2008年10月06日

<08>ラッフルズホテル

村上龍が監督した同名の映画のノベライズ。自らシナリオを書き、監督した映画を後から小説に仕立て上げた訳だが、映画の本質は常に映像にあってプロットにある訳ではないので、この小説もプロットとしてはほとんど何も語りかけては来ない。頭のおかしい女優が、かつて恋人だった写真家を探しにシンガポールまでやって来てラッフルズホテルに泊まる話、といってしまえばそれで終わる作品だ。この作品の本質は別のところにある。

別のところにあるはずなのだが、それがどこか、それは何か、それは非常に曖昧で難しい。ひとつはかつてベトナムで従軍した写真家が日本に帰還してビジネスマンとして成功した後で抱える「空洞」であり、もう一つは言うまでもなく常に演技を続け神経を緊張させている女優の「耳の裏側の世界」だ。それらはたぶん同じもので、手っ取り早く言ってしまえばそれはおそらく自分と世界との距離とか関係の発見とその確認に他ならない。

そのことは映画で見れば分かるのかもしれない。実際にシンガポールのコロニアル様式の古いホテルや鬱蒼とした熱帯のジャングルを映像としてみれば何かが見えてくるのかもしれない。だが、この作品だけからその「場」が持つ磁力を読み取れというのは無理な話。頭のおかしい女を書かせたら村上龍の右に出る者はいなくて、その面白さを無責任に楽しんでいるうちに、何かに気づく間もなく読み終わってしまう、話の早い小説だ。

(1989年発表 集英社文庫 ★★☆)


going_underground at 19:00│Comments(0)TrackBack(0)書評 

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