2020年11月28日
<40>MISSING 失われているもの
「こんな小説を書いたのは初めてで、もう二度と書けないだろう」というのが帯のアオリなのだがこちらもこんな小説を読んだのは初めてだ。これまでも「限りなく透明に近いブルー」や「69」など村上龍の実体験を基にした作品はあったが、本作はそうした作品群とは別の意味で自分の心の中に分け入り、私的な思考の自動回路の仕組までもを開示した作品なのではないかと思う。ある種の私小説といってもいい。ここまで書いたことが驚き。
かつて知り合った女優に導かれるように現実と想像、覚醒と睡眠の間にあるような辺土に迷いこみ、そこで母親の声を聴く。そこで語られるのは村上龍の生い立ちでありそれに連なるファミリー・ヒストリーだ。これは実は自分が死ぬ間際に見ていた所謂「走馬燈」だったみたいなオチを予想したほどリアルな感触で、村上龍は長い間記憶の底に埋もれていたような、しかし自我の形成に大きな影響のあった出来事を執拗に掘り返してくるのだ。
認知症になった人が、それまでは一度も話したことのなかったようなエピソードを繰り返し語るようになるのはよくあることで、それは単に過去を懐かしがるというよりは過去から補助線を引くことで現在地を何とか見定めようとする必死の営為なのだが、この作品にはそういう村上龍の生に直結するスゴみみたいなものを感じる。これまでの作品とは違った意味で読む側に強いコミットを要求してくる。通奏低音は間違いなく「死」である。
(2020年発表 新潮社 ★★★☆)
かつて知り合った女優に導かれるように現実と想像、覚醒と睡眠の間にあるような辺土に迷いこみ、そこで母親の声を聴く。そこで語られるのは村上龍の生い立ちでありそれに連なるファミリー・ヒストリーだ。これは実は自分が死ぬ間際に見ていた所謂「走馬燈」だったみたいなオチを予想したほどリアルな感触で、村上龍は長い間記憶の底に埋もれていたような、しかし自我の形成に大きな影響のあった出来事を執拗に掘り返してくるのだ。
認知症になった人が、それまでは一度も話したことのなかったようなエピソードを繰り返し語るようになるのはよくあることで、それは単に過去を懐かしがるというよりは過去から補助線を引くことで現在地を何とか見定めようとする必死の営為なのだが、この作品にはそういう村上龍の生に直結するスゴみみたいなものを感じる。これまでの作品とは違った意味で読む側に強いコミットを要求してくる。通奏低音は間違いなく「死」である。
(2020年発表 新潮社 ★★★☆)
going_underground at 22:32│Comments(0)│書評