2016年09月20日

大衆はなぜ、マスメディアが嫌悪するトランプ(米)やドゥテルテ(比)を歓迎するのか?ドゥテルテの外交戦略・内戦対策を読み解く。

はじめに

フランス革命による政治的・社会的大混乱が独裁者ナポレオン(仏)を生んだように、第1次世界大戦と1929年の世界大恐慌による経済的・政治的混乱がスターリン(共産党一党独裁)、ムッソリーニ(ファシズム)及びヒットラー(ナチス)を育てた。時代の混乱が英雄の母となり揺り籠となった。そして独裁者はそれぞれの国民性と国情に照応した専制国家を築いた。

我が国では応仁の乱(1467−1477)以降、大中小の大名や武装集団が割拠する戦国・乱世に突入。16世紀中葉、スペイン・ポルトガル・オランダ・イギリス等の西欧列強は世界の分割(植民地化)をほぼ終え、中国(清)、日本、朝鮮(李氏朝鮮)に宣教師を派遣した。宣教師は情報を収集して本国に報告し、信者を獲得して拠点を構築した。種子島に伝来したポルトガルの鉄砲(火縄銃)はたちまち国産化され、その有用性を認めた織田信長を初めとする有力大名は競って鉄砲を導入。織田信長は重商政策で蓄えた経済力を利用して鉄砲を大量購入し鉄砲隊を編成、兵農兼業軍から常備軍(職業軍人)へと軍を再編成して農繁期でも戦争できる態勢を整えた。織田信長が他の有力大名を圧倒できたのも、軍政改革による先行者利益を得ることができたからだ。

織田信長は「比較優位の君主」から、「生殺与奪の権を握る絶対君主」となった。比叡山の僧侶を皆殺し仏閣を焼き払ったほか、長島一向一揆の門徒1万人以上(老若男女)を殺戮。我が国史上で最も凶悪で凶暴な政治家(独裁者)であった。織田信長が断行した文化大革命は「伝統文化の否定と西欧文明に対する無批判的受容」というもので、信仰といえるほど常軌を逸脱したものであった。したがって、伝統文化を尊重する守旧派筆頭明智光秀が「反革命」の狼煙を上げ蜂起したのにも合理的理由があった。戦国乱世が革命児織田信長を育て、革命の前途に対する社会的不安が明智光秀を求めたといえる。

第1:職業政治家に魅力を感じないのはなぜか

8年前、政治経験がほとんどないオバマが彗星の如く現れ、あれよあれよという間にヒラリーを撃破、黒人として初めての合衆国大統領になった。白人主義者ハンチントンは絶望して死んだが、一般大衆は素人政治家オバマが発する言語明瞭・意味不明の「Yes We Can」という言葉に酔い、オバマを大統領に押し上げた。大衆は「ウォール街の色に染まっていないオバマ」と感じた。国民皆保険制度の導入を掲げる社会主義者(オバマ)に期待した。今回の大統領民主党予備選における「サンダース現象」はオバマ旋風の二番煎じとみなしてよい。大衆はブッシュ親子の16年(共和党)とクリントン(民主党)の8年に失望、ウォール街と軍産複合体の手垢がついていない素人政治家に夢と希望を託した。

職業政治家の連続当選を支えたのは、ウォール街と軍産複合体だけではない。中小零細企業主、給与生活者、農民、そして各種の団体(宗教・思想信条・趣味など)もある。連続当選を果たすためには各界・各層からの幅広い支持を得なければならない。八方美人的で紳士的な政策を打ち出さざるを得ない。我が国でも、衆院小選挙区や参院1人区では有権者の過半数獲得が目標とされるから与野党の政策は近似したものとなる。「争点なき面白みに欠ける選挙」が常態化する。

「政治家稼業を続けること」が職業政治家の宿命(さだめ)であるとすれば、暴言は慎むべきであるし、本音で語ることも躊躇せざるを得ない。結果、可もなく不可もない面白みに欠ける職業政治家が大量生産される。我が国でも与野党を問わず職業政治家だらけになったから、一握りの「命を賭けた捨て身の政治家」が光り輝く。保身第1がミエミエの職業政治家が増えれば増えるほど「崖から飛び降りる覚悟」を標榜して見せる一匹狼型政治家が高く評価される時代になった。

