新聞奨学生募集パンフレットと実際の仕事の中身が違う。これでは、求人詐欺ではないか…。新聞社名を使い新聞配達をする学生を募集しているが、そこには、新聞が書かない闇が隠されている。

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■パンフレットと実際が違うブラック事例

 朝夕の新聞配達などの業務をすることを条件に大学や専門学校の授業料を返済不要の「奨学金」として支給するのが新聞奨学生だ。朝刊と夕刊配達の合間に通学できる時間があることから古くから制度だ。

 新聞奨学生は、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞、産経新聞など新聞社名がその冠に掲げられており、各新聞社系統の新聞奨学会が授業料を必要とする学生を募集している。

 利用するのは、学費を払えない家庭や授業料は自ら払いたいという学生が中心。筆者も新聞奨学生だったこともあり、社会常識とは異なった世界があるな、とその当時から思っていた。今でも他人事ではないと考えている。

 その新聞奨学生がなぜ、求人詐欺ではないかと問われているのは、募集パンフレットに書かれている内容と実際の労働条件が異なっている例が少なからずあるからだ。

 パンフレットのうたい文句とは異なり、学校に行けない労働環境で働くことで、結果として学校を辞めざるをえなかった。学校に行けないのだから、新聞奨学生を辞めたいと申し出ても、すでに「奨学金」として学費を支給しているのだから、「奨学金」をすべてすぐに返済しないと辞めさせてくれない。もともと学費を出せないから「奨学金」に申し込んだのだから返せるわけがない。学校にも行けず、「奨学金」返済のために新聞配達を続けている。このような例も出てきている。
 
 また、学校のパソコンを使わないとレポートが書けないのに、その時間が業務と重なってできない。新聞代の集金業務では、払わない人の新聞代を代替わりさせられて借金が増えてしまった。有給休暇があると書かれているのに、もらえたことがない。罰金制度があり、何かと理由をつけられて給料が減らされる。パワハラが横行しているなど、ブラックな実例が8月4日に都内で開催されたシンポジウム「新聞奨学性と求人詐欺」で紹介されていた。

 何のために「奨学金」なのか。そもそも「奨学金」と何なのか?

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■法改正が追い風になるか

 このシンポジウムは、日本新聞労働組合連合(新聞労連)と新聞通信合同ユニオンが主催したもの。元新聞奨学生で、今回のような新聞奨学生の問題を以前から提起している村澤潤平さん(新聞奨学生SOSネットワーク)と労働政策に詳しい上西充子法政大学キャリアデザイン学部教授らがパネラーとなり現状の問題の報告と今後についても話し合われた。

 求人詐欺問題に詳しい上西教授は、新聞奨学生の制度は複雑だが、鍵となるのは奨学会だ。特に先の国会で改正職業安定法が成立した(※)ことで、募集時と労働契約締結時の労働条件が違っていてもよかったことが、今後はできなくなる。変更点がある場合は、求職者に明示することが義務付けされることになった。


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 また、これまで新聞奨学会は、仕事を紹介する事業者なのか労働者を募集しているだけなのか曖昧だったが、法改正に伴いだされた厚生労働省指針(厚生労働省告示第232号)でも明らかになったように職業紹介にあたるだろう。新聞奨学会が紹介事業者として許可を得ていないのであれば取るべきだと話されていた。

 法改正が追い風になり、詐欺といわれないようにすることが新聞奨学会に求められることになる。


■ブラック求人

 仕事を紹介するだけの場合は、何時、どこで、このような仕事を募集しています。申込みと詳細は募集者に直接申し込んでくださいといった情報提供のみのケースだ。その昔によくあったアルバイト情報誌で仕事を見つけ、募集している事業者に直接電話するケースといえる。
 紹介事業者は、仕事内容をサイトなどで宣伝し、募集事業者ではなく紹介事業者に申し込みを行い募集事業者と応募者の仲立ちをする。募集事業者は、人材募集の手間が省け、事務作業や広報費用を削減できるメリットがあるが、そのぶん、一定の紹介料を紹介事業に支払うので仕組みなのが違いだ。

