子どもの虐待死の約半数はゼロ歳。その背景には望まない妊娠がありサポートができていない政治の問題がある。

■半数近くが0歳児
子どもの虐待死については、厚生労働省社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会が毎年公表している。最新は平成30年4月1日から平成31年3月31日の平成30年度を検証した第16次報告が令和2年9月に公表されている。
この報告では、厚生労働省が各都道府県を通じて把握した64例を検証している。そのうち死亡したのは73人で、心中による虐待死は、13例/19人(15次報告は8例/13人)。心中以外の虐待死は、51例/54人(同50例/52人)となっている。
心中による虐待死(13例/19人)の内訳から死亡した子どもの年齢を見ると0歳が6人(31.6%)と最も多い。6歳、9歳、10歳が各2例、2人あったことが分かる。
心中以外の虐待死(51例/54人)の内訳も、0歳児が22例/22人と最も多い。さらに、0歳児の詳細な月齢を見ると、日齢(生後24時間未満)が7人(31.8%)となっていた。
年度によって割合が多少異なるので、第5次報告から第16次報告までの累計で子どもの死亡時の年齢別を見ると、心中以外では0歳児が47.4%と約半数という圧倒的に多いことに驚く。それも、生まれた日の0日、生まれ月の0か月児が圧倒的に多いことが分かる(図参照/精神疾患なしの場合)。 心中による虐待死事例では、3歳未満は7人(36.9%)と大きく異なっている。
虐待死といわれると、子育て中の精神的な不安定さからと思えてしまうが、そのことだけではないことが分かる。特に0歳児が多いことは大きな問題だ。
■母の年齢は「35歳〜39歳」が多い
16次報告から子どもの死亡時の実父母の年齢を見ると、心中による虐待死事例では、実母の年齢は「35歳〜39歳」が5例(同 41.7%)で、次は「40歳以上」が4例(同36.4%)と多かった。
心中以外の虐待死事例では、実母の年齢は「20歳〜24歳」「30歳〜34歳」がそれぞれ 11 例(22.0%)と最も多く、次いで「35歳〜39歳」が10例(同 20.0%)だった。
虐待死させてしまうのは母だけでなく父もあるので、父母を合わせた年齢は下記となる。


■0か月出産場所は自宅が最多
0日・0か月児事例で実母が子どもを出産した場所を第1次報告から第16次報告までの累計でみると、「自宅」での出産が 112人(67.9%)と圧倒的に多いことが分かる。特に、0日児事例では、医療機関での出産はなかったことは心にとめておきたい。
これらのデータから、同委員会は、下記を提言している。
・10代の母が望まない妊娠となり、誰にも相談できなかったことや経済的な理由、他人に妊娠を知られたくないため一人で出産し遺棄にとなった事例が少なくない。このことは、母の大きな健康リスクに直面する。
・妊娠した母の変化に早期に気づき、支援につなげる機会があれば、その結果は違ったものとなった可能性もある。
・自治体には、自ら発信することが苦手だったり、SOSを発信する手立てが思いつかなかったりする当事者に対し、支援が届けられる工夫、例えば、SNS等を活用した相談体制の整備や、アウトリーチ型の支援等の展開に努めていただきたい。
・妊娠・出産やそれに関連する経済的支援等の情報を発信する際には、若年者や、日本語が堪能でない者などにも届きやすいよう、対象者が情報に触れやすい機会の活用や、多言語での情報発信など、有効なアプローチを検討することが必要である。
また、出産前から支援が必要であるにもかかわらず、特定妊婦として要保護児童対策地域協議会の対象とされていなかった事例や、子どもの出生前であることから、児童相談所が特定妊婦の支援に積極的に関与しなかった事例もあったと指摘している。
■支援が届かない特定妊婦
特定妊婦とは、児童福祉法で定められているもので、経済的な理由や精神疾患がある場合、望まない妊娠をした場合など出産前に特に支援をする妊婦のことだ(児童福祉法第6条3第5項)。
ところが、定義があったとしても、実際の支援が届いていない問題もある。
