- 使途不明金問題で、ユニバーサル岡田会長らを元社員が提訴した
- フィリピンでのカジノ計画をめぐり、使途不明の送金が問題に
- 外国公務員への不正な利益供与を禁じた、不正競争防止法違反にあたるとしている
[東京 5日 ロイター] - フィリピンでのカジノ計画をめぐり使途不明の送金が問題になっているユニバーサルエンターテインメント<6425.T>の元社員が、同社の岡 田和生会長を外国公務員への贈賄(わいろ)行為を禁じた不正競争防止法違反にあたるとして、東京地検特捜部に訴えたことがわかった。元社員は、同時に名誉 棄損罪で会長と代理人弁護士らを告訴した。
訴えを起こしたのは、ユニバーサル米子会社の日本支社長などを務めた中野隆文氏。
訴 状の中で中野氏は、ユニバーサルが2010年にフィリピンのコンサルタントに送ったまま使途不明になっている資金は、外資規制の排除に影響力のある公務員 からの便宜供与を得るために「賄賂(わいろ)として交付されたとしか考えられない」と断定。送金を指示したのは岡田会長であるとし、外国公務員などへの不 正な利益供与を禁じた不正競争防止法(第18条1項)違反にあたるとしている。
さらに、この送金問題をめぐって、ユニバーサルが同氏などに対して起こした民事訴訟やロイター報道などに関する同社発表のなかで、虚偽の内容を示して同氏の名誉を傷つけたとして、同会長および弁護士の荒井裕樹氏ら4人を名誉棄損容疑で訴えている。
中野氏は今年5月23日、代理人の勝部環震弁護士を通じて東京地検特捜部に告訴および告発状を提出した。受理したかどうかについて、東京地検は「個別の案件について回答は差し控える」と述べた。
訴 えのなかで中野氏は、ユニバーサルが米子会社を通じ、フィリピン当局に影響力を持つ人物に合計4000万ドルを送金した状況を説明。その目的は、1)フィ リピンで法人税が免除されるよう、同社のカジノ用地を経済特区に認定させる、2)現地において単独でカジノ事業が運営できるよう外資規制の適用を除外させ る──ことだったと指摘した。
4000万ドルの大半は使途不明となっているが、中野氏は、その資金の送付先は、現地の娯楽賭博公社 (PAGCOR)のエフライム・ヘニュイーノ会長(当時)に近い人物であるコンサルタントのロドルフォ・ソリアーノ氏の関連会社のほか、同氏の支配下にあ る会社だったと主張。それを指示したのが岡田会長だったと指摘している。
フィリピン政府は外資系企業による単独のカジノ運営への認可や税制 面の優遇措置を2010年に決定しているが、これは、ユニバーサルの岡田会長が、ソリアーノ氏らに資金を送った時期とほぼ重なる。ユニバーサルは、ロイ ターの取材に対し、これらの行動に違法性はないと主張していた。
米連邦捜査局(FBI)やフィリピン政府は、この4000万円の送金がカジノ計画への便宜供与を求める賄賂を目的としたものだったかどうかの捜査に着手したほか、米ネバダ州の規制当局(NGCB)も調査に乗り出していた。
ユ ニバーサルは2012年11月、この4000万ドルの資金問題に関連し、中野氏を含む同社の元社員3人が在職中に同社の正式な了承を得ないまま、このうち 1000万ドルを送金したとして訴えを起こした。また、このうちの1人に対しては、別の500万ドルの送金を不正に行ったとして訴えている。元社員側は、 すべての送金はユニバーサルの岡田会長の指示によって行ったと主張している。
今回の訴訟について、ユニバーサル、および3人の弁護士からのコメントは得られていない。また、ロイターはヘニュイーノ氏とソリアーノ氏にもコメントを求めているが、接触できていない。
ロイターは今年5月、同社代理人の荒井弁護士が、中野氏に対し、関係当局への情報提供をやめれば「一定の対価」を支払うなどとする民事訴訟の和解案を昨年7月、中野氏の代理人弁護士を通じて提示したと報じている。
こ れに対しユニバーサルは5月13日付のプレスリリースで、ロイターによる不当な報道だと反論し、実際に和解案を示したのは荒井弁護士からではなく、中野氏 の代理人である勝部弁護士だったと指摘した。さらに荒井弁護士は「一定の対価」が「最低でも数億円程度との法外な脅迫に近い金銭要求」だったと表明した。
これについて勝部弁護士はロイターに対し、「和解案を出してきたのは荒井(弁護士)。こちらからは案自体出していない」と述べ、勝部弁護士から「数億円を求めた事実はない」ことを明らかにした。
中野氏は和解案を拒否しているが、その理由について、中野氏は「米国においても日本においても裁判所や捜査機関に嘘をつくことは絶対にできないと強く拒絶し、荒井弁護士とは没交渉となった」という。
ユニバーサルは12年12月、4000万ドルの使途不明な資金送金について報道したロイターと同社記者、編集者を相手取り損害賠償請求訴訟を東京地裁に起こしている。ロイターは、会社として報道内容を支持するとコメントしている。
(ネイサンレイン、江本恵美、編集:北松克朗)