2008年12月18日

<30>希望の国のエクソダス

ディテールにおいては首をひねるような記述もないではないし、何より例によって受け売り感満載の経済解説や為替市場の描写が興を削ぐ部分は実際あるが、そしてまたここで描かれる中学生たちのブレイク・スルーのあり方があまりに楽観的で理想主義的だという決定的な非現実感はあるが、それにも関わらずこれは我々の国が何に突き当たっているのか、それを突破するためにどんな方法があり得るのかという難問に挑んだ意欲作である。

我々の社会は、バブルが弾けて長い景気後退というか未曾有の経済危機にあったとき、できる者もできない者も同じように仲良く豊かになるという大家族的な共同性を放棄し、その維持にかかるコストを削減することで何とか全体が共倒れになることを回避した。景気は回復したように見えたが、それはこれまで養ってきた家族を、これ以上面倒は見られないから自分で何とかしてくれと突き放すことによって残りの者を守っただけだった。

派遣労働者とか格差の問題の本質はそう理解すべきなのだが、この作品はその構造を的確に言い当てている。そして、そこにおいて観念できる救済のひとつの形を提示しているのだ。もちろんこれはお話なのだが、そこに書き込まれたひとつひとつのエピソード、アイデアには示唆的なものもある。それは村上龍が本質に近いところを見ている証左なのだろうが、このリニューアルされた世界的な金融危機は村上龍の想像力を超えたかもな。

(2000年発表 文春文庫 ★★★★)


going_underground at 23:30│Comments(1)TrackBack(0)書評 

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この記事へのコメント

1. Posted by グーパーすると車酔いしにくくなるよ   2011年06月29日 20:58
「高福祉高負担の現実」検索してみてください。なかなか面白いですよ。

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