2009年02月15日

<101>悲しき熱帯

1978年から1981年にかけて雑誌「野生時代」に掲載された5編の短編を集めたもの。この短編集自体は1984年にまず文庫で刊行され、その後にタイトルを「SUMMER IN THE CITY」と変えて単行本でリリースされた。ハワイ、グアム、フィリピンなどの熱帯の島を舞台に、村上龍によれば少年と父権の物語が語られる。ストーリーは暗く、貧しく、陰惨で救いがないが、そこには深刻さはなく、ただ悪夢のように熱をたたえているのである。

暗い話をひたすら高い密度と速度で書き込むことによって文体が一種の肉体性を獲得して行くプロセスは初期の村上龍に特徴的なもので、ここに収録された作品は熱帯という舞台の持つ呪術的な力を借りながら、僕たちの思考の速度を凌駕して行く。放り出されたまま何も解決せず、どこにも行き着かないエピソードが、リアルでやり場のない少年の苛立ちと諦めを語りきる。そしてそれが僕たちの苛立ちと諦めを際立たせ、同時に異化する。

飛べなくなったスーパーマンをロケットに乗せて生まれ故郷の星に帰す「ハワイアン・ラプソディー」と異星から来たという妄想に取り憑かれたロック・ミュージシャンを描く「鐘が鳴る島」は「だいじょうぶマイ・フレンド」に取り込まれた。この短編集を読めば「フィジーの小人」は読まなくてもいいかもしれない。生命というものの濃密さと脆さを同時に描き出した短編集で収録作にハズレはない。読むだけで汗が出てくるようだ。

(1984年発表 角川文庫 ★★★★)



going_underground at 00:36│Comments(0)TrackBack(0)

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