一人芝居のベテラン3人が、一人芝居を始めたきっかけや一人芝居特有の稽古の仕方などをざっくばらんに話したこの機会。
少し長いですが、ぜひ読んでみてください。

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■一人芝居を始めたきっかけ


坂口:サキやんが一人芝居を、やってるのが一番長い気がするねんけど

 林:何年?

坂口:なんか外国でやってなかった?

宮川:そうそう。カナダのフリンジフェスティバルというのがあって

 林:ふ~ん

宮川:観光で行った時に、海外の交換留学生の発表会みたいなのがあって「あ~いいなあ」って思って、一人芝居のネタをやって見せたら、フリンジフェスティバルっていうのがあるからこないか?って関係者の人に声をかけてもらって、次の年に行ったんかな?それがけっこう初期の頃。「円山」っていうのが最初の頃に作ったネタなんだけど、京都の円山公園のしだれ桜が大好きで、毎年見に行っててね。すごく妖艶で、昼間と夜の顔が違うというか。花見の時期じゃない時に、枯れた桜にはまったく人が寄り付かないのに、花見の時期だけはすごくもてはやされてるなって。色々思うこともあって。そういうのってドラマというか芝居になったら面白いやろなぁって思って作ったのもあり、そっから出会った人で面白い人だったりをモデルにしてやり始めて。

坂口:その一人芝居を始めるきっかけは?

宮川:30歳の時にアイホールの演劇ファクトリーに入って、みんな若い20代の大学生の人とか多くて、そこから劇団に入ったりする人達がいる中で、うちには「一人でやったら」って太陽族の岩崎さんやアイホール館長の山口さんからアドバイスもらったり、OMSの山納さんやKAVCの岡野さんにも、イッセー尾形さんの演出をしている森田さんを紹介してもらって、いっときそこでお手伝いしながら稽古見てもらったり

坂口:イッセー尾形さん言うたらもう「キングオブ一人芝居」やん!

宮川:すごいストイックで、もうすごいなって思いましたね。その頃は入る劇団も見つからないし、今はsundayに入ってますけど、横のつながりというのが学生からやってはる人と比べたら、気の知れた仲間というのがそんなにいなかったんで自分には一人芝居ができるっていうアプローチをやってから繋がっていって今に至るんですよ。だから、うちがもう10歳くらい若くて20代のピチピチやったら、一人芝居はやってなかったかもしれへん。 

林:それが何年くらい?

宮川:うちが30の時から始めて、2010年でちょっとお休みして。

 林:ほんだら10年くらいやってるってことは2000年くらいからやってるってこと?

宮川:数字が弱いのでちょっと(笑)

坂口:30歳の時に西暦何年かわかるやろ

 林:今いくつや

宮川:今、45

坂口:じゃあ、15年前やから2000年。そんな難しい計算ちゃうやろ(笑)

 林:私も2000年くらいやで、始めたのは。

宮川:また何でひとり語りを?

 林:私もおんなじよ。劇団の公演が1年に一回になって、みんな東京に行っちゃったから、ほとんどの劇団員が。だから一人でなんかせんと

坂口:その後ですか。

宮川:解散?

 林:まだ解散してないけど劇団員の半分くらいは東京に移住して、1年に一回の公演しかなくなって、結局一人でなんかやらんと、1年に一回だけではねって感じやったから、その頃にボイスのトレーニングをもう少し勉強しなあかんわと始めたところやったから。

宮川:まだ、勉強とかいいますか~!

 林:30くらいやで、ちゃんとワークショップとか受けだしたのは。だからそこでやってたことを試すっていうか、やっぱり現場がないとと思って、でもうひとつはお金がかからへんように、赤字が生れてもちょっとくらいならなんとかできるくらいでやらんと、そしたら人集めてやったら大変やし、ちょっと年齢も上やし、横のつながりもそんなにないのよ。

宮川:え~!

