日弁連(日本弁護士連合会)は、2018年12月21日、『放課後児童支援員の資格及び配置員数に関する「従うべき基準」の堅持を求める意見書』をまとめ、内閣総理大臣、厚生労働大臣、文部科学大臣、総務大臣宛てに提出した。

 
 内容は意見書文面をご覧いただきたいが、主な理由は下記だ。

・放課後児童支援員の処遇の改善を検討すべき
・保育や教育等の,子ども分野の規制緩和は,子どもの最善の利益の観点からの慎重な検討が求められる
・資格要件参酌化は、障害児の受け入れや児童虐待等への対応が困難となる不都合が生じ,子どもの健全育成に必要な育成支援が適切に提供されない事態が生じるおそれがある。
・たった1人の放課後児童支援員等によって,事故時や児童又は放課後児童支援員等の急病時,災害時等における子どもの安全の確保も担保できないおそれが強い。子どもの安全に関する基準は,安易に緩和されるべきものではない。


「従うべき基準」を堅持することを求めているのは、同じ思いを持つ。子どもの育つ環境で考えれば、最低限の基準は堅持すべきだ。安上がりが優先され、子どもの育つ環境の底が抜けていく気がしてならない。政治による歯止めがかけられるかが、来年は問われそうだ。





放課後児童支援員の資格及び配置員数に関する「従うべき基準」の堅持を求める意見書

 2018年(平成30年)12月21日日本弁護士連合会
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第1 意見の趣旨

 国は,「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準(平成26年4月30日厚生労働省令第63号)」のうち,市町村(特別区を含む。以下同じ。)が条例を定める際の放課後児童支援員の資格及びその配置員数に関する基準が,「従うべき基準」であることを堅持し,「参酌すべき基準」に変更するべきではない。


第2 意見の理由1

 放課後児童健全育成事業は,児童福祉法第6条の3第2項の規定に基づき,保護者が労働等により昼間家庭にいない小学校に就学している児童に対し,授業の終了後に,小学校の余裕教室や児童館等の児童厚生施設等を利用して適切な遊び及び生活の場を与えて,その健全な育成を図る事業である。

 かかる放課後児童健全育成事業は「放課後児童クラブ」と総称されるが,自治体や運営主体によりその名称は異なり,学童保育,学童保育クラブ等と呼ばれることも多い。

 放課後児童クラブは,小学校及び放課後子供教室とは異なり,「遊び」と「生活」を通して子どもの多様な発達を支援する独自の積極的意義を有しており,子どもの発達保障及び家庭養育の支援について,極めて重要な意義を有する。


2 放課後児童クラブのはじまりは父母自身の手による学童期児童の共同保育,いわゆる「学童保育」で,法制化される以前から共働き家庭等の増加に伴って全国各地で発展してきた。

 1997年(平成9年)に児童福祉法が改正され,放課後児童クラブは,第二種社会福祉事業(社会福祉法第2条第3項第2号)の「放課後児童健全育成事業」として法制化された。しかし,法制化されたとはいえ,放課後児童クラブの設備や運営に関する法律上の強制力のある基準はなく,法制化後もそれまでの地域の実情に応じた運営形態が色濃く残って存続することとなった。

 2012年(平成24年)8月に「子ども・子育て関連3法」が成立し,2015年度(平成27年度)から地域の子ども・子育てを支援するための「子ども・1子育て支援新制度」が始まることとなった。放課後児童クラブは,市町村子ども・子育て支援事業計画に従って行われる地域子ども・子育て支援事業として位置付けられ(子ども・子育て支援法第59条第5号,同法第61条第1項),市町村はその設備や運営について条例で基準を定めることとなった(児童福祉法第34条の8の2第1項)。

 国は,条例に関する基準となる法的拘束力のある基準として,放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準を策定し,2015年度から施行した。

 そして,設備運営基準の中でも,放課後児童支援員の資格及びその配置については,放課後児童支援員の有資格者を必ず配置すること及び開所時間を通じて常時2人以上の放課後児童支援員等(うち1人は放課後児童支援員の資格のない補助員でも可)を配置することが「従うべき基準」とされた(なお,放課後児童支援員の資格及びその配置以外の基準,例えば,児童1人当たりの専用区画の面積基準等は,全て「参酌すべき基準」にとどまっている。)。