この問題は、議員有志の勉強会で、「思いがけない妊娠」による妊娠葛藤相談やサポートなどを行っているNPO、ピッコラーレの皆さんから伺ったもので、児童福祉法を根拠とはしているが、実際に売春防止法やDV防止法を根拠法とする制度で対応していることが多いからだという。
多くの自治体では、妊娠から出産、子育て期をとおした「切れ目のない支援」をうたう例は多いが、母子手帳の交付など届け出をしないと支援の対象にはならない。
そのため望まない妊娠をしてしまい、経済的に余裕がない場合には、育てることができないため自治体に届け出を出すことをせず、支援が届かないのが現実だそうだ。
そのため、妊娠した場合のすべての困ったことへの対応について、匿名で相談でき、秘密が守られ、支援へ結びつける活動をしているのがピッコラーレだ。誰も相談できることができず無力感になる。社会への不信も重なり子どもの虐待死とつながると考えて、妊娠葛藤相談をSNSや直接会うことで行ってきている。
そして、相談から医師や看護師、社会福祉士、自立支援組織、シングルマザー支援の大家さんなど専門家や支援組織へとつなげることで、希望が持てるようにしていくと話されていた。
■命が失われる前の政策
以前、熊本の「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」を視察させていただいたが、育てられない子どもの命を救いたいとの思いから始まったものだった。
同じように、妊娠葛藤相談は失ってしまう子どもの命を守るための相談事業といえる。上記のデータを見れば、0歳児でなくなることを防ぐ重要な事業であり、拡充が求められている。
しかし、現在、都道府県や自治体が設置する妊娠葛藤相談窓口は全国で45カ所。民間団体が独自に行っている例は11カ所しかない。
政府はこの相談事業を支援するために令和2年度から「若年妊婦等支援事業」を都道府県、政令指定都市、中核市を対象に始めた。概要は相談事業の補助単価が月額約36万円で国が半額を出す仕組み。だが、実際には自治体が半額を負担しなくてはならないことや、もっと費用がかかることもあり広がりは見えていないという。
また、国の制度も若年妊婦としているように望まない妊娠と聞くと10代を想像しがちだが、上記のデータのように年齢はじつは幅広い。精神疾患も背景にはあるが、そのことは別の機会として、先入観もなくしていくことも必要だろう。
困っている人へ政治がどのように手を差し伸べることができるか。特に、0歳で命をなくしてしまう、それも実の親の手によって亡くなる痛ましい事例をいかになくしていくかを政治が考えなくてはならない。
■こども庁、子ども家庭庁はいいけど
政府は「こども庁」創設、立憲民主党は「子ども家庭庁」の設置を次期衆議院選挙の目玉政策にするという。子どもに向けた政策は良い考えだが、今回のように、社会から気づかれない悩みを持つ人や出産0日で命をなくしてしまう子どもへも目を向けた政策も含まれているか、今一度、内容の精査が必要だろう。生まれてきた命を、社会として育てられるかも問われている。
そのことだけでなく、現在の事業が、機能しているかの検証も必要だ。
今回の事例は、本来であれは児童相談所などに相談して公の支援へと結びつけるべきだが、児童相談所の関与の有無を累計データから見ると、心中の場合で児童相談所の関与ありが15.8%。心中以外の虐待死の場合では、24.4%と少ないことが分かる。
児童相談所以外に市区町村の虐待対応担当部署などの部署がかかわった例もあるが数としては少なく、権限があるのは児童相談所となるので、この少ない数値は大きな課題だろう。
児童相談所の多忙化が指摘され続けているが、職員数を増やすなどの対応をしていないことも今回の痛ましい事例の背景のひとつだろう。
そもそもで考えれば、保険が適用されないので出産費用がかかりすぎてしまうことも、生まれてすぐに亡くなってしまう痛ましい事例の原因のひとつに思えてならない。
目先の人気取り政策で子ども政策は終わらせてはならない。今回の事例のようなところへも目配りできているかが問われている。できているか、できていないかの判断は、近いうちの有権者が判断するしかない。
【参考】
厚生労働省 社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第16次報告)
(データは上記から)
NPO ピッコラーレ