 林:上手に外とやりとりできる劇団員の人たちとかいはったけど、私はどうも苦手で、客演もしてないし、

坂口:全然そんな感じじゃない

宮川:え~、イメージが

 林:私、客演とかもしてないで。外からも呼んでくれへんし。やりたくなさそうに見えるんかな、私

一同:爆笑

 林:ちょっと恐ろしげに見えるか…

坂口:あ~、恐ろしげに見えるか

宮川:レアキャラに見えるんちゃいます

 林:どこにつこたらいいかわからへんか、使うとなったらちょっと怖いなって思うんか

坂口:正直、恐そうな感じはありますね

 林:みんなに言われるねん。恐いって。

宮川:怒られるって思うんかな。

 林:怖いでしょ、厳しいでしょって。厳しくないとは言えへんけど、恐くはないと思うんやけど

一同:爆笑

 林:そんなんやから一人でやった方がいいわって思ったし、それでちょうど白石加代子さんの百物語を見て、「これやったらできる」っていうか「これでええんちゃうか」って。だから最初のネタは白石加代子さんのレパートリーの中から見たものから始めましたもん。

坂口:そうなんですかあ

 林:知り合いが「ここに作品書いてありますよ」ってパンフレット見せてくれて、「なるほどなあ、これ読んでみよう」って。まずは白石さんのレパートリーからやるみたいな。そんなんで15年くらいかな。

坂口:面白いですねえ。全然知らんかった。

宮川:のっけからそれぞれ違う感じですね

坂口:じゃあ、そろそろ僕しゃべってもいいですか(笑) 僕が一人芝居を始めたのは1998年とか99年とか、お二人とほぼ同じ時期ですね。大学を卒業してタントリズムという劇団を演劇サークルの先輩たちと旗揚げしたんです。公演の度に演出のサシマから、けちょんけちょんに言われまくるわけですよ、元々が先輩だから。その割にアンケートとかでも全然俺の評判は良くなくて、「アイツの俺の使い方間違ってるんちゃうか」ってずっと思ってて。そんな時に、森ノ宮のプラネットホールって言うのが昔あったじゃないですか、そこで無料のフェスティバルがあって「坂口さん15分で何かしませんか」って声をかけてもらったんです。で、前々から興味あった一人芝居をやってみようって。学生劇団の頃、先輩に「一人芝居はよっぽど上手い役者じゃないとやったらあかん。あんなもんやるもんじゃないぞ」って言われてた。その先輩が何を知ってたのかって今思えば不思議やけど、当時は一つでも上なら神みたいなもんやから「一人芝居は俺なんかがやってええもんちゃうんや」って思ってた。けど無料やしええんちゃうかと。それで誰と一緒にやるかと考えた時に、とにかく今俺が勝たなあかんのはあの演出やと。タントリズムのサシマユタカ!あいつと一対一で勝負せなあかんと。すぐにサシマさんに「こういう企画があるんで、僕一人芝居やりたいんです、演出やってもらえませんか」ってお願いして、「本は僕が書きます・・・ただ、書いたことないので、一応念のためにサシマさんも書いてもらってていいですか」って(笑)

一同:爆笑

坂口:もしよかったらね。お互いの本見せ合っていい方をやりましょうって。もちろん僕も書いたのよ。一生にその時しか書いたことないけど。で、サシマさんと見せあいっこした結果・・・「うん、サシマさんのでやりましょう」って。

宮川:はやっ!

坂口:芝居が終わった時、「俺は何が出来たんだろう」って手ごたえがわからない時期やったから、一人芝居なら俺だけへの拍手がもらえるんじゃないかって期待してやってた。結局、その一人芝居で拍手をもらった時に思ったのは、自分一人への拍手なんか無いってこと。脚本や演出、それに音照さん、作品をつくるのに関わった人全てへの拍手を代表してもらってるだけなんだって。でも芝居をやってる時に自分しか見ることがないからめっちゃ見てくれるやん。それがめっちゃ楽しくて、ちょっと手を動かしただけで「こいつらみんな俺の手を見てる」みたいな。
宮川・林:わかる、わかるわぁ、なあ。

坂口:人と一緒にやってると俺はここでこれを見せたいのに!あ~、なんか余計なことって言ったらあれやけどあっちで目を引くことしちゃってるーみたいなストレスがある時あるやん。

そこで、そんなことするより、これの方が面白いと思うんですけど、演出家さんはどうですか?みたいな。

宮川:あ~、わかる~。

坂口:でも、一人芝居はお客さんが自分しか見てない!お客さんを独り占め、そういうのが楽しかった。

そのプラネットの企画にその後も毎年声をかけてもらって、そのために一人芝居を作っていったんですよ。それが始まりですね。

 林:その自分しか見てないってのわかる。私はただ小説を読むっていう。なんていうんやろな、「1時間の間もう全部私がつかんでるんやな、この場を」っていう気がものすごいした。私がここを動かしていくんやな、1時間中ずっと。そのかわり掴めなかった時の怖さもあるけど、掴んだ時の快感ってすごいあって、これはちょっと凄いなあって思った。

