2009年03月17日

<110>ワイン一杯だけの真実

ワインをテーマにした連作短編8編を収録。ここで言及されているワインをどれひとつ飲んだことのない僕にとってはどんな言葉でそのワインを描写されても豚に真珠というか猫に小判であり、逆に村上龍のいかにも成り上がり的で無邪気な知ったかぶりが微笑ましい作品集。「料理小説集」でも書いたが、努力と才能で特権を手にした者としての率直な喜びが伝わってくる。シャトー・マルゴーが出てくるので川島なお美を思い出してしまう。

おそらく、本当に村上龍がこうしたワインの素晴らしさを理解しているのなら、それをテーマに小説を書いたりしようとはしないのではないだろうか。なぜなら優れたワインというのはそれ自体何ものからも独立し、完結しているものだと思うからだ。僕は別にソムリエでも何でもないが、ワインをテーマに小説を書こうという試み自体が俗悪だということくらいは分かる。シャトー・マルゴーを飲む代わりに小説を読むことには意味がない。

ここで描かれるのは現代の日本に生きる女性達の「壊れ」であるが、それをワインに引っかけて語ろうとするところが悪趣味。書かれていることも他の作品で書かれたことの使い回しに過ぎない。着想としては悪くないものもあるが、そこに具体的なワインの名前が出てきた途端に物語全体が安っぽく感じられてしまう。読者の大半が飲んだこともないようなワインのイメージに依拠しなければ成立しない物語はそれ自体大したことがない。

(1998年発表 幻冬舎文庫 ★★☆)



going_underground at 23:25│Comments(0)TrackBack(0)書評 

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