 情報提供であれば、募集者が仕事の中身について責任を持てばいいが、申込みを受けて実際の紹介するのであれば、そこに仕事内容が募集と違うことはあってはならない。人を紹介して利益を上げている以上、そこに異なる仕事の内容を示していれば、求人詐欺といわれても否定できないだろう。

 ところが、改正前までは、異なった内容で募集すると紹介事業者に罰則規定はあったものの募集事業者には罰則がなかった。募集事業者が虚偽の募集をしてはならないのは当然だとしても、紹介事業者が内容が異なった内容で募集しても罰則がなかったのだ。

 そのため、人手不足が背景となり、実際の仕事と異なる内容や給料をより高額で募集し、応募してきた人は実際の条件とは異なる仕事に就いてしまう例が横行し「ブラック求人」として社会問題となっていた。このことが背景となり法改正へ結びついたのだ。


■曖昧な業務内容

 画像は奨学会のウエッブサイトにある現状での業務内容の説明の一部だ。上西教授が指摘していたが、曖昧なことが掲載されている。

 例えば、一日平均6時間程度の業務という表記や( 法給料は平均とあるが(◆法∋給なのか月給なのか分らない。平均と程度という曖昧な表現が二つも重なっている。どこまでの時間なのか地域や販売店によって業務が変わり給料も変わります()との表記では、実際の給料や業務は分らないといっているようなものだ。さらに、集金や折り込み広告の準備、営業(新聞拡張)、帳面付けなど事務作業はどの程度あるかも分らない。上西教授は、明確に表記すべきと指摘されていた。

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 このような記載では仕事をしてみなければ、実際の内容は分らないといえる。しかし、パンフレットと違うと新聞奨学会にクレームを伝えても、実際の雇用契約は新聞販売店と奨学生が結ぶため、奨学会では対応できないとの対応だったと報告されていた。

 複雑な制度が、闇をさらに濃くしている。


■奨学金の流れ

 新聞奨学生の制度は複雑と書いたが、ここにも問題を複雑化させている要素がある。
 そこで、まず、新聞奨学生の制度を簡単に整理おこう。

 現状は、各奨学会がホームページなどで奨学生を募集するとともに国内各地で夏から秋ごろにかけて相談会を実施する。奨学生になろうと思ったら、受験前になるので希望している大学や専門学校などを記載した申込みを各奨学会へ行う。
 その後、進学先が決まった段階で必要書類を奨学会に送ると奨学会から学費を進学先に送金。その後、配属される新聞販売店が決まり、奨学会で研修会を行った後に新聞配達生生活が始まる流れとなっている。

 この流れだけを見ると、新聞奨学会が「奨学金」を出していると思ってしまう。しかも、返済金不要のという名称での「奨学金」としてだ。ここだけでなら、新聞社は慈善事業をしているようにさえ思えてしまう。



■「奨学金」という名の借金

 筆者が新聞奨学生だった頃、当時の店主から、あなたには給料以外に奨学会に毎月費用を支払っていると言われたことがある。新聞奨学生を雇用すると紹介料も払うのだそうだ。いくらだったから記憶は定かでないが、その額を計算してみると、結局は「奨学金」の額を毎月返済しているようなものだと理解したことがあった。

 つまり、新聞販売店が奨学生を雇用すると一定額を毎月奨学会に支払う仕組みとなっている。新聞社からも「奨学金」へ資金が出されているとされているが、その額や具体的にどのようにお金が動いているかは不明だ。新聞販売店に聞いても口を濁しているという。「奨学金」自体の仕組みも闇のなかともいえる。

 奨学金とは、『貸与または給付される学資金』(デジタル大辞泉より)だ。給付なら返済は基本的に必要ないが、貸与とはお金を貸すことで、早い話は借金のことだ。
 返済の不要の「奨学金」と言われると、給付されるように錯覚してしまうが、学費という借金を背負いますよ、と考えれば分りやすい。新聞奨学生とは、学費の借金を新聞配達で返済する制度ということになる。だから、辞めるのなら借金全額をそろえて返せとなってしまうのだ。

