年間50億円もの予算を市民による電子投票で決めているソウルの電子政府の実情について視察した。ICT活用の刺激的な先進事例だった。

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■政策提案を市民から受け、実現

 ソウル市の人口は約1000万人。韓国の人口の四分の一が集中している大都市だ。そのソウル市は、世界のスマートシティの首都になることを目指し、情報化政策を決めるICT政策官(CIO)という担当者を1999年に設け世界最高水準のICTインフラを構築することやオープンデータの提供だけでなく、市民との政策づくり、予算作成にも活用を進めている。

 そのひとつは、ソウル総合コールセンターだ。市民からの苦情や問い合わせ、回答を市のサイトに掲載するだけでなく、政策提案を受け付けている。

 説明によると、提案された内容は10日間収集し、公益性があると判断したら担当部署に送られ実現可能性を検討する。そして、政策がまとめられると市民から投票してもらい実行するかを決めている。2018年では766件が選定された実績があるという。事業市のサイトを見ると、投票は結果だけでなく途中の投票数も公開されていた。

 このような市民投票、いやネットを活用した市民参加による政策実現は、個別政策だけではなく予算にも反映されている。

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■市民参加の予算

 2012年から始まった制度で毎年500億ウォン(日本円で約50億円)の予算が割り当てられている。ソウル市の年間予算は、約27兆円で(2016年)で、義務的経費などを除いた投資的経費の新規事業費、年間約1500億ウォンの三分の一に相当する額で、2017年では600億ウォンに拡充している。

 投票はインターネットで行い、投票はソウル市民であれば誰でも可能。2017年は、11万6,943人が投票している。

 また、参加型市民予算制度があり、市議会に提出する予算案に市民意見書をつける制度も行われている。
 この制度は、参加型予算教育を受講した人から、年齢や性別、地域バランスを考慮した300人を電子抽選で選び参加型予算委員に任命して行うもの。委員は住民だけでなく在学、在勤者に加え国籍や年齢を問わないのだそうだ。
 さらに、予算だけでなく、予算の「浪費監視」も行い執行情況や成果についてのモニタリングを行っている。

 住民税の1%を予算に反映する制度は日本にはあるが、50億円規模で行う例は日本では聞いたことがない。ソウル市は一般の自治体と規模が違うとはいえ、日本でも参考になる制度ではないだろうか。
 

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■日本での課題

 予算の投票はパソコンかスマホで行うのだが、日本であればパソコンやスマホを使えないひとをどうするかの議論がでてきそうだが、ソウル市民の約9割はスマホを使っているそうなので、デジタルディバイト問題は大きな問題ではようだ。

 日本でも導入できそうな制度だが、投票や提案をするには、個人認証が必要となり、ネットに個人名は公表されないものの実名で行うシステムとなっている。先に「自治体のICTは誰のためにあるか」で書いたが、日本で言うマイナンバーカードによる認証、あるいは生体認証などの個人を特定できるシステムを導入することが前提となるため、ここに課題が出てきそうだ。


■市民が主役

 ソウルでは、予算だけでなく、市が実施する政策についてもネットで投票してもらう「ソウル市が聞きます」という制度も取り入れ、スマホのアプリで気軽に投票できるようにもしている。これらの市民参加は、コーナーアンケートも頻繁に行っているという。

 このような市民参加手法を取り入れているのは、「日常の中の民主主義」、「市民が主体となる市政」との政策の下に行われている。市民が主役とは良く聞くフレーズだが、予算額として実態が分かるのは興味深い。

 このことよりも、世界のスマートシティへ寄与することを目指しているためにこのようなシステムも開発を市が行っているとの説明が引っかかった。


■常識が違う

 なぜこのようなシステムを市が開発するのか政策を行っているのか? なぜ世界のスマートシティの首都にならなくてはならいのか? CCTVによるモニターシステムも同様だが、市がやらなくてもいいのではないかと思ってしまったからだ。

 そこには、国によって常識が違うことがあった。
 韓国ではこのようなシステムを開発するだけではなく諸外国へ売り込むことを想定しているからだ。開発予算を自治体が持ち出しで行っても、外国へ売れれば元が取れ税収増につながるとの発想だ。

 日本の場合は、国の補助金があるから、あるいは、民間企業と連携して経費を安くできたから導入するとの発想になり、自治体が収益を上げるとの発想はまずない。このことは、税収不足となる自治体として、今後、考えたい発想だ。

 市民投票による予算制度の成果は、市民参加の実現だけではなく、予算の健全化の効果もだしている。この制度を始めてから6兆9448億ウォンの債務を減らせたからだ。「あれもこれも」に予算をつけるのではなく、選択しての予算、それも市民に優先順をつけてもらえるからではないかと思えてならない。日本でも参考になるはずだ。


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■コロンブスの卵

 説明の後の質疑で、予算をつける市民参加型だけでなく、例えば公共施設を削減することは、なくす事業を選択することにも使えるのではないかと聞いてみた。税収が減る多くの日本の自治体では、このシステムを使って可能だと思ったからだ。

 この質問をしたところ、当初は意味が伝わらなかった。それは、ソウルが発展を続けている段階で、まちづくりなどどこに投資をすべきかを考えている時代であるため、縮小は考えていなかったためだ。なんどか説明をして理解してもらえたが、それは「コロンブスの卵の発想だ」との意見だった。いつか予算削減の時代になったら採用してもらいたい。日本では、その時代となっているからだ。

これらの政策の説明やソウル市の実情については、韓国語だけでなく英語や日本語など5ヶ国語に翻訳されたサイトも用意されている。全ての情報があるのではないが、このようなサイトも参考になる。


【参考】
ソウル市役所 公式サイト
ソウル市役所 市民参加
2018年度予算ソウル市民参加型予算制度の概要
(いずれも日本語)


写真(上から)
・ソウル市役所
ソウル市役所のサイトから投票中の政策(日本語ページ)
・スマホで予算の投票ができるシステムの説明
・ソウル市役所でヒアリングの様子