原発事故後に捕れた福島県の魚。食べる、食べないと悩む人は少なくないと思う。現地の漁業関係者にストレートに聞くと、どちらが正しいとはいえない。矛盾を持っても良いと思っていると話されていた。苦悩がにじみ出ている。

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 話は、福島県漁業協同組合連合会会長の野崎哲さん。福島原発震災情報連絡センター主催による「福島いわきスタディツアー」の研修で伺った。

 同センターは、原発震災による放射能汚染と被曝を強制される人々の生存権を守ることを目的に、2011年10月26日に自治体議員を中心として設立され、原発事故子ども・被災者支援法の成立への働きかけや政府交渉などの活動を続けている。このツアーは、センターの総会をかねて毎年行われているもの。

 野崎さんによると、福島第一原発の事故後、最大で44種の魚の出荷制限が指示されたが、現在では、サクラマス、ムラソイ、ビノスガイ、カサゴ、コモンカスベの5種まで減少している。

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■安全性は確認されているが

 沖合漁業は、原発事故の影響を受けなかった魚を対象として通常操業を行っているが、水揚げは激減している。
 沿岸漁業では、操業を自粛しているが規模を限定し、操業と販売を試験的に行う「試験操業」を平成24年から開始している。安全、安心のために科学的データに基づき魚種を選定し、県によるモニタリングや市場に検査機器を設置し自主検査を実施してきている。福島県漁連では自主基準を50Bq(ベクレル)/kgに設定し、25Bq/kgを超えた場合は、県の検査機器で精密検査を行うことにしているが、これまでに25Bq/kgを超えた数例しかない(※)。
 安全が確認された業種を追加し平成31年1月現在で約180種が水揚げ対象となっている。
 試験操業による水揚げ量は着実に増加しているが水揚げ量は震災前の約15%(平成30年)と低い状況だ。

 低い理由には、産地の人員不足や仲買業者数が少ないだけでなく流通コストがかかることから補助金を活用し大手スーパーなどで販売することやイベントで販路を拡大、当初は県内のみだったが東京など39都道府県へ販路は拡大している。

 しかし、福島県の魚を買ってくれない業者もいるとされていた。



資料



■事故がなければ

 科学的データにより安全性は確保されているが、原発事故での風評被害が大きいことから伸び悩んでいるということだろう。
 福島を支援したいが、でも原発事故による不安は捨てきれない。食べていいものかと悩む人は少なくないはずだ。

 そこで冒頭の質問となった。

 そして、自分たちでも矛盾を持って漁業を復興しようとしている。事故が起きる前は、原発とも上手くやっていたのに、と声を落として話され、事故は自分たちの限界を認識し直すべきだ。漁場がある限りここで暮らしたい。福島の廃炉と漁業の再構築は同時に進めるべきこと。完全な廃炉が完了することが漁業の再構築になる、と話を結んだ。

 原発事故により失ったことは多い。東京では関心が低くなっているように思えてならないが、現地で話を伺えば伺うほど、事故は終わっていないことを痛感する。


(続く)


平成24年4月1日から水産物の放射性セシウムの基準値は100Bq/kg。水産庁HPより

※画像は視察資料より

※写真上 福島県浪江町の請戸(うけど)漁港の出初め式(2018年1月1日撮影)
 写真下 研修での野崎さん