 現在,放課後児童健全育成事業を実施する全ての自治体において,上記の「従うべき基準」を遵守して放課後児童クラブの運営がなされている。


3 そのような中,地方三団体からの地方分権提案(平成29年地方分権改革に関する提案募集 提案事項 厚生労働省 第1次回答 管理番号161)において基準の参酌化を求める提案がなされた。この提案は,放課後児童支援員等の資格や配置員数については,非常勤職員やパート・アルバイト等の職員が約7割を占め,保育士に比べ処遇が低い状況であって,このような状況にもかかわらず,国が一律の基準の義務付けを行ったことにより,全国的に人材不足が深刻化しているとしている。また,放課後児童クラブの需要が増大する中で,放課後児童クラブの受け皿を確保する必要があるところ,「従うべき基準」であることが人材確保の支障となっているとし,「従うべき基準」を参酌化すべきとするものである。

 しかしながら,人材不足の対策を安易に「従うべき基準」の参酌化に求めるべきではない。放課後児童支援員の処遇の改善なども含め,様々な対応を幅広く検討すべきである。保育や教育等の,子どもの健全な育成の保障に関する分野における規制緩和については,子どもの最善の利益の観点からの慎重な検討が求められる。

 厚生労働省も,2015年3月,放課後児童クラブが児童の権利に関する条約の理念に基づき,子どもの最善の利益を考慮して育成支援を推進することに努めなければならないことを踏まえて,放課後児童クラブの運営に関するより具体的な内容を定めた「放課後児童クラブ運営指針」(以下「運営指針」という。)を,厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知として発出した。運営指針では,放課後児童クラブにおける育成支援について,子ども自身への支援と同時に,子どもの生活の基盤である家庭での養育を支援することも必要であること等も規定された。

 地方の実情に応じた放課後児童クラブの運営,各自治体の裁量は,子どもの最善の利益を考慮し,子どもの健全育成のために必要な最低限の基準は満たした上で図られるべきものである。かかる観点からすれば,放課後児童支援員の有資格者の配置及び開所時間を通じて,2人以上の放課後児童支援員等の配置はまさに最低限の基準である。

 また,運営指針が放課後児童支援員に求める役割は,障害のある子どもの育成支援や児童虐待への対応,関係機関との連携等も含むものである。これらの放課後児童支援員の役割は,障害児の特性についての理解や児童虐待の徴候等の,児童期の子どもの育成支援に関する専門的知見がなければ,適切に行えるものではない。現在の放課後児童支援員認定資格研修では,「障害のある子どもの理解」「特に配慮を要する子どもの理解」といった科目も用意され,障害のある子どもの発達の特徴や児童虐待の防止等に関する法律,児童虐待の早期発見と早期対応の必要性等の内容についても,受講することが予定されている。資格要件が参酌化され,放課後児童支援員の有資格者がいない放課後児童クラブの運営が認められれば,障害児の受け入れや児童虐待等への対応が困難となるといった不都合が生じ,子どもの健全育成に必要な育成支援が適切に提供されない事態が生じるおそれがある。

 そして,たった1人の放課後児童支援員等によって,事故時や児童又は放課後児童支援員等の急病時,災害時等における子どもの安全の確保も担保できないおそれが強い。子どもの安全に関する基準は,安易に緩和されるべきものではない。


4 よって,当連合会は,国に対し,子どもの最善の利益への配慮の観点から,放課後児童健全育成事業に関し,放課後児童支援員の資格及び配置員数について,「参酌すべき基準」に変更せず,「従うべき基準」を堅持することを求める。

  以上

【参考】
また質低下? 学童クラブ指導員の資格要件さらに緩和の動き(2018年10月23日)
質低下だけでなく消費増税は何だった?  学童クラブ基準の撤廃方針(2018年11月20日)
学童クラブ 質は自治体が判断  厚労大臣の会見で(2018年11月23日)
学童保育補助員が問題行動 規制緩和でなく雇用改善が必要(2018年12月03日)
武蔵野市議会 学童保育職員の配置基準堅持を求める陳情を可決(2018年12月11日)
学童クラブの配置基準堅持の意見書 賛成多数で可決/武蔵野市議会(2018年12月19日)