ソウル市芦原(ノウォン)区視察で驚かされたことには、市民向け窓口のフロア面積が、が少なく、市民も少ないことだった。自治体のICT導入は何のためか考え直すことも必要だ。

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 芦原区は、先の記事でも書いたが人口約55万人で65歳以上の人口は約16%。住宅戸数は約20万戸でそのうちマンションが約80%となる都市型の街だ。その区政にデジタル広報課が設けられ、ICTによる電子政府推進事業がおこなわれている。
 この担当課は先のCCTVによる市内のモニターだけではなく、「国民とともに歩むガバナンス行政」を推進し、ICT活用の広報に加え、市民意見の聴取など住民参加も進める部署となっている。今回は、この部署からのヒアリングをおこなった。

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■窓口に人が少ない理由

 実際の事業だけでなく、役所についてまず驚かされたのは人口55万人の役所のわりに住民窓口のフロア面積が少ないことだ。午前中だったこともあるのか、訪れている住民の数も少ないように思えた。

 この理由を聞くと、芦原区だけでなく韓国全体として各種証明書の発行などシステムは連携されており、街角にあるATMのような証明書自動交付機でいつでも発行が可能で、役所に出向く必要がないからで、2000年ごろから普及しているという。
 そもそも、役所に行かないで済むようにすることが住民サービスではないのか? ともまでも言われるほどだった。

P1000782P1000770P1000790 この街角にある証明書自動交付機は、住民票や納税証明書の発行だけでなく、健康保険や年金、学校の卒業証明書、成績証明書など130種の証明書が発行できるという。さらに、転出、転入手続きも同時に行え、さらに驚くのが転出転入の手続きをすると運転免許証書の住所変更など関連した25種類の手続きも同時に行えるのだそうだ。

 この証明書自動交付機は、主要な駅や公的施設、人が集まるところに設置されている。写真は仁川(インチョン)空港に設置されていた機械で、実際の発行をしてみてもらったところ、画面のボタンを指でクリックしていくだけですぐに発行することができ、簡単であることが分かった。


■税金として考えてみる

 役所へいく理由の大きな理由に各種証明書の発行があるが、この発行が役所へ行かなくても済むのなら役所のフロア面積を広く取る必要はなくなる。役所にわざわざ行って証明書を発行するのか、それとも身近なとこで発行できるかのどちらが市民にとって良いのかを考えると、証明書自動交付機の普及させることがより市民サービス向上になるのではないだろうか。

 武蔵野市の場合、年間で約20万件の証明書が発行されている(平成28年度事務報告書より)。自動交付機を使わない場合、そこには人件費がかかってくることになり、税金が使われることになる。自動交付機での発行が増えれば、発行のためのフロア面積も他に使えることなる。税金の効率的な使い方として考えると、手作業での発行には疑問を持たざるを得ない。

 武蔵野市は市内に4箇所、証明書自動交付機を設置しているが、この発行件数は約5万6000件だ。もっと便利な場所に設置することで件数が増えれば、税金の効率的な使い方に結びつくことは容易に想像がつく。

 日本では、マイナンバーカードがあればコンビニでも発行が可能となったことで市役所に行かなくても発行ができるようにはなった。
 マイナンバーカードの普及が進んでいないため、どこまで増えるか分からないが、税金の使い方として証明書の発行を考えてみるべきではないか。市民にとって、何が便利なのか。さらに、税金の無駄遣いという定番フレーズで考えてみると、どちらがに無駄があるかでも考えるべきではないだろうか。そう思えてならない証明書自動交付機だった。

 もっとも個人情報を取り扱う行政に不信感があれば、普及しないのも理解できる。これは国政でも同じ課題で払拭が何よりも必要だ。

 また、冒頭に書いたように窓口が少ないのだが、来たとしても、ひとつの窓口で全ての手続きや相談ができるワンストップサービスも行われていると説明がされた。このことも今後考えてみたい。


■交付機の利用が少なくなった理由

 便利に思えた証明書自動交付機だが、現在では利用数は減っているという。

 その理由のひとつには、自宅のパソコンで印刷が可能となったことがある。偽造防止ができるために可能となったのだそうで、わざわざ外出する手間もないことを考えれば、自宅のほうが便利だから分かる理由だ。
 さらに、転入転出手続きも自宅のパソコンから可能となっているのが韓国のシステムだ。ここにはマイナンバーなど個人認証ができることが必要になるが、便利さを考えると、日本でもあってもいいと思えてしまう。

 もうひとつの大きな理由には、韓国で電子政府法が成立し、特別な場合を除き、行政機関は国民に証明書などを提出させてはならないと規定されたからだ。行政機関であれば、各種証明に必要なデータは担当職員がシステムで確認すればコトが足りるため国民に証明書を取得し提出させる意味はないと判断したことになる。
 
 行政の理屈ではなく、住民にとってのサービスとして考えれば、この考え方は参考になる。
 ICTは何のために使うのか? ICT機器を増やすためではなく、誰のために普及させるのかを改めて考えさせられた事例だった。


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※写真(上から)
・ソウル市芦原区役所一階の住民向けカウンター。他の階にはこのようなカウンターはない
・デジタル広報課よりヒアリング
・証明書自動交付機。どの証明が必要かを選ぶ
・個人認証は生体認証(指紋)で行う
・簡単に発行ができた。写真の方は今回の視察のコーディネートをしていただいたイーコーポレーシヨントツトゼーピー株式会社代表取締役社長の廉 宗淳(ヨム ジョンスン)さん。佐賀市などの自治体の情報戦略アドバイザーなどを務めている
・芦原区役所入り口で。今回の視察に参加した所属政党は関係のない超党派の自治体議員