大災害時に国が自治体を指示できる法律改正案が国会で審議される。国と地方は対応であったことから国の下請け機関への逆戻りの可能性がでてきた。

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■大災害で国が自治体へ指示

 政府は、令和6年3月1日、地方自治法の一部を改正する法律案を閣議決定し、法案を国会に提出した。
 法案は、大規模な災害、感染症のまん延など国民の安全に重大な影響を及ぼす事態での特例として、国が自治体へ、必要な指示をすることができとするもの。

 改正が必要な理由として、現行法制ではカバーできない事態に対処するとしていますが、どのような事態を想定しているのか、これまでに具体的に示されていない。現行制度では、感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)等の個別法に規定があれば、国による指示権の行使が可能となっており、改正の必要性に疑問が残されている。

 このことよりも、平成12年(2000年)、いわゆる地方分権一括法の施行により、国と地方は上下・主従関係ではなく対等・協力関係となったいる。
 この改正を根拠に武蔵野市議会を含む多くの地方議会では議会基本条例を制定し、地方のことは地方で決めるために議会改革や活性化を進めてきた。この状況での改正案は、地方分権一括法の趣旨に反し、国への権限の再集権化、地方分権・地方自治の後退につながるおそれが出てきている。

 特に閣議決定により決定ができるため国会審議が不要としているため総理大臣の指揮下になることになる。指示ができます。


■立法事実がない

 さらに、具体的にどのような事態を想定しているのか、明らかになっていない。
 昨年11月7日の衆議院総務委員会において総務省は、「現在想定されていない事態を具体的に示すのはなかなか困難である」と答弁しており、自ら根拠がないことを認めているほどだ。感染症についても例えば、新型インフルエンザ等対策特別措置法や感染症法に基づく対応は法定受託事務であり、現行法で国は「是正の指示」ができたにもかかわらず、発動しなかった。つまり、実際にできる場面でも活用していないのだから、新たな制度を作る必要性がない、立法事実は見出せないのがこの改正案といえる。

 また、・現在の地方自治法では、個別法で自治事務に対する指示権を認めることとする場合の要件は、「国民の生命、身体又は財産の保護のために緊急に自治事務の的確な処理を確保する必要がある場合等特に必要と認められる場合」とされているにもかかわらず、「緊急に」との用語を使用せず、指示権を認める要件を緩和することになる。拡大解釈になる可能性がある、


■国の指示が正しいとは限らない

 大規模災害及びコロナ禍を例として取り上げて、地方と国の見解が分かれたときに国が指示権を出すことを想定しているが、必ずしも国の見解が正しいとは限らない。

 例えば、熊本地震の際、体育館の中に入らず車中生活を送っている人の窮状がマスコミで取り上げられたことを受け、当時の防災担当大臣が避難者を体育館に入れるように伝えたのに対して、現場の実態に基づき危険性を十分に認識していた熊本県知事がこれを拒んだ事例がある。この時は、その数日後に震度7の本震が起き、避難所になっていた体育館の屋根が落下してしまっている。国の指示に従っていたらどうなっていたのだろうか?

 現場で災害の現実の問題に直面し、最も実状を知るのは自治体だ。国が現場を知るのは難しく、さらに大災害となれば複数の自治体の対応が必要になり、一自治体に指示を出すことができるのかとの根本的問題もある。現場をしらない国の指示がかえって混乱を広げる懸念も強い。


■全国知事会も懸念

 今回の改正は、地方制度調査会の報告をもとにしているとされているが、地方からの委員の意見を聞いたのは一回のみ。しかも中間のまとめを出す前だったとの話を立憲民主党の研修会で、地方制度調査会の委員でもある岸まきこ参議院議員から裏事情を聞いている。最初から国の指示を出したとの考えから作られた意図を感じえないのだ、

 これらの批判もあってか改正案では、指示を出す前に国が自治体へ現状の報告書を提出させてから指示を出すとの内容になっている。いきなり出さないのはいいとしても、災害対応でパニック状態にもなるだろう自治体に報告書を出させるという神経もおかしなことだ。現場を知りたいなら国か人を派遣し、自治体の対応に必要な機材や人材、お金を早急に届けるのは国の役目ではないだろうか。

 このこともあり、全国知事会は、国と地方の対等な関係が損なわれることのないよう、その制度化及び運用に当たっては、十分な配慮が必要であると意見書を提出している。
 しかし、改正案はこのこと以外のことも含まれているため国会での審議が深まるか先行きは見通せない。

 国と地方との関係を対等から上下へ、昔のように戻してしまう可能性があるのがこの改正案だ。他人事ではなく、自分事として注目をしてほしい。

 武蔵野市議会では、地方の意見をもっと聞くように慎重な審議を求める意見書議案を提出予定だ。可決されると政府へと送られる。武蔵野市議会議員が上下を選ぶか、対等かを選ぶのか。武蔵野市議会の可否にも注目いただきたい。


【参考】
衆議院 地方自治法の一部を改正する法律案
全国知事会 地方自治法改正案の閣議決定を受けて
日本弁護士連合会 地方自治法改正案に反対する会長声明
宮城県議会  国の補充的な指示の創設に関する意見書(全会一致で可決)