2009年03月15日

<109>白鳥

短編集といっても雑誌連載をまとめた連作短編が多い村上龍にあって、さまざまな雑誌などにバラバラ掲載された短編を集めた数少ない本当の意味でのアンソロジー。9編を収録している。村上龍がキューバに入れ込んで映画「KYOKO」を撮った90年代半ば頃の作品が中心と見られ、キューバを題材にした連作3編も収められている。比較的しっかりストーリーを構築した作品から、抽象的で不思議な手触りの作品までバラエティも豊かだ。

「或る恋の物語」「彼女は行ってしまった」「わたしのすべてを」の3作はキューバ音楽をモチーフにし、互いに関連する三つの物語をそれぞれ異なった語り手の目から見る連作で他の作品とはやや異質であるが、それ以外の作品は概ねセックスと病について書かれたものだと言っていい。残念ながら初期短編集である「悲しき熱帯」やテーマの明確な「トパーズ」ほど緊迫したエネルギーの奔流は感じられず、全体として熱量は少ない。

それはおそらく、村上龍自身がこれらの短編をドライブして行く動因を絞りきれていないからだ。プロットなのか、スタイルなのか、情報量なのか、スピードなのか。どのモメントにおいて読者を凌駕して行こうとするのか、それが明確でないためにどの物語も中途半端に放り出されたような印象が残る。あとがきで村上龍は「短編は『洗練』を必要とする。私は『洗練』がイヤなのだと思う」と述べているが、それはこういう意味なのだろう。

(1997年発表 幻冬舎文庫 ★★★)



going_underground at 23:39│Comments(0)TrackBack(0)

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