赤ちゃんポスト (2010年05月25日)
※写真はイメージ
子どもの虐待死については、厚生労働省社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会が毎年公表している。最新は平成30年4月1日から平成31年3月31日の平成30年度を検証した第16次報告が令和2年9月に公表されている。
この報告では、厚生労働省が各都道府県を通じて把握した64例を検証している。そのうち死亡したのは73人で、心中による虐待死は、13例/19人(15次報告は8例/13人)。心中以外の虐待死は、51例/54人(同50例/52人)となっている。
心中による虐待死(13例/19人)の内訳から死亡した子どもの年齢を見ると0歳が6人(31.6%)と最も多い。6歳、9歳、10歳が各2例、2人あったことが分かる。
心中以外の虐待死(51例/54人)の内訳も、0歳児が22例/22人と最も多い。さらに、0歳児の詳細な月齢を見ると、日齢(生後24時間未満)が7人(31.8%)となっていた。
年度によって割合が多少異なるので、第5次報告から第16次報告までの累計で子どもの死亡時の年齢別を見ると、心中以外では0歳児が47.4%と約半数という圧倒的に多いことに驚く。それも、生まれた日の0日、生まれ月の0か月児が圧倒的に多いことが分かる(図参照/精神疾患なしの場合)。 心中による虐待死事例では、3歳未満は7人(36.9%)と大きく異なっている。
虐待死といわれると、子育て中の精神的な不安定さからと思えてしまうが、そのことだけではないことが分かる。特に0歳児が多いことは大きな問題だ。
■母の年齢は「35歳〜39歳」が多い
16次報告から子どもの死亡時の実父母の年齢を見ると、心中による虐待死事例では、実母の年齢は「35歳〜39歳」が5例(同 41.7%)で、次は「40歳以上」が4例(同36.4%)と多かった。
心中以外の虐待死事例では、実母の年齢は「20歳〜24歳」「30歳〜34歳」がそれぞれ 11 例(22.0%)と最も多く、次いで「35歳〜39歳」が10例(同 20.0%)だった。
虐待死させてしまうのは母だけでなく父もあるので、父母を合わせた年齢は下記となる。


■0か月出産場所は自宅が最多
0日・0か月児事例で実母が子どもを出産した場所を第1次報告から第16次報告までの累計でみると、「自宅」での出産が 112人(67.9%)と圧倒的に多いことが分かる。特に、0日児事例では、医療機関での出産はなかったことは心にとめておきたい。
これらのデータから、同委員会は、下記を提言している。
・10代の母が望まない妊娠となり、誰にも相談できなかったことや経済的な理由、他人に妊娠を知られたくないため一人で出産し遺棄にとなった事例が少なくない。このことは、母の大きな健康リスクに直面する。
・妊娠した母の変化に早期に気づき、支援につなげる機会があれば、その結果は違ったものとなった可能性もある。
・自治体には、自ら発信することが苦手だったり、SOSを発信する手立てが思いつかなかったりする当事者に対し、支援が届けられる工夫、例えば、SNS等を活用した相談体制の整備や、アウトリーチ型の支援等の展開に努めていただきたい。
・妊娠・出産やそれに関連する経済的支援等の情報を発信する際には、若年者や、日本語が堪能でない者などにも届きやすいよう、対象者が情報に触れやすい機会の活用や、多言語での情報発信など、有効なアプローチを検討することが必要である。
また、出産前から支援が必要であるにもかかわらず、特定妊婦として要保護児童対策地域協議会の対象とされていなかった事例や、子どもの出生前であることから、児童相談所が特定妊婦の支援に積極的に関与しなかった事例もあったと指摘している。
■支援が届かない特定妊婦
特定妊婦とは、児童福祉法で定められているもので、経済的な理由や精神疾患がある場合、望まない妊娠をした場合など出産前に特に支援をする妊婦のことだ(児童福祉法第6条3第5項)。
ところが、定義があったとしても、実際の支援が届いていない問題もある。
この問題は、議員有志の勉強会で、「思いがけない妊娠」による妊娠葛藤相談やサポートなどを行っているNPO、ピッコラーレの皆さんから伺ったもので、児童福祉法を根拠とはしているが、実際に売春防止法やDV防止法を根拠法とする制度で対応していることが多いからだという。
