今やネットが主流。カジノに入れなくてもパチンコなど他のギャンブルで依存症になったら対応できるのか? カジノを含む総合リゾートをすでに開設している韓国を視察した結果、今の状況で進めて良いのか、大きな疑問を持った。

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 政府が成長戦略の目玉に考え、「カジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)整備推進法案」の審議が国会で行われている。法案が成立するか、現時点では分からないが、もし整備されると日本での影響とギャンブル依存症への対応がどのように行われているか? この2点を大きなテーマとして4月11日から13日にかけて、超党派の地方議員が所属するギャンブル依存症対策地方議員連盟で韓国を訪れ、韓国人が唯一利用できる「江原(カンウォン)ランド」と仁川(インチョン)にある外国人向けの総合リゾート型カジノ「パラダイスシティ」、「江原ランド」内にある「クラーク」(江原ランド中毒(依存症)管理センター」・KLACC)、政府が運営する「韓国賭博問題管理センター」を視察した。現地で確認したことを報告する。

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■炭鉱跡地にカジノ

「江原ランド」は、炭鉱跡地を開発しホテルやゴルフ場、スキー場を併設する総合リゾートとのカジノとして2000年10月にオープンした。ブラックジャック、バカラ、ルーレットなどのテーブルゲームが200台、やスロットマシン、ビデオゲームのマシンゲームが1360台設置されている。

 江原ランドの公式サイトでは、『華麗で壮大な室内インテリア、やさしく丁重なディーラーサービス、無料で提供される様々なドリンクサービス、カジノビュッフェとVIPラウンジを通じて、お客様にはリラックスした中で楽しく健全なゲーム文化を経験いただけます』と紹介されている。サイトには日本語のページがあるように、韓国人だけでなく、外国人も利用できるカジノだ。

 ただ、首都ソウルからは約200km。オリンピックのおかげで途中まで高速道路が整備されたが、片道約2時間半を車で突っ走って訪れるには遠いように思えた。半島の端から端へ移動する感覚で、地の利に疑問を覚えた場所だった。
 もっとも、リゾートなので滞在して楽しむのが目的と考えればいいのだろうが、人口の約半数がソウル近郊に集中している韓国の現状から、この先がどうなるのか、持続可能性はあるのか? と思ってしまった。

 それは、カジノを案内してもらったさい、このカジノに来るお客さんの約8割は初めての人だと聞いたからだ。今は、ものめずらしさで来ているが、リピーターがどの程度になるかで、今後の経営状況が見えてくるのだろう。

 私はラスベガスに何度か訪れたことがあり、後に書く「パラダイスシティ」とも対比すると、どうも質素なように思えてならない。カジノの目的が"儲ける"だけならいいのかも知れないが、リゾート、あるいはエンターテイメントとなると少々疑問を持ってしまったからだ。
 周辺ではプール施設だろうか、施設拡張と思われる工事が行われており、その隣には廃坑跡が残されていた。将来はどうなるか。結果はいずれやってくるのだろう。

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■ギャンブル依存症を想定しての事業

「江原ランド」の特長は、施設内に「クラーク」を設置していることだ。「江原ランド」を経営する株式会社江原ランドが運営し2001年9月に設立した。目的は、『射幸事業の逆事業となる賭博問題に積極的に対処して、社会的副作用を最小限にする』(クラークの日本語パンフレットより)としている。同社のミッションには、「公企業としての社会的責任遂行」と「利用者の保護と健全ゲーム文化の定着」があり、「カジノ運営でやむなく発生する賭博中毒問題積極的に対処」(パンフレット原文のまま)する、つまり、カジノには、副作用としてギャンブル依存症があることが前提としての設立だ。

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 クラークでおこなわれているのは、主に相談業務、ヒーリングラウンジと呼ばれる図書資料の提供だ。相談は毎日行われており、相談時間は9時から24時(祝日のみ18時まで)としている。職員体制は、同社の副社長がクラークセンター長を兼務し、臨床心理、健康心理、社会福祉、中毒の専門家など予防、治療部門に11名を配置。教育プログラムや広報担当に6名を配置する体制をとっている。

 さらに相談とはしているが、財務や法律の相談、家族も対象とした心理治療プログラムも提供だけでなく最大600万ウオン(約60万円)の病院治療費の支援。職業リハビリとして月に最大50万ウオン(約5万円)の職業教育費と月最大で50万ウオンの生活費を最大で6ヶ月支給する支援も行われている。

P1010102 利用者への対応は、上記の支援だけではなく、利用者が自らカジノへの出入りする日数を決めるプログラムもある。月に1日から14日までを選択し、6ヶ月から3年までの期間を定めて行うことやゲームに使う金額をあらかじめ決めておく自己統制型制度。また、カジノへの出入りを自己申告により禁止する出入り制限制度もある。

 このような支援は、基本的には自発的に相談に訪れた人が対象になるとしていた。クラークからギャンブル依存症の人に強制的に支援を行うことはできない。あくまでも任意。そのために、各種ポスターやパンフレットを置き、相談に訪れやすいようソフトな手法で受け入れているとしていた。

「江原ランド」のカジノへの入場者数は、年間約300万人。そのうち、約1万5000人がクラークを訪れるという。全ての人がギャンブル依存症で専門家の支援を必要としているのではないだろうが、このような手厚い体制が日本で考えられているのだろうか? カジノで稼ぐ(利用者でなく事業者)が目的になっていないか? ギャンブル依存症は一定数生まれるとの想定で進められているのか、現状の議論に疑問を持ってしまった。

「江原ランド」の周辺には、日本で言う質屋が多くあり、ここでお金を作りカジノの興じる人も少なくないという。行きは車で、帰りは文無しで、と比喩する言葉があり「カジノホームレス」が問題化P1010151しているとの話も聞く。今回の調査では確認できなかったが、このようなまちになっていいのかも問われる。 

(続く)

※写真は上から
・「江原ランド」のカジノの市口
・カジノの内部(公式サイトより)
・ギャンブル依存症対策地方議員連盟でクラークよりヒアリング
・ギャンブル依存症対応のパンフレット。マンガ版もあった
・「江原ランド」に近接するまちなみ

【参考】
HIGH1 RESORT (「江原ランド」の正式名)

カジノは時代遅れ!? ギャンブル依存症対策できずにIRを進めて良いのか? 韓国視察から(その2)