第2:トランプ大統領候補(米)は本音で喋り過ぎる男か

共産主義者や社会主義者は「的外れのレッテル」を貼って非難・攻撃する性癖がある。彼らは自らを「裁判官」とみなし、彼らにとって都合の悪い相手を「被告人」と見下して糾弾する。例えば、改竄された歴史観を正すべきとする者を「歴史修正主義者」と糾弾し、大衆に愛され人気を独占するアマ政治家を「ポピュリスト(大衆迎合主義者)」といって攻撃する。「レッテル貼り」による非難・攻撃は、ジリ貧の左翼の焦りと嫉妬が歪んだ形で表出したもので万人を納得させるものではない。彼らの自慰行為に過ぎない。

支持率を高める目的をもって大衆の即時的欲求に条件反応し自らの政策を変更する行為は(例えば、TPP問題でのヒラリー)ポピュリスト(大衆迎合主義者)というべきではないのか?支持を獲得する目的で大衆に媚びる行為と、大衆の不安を煽って支持を拡大する行為に有意差があるとは思えない。左翼はムッソリーニ(ファシズム)やヒットラー(ナチス)ら民族主義者を煽動政治家(ポピュリスト)といいたいのであろうが、煽動政治家の本家本元は今も昔も共産主義者(レーニン、スターリン、毛沢東、ゲバラ、金正恩、志位和夫ら)であることは誰でも知っている。

トランプやドゥテルテは大衆の不安を煽り、即時的要求に迎合したから人気を博したのではない。職業政治家のように八方美人的に振る舞うのではなく、自分の感情を粉飾することなく披瀝し投げかけた「目新しさ」が「大衆の心」を揺さぶり共鳴させた。大衆はこれまで職業政治家が繰り返す美辞麗句に騙され、何度も裏切られてきた。職業政治家が発する白々しい空気に嫌気がさしている。

トランプは「米国の国益第1」を掲げた。(1)米国は借金だらけの貧乏国家なのに、なぜ、貴重な米国民の税金を同盟国(日・独・韓等)を守るために投じるのか、米軍の駐留経費は金持ちの同盟国に負担させるべきではないか、(2)中国、日本、韓国等からの輸入品増加が国内産業を疲弊させ破壊した。輸入関税を大幅に引き上げて輸入品の流入を防ぎ、国内産業を復興し雇用を増やすべきではないか、(3)金融資本と多国籍企業が推進してきたグローバル経済は米国の中産階級(白人)から仕事を奪い、富を発展途上国に移転した。TPPは批准しない。

以上は、単純で明快、米国の失業者や没落した元中流階層の気分そのものだ。トランプは「米国は誰のものか、ウオール街と多国籍企業のものか、それとも白人中産階級以下のものか」と問うている。グローバル経済を推進してきた左翼エスタブリッシュメント(第4インター系のネオコンら)が隠蔽してきた「パンドラの箱」に風穴を開けた。大義名分(建前)に異議申し立てがなされた。米国社会はこれまで抑圧し封印してきた諸矛盾が噴出する時代となった。

第3:ドゥテルテ大統領(比)は暴君か、それとも救世主か

フィリピンの主要な反政府武装勢力は(1)共産党(新人民軍)、(2)ミンダナオ島モロ民族解放戦線の過激派、そして(3)麻薬取引や身代金誘拐等犯罪行為を収入源とする暴力団(マフィア)の3つである。歴代フィリピン政府はこれら反政府武装勢力を根絶すべく掃討作戦を行ってきたが、あるいは懐柔工作(和睦)を行ってきたが、現在でも反政府武装勢力を殲滅するに至っていない。

