明治時代、苗木地方では盛んに錫の採取が行われた。鉱床は錫石を含む花こう岩ペグマタイトが風化して山麓に堆積した沖積鉱床である。採取方法は樋流しと呼ばれるシンプルな比重選鉱法で、副産物として黒水晶、美しい黄玉(トパーズ)、緑柱石、長石、青玉(サファイア)、砂金、苗木石等のほかに金緑石などを共出した。 
 当初、これ等の副産物は量が少なく、或いは用途も知られていなかったため、一部が好事家の収蔵品となったり単に標本として売られただけで、ほとんどの副産物は、錫石採取の邪魔者として土地の埋め立てに際して投棄されたとのことである。捨てられた『宝石類』の量はかなりの量だったという。なんとも勿体無い話である。

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【苗木地方地質図(ピンク色は花崗岩)】

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【樋流しによる錫の採取図(苗木地方)】

 そんな『宝石類』のひとつ黄玉(Topaz トパーズ)は、明治時代の文献で優雅に黄寶石(トッパーズ)と呼ばれている。苗木地方で錫鉱に混じって産出する美しいトパーズは、この地域出身で鉱物収集に力を発揮した高木勘兵衛によりシカゴの博覧会に滋賀県田ノ上山の物と一緒に出品(湯のみ茶碗大)され、見事に銅牌を受賞した。このようなことから日本は大型トパーズの産地として一躍注目されたのだ。
 記録によると当地方の川砂中から錫鉱とともに産出した川流れトパーズは、大型のものは稜角が磨滅されたものがほとんどであったが、小型のものは磨滅が非常に少なく、結晶面がはっきりと保たれているものが多かったという。
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【苗木産川流れトパーズ 右長さ20mm】

 因みに鉱物趣味の世界では、結晶鉱物というと、普通ビカビカのガマ出しが重宝され川ズレしたものは敬遠されがちである。しかし、鉱業史(明治の苗木地方における錫石採取)と深く関わり、日本を代表する宝石鉱物として海外からも注目された苗木地方の『川流れトパーズ』だけは特別な扱いをしたいものだ。

 引用文献『美濃恵那郡鉱産地の記, 比企忠』、『美濃国中津付近における沖積鉱床並びに鉱物, 粟津秀幸』、『日本鉱物誌, 和田維四郎』