坂口:そこですよね

 林:そんなんやり出してからM.O.P.でやってる時も、私はセリフも少ないあんまりしゃべらんけどそこにいるとかいうのが結構多かったけど、しゃべってない時でも「今の私の時間はこう動いてる」って思いながらそこにいられるようになったというか。そういうことが面白くなってきてやってよかったなあってすごい思ったなあ。空間とか時間をこうやって作っていくんやなあ。それは自分一人でもそうやし、人がよってもそういうことか。

宮川:さかぐっちゃんと芸創で一人芝居の「独-ソロ-」ってやったやん。

坂口:太陽族の南勝さんとサキやんと僕との3人で月火水にわけて1か月やった。

宮川:それって最初の方やもんね。

坂口:サシマさんとの一人芝居があって、それで劇団でのサシマさんとの関係もすごく変わっていった。演出も文句いうばっかりじゃしょうがないじゃないですか、役者が一人やから。どうやってコイツを使うのか。本も僕のために向けて書くし、それによって僕に合わせた新しいキャラクターが生まれたり、そういう新しいキャッチボールが出来て、サシマさんと距離もどんどん詰まっていった。そんな時、やってると話が来るもんで芸創でやる一人芝居の企画に声をかけてもらった。15分の一人芝居から枠を伸ばしたのは、それがきっかけ!

宮川:それをうち見に行って、さかぐちゃんとうちが真逆やなって思ったんが、さかぐっちゃんがひたすら客席に向かってしゃべりかけるっていうスタイルをやってて、ひとネタ終わると「ちょっと待ってくださいね」って感じでお客さんに色々としゃべりかけながらフレンドリーに着替えて、セットも動かして、「うわぁ、すごいなあ。うちはできへんわ」って。なんやろこの落ち着き払って次の準備をしているさかぐっちゃんはって思って。だってうちは着替えの時必死やからさ。

坂口:そんなことしてたの、すっかり忘れてたけど、余裕とかじゃなくって、サシマさんが僕に合ってると思って選んだ転換のやり方やったな。イッセー尾形さんの一人芝居は、自分が一人芝居を始める前から見てるし、イッセー尾形スタイルとしてバーンとあるんだけど、でもあんな着替えるだけで魅せれない、そんなの無理無理って

 林:イッセーさんは脇で着替えはるやんな。衣装全部そこに置いといてね。

宮川:そうそう。

坂口:一人芝居にしてもひとり語りにしても人のを見てると「ようやるなあ」って。

一同:爆笑

宮川:ABCホールで英世さんが着物を着て、あのでっかいABCホールの舞台の真ん中でちっちゃい英世さんがぽつーんっておるだけやのにすごいですよね、客席にうわ~と来る圧が。

 林:ABCホールは広いんやけど、舞台に立つとあんまり広いとか、客席遠いなあって感じないホールじゃない?

宮川:いやいや実際にABCホールはでかいですよ

 林:そうやねんけど、ABCホールはやりやすいところやなあって思って。

宮川:客席はすごい近く感じるよね。

坂口:ABCホールはね、段の奥と手前とで一瞬切れますね。

 林:私はそこまであんまり考えてなかったから。私のやつは動かへんし、本も見てるし、スタイルとしては地味じゃないですか。一人芝居の範疇に入っていいんかっていうのはちょっとある。朗読でもないから「ひとり語り」って名づけてんけど。最初になって名付けようって思った時に朗読じゃないし、芝居じゃないし、って。でも読むんとはちょっと違うねんなあって思って、いや読んでるねんけど、役者が読んだらこんな感じって、その時に読むというよりは語るかなっていうんで、「語る」って「吾が言う」って書くやんか。だから読むのと吾が言うのとはちょっと違うなあって思って、やりながらもそういうことを少しずつ感じていくねんけど。言葉をいかに自分から出すかということで言えば俳優がセリフを自分のものにしてしゃべると同じやから、役者寄りのことをやってるなあって思う。