2012年 10月14日 日曜日 天候 晴れ

 今日は仕事仲間3人(理科センター☆野教諭、○小学校A教諭、そして私)で二次鉱物産地として知られる三川鉱山で研修会だ。三川鉱山は天文2(1534)年に開山、昭和36年の閉山まで400年以上にわたって金、銀、銅、鉛、亜鉛を産出した息の長い鉱山である。付近の地質は花崗岩を基盤として、その上位に新第三紀中新世の堆積岩、火山岩、火山砕屑岩が重なる。三川鉱山の鉱床はこれら中新世の火山岩、火山砕屑岩、堆積岩を母岩とし、その割れ目を充填した浅熱水性の金・銀・銅・鉛・亜鉛・硫化鉄鉱鉱脈で、真名板倉坑、宝坑、本盤坑、豊岡坑、八方坑など複数の鉱床が存在した(日本金山誌より一部抜粋)。 この素敵な地域素材について現地観察と鉱物採集を行いながら、理科教育にどう生せるか?の妄想を巡らすのが今回のテーマである。
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 【三川鉱山跡全景】

 朝9時、集合場所の新谷郵便局前の路上で、鉱山の沿革、地質、産出鉱物について怪しい勉強会を行う。「これ、孔雀石。」「これ、藍銅鉱。」「これ、青鉛鉱。」「これ菱鉄鉱。」 緑に青に紫・・・色とりどりの二次鉱物や藤色の水晶を前に、隊員の意気まさに天を衝く。「今日はこれら代表的な二次鉱物と紫水晶を採取しましょう!」 青い空、隊員の笑顔・・・既に研修会の半分は成功である。
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【左:藍銅鉱 右:孔雀石】

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【晶洞を埋める藤色の水晶】

 9時30分、戦闘機を先導に車を連ねて林道を上がる。「ボベベ。」「ブーン。」ひんやりとした空気が顔を撫で、秋の山の匂いが嗅覚をくすぐる。「ヤッホ~!」 紅葉が始まった秋の山は実に気持ちがいい。車を置いて爽やかな風に当たりながら山道を歩く。山栗、サルナシ、山ブドウにキノコ、山は実りでいっぱいだ。 「わっ、ヘビ!ヘビ殻だよぉ。」遠足気分で歩いていると、突然ヘビの抜け殻に遭遇した。見れば体長80㎝はあろうかと思われる尾頭付のヘビ殻が我々の行く手を遮っている。「立派ですねェ!授業で子どもたちに見せてあげよう!」☆野隊員が手際よくビニール袋に回収した。自然の事物に対する衰えぬ興味関心・・・これぞ理科教師の鏡である。 『ヘビとの遭遇』は、かつて北海道で砂金掘りを生業とする人たちの間で縁起の良いものとして喜ばれた。幸先の良い出来事に我々は大いに盛り上がった。「ヘビ様だ!もしかしたら今日は立派な紫水晶が採れるかもヨ。」・・・そんな冗談がこの数十分後現実のものになろうとは、その時は誰も想像だにしなかった。
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【サルナシ(コクワ)の実】

 目的のポイントに着いて間もなく、しゃがみこんでいたA隊員が「あっ!」と声を上げた。「コレ、紫水晶ですよネ。」見るとそれは長さ2㎝を超える立派な紫松茸水晶ではないか。「こりゃすごい!」衝撃を受けた我々は即座に周囲に散らばり紫水晶を探し始めた。もう二次鉱物などどうでも良かった(失礼!)。紫水晶、紫水晶、紫水晶・・・。心の中でうわ言のように唱えながら歩きまわる。一般的に言われる『三川鉱山の紫水晶』は、流紋岩中の石英脈の晶洞に晶出した柱面の発達しない微細なもの(画像)で、色調も藤色に近い『紫色』でお世辞にも魅力的なものとは言い難い。しかし、A隊員が採ったそれはそれらとは全く異なるタイプで、三川鉱山の水晶に対するこれまでの先入観を大きく覆すものであった。「松茸出て来いよぉ~。」「紫ちゃ~ん。」我々は一生懸命に探した。しかし、どこに居るのか紫水晶。産出エリアと思われる場所をくまなく調べること、三度(みたび)、四度、五度・・・。呼べど応えず、探せど見えず・・・。「ムムムム・・・・。」希望の灯は消えほそり、心には次第に暗雲が立ち込めてきた。

 A隊員の松茸水晶発見からかれこれ2時間ほど経った頃だろうか、衝撃の瞬間は何の前触れもなくやって来た。「無いな~。」ポツリと呟いたその時である。松茸の興奮も収まり、諦めとともに気持ちが平静になりつつある私の目に異様なものが飛び込んできた。斜面の粘土の中から突き出した妖しい紫色の光を放つ濃紫の三角錐的物体。自然界の地味な色とは明らかに違うあたかも人工的な物体。「ゲッ!」わたしがそれを紫水晶の錐面であることを理解するまでに時間はかからなかった。「みんな~、俺、すごいものを見つけちゃったヨ。来て来て!」 認めた〝物体〝が変な別のモノに変わらないことを念じながら、わたしはそれにそっと指を伸ばし手のひらの乗せた。 取り出した紫水晶は濃紫色を呈する長さ3センチの立派な美晶でまさにアメジストと呼べるものであった。
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【お出ましになった紫水晶】

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【同上画像(長さ3.0cm)】

 昼も過ぎたので昼食タイムにする。遠く津川や上川の山々を眺めながら食べる妻の握ったおにぎりの味は格別である。 その後も我々は紫水晶の捜索を精力的に継続。昼食時点でただひとり紫水晶を自力で採取していなかった☆野隊員も、持前の観察力と集中力を発揮し、ついに美しいファントム紫水晶を見つけ出した。・・・そんな訳で我々が研修の本来の目的を思い出し、あたふたと二次鉱物の採集を行ったのは、陽が陰り、疲れも出始めた撤収間際のことであった。

 最後は車で林道を綱木側に下り、流紋岩の露頭観察と岩石サンプル採集をする予定であったが、紫水晶に舞い上がったわたしは肝心の露頭を見落とし、通り過ぎてしまった。しかし、『岩石』を拾うために、来た道を逆戻りしようと言う者は誰も居なかった。流紋岩の採集が後日(取り消し)となったことは言うまでもない。
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 【研修隊は行く・・・】

 今回、「研修」ということで職業仲間とともに野外に出掛けた。ヘビ様のお陰で全員がアメジストの美晶を手にすることができ、山神さまへの感謝の気持ちでいっぱいだ。理論や指導法についての議論も良いが、我々自身が大自然を楽しみ『ワクワク』することもたまには大切だと思う。感動こそすべての原点なのだから・・・。

※研修会を前に郷土史家の勾玉さん(新潟市)には三川鉱山エリアの水晶情報を頂いたうえ下見にまで同行していただきました。この場を借りて厚くお礼申し上げます。
※☆印の画像
は理科センター☆野先生に提供していただきました。