多くの自治体では、妊娠から出産、子育て期をとおした「切れ目のない支援」をうたう例は多いが、母子手帳の交付など届け出をしないと支援の対象にはならない。
そのため望まない妊娠をしてしまい、経済的に余裕がない場合には、育てることができないため自治体に届け出を出すことをせず、支援が届かないのが現実だそうだ。
そのため、妊娠した場合のすべての困ったことへの対応について、匿名で相談でき、秘密が守られ、支援へ結びつける活動をしているのがピッコラーレだ。誰も相談できることができず無力感になる。社会への不信も重なり子どもの虐待死とつながると考えて、妊娠葛藤相談をSNSや直接会うことで行ってきている。
そして、相談から医師や看護師、社会福祉士、自立支援組織、シングルマザー支援の大家さんなど専門家や支援組織へとつなげることで、希望が持てるようにしていくと話されていた。
■命が失われる前の政策
以前、熊本の「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」を視察させていただいたが、育てられない子どもの命を救いたいとの思いから始まったものだった。
同じように、妊娠葛藤相談は失ってしまう子どもの命を守るための相談事業といえる。上記のデータを見れば、0歳児でなくなることを防ぐ重要な事業であり、拡充が求められている。
しかし、現在、都道府県や自治体が設置する妊娠葛藤相談窓口は全国で45カ所。民間団体が独自に行っている例は11カ所しかない。
政府はこの相談事業を支援するために令和2年度から「若年妊婦等支援事業」を都道府県、政令指定都市、中核市を対象に始めた。概要は相談事業の補助単価が月額約36万円で国が半額を出す仕組み。だが、実際には自治体が半額を負担しなくてはならないことや、もっと費用がかかることもあり広がりは見えていないという。
また、国の制度も若年妊婦としているように望まない妊娠と聞くと10代を想像しがちだが、上記のデータのように年齢はじつは幅広い。精神疾患も背景にはあるが、そのことは別の機会として、先入観もなくしていくことも必要だろう。
困っている人へ政治がどのように手を差し伸べることができるか。特に、0歳で命をなくしてしまう、それも実の親の手によって亡くなる痛ましい事例をいかになくしていくかを政治が考えなくてはならない。
■こども庁、子ども家庭庁はいいけど
政府は「こども庁」創設、立憲民主党は「子ども家庭庁」の設置を次期衆議院選挙の目玉政策にするという。子どもに向けた政策は良い考えだが、今回のように、社会から気づかれない悩みを持つ人や出産0日で命をなくしてしまう子どもへも目を向けた政策も含まれているか、今一度、内容の精査が必要だろう。生まれてきた命を、社会として育てられるかも問われている。
そのことだけでなく、現在の事業が、機能しているかの検証も必要だ。
今回の事例は、本来であれは児童相談所などに相談して公の支援へと結びつけるべきだが、児童相談所の関与の有無を累計データから見ると、心中の場合で児童相談所の関与ありが15.8%。心中以外の虐待死の場合では、24.4%と少ないことが分かる。
児童相談所以外に市区町村の虐待対応担当部署などの部署がかかわった例もあるが数としては少なく、権限があるのは児童相談所となるので、この少ない数値は大きな課題だろう。
児童相談所の多忙化が指摘され続けているが、職員数を増やすなどの対応をしていないことも今回の痛ましい事例の背景のひとつだろう。
そもそもで考えれば、保険が適用されないので出産費用がかかりすぎてしまうことも、生まれてすぐに亡くなってしまう痛ましい事例の原因のひとつに思えてならない。
目先の人気取り政策で子ども政策は終わらせてはならない。今回の事例のようなところへも目配りできているかが問われている。できているか、できていないかの判断は、近いうちの有権者が判断するしかない。
【参考】
厚生労働省 社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第16次報告)
(データは上記から)
NPO ピッコラーレ
赤ちゃんポスト (2010年05月25日)
※写真はイメージ

