2008年12月05日

<27>オーディション

頭のおかしい女を書かせたらやはり村上龍はすごい。幼児期の虐待体験がもとで、男を決して信用できず、裏切られたと感じると豹変してその男の足首を切断する女。明らかに異常である。異常なんだけど何となくそのメカニズムが理解できてしまうから怖い。片足首を切断されて血が吹き出るシーンのフィジカルな嫌悪感もすごいが、本当に怖いのはそういう女がいてもおかしくないと普通に感じてしまう描写の巧みさ、リアルさの方だ。

さらにこの作品の凄みを増しているのは、その異常な女である山崎麻美が、そのようにして異常な行動に走る一瞬手前まで、この上なくコケティッシュで魅力的な女性として描かれていることだ。周囲から「あの女はどこかおかしい」と言われながらそれを受け入れず、恋愛初期特有のキラキラしたトキメキ感に溺れ冷静な判断力を失って行く主人公の思考のパターンがまた迫真的で怖い。主人公と麻美のセックス描写も臭うほどリアルだ。

主人公には死んだ妻との間の遺児があり、その存在が麻美のスイッチを入れた。では、仮に主人公にそういう存在がなく、麻美を取り敢えず引き受けることができたらどうだっただろう。おそらく麻美の独占欲はさらに高じて、結局信じられないような些細なことをきっかけに同じ結末を迎えただろう。なぜなら麻美が本当に欲しているのは男はやはり自分を裏切るという確認だからだ。これが娯楽作に仕上がっていることがすごいと思う。

(1997年発表 幻冬舎文庫 ★★★☆)


going_underground at 00:20│Comments(0)TrackBack(0)書評 

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