政府の検討会が認可外保育所を含めた保育料の無償化を提言した。保育料が軽減されることは歓迎するが、目的は何か? と疑ってしまう。

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houkoku 提言によると、認可外保育施設の利用料について、認可保育所の平均保育料と同額となる月3万7000円を上限に補助するという(3〜5歳児)。対象は、就労状況に応じて「保育が必要」と市区町村が認定した世帯で、認可保育園だけでなく、認可外保育所やベビーホテル、ベビーシッター、幼稚園での預かり保育なども対象になるという(右図参照)。

 詳細は今後に明らかになると思うが、まず懸念されるのは、今、最も問題となっている待機児対策になるのか? との点だ。

 保育園を増やすには、立地条件や周辺住民の対応などの課題もあるが、何よりも建設費や継続的に運営できるかの経済的な側面が大きい。
 新設や運営などへ自治体からの補助はあるが、急増している現状から自治体の負担も増え続けており、現状、もしくは、今以上に増えると自治体財政への懸念も広がってしまう。保育園は作ったから終わりでなく、毎年の運営費に対して自治体からは毎年補助を出し続けなくてはならないからだ。


■現実が分かっているか?

 下の図は、武蔵野市の保育園の園児一人当たりの運営費内訳だ(武蔵野市保育概要・平成28年度決算より)。保育園の運営費の約55%を自治体が負担していることが分かる。保育料認可保育園など市が関与する保育園の数字なので認可外などは別だが、それでも市からの補助がないとやっていけない保育園が多く、どこも経営が厳しいのが実態だ。だから保育士の給料が上がらない背景がある。

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 市の決算から保護者が払う保育料を見ると、保育園運営費の約11%であることが分かる。この部分を無償化したとすると保護者の負担は減ることは確かだが、保育園全体の運営費は変わらないため、保育園の運営経費、持続可能性はなんら変わらない。つまり、問題先送りになってしまうことが分かるだろう。これでは保育園を増やす、あるいは維持への追い風にはならないのだ。

 まして、今回は所得制限を設けるとしている。認可園などは所得が低いほど保育料は安く設定されるので、保育料を補助する意味が薄れてしまう。
 提言書には、『一定の上限を設けることが必要である。その上限額は、認可保育所の利用者との公平性の観点から、認可保育所における月額保育料の全国平均額とすべきである』と書かれていたが、そもそもは、認可園には国や自治体からの補助が手厚いため保育料が安くなる前提がある。認可園に入れないから保育料が高くなってしまう現実が分かっているのか? と思えてならない。

 認可園との公平性というのであれば、認可園に希望者が全員は入れたうえで、認可園と認可外をその保育内容から選択できる状況となって初めて考えるべき観点だ。このことでも現実が分かっているのか? と思えてしまう。
 

■そもそも国の補助額が少ない

 国が各種の事業へ補助を行う場合、事業を利用する人が事業費用の半分、残りの半分を国、都道府県、市町村が負担する割合にするのが一般的だ。だが、それでは保育料が上がってしまうため、自治体が独自に補助を出して保育料を下げているのが実態だ。

4 右図の赤枠は国が本来設定している保育料だ。
 所得が多い世帯の最高額で月額10万4000円(3歳児未満)か10万1000円(3歳児以上)としている。この額に対して実際には、最高額で7万9000円(3歳児未満)、3万9500円(3歳児以上)だ。他の所得階層でも国が設定している保育料の半額程度が実際の保育料となっている(右の枠・武蔵野市保育概要より)。

 保育料は自治体によって異なるが、この差額を自治体が自らの財源で補てんしているのが現状の保育料なのだ。

 そもそもで考えれば、国が保育園にかかる運営費の想定が低く、補助額が少ない問題が残されている。保育園への補助を手厚くしたいのであれば、この補助割合を上げればいいだけのことだ。保護者へ直接支給するとなると、事務作業が新たに発生してしまい、その費用をだれが持つのかとの問題も出てしまう。


■事務費用は?

 以前、消費税が上がったさいに臨時給付金が支給されたが、その支給にかかる事務費用は国全体で3000億円がかかっていた。一自治体当たり2億円弱となり、その額を、それこそ保育園に回したほうが良かったと思えてならない。
 今回の支給での事務費用の負担はどうするのだろうか?
 国が言い出した(自民党の公約だが)のだから国が全額負担すべきと思うが、もし自治体の半分持てとなればら、自治体負担がさらに増えることになる。

 まして、無償化とする財源が見えていない。国が全額負担するならまだしも、自治体に費用負担を求めるとなると自治体財政へ影響が出てしまい、保育園へ回す財源がどうなるのかの問題とならないか懸念される。
 無償化によって、保育園への影響が出てしまうとなれば、意味がなくなってしまいそうだ。


■急ぐべきは待機児対策

 今回の無償化の全体像が見えていないので判断はしにくいのだが、結局、消費税アップの批判をかわすこと。もしくは、お金を渡すことで政府の好感度を上げることが目的ではないか。

 本来は、その前に待機児問題や質と直結する保育士の待遇問題が急がれているのに、何のために無償化なのかと思えてならない。報告書の冒頭に基本的な考え方として『待機児童の解消に当 たっては、保育の実施主体である市区町村が待機児童の状況や潜在ニーズを踏まえながら保育の受け皿整備を行うことが重要であり、引き続き取り組みを加速していく必要がある』と書かれていた。税金は潤沢にはないと考えれば優先順位を考えるべきだろう。税金の使い方としておかしいと思えてならない。


■制度の矛盾

 一方で『無償化を契機として、質の向上を伴わない理由のない保育料の引上げが行われることにより、結果として国等の財政負担により事業者の利益を賄うことにならないようにすべきである』とも書かれている。ここは重要な指摘だ。

 保育料無償化され、例えば倍の額に保育料を値上げすれば、低所得の保護者負担は変わらず、保育園事業者の収入が増えることになるからだ。
 そのようになった場合、増えた分は何に使うのか? 注目が必要だ。保育士の待遇改善となれば理解する人は多いかもしれないが、それなら最初から国の補助額を上げておけばいいだけのこと。矛盾が起きてしまう。無償化の先に何が起きるか。ここも注目しておく必要がある。



【参考】
幼稚園、保育所、認定こども園以外の無償化措置の対象範囲等に関する検討会 報告書
武蔵野市 保育概要2017