座談会の第2弾は、稽古のやり方について。3人3様のやり方があり、一人芝居ならではの苦労もあります。

■一人芝居独特の稽古の進め方

坂口:リーディングとか朗読とか、一人で稽古をするじゃないですか。一人で稽古をしてると自分で自分の声を聴いててホンマに嫌になる。何も面白くない!だから僕は必ず演出の人を別にたてるようにしてる。演出に「ここはこういうふうにしてみたら?ここはこうやってみて!」とか言われると「それやったこういうこともどうですか!」ってアイデアも沸いてくるんやけど、自分一人だけやったら「もうみなさん自分で読んだらよろしいやん」ってなっちゃう。
一同:爆笑
 林:せやねんな。だから私の稽古はいつもずっと一人よ。前は西陣ファクトリーガーデンってとこでずっとやってたから稽古も一人でそこに行って、ちょっと準備して、とにかく読むってことをやる。とにかく読む。それを録音をして後で聞くねんやんか。聞いて、私がお客さんになって、イメージしていたものが聞こえて来るかどうかで「これは違うな」とか、「次読むときはあんまり読むということに捕らわれないでもっと好き勝手やってみよう」ってしながらだんだん探していって、自分が気持ち悪くなくなった時にOKがでる。「気持ちわる~、こんなん。何やねんお前」って感じの時もあって。
坂口:位置取りが難しいですよね。朗読って。どの位置で読むのかって。登場人物か?作者か?お客さんか?それこそ自分か?その位置取りが難しいなあ。
 林:まず基本的には何を言ってるのかを読みだすってことが一番で、誰がなんでこうしてどういってるのかってのがわかったら、それは作者がそう言いたいのか、そこの中の誰かの目線なんかとかがだんだんわかってくんねんな。この文章はこっちで、この文章はこれのためにあって、この一言はこの先のこのためにあるねんなぁとかそれがだんだんわかってくるとそれを的確に置いていくように声にする。だから何役もやってるのかもしれないですよね。
坂口:一回分解というか整理して、読みわけるということですよね。
 林:たとえば「桜の森の満開の下」の語り出しは「桜の花が咲くと人々は酒を飲んだり、宴会をしたり」みたいなやつなんだけど、坂口安吾やって思って「(静かめのトーンで)桜の花が咲くと人々は酒を飲んだり」ってやってたら全然おもろないやん。むっちゃ面白ろないなって思うねん。これってもっとなんか別の形でええんやわって思うと、今やってるのって「(先ほどのとは打って変わって高いトーンで)桜の花が咲くと」っていうような形になる
宮川:落語に近いんですかね
 林:でもそれはその文章によって変わるねん。松本清張や向田邦子だったらまた違うし。川上弘美だったらまた全然違うし。どういうふうに声に直せば一番しっくりくるかってのを探すのが稽古。
宮川:稽古の時はどのくらい稽古するんですか?
林:だいたい1作品1時間から1時間15分くらいかかって、一回読むとクタクタになるので、稽古というのは一回読む。
宮川:あ、もう返さずに。
 林:そう返さずに。もうひとつは読み通す体力をつけなあかんやん。
坂口・宮川:あ~、わかる~。
坂口:稽古とかで切られると少し楽なんですよね
宮川:そうそうわかる
坂口:今日は返し稽古で終わりたいなあって時に「じゃあ今から通しましょか」って言われると「あ~やっぱ通すかあ」って。
 林:始めたら終わりまでをいききるっていう訓練をしとかなあかんから
宮川:なんであないに体力がいるかなって
 林:だってやっぱり一人やもん。
坂口:どんなに手を抜いて通しとかしようと思ってもできない。「今日はセリフ覚えてるかどうかの確認だけで軽めに通しましょか」って言われてももう無理。
宮川:軽くなんて無理ですよね
 林:始まったら自分ひとりやからリズムが回っていくとどんどんいってしまうし、私は軽くやってるときって、しんどくて椅子に座ってやってると読みながら寝てしまう時あるねん。
一同:大爆笑
林:ほんまに。だから力入れてなかったら結局稽古にならへんねん。寝てまうねん
宮川:それあかんあかん。
坂口:僕なんか演出家がいるのに寝たことある。「火曜日のシュウイチ」の時、毎週15分の新作一人芝居をやってたのね。作・演出のサシマユタカさんが、ずっと普通に仕事をしながら台本を書いてくれてて、休日の土日で演出も見に来てくれててん。それではどうしても間に合わない時に、サシマさんの仕事終わりで深夜の大学で稽古!ってなって、一人芝居やから、誰かが読んでる時に少し休憩とかないじゃないですか。当たり前やけど(笑)それでセリフを追ってるうちに気が付いたら気が遠くなってて、一瞬でパッと目覚めたつもりやけど…実際はどれくらい寝てたかわからへん。そのまま普通に台詞を続けても、サシマさんは何も言わへんから、バレテないと思っててん。そしたら何かの打ち上げの時に「こいつ信じられへんことに一人芝居の稽古してる時途中で寝るねん。しかも、それがバレてないと思って、そのまま進めたりしよるねん。腹立つから、一番嫌なタイミングでばらしたろ思って今日まで黙ってたった。」って暴露されました。
宮川:あるある。うちは稽古が自分ひとりなんで携帯でいつもムービーを撮ってやってて、「おかん」っていうネタの時に、思い出し稽古のつもりが、トップギアでガンガン稽古をやってしまってて、一回通して、もう一回やりたいなあって思いながら寝転がったら、「おかん」の衣装のまま寝てましたねー。誰もいないから誰も起してくれへん。
坂口:僕の稽古には絶対、演出家がいるからなぁ。一人稽古っていつ稽古始めよう!って思うんですか?だって演出家がおっても、人によっては相当雑談してから、「稽古場って5時までやったっけ?」「じゃあ、一回だけやりましょか」って始めることありますもん。2時間くらい喋ってても、僕からは「やりましょ」って言わない(笑)それがましてや稽古場には一人で、稽古日もいつでもいいわけやん。稽古日や時間は決めてるのか、それとも、気分で「今日はやろかぁ」って稽古するのか、どうやってはるのかな?
