2009年02月18日
<103>走れ!タカハシ
タカハシとは1975年から92年まで広島カープ他で活躍した高橋慶彦のこと。ここではタカハシをモチーフにした作品が11編収められている。作品は1983年から85年にかけて「小説現代」に不定期に掲載されたもので、まさに高橋慶彦の全盛期と重なる。短編集自体は1986年にリリースされた。モチーフにしているとはいえ、中にはほとんど高橋慶彦とは関係ないものから、本人が登場してテニスをするものまであり、関わりは一定していない。
どの作品も最終的に物語が「走れ!タカハシ」に収束するよう作られていることもあってか、全体のトーンは暗くはない。主人公がちょっとしたピンチに陥るが、最終的にタカハシのヒットや盗塁によって救済されるというものがほとんどで、乾いたユーモアが特徴的。このトーンで長編を書かれると辛いが(「超電導ナイトクラブ」みたいな失敗作になる)、短編なので適当なリズム感があって、深く考えないまま最後まで読んでしまえる。
その意味では極めて寓話的な作品ばかりであり、こう言っては何だが村上龍のストーリー・テラーとしての資質の確かさを再確認させる。長編では圧倒的な力とかスピードとかで物理的に読者を凌駕しようとする村上龍が、ここではストーリーの力を借りて読者と対峙しようとしている。非常にオーソドックスな「小説」であり、普通に楽しめる短編集。工事現場で交通整理をしながら「盗塁」を試みるおじいちゃんの話(Part11)が秀逸。
(1986年発表 講談社文庫 ★★★☆)
どの作品も最終的に物語が「走れ!タカハシ」に収束するよう作られていることもあってか、全体のトーンは暗くはない。主人公がちょっとしたピンチに陥るが、最終的にタカハシのヒットや盗塁によって救済されるというものがほとんどで、乾いたユーモアが特徴的。このトーンで長編を書かれると辛いが(「超電導ナイトクラブ」みたいな失敗作になる)、短編なので適当なリズム感があって、深く考えないまま最後まで読んでしまえる。
その意味では極めて寓話的な作品ばかりであり、こう言っては何だが村上龍のストーリー・テラーとしての資質の確かさを再確認させる。長編では圧倒的な力とかスピードとかで物理的に読者を凌駕しようとする村上龍が、ここではストーリーの力を借りて読者と対峙しようとしている。非常にオーソドックスな「小説」であり、普通に楽しめる短編集。工事現場で交通整理をしながら「盗塁」を試みるおじいちゃんの話(Part11)が秀逸。
(1986年発表 講談社文庫 ★★★☆)