武蔵野市内のホテルに新型コロナウイルス感染症の軽症者等を受け入れる宿泊療養施設が開設されることが公表された。施設は必要だが、この公表に至るまでの過程には課題が残されている。

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■開設直前の公表

 東京都新型コロナウイルス感染症対策本部は、7月14日14時に軽症者等を受け入れる宿泊療養施設を新たに1施設開設することを報道発表(第2249報・※1))し、その施設が吉祥寺東急REIホテルであることも公表した。開設日は7月15日という直前での公表だった。

 この14日に、ホテル周辺の商業関係者、住民、ホテルに入るテナント関係者、武蔵野市議会議員の希望者などを対象として、人数を限定しての施設内覧会が行われた。川名もそのうちの一人として内部の様子を確認してきた。
 ただし、施設内の撮影は禁止されているため様子を視覚的に伝えることができないのはご容赦いただきたい。
 写真下は同ホテルの一階エレベーターの囲いで、宿泊療養者が外出することやホテルの一般の人と接触をしないように閉鎖している様子だ。
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 内部は、宿泊療養者と視線するスタッフ、一般の人との導線が交わらないようにゾーニングされていた。また、宿泊療養者が規則を破り外出することへの対応策もとられていた。
 宿泊療養者とテナントの空調の経路が同じだと空気感染の心配が出てしまうが、配管経路は違っているとの説明やテナントと宿泊エリアとがつながる階段、宿泊療養者が入室するさいの導線とテナント利用者の導線が交わる部分についても改善したとの説明もあった。
 
 気になったのは、ゾーニングを分けている壁(石膏ボード)の上部の空間が空いていること。消防法の関係で密閉はできないためとの説明だったが、どうなのだろうと思えてならない。
 とはいえ、基本的には、新型コロナウイルスが感染するのは飛沫感染とされている。密閉された空間での空気感染の可能性が示唆されている(※2)程度のため、判断はつかない。何よりも保健所を含めた専門家による対応策を信じるしかないのだろう。


■ごみは?

 ホテルからの廃棄物は、密閉されたうえで都が委託した業者が収集し、武蔵野市のクリーンセンターで焼却される。
この手法は安全なのかについて、複数の議員から疑問が出されていた。担当者に確認しないと分からないことだが、厚生労働省から自治体向け事務文書(※3)によると下記の対応が求められている(要約)。

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〇宿泊療養を行う宿泊施設は、医師等が医業等を行う場所ではないことから、廃棄物の処理及び清掃に関する法律に定められた感染性廃棄物が排出される施設には該当しないため、同法上、感染性廃棄物としての処理が義務付けられるわけではないが、その処理に際しては、当該施設内やその廃棄物の処理を委託される廃棄物処理業者の従業員において感染防止対策が適切に講じられる必要がある。

〇具体的には、環境省が作成している「廃棄物処理における新型インフルエンザ対策ガイドライン」(平成21年3月)を参照しつつ、それらで感染防止策として挙げられている対応をとる
〇ごみに直接触れないこと、ごみ袋はごみがいっぱいになる前にしっかり縛って封をして排出すること、ごみを捨てた後は石けん等を使って手を洗うことなどに注意。また、ごみが袋の外面に触れた場合や、袋を縛った際に隙間がある場合や袋に破れがある場合など密閉性をより高める必要がある場合は、二重にごみ袋に入れるなどの感染防止策に留意する。

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 環境省の「廃棄物処理における新型インフルエンザ対策Q&A」(※4)を確認したが、密封する以外の対策は求められていなかった。クリーンセンターでは持ち込まれるとすぐに焼却するとしている。


 もう一つは、今回だけではないが、宿泊療養者を絶対に外出させないことに関心が高いことだ。外出した事例があることを心配しての懸念だが、療養施設ではなく、それこそ重大な犯罪をした人の刑務所を作れというような雰囲気があることも気になることだ。

 外出してはならないのは当然のことだが、誰にもこの宿泊施設を使う可能があり逆の立場になることもある。入院病床が足りない状況で必要なのは誰でも分かること。人権もあることは忘れてはならない。


■リスクコミュニケーション

 今回のことについて、非公開を求められている情報があることから、憶測や断片的な情報から不安がより広がったように思えている。さらにいえば、あえて不安を広げている情報が発信されているとも思えている。

