戦争語彙集『戦争語彙集』
オスタップ・スリヴィンスキー 作
ロバート キャンベル 訳著(岩波書店)2023.12.22

2022年2月ロシアの全面侵攻にともない、600万人とも言われる人々が戦火を逃れヨーロッパを目指し、また住む場所を失い西部に800万人が避難移動した。そうした避難者を支援しつつ、そこで発せられた戦争の脅威をのせた証言としての「語彙」をまとめたものである。ウクライナ語のアルファベット順に並べ一人一人のストーリーとなっていく。
アンドリー(リヴィウ在住)「痛み」。痛みに匂いがするということを初めて知った。それだけの長い時間を痛みのなかにいたことがない。
ユーリャ(リヴィウ在住)「お馬さん」。女の子が、亡くなった子の写真に添えられた馬の人形を欲しがったのだ。それは…この子があなたにくれるプレゼント、生きているあなたへの・と答えてしまう。
ヴィオレッタ(マリウポリ在住)「焼き網」。ガスもないから野外で調理を始める。向かいの団地が炎に包まれている前で。
サシュコ(キーウ在住)「ナンバープレート」。これはね、実際に結構役に立つらしいです。身分証がなかったり、原形をとどめない遺体の埋葬の、墓標の代わりになるそうです。
マーシャ(コスチャンティニウカ在住、イワノフランキウスク滞在中)「悦び」。何故、嬉しそうにしているのかと尋ねる人がいる。そのことで不快になる人もいるようだけれど、もう私には一切を失ったという夢ではない現実しかないのです。彼らへの怒りを悦びに変えているだけです、と。
解説のなかでオスタップ・スリヴィンスキー氏の言葉が紹介されている。「戦時下の状況では中にあるものがすべて外に出ます」と。私的な領域と公的な領域の境目が失われるからであろうと…。