ドゥテルテはミンダナオ島ダバオ市長時代(約20年)、麻薬取引を行っている暴力団(マフィア)と麻薬常習者を根絶し治安を飛躍的に向上させたと評価されている。ドゥテルテ市長(当時)は警察官と自警団(私兵)に対して「麻薬取引業者(マフィア)と麻薬常習者は見つけ次第殺害せよ」と命じたといわれている。自警団(私兵)には「共産党(新人民軍)やモロ民族解放戦線の戦闘員を雇用した」という風説もある。麻薬を収益源とする暴力団(マフィア)と麻薬常習者を殲滅するために、共産党(新人民軍)やモロ民族解放戦線と手を結び、又は取引したというのは興味深い話だ。

フィリピン経済は少数の財閥(大地主)が支配し、圧倒的多数の国民は貧困のどん底から這い出ることができない。つまり「絶対的貧困の固定化」がフィリピン反政府武装勢力の栄養源となっている。さらに、各財閥(大地主)は割拠し、自警団(私兵)を養い自己防衛力を高めている。中国、韓国、タイ、ベトナム、フィリピン等儒教文明圏では「公的」と「私的」の境界が不分明であり、公私混同は常態であって心理的抵抗を感じることはない。公権力の警察と自警団(私兵)が提携して殺人を行っても誰からも異論は出ない。中国においては地方政府(共産党官僚)がマフィアと癒着してマフィア化、又はマフィアの幹部が地方政府を乗取って一体化するケースが少なくないというが、フィリピンにおいても大同小異だろう。

アキノ前大統領がルソン島に割拠する名門閥とすれば、ドゥテルテ大統領はミンダナオ島に割拠する新興閥といえる。ドゥテルテは大統領就任後も週の半分を首都マニラ(ルソン島)で執務し、週の半分を故郷のダバオ(ミンダナオ島)で過ごす。フィリピン大統領とミンダナオの首領という二足のわらじをはいている。

ドゥテルテは縄張りとするミンダナオ島の開発と振興に並々ならぬ意欲を示す。ドゥテルテがオバマの内政干渉に激怒し「対米関係の見直し」に踏み込んだのは、米国の「植民地政策への怨念」だけではない。数年前から中国がミンダナオ島西方海上の南シナ海南沙諸島海域の岩礁を埋め立て、空軍基地と軍港を建設しているのを探知しながら、米国はこれを黙認してきた事実に不信感を募らせているのだ。オバマ政権は民間企業が事実を衛星写真で暴露したので、やむを得ず「自由の航行作戦」と称するアリバイ工作を行っただけと見透かされているのだ。なお、我が国がフィリピンの海上警備活動を支援するために無償で供与する10隻余の巡視船の内最初に供与された巡視船はミンダナオ島に配備された。

9月6日に行われた日比首脳会談でドゥテルテ大統領は「日本はダバオの発展に多大な貢献をした」と表明。安倍総理は「日本の知見を活用し、ソフトとハードの両面でミンダナオを包括的に支援したい」と述べた。戦前、貧しかった日本人は職を求めてダバオに渡り、紙幣の原料でもあるマニラ麻を栽培した。その数は2万人にも及んだ。ドゥテルテは日本が戦後、フィリピン政府とミンダナオ反政府ゲリラとの橋渡し役を務めてきたことも評価する。2013年には日本人墓地があった場所に碑を建立し「人類は皆家族」と刻んだ。大統領に当選して初めての公式会談は駐フィリピン大使石川和秀だった。
(以上、17日付け日経「ドゥテルテ劇場4」より抜粋)

第4:ドゥテルテ大統領の外交戦略を読む

フィリピンはインドや東南アジア諸国と同様、約400年間、欧米列強の属領(植民地)とされ過酷な圧政に苦しめられてきた。1941年12月8日、我が帝国陸・海軍は米英に宣戦布告、真珠湾の米太平洋艦隊を奇襲し、同時に米国の属領フィリピン、英国の属領香港・マレー半島を攻略して陥落させた。5か月後、フィリピンからマッカーサー率いる在比米軍を一掃した我が帝国海軍はミンダナオ島ダバオ(ダゥテルテ大統領出身地)を出撃拠点にしてオランダ領東インド(インドネシア)に侵攻し攻略。我が国とミンダナオ島は因縁の赤い糸で結ばれている。