 さらに契約は、奨学生と新聞奨学会とではなく奨学生と新聞販売店で結ぶ仕組みがさらに闇へと誘う。販売店との契約だから、条件は販売店や店主によってバラバラ。だから、『給料の金額は平均です。地域・ASA(販売店)によっては、業務開始時刻・業務時間が異なり、それに伴い給料も変わります』と書かれているのだろう。平均とあるのだから、さらに少ない給料もあるということで、実際の内容は分りませんよと、じつは正直に書いているのかもしれない。

 先に書いた流れをもう一度、確認して欲しいが、借金を抱えた後で販売店に配属され実際の仕事内容が分る流れだ。借金は確実だが、仕事内容は分らない。賭けにでるような仕組みと言えないだろうか。

 契約時するのは、高校三年生の時点だ。保護者も確認することになっているが、雇用契約の結び方や中身の確認などよく分っていない状況で契約してしまうことも課題だろう。


■ブラック割合

 私が新聞奨学生として働いた販売店は、ブラックな状況にはなかった。心優しい店主で新聞拡張も、できるときにやってくれればいい、学業優先だと話されていた。新聞休刊日には販売店の全員で旅行に出かけるなど、今思えば恵まれていた環境だったと思う。

 このことから、パンフレットと違う内容の販売店はどの程度あるかが気になる。ブラックなのは氷山の一角なのか、それとも、特殊な例なのかが分らないからだ。 冒頭に紹介したブラック事例は、全体からすれば少数だと思いたいし、そう信じたい。

 シンポジウムで主催者は、新聞奨学会が行う卒業式で、卒業した奨学生にアンケートをとったところ、パンフレットと仕事の内容が違っていたと応えたのはアンケートをした15名のうち3名。どちらともいえないと答えたのは2名だった。
 ツイッターでもアンケートを取ったところ、38件から返答があり、契約どおりだったのは32%。違うと答えたのは68%だった。
 パンフレットと同じ内容かを調べるために新聞奨学会に調査依頼をしたが断られたとも報告していた。

 このように実態は分らない状況だ。アンケートは、母数が少ないため、全体の傾向とは言い切れないものの参考になるデータだろう。

 主催者である新聞労連は、新聞社内で新聞奨学生の問題を提起しているが、新聞社が動く気配はないという。労働問題を取り上げ、不正を正すことも新聞社の使命だと思うが、新聞社はどのように考えているのだろうか。
 また、労働問題に詳しい評論家などへこの話を伝えても、記事の依頼がある新聞社を敵に回したくないためか、反応がないという。新聞社に都合の悪いことは闇のままとの状況だ。


■改善できるか 

 新聞奨学生の"あるある"でよく言われるのは、「新聞奨学生で大学を4年で卒業する奇跡」だ。新聞配達があるため、コンパや部活ができないだけでなく、授業時間すべてに出ることもできないため、4年で卒業できないケースが多く、卒業は奇跡と揶揄する例だ。

 ただでさえ、学業と新聞配達や集金などの業務の両立は難しい。厳しい環境だが、それでも必要としている学生は少なくない。筆者は新聞奨学生があったことで学校に通えた経験があり、制度に感謝し、新聞奨学生の学費を自ら稼いで通学するという志も応援したい。

 この志を持つ学生を応援するには、業務内容が事前の情報とは異なる「求人詐欺」と指摘されないように違法状況をなくし闇をなくすことだ。法改正が大きなきっかけになることを望みたい。

 そして、何よりも新聞奨学生という制度へ社会の関心が向くことが、最も改善への後押しになる。このことも期待したい。


 
※職業安定法改正(2017年3月31日成立。省令・指針は6月30。2018年1月1日施行)


【参考】
新聞奨学生 新聞が書かない新聞の闇
(同様のシンポジウムは、2014年にも開催されている。その様子を書いた記事)