 林:私はスケジュールの空いてるところでやっていくしかないから本番前のだいたい1か月くらい前から「なんかやらなあかんぞ。やっとかなあかん。」と思って、仕事の合間の時間に稽古場があいてるか聞いて空いてたらそこで稽古をする。
宮川:自分がいたらいつでも稽古できるから、家にいてても、自転車に乗ってても、何をしてても、気がついたらブツブツ言ってたりして、ずっと一人芝居脳になってる。脳が休んでないからあかんわーとは思うんだけど。
 林:一人しかおらんからOKって言ってくれる人がおらんやん。だから回数の中で「大丈夫。できる」って思っとかな恐いねん。だから回数はある程度やっとかんと難しいなと思う。ここはこう読むとかを台本に記号で書いていくねん。ここに間とか、ここは高くとか、ここの点はなしにするっていう設計図をまず最初に発見する
宮川:楽譜みたいな感じ?
 林:そういう記号を付けていって、再度見たときに行き当たりばったりでいかんようにある程度の道を通るように構成を体の中に入れていって、はじめから終りまでその道のりで1時間でいけるようにそれに慣れる。その文字見たときにそうなれるってようなことをやってる。
坂口:二人から聞いてるみたいなストイックさはないですね。ただ自分で公演は決めるし、演出家さんにお願いして稽古日も決めるじゃないですか。僕の他の稽古の合間に稽古6回しかないんですってお願いしてるから、向こう側が決めるんじゃないことが多くて、じゃあ6回で出来るのって思われないように準備していくってのがもう、僕って自分との戦いにめちゃくちゃ弱いんですよ。
宮川:え~、弱いん(笑)
 林:それでよう一人でやるな(笑)
坂口:人との約束に関してはすごい拘束力があるから。ついこの間、上演した角さんの「傘がない」の稽古の時は、最後の本番から半年くらい立ってるから台詞も演出もすっかり忘れてるねんけど…稽古日数は2回でお願いしますって言ってもうてるから…僕が!1回目の稽古の時には、当然、半年前にやったやつを再現して、じゃあ今回はどうしましょうかって稽古にしないとあかんから。
 林:それも大変やなあ
坂口:角さんとの稽古に向けてセリフ覚えて、小道具も準備して。かと言って一人で稽古やる気にはならへんから、とりあえずほとんどは脳内シミュレーションだけで角さんとの稽古がやってくる。今日は「返し稽古やったらいいな」とか思って行ったら、「じゃあ、まずは通しましょ」って言われて。なんとか通しは出来る準備は出来てるんですけど…これはもう自分との戦いではないです。人との約束があるから(笑)
 林:私の一人でずっとやってるけど、昔は音響さん照明さんが見に来て、「こんなんですけど」ってやってて。スタッフさんが見に来るとなんか変わってしまうねん。あれだけはどうしようもないなと思う。人がいるとなんか違う。
宮川:違う、違うねんなあ。
 林:稽古をしている時は自分の内側も見ながらやってるねんけど、いざ人がいると人向きになるっていうんかな
坂口:稽古に人を入れようとは思わないんですか?
宮川:たとえば陣中見舞いみたいな感じで遊びに来てくれたりすると嬉しいよ。
坂口:演出家を必ず入れるって言っといてなんやけど、急に稽古場に見学に人が来たりするの嫌やわ〜。稽古途中を見られるの嫌い。
宮川:うちは逆。来てくれたら「うわ!ありがとう」って感じで、ちょっと頑張れる自分がいる。
 林:笠原さんが「見ます」って言った時はちょっと緊張する。大丈夫かなと思って。「大丈夫です」って言ってもらえたらよかったって思うんやけど。
宮川:新ネタをおろす時はドキドキするよねえ。お二人の場合はしっかりとした台本があるじゃないですか。うちの場合はネタも自分やし。
坂口:それってどうやって作ってるん?最終的に文字起しすんの?記憶の中だけ?
宮川:昔から作り方は変わってないんだけど、先にキャラクターを作って、パソコン上で自分のエチュードが始まるんですよ。でもそれは第1稿で。文字の中で面白いなと思ってても、実際自分が声を出してやってみたらちょっとリズムが面白くなかったりするとちょこちょこ修正してる。