ゼロエミッションを目指す鈴廣かまぼこ本社を視察させてもらった。断熱、省エネ、創エネでエネルギー自給までとはならないものの54%オフになっているのだから非常に参考になった。しかも、投資した額は12年程度で回収できるというのだから、他にも広げていける可能性は高い。
鈴廣かまぼこは、経済界には珍しく脱原発派として良く知られている事業者だ。その会社の本社が昨年9月に完成したことから今回の視察となった。主催は、武蔵野市などで市民出資による再生可能エネルギーの普及を行っているNPO、むさしの市民電力(む〜ソーラー)。出資や関係者などでの合同視察だった。
■特殊な技術ではない
本社の構造は、最新技術を採用しているというのではなく、既存の技術を効率的に組み合わせたもの、との印象だ。
特徴は、徹底的な断熱による省エネと地下水を活用することでのエネルギーの省エネだろう。
二重窓と断熱性を高めた壁、室内空調により湿度を適度に保つことで外気が9度の朝でも 室内は19度となっているという。この室温から空調機を動かすのだから、使用するエネルギーはかなり少ないと言える。
地下水利用は、空調に使う空気(触媒)を冷やし(冬季はあたためる)たうえで、空調に使うため、エネルギーを効率的に使うことができるので、結果的に電気量が激減しているという。
■特徴は地下水利用
地下を利用する技術には地中熱を使うことでもできるが、同社のレストランで使用してみたところ、地中の空気によって空調の空気を温めたり、冷やしたりするよりも、地下水を使ったほうが効率的なことが分かり、地下水方式を採用したのだそうだ。
触媒に使った後の地下水は、屋上の散水により建物の温度を下げることやトイレの水に活用したうえで残った場合は下水として処理している。
地下水のほうが温度が一定であり、空気よりも液体のほうが効率がいいことは参考になる。ただし、地下水利用は地下水がどの程度あるか、組み上げによる地盤沈下がないかなど土地の特性によって活用できるかできないかは変わるのだろう。
説明にあたった担当者の方も、普段から地下水を飲用水に使っているなど地下水が豊富な小田原だからこそできるものとされていた。
■太陽光も活用


屋上には、40キロワットの太陽光発電設備も設置しており、売電せずに本社ビルに使用している。このことで使用する電気料も減り、蓄電池も設置されているので震災時などでも対応できるようになっていた。
エネルギーと直接は関係ないが、小田原周辺の杉材を活用しているのも印象的だった。森林保護のためにできることをしたいと考えたことが採用した理由だが、このようなことでも結果的に環境を守ることになる。木材を室内材に採用することで、保湿効果などあると聞いたことがあるが、このような木材利用も他の建築物でも広げるべきだろう。
■省エネと創エネ
肝心のエネルギー消費量は、年間を通じて検証していないので確かな数字は示せないとの前提だが、計算上は、通常の建築物に比べると54%少なくなるといい、実際にもこの数字に近いとの説明だった。
担当者の説明によれば、3.11前まではコスト削減やエネルギーのムダをなくすためにエネルギーの効率化を図っていたが、3.11と原発事故が起きたことから、省エネに加え、創エネを加えてこの本社ビルとなったという。企業としてのコスト削減がまずあり、そのうえで、断熱や地下水利用によるエネルギーの効率化と、太陽光パネルによる創エネを加えたとなる。
最初にも書いたが、特殊な技術を採用したのではない。省エネと省エネなどに投資した額は、計算上では12年程度で元が取れるという(補助金含む)。そうであるなら、多くの建築物、特に公共施設ではより積極的に採用していくべきだろう。
■他にもあり


原発に頼らない社会にするのは、このような事業者が増えることも必用だ。今後に期待するとともに政治としての取り組みが今以上に必要だと確信した視察だった。武蔵野市としても参考にしたい。
写真は上から
本社
採用したシステムの概要図
太陽光による室内照明と杉を使った内装
レンズを組み合わせた太陽光の明かり
太陽熱利用のための温水器
地中熱による交換機