、もはやＩＴや金融システムは、第一次産業や第二次産業の従事者がどんなに努力をしてもけっして見ることができない高みに達してしまった。しかし、これこそが今日の経済の仕組み。時代の寵児と言われようが、大量に金を積んだバスにわれ先にと飛び乗った者が勝者なのだ。

ところが、映画の中のマークはお金に執着する亡者ではなく、ネットというオモチャを与えられた「大人コドモ」として描かれている。彼がウィンクルボス兄弟を出し抜いたのは、運動が苦手なマークが家柄も良くスポーツ万能でイケメンのウィンクルボス兄弟に嫉妬した「負のエネルギー」が根底にあるのではないだろうか。
エドゥアルドへの対応にしたってそうだ。自分が入会したかったハーバード大学の社交クラブにマークが先に入会されてしまった悔しさや、自分が立ち上げた「フェイスブック」の運営について、経済的な口出しをされたからに過ぎない。
そして、マークは札付きのワル（映画の中で）のショーン・パーカーの影響で、大切な親友をなくしてしまう…。みんなが去って行き、もっとも信頼できる唯一の友達を失ったマークが、自分のサイトに登録していた元カノに友達の申請をしているシーンがその寂しさを象徴している。承認画面になるまで「Ｆ５キー」を押し続けるマークの表情が印象的だ。

原作は、ベン・メズリックの著書『facebook 世界最大のSNSでビル・ゲイツに迫る男』を、『ア・フューグッドメン』『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』のアーロン・ソーキンが脚本化。物語が時系列で進む原作を、法廷の場面から回想シーンで時間軸を前後させた映画的な手法が今となっては観やすく、マークの裏切りと孤独感がとてもよく描かれている。実際のショーン・パーカーがこの映画を観て、「映画としては楽しめたが、これは事実ではない」と言っている通り、関係者は法廷の和解案で守秘義務が設定されており、これは脚本家の想像でしかないが、人間を描くという上においては、それは億万長者だろうが、天才だろうが関係ないはず。これこそ真実だろう。

常に進化し続けるデヴィッド・フィンチャー監督は、『エイリアン３』から『ファイト・クラブ』まで、ＳＦやクライム・サスペンスなどカルトな映画を作り続きてきたかと思えば、『ベンジャミン・バトン数奇な人生』のような感動的なストーリーまで作り上げる。
今回は「これがフィンチャー？」と見紛うような完成度だ。特に冒頭のマークとエリカの会話シーンでは、セリフの洪水に度肝を抜かれる。ただし、随所にフィンチャーらしさが映像に現れているのも見逃してはいけない。たとえば、画面のピントだったり、ウィンクルボス兄弟を一人の俳優にどう演じさせたかについてだったり。

マーク・ザッカーバーグ役には『イカとクジラ』『ゾンビランド』のジェシー・アイゼンバーグ。アカデミー賞の前哨戦であるゴールデングローブ賞では惜しくも主演男優賞を逃すも、その実力は映画を観た人なら誰でも分かる。あまりに似すぎて本物のマーク・ザッカーバーグと同じぐらいイケてないほど。本物の方がもっとイケてないが。
マークと法廷で争うエドゥアルド・サベリン役には『大いなる陰謀』『Ｄｒ．パルナサスの鏡』のアンドリュー・ガーフィールド。一人だけ置いてけぼりされた切なさが、彼の逞しい眉に籠められている。残念ながら彼もゴールデングローブ賞の助演男優賞を逃している。
ＩＴ界のカリスマ、ショーン・パーカー役には「イン・シンク」として「グラミー賞」を受賞経験を持つ、『ブラック・スネーク・モーン』のジャスティン・ティンバーレイク。ミュージシャン出身の俳優ではあるが、ショーン・パーカーには彼とカブるところがあるのだろう。彼の演技になぜか憎々しさを感じたが、それは彼が昔、

キャメロン・ディアスと付き合っていたからかも知れない。

その他のキャストに、アーミー・ハマー、マックス・ミンゲラ、ルーニー・マーラ、ブレンダ・ソング、ジョシュ・ペンス、ブレンダ・ソングなど。

天才は天才を知る、ということだろうか、この映画では天才の孤独感がよく描かれていた。もちろん、僭越ながら小生もこれにはとてもよく理解できた。