本に影響を受けて旅に出るかたが少なからずいらっしゃると思います。

 私の周りで一番多いのは、沢村耕太郎さんの『深夜特急』シリーズに影響を受けて海外旅行に出かけるかたでしょうか。旅行好きの方の中ではこのシリーズは半ばバイブル化しているような気がします。

 
今日ご紹介する本はそんなスケールの大きい話ではありません。とある京都の町にある小さな本屋が舞台となっています。その小さな本屋さん自身の変化、そして街の変化や近くのお店と交わることで得られた体験や大事にしている価値観について、店長(執筆当時)が静かに語る、といった本なんです。そんな地味な本ですが、今年この本に誘われて私は京都を訪れていました(その様子は前後のブログ記事をご参照ください)。

 本の名前は
『街を変える小さな店 京都のはしっこ、個人店に学ぶこれからの商いのかたち。』です。



 本さえ中心にあれば、どんなことに挑戦しても恵文社らしさは表現できるはずだ。編集の仕事は店の中をはみ出し、街にまで広がり始めている。
(本書pg51より)
 軸がしっかりしていて表現したいものに統一感があれば、その店らしさとして受け入れられるんでしょうね。流行に乗るだけでなく、自らがきちんと表現したいものがあるお店、そういうお店にこれからも出会えるといいな、なんて思います。

■内容・感想


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(先月訪れた恵文社一乗寺店はやっぱりいつまでも滞在したくなるお店でした)


 90年代初頭にアルバイトとして恵文社に参画した堀部さん(本作の著者)が、書店員としての経験を積み、やがて街にある一般的な書店とは違う唯一無二の書店となるまでが書かれています。


 今でこそ本屋さん業界で有名となった恵文社ですが、この当時はまだ京都の小さな書店でした。そして、こちらも今でこそ有名な本屋さんのオーナーとなっている堀部さんですが、この方もご自身は必ずしも書店員になりたく恵文社で働き始めたわけではなかったとのこと。他の仕事をやるくらいなら、、、というのりだったそうです。働き始めた当時は右も左もわからず、大学で専攻していた分野の棚を趣味のように耕し、いつの間にか夢中に取り組んでいたそう。


 そして紆余曲折を経て店長になると、さらにギャラリーや選書に力を入れるようになる。ただ、きちんと一条寺という街にも目を向け、周りで廃業する店があれば、仕入れ先だった店と共同でイベントを行ったり、近くにカフェスペースがなければ、ニーズを踏まえて、それに似たようなこともしていった。

 もちろん、近くにカフェができ、ニーズが満たされれば、お店も書棚も自然と変わっていったという。一方、イベントや棚を変える際には一所懸命に勉強し、そしてイベントで得た経験を再び書棚や内装に還元していったら、自然と個性的な店舗になっていったという。ただ、いつもあったのは本屋という軸


 軸は変えず、ただ街と共存するように棚を変えていく。その結果が、他にはないユニークなお店を生んでいった(もちろん、そこには大事にしていた価値観があり、その過程で不要なものはそぎ落とし、それがいわゆる店のブランディングにもつながっていったんだと思います)。


 恵文社がイベントごとにお客さんを呼び、特集ごとに新規顧客を増やした結果、一乗寺周辺にも少しずつおしゃれで若いお店が増えてきました。そして、今や一乗寺駅周辺はおしゃれな街へと様変わり。カフェもパティスリーもブーランジェリーもあります。もちろん雑貨店だって。それは恵文社だけの力じゃないだろうし、もともと学生街として魅力的な場所だったり、周りに多くの観光スポットがあったことも影響しているんでしょう。


 それでも恵文社がコーディネーターとなり、メディアとして方々に発信したことも幾分か影響力があったんではないかなと、この本を読むとやはり思ってしまいます。これらは一朝一夕でまねできる事ではありません、ただ、じっくり腰を据えて何かをやろうと思っている人にはヒントをくれる本だと思います。


(追記・恵文社を訪れてみて) 
最後のほうにオルデンバーグのサードプレイスに言及するところがあります。単に三番目の一人になれる居心地の良い場所として喧伝するような店ではなく、きちんと本に向かい合えるような店でありたい、と堀部さんは言っています。それは今でも恵文社の店づくりに引き継がれているような気がします。

   

■次の一冊     


 本屋Titleの店主辻山さんと対談したものが巻末に収められている『本屋、はじめました』なんていかがでしょうか。本の中では、荻窪で開業した辻山さんとぽつりぽつりと苦労話をシェアしたり、現代の本屋を取り巻く環境について話されています。



■雑な閑話休題   


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 最近本屋さんが本を書くケースが増えました。もちろん以前から古書店の店主さんだったり、大手書店の名物書店員さんが執筆するケースはありましたが、昨今の独立系もしくは中小書店の店員さんが本を書くというブームの火付け役となったのはこの方の作品ではないでしょうか。それらの本は、もちろん書店に関する本なので共通項も多いのは事実ですが、それでも書店の立ち上げ背景や本に対する考え方が大いに異なるのでどれも面白いんです。未読の方はぜひ一冊手に取ってほしいな、と思うばかり。


 特に堀部さんのこの本については、本が醸し出す空気だったり、筆感だったりに共感して多くの店が店頭にそっと置いていたりします。そういうお店と出会うと嬉しくなって、いつまでも覚えていたりするものです。そういうとき、自分はなんて単純な人間なんだろうって思って苦笑してしまいますが…(もちろん、それを狙って本を置いている店は好きではないですよ~)。


 あと、最後に少しだけ気になった言葉。上のフレーズに掲げるのは違うかなと思ったので、ここで書き留めておきたいと思います。

 常連客というのは、店の運営を左右する株主にもどこか似ている。株主の影響力が強すぎると、いつのまにかに店は私物化され、排他的になってしまう。(Page 71)

 この言葉は本当にそうだと思います。道楽や趣味でされているお店だったら、自身と常連だけでお店の雰囲気を決めていけばいいんだと思います。でも、もし生計をたてこれは本当に深刻な問題だと思います。個人的にはお客として訪れる際はどんな店でも空気のような存在でいたいものだな、と思っています。なるべく主張せず、少しだけお邪魔したらでていく。そんな存在として認知されずとも長くお付き合いしていければいいな、と思いながらお店探索を続けています。


■著者に関する参考情報
・恵文社HP:http://www.keibunsha-store.com/
・誠光社HP:http://www.seikosha-books.com/

 恵文社は現在もその個性的な店作りを続けていて多くのお客さんでにぎわっていました。一方、本作の著者の堀部さんは現在、恵文社をやめられ、同じ京都市内で誠光社という本屋を営業されています。小さなお店でしたが、多くの魅力的な本にあふれていました。

■今回の本をだした出版社
京阪神エルマガジン:https://www.lmagazine.jp/

 最近はMOOK本を中心に出版活動をしているようです。大手が取り上げないような、でも着実に人気になりつつある分野を先んじて耕して読者を増やしているイメージがあります。

最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。

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