 同ホテル内には認証保育所があり、保護者はかなり困惑されていたことから保育園の保護者に直接会い情報を整理してみたところ、市と保護者への情報、さらに都の説明とに差異があったことが分かった。
 また、開設の権限は市にはなく、東京都が実施者であるのにもかかわらず市へ批判が起きていたこともあったからだ。

 今回の件で改めて思うのは、保育園に保護者会がないことから保護者の横の連携、情報共有が取りにくいことや自治体との意思疎通が難しいことがあったことだ。保護者会の重要性を再認識した。

 このことだけはなく、たんなる説明だけをして終わりではなく、正しい情報のもとに保護者、行政などの関係者による最善策を協議できる場、リスクコミュニケーションの重要性だ。

 これは最近注目されている手法で、自治体議会こそ、その中心となるべきとの指摘もあるもので「ある特定のリスクについての情報を、利害関係をもつ人の間で共有し、相互に意思の疎通を図ること」だ(日本大百科全書(ニッポニカ)の解説)。

 厚生労働省は、主に食品の安全性についてリスクコミュニケーションの必要性を示し、サイト(※5)には「リスク分析の全過程において、リスク評価者、リスク管理者、消費者、事業者、研究者、その他の関係者の間で、情報および意見を相互に交換することです。
 リスク評価の結果およびリスク管理の決定事項の説明を含みますとリスクコミュニケーションの定義について書かれているように今回の件も同じと言える。

 厚労省の「リスクコミュニケーションについて」の説明資料(※6)には、

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 日本語にはなかった概念がリスク 「Risk」≠「危険」で必ず起きるかどうかはわからないこと。
 有害性やおこる確率がどの程度ならば受け入れ可能で、そのレベルまでリスクを下げるためにどうすれば良いかについて関係者の理解を深め、共に考えようというもの。
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1
2

 と解説されている(図参照)


■説明で終わりではなく、協議できる場の重要性

 今回の件で考えれば、保護者からの意見、疑問に対して科学的根拠と何をどこまでできるのか、リスクはどこまであるかを協議して、どこまでリスクを下げることができるかを議論すべきだったと思えてならない。
 
 ここで大切なのは、絶対に安全、必ずできるということは新型コロナウイルスの場合にはなく、可能性をどう下げていくかの議論が必要なことだ。ゼロ%vs100、賛成vs反対ではなく、その間のリスクを下げるための議論だ。

 誰かが決めたから、誰から要請があったことだから、反対の発言者が少ない、説明会に来たら了承とみなすといった、非科学的なことで一方的には決めてはならないからだ。
 そのために必要なのは確かな情報だ。宿泊療養施設の必要性は誰しも認めると思うが、なぜ保育園のある施設に開設するのか、他にはなかったかという最も重要な情報が開設の権限を持つ都からは示されていない。

 当然ながら発言者の意見がすべて実現できることではない。必要性を理解できれば、どうリスクを下げられるか議論を進めることができ、議論を進め、少しでも改善する。できないにしても理由を知ることで納得へとつながるようにすべきだろう。

 今回だけではなく、今後起きるべき課題についてもリスクコミュニケーションは必要だ。東京都、武蔵野市など自治体だけの範囲ではなく,広範囲ですべきと痛感している。



※1
東京都  東京都新型コロナウイルス感染症対策本部報  (第2249報)軽症者等を受け入れる宿泊療養施設を新たに1施設開設します

※2
FORBES JAPAN 新型コロナ空気感染の可能性、WHOが認める ウェブサイトに記載(2021/05/15)

※3
厚生労働省事務連絡(令和2年8月7日)「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養及び自宅療養の対象並びに自治体における対応に向けた準備について」に関するQ&Aについて(その8)

※4
廃棄物処理における新型コロナウイルス感染症対策に関するQ&A(廃棄物処理を行う方向け)/廃棄物処理を行う皆さま向け(令和3年6月3日時点)/Q5-15 新型コロナウイルス感染症の軽症者等が宿泊療養している施設から排出される廃棄物はどのように処理すればよいですか /軽症者等が宿泊療養している施設から排出される廃棄物の取扱いについ
て、留意すべきことはあるか。/ 軽症者等の宿泊施設や自宅での療養に関するQ&A より

※5
厚生労働省 リスクコミュニケーションとは
※6 リスクコミュニケーションについて 説明資料


【参考】
FRYDAY DIGITAL 吉祥寺でコロナ療養施設の中に保育園が!? なぜそんなことに?(6/24)
デイリー 杉村太蔵「サンジャポ」VTRにあえて指摘「コロナ差別を助長しなかったか」(7/4)