戦後、旧植民地に復帰した欧米列強軍と植民地からの独立をめざす各国独立義勇軍の戦闘が激化。結果、欧米列強はフィリピン、インドネシア、インドシナ3国、インド、ビルマ(ミャンマー)、セイロン(スリランカ)の独立承認に追い込まれた。

戦後、米ソを盟主とする東西冷戦が始まった。米国の国防ライン(アチソンライン)はアリューシャン列島、日本列島、フィリピン諸島、マレー半島とされ、米国は共産圏の膨張を抑止するため各国と相互防衛条約を締結。これに対抗して毛沢東(中共)は、周辺国の共産党に対して武装蜂起→暴力革命を督促した。その残渣は現在でも残っており、インド北部の反政府ゲリラ、ネパールの王政を打倒した反政府ゲリラ、ミャンマー北部の反政府武装勢力、フィリピン共産党(新人民軍)はいずれも毛沢東派といわれているから、現在でも中国共産党中央の対外工作機関又は中共軍の支援を得ていると考えるべきだろう。東アジア・南アジアにおいては米中冷戦は終わっていない。

(米国一辺倒から全方位外交へ)

経済でも安全保障でも「依存すれば支配される」というのが大国と中小国の常態である。また同格の家柄、もとい同格の国家においては「相互依存(共棲)」又は「相互補完(分担)」によって相互利得(ウインウイン)の関係を築くことが可能だ。階級社会において「家格」が縁組の条件とされたのは「葛藤の少ない円満な親族関係」を求めたからだ。「家格」が違いすぎると紛争のネタが絶えない。

フィリピンにとって米国は旧宗主国で、経済的にも軍事的にも圧倒的に大きい存在で、油断するとたちまち飲み込まれ保護国とされ独立国家の地位を失う。米国の国益から見るとフィリピン諸島は米国の国防線(アチソンライン)の一環を占める重要拠点となる。フィリピンでは、中国又は台湾の脅威が増すと「米国依存」に傾斜するが、同時に「米国に支配される不安」も高まる。この矛盾した心理は中国への経済依存を深めてきた韓国・台湾・タイ・マレーシア・インドネシア・ミャンマー・スリランカ・モンゴル・中央アジア・ロシアと中国の関係にも当てはまる。

ブランコは右方に揺れただけ左方に揺り戻す。これが大自然の摂理であり例外はない。フィリピンではアキノ前大統領が推進した「米国依存」を修正する動きが始まった。台湾・韓国・モンゴル・中央アジア・ミャンマー・スリランカでは「中国経済への依存からの脱却」が重要な政治課題となった。なお、日米と中国は経済的には相互依存関係(ウインウイン)、安全保障では利害相反関係(ゼロ・サム)とネジレた関係だ。微妙なさじ加減を誤ると不測の事態が発生し戦争が勃発する。そうなると、中国経済を初め地域経済が崩壊するだけでなく世界経済が麻痺する。

日米対中国の複雑で微妙な関係の中で、民主党鳩山・小沢政権は米中等距離外交を、韓国朴槿恵政権は「米中二股外交(ツートラック)」を推進したが短期間で破綻。台湾馬英九政権が推進した「中国に媚を売る国共合作策動」も台湾国民の怒りを招き挫折。そして、ドゥテルテ大統領は「南シナ海における米比合同軍事演習は行わない」「ミンダナオ島でイスラム過激派掃討戦に従事している米海兵隊は出て行け」と表明。加えて、南シナ海問題では中国の求めに応じて「2国間交渉を行う」としたほか、「ロシアや中国からも武器を買う」と述べ「米国からの自立(離反)」と「中露への接近」を鮮明に打ち出した。

以上は、オバマ大統領の内政干渉(麻薬関連被疑者に対する殺害指示への非難)に対しての怒りの表明なのか、それともドゥテルテ大統領が練り上げた外交戦略なのかは明らかではないが、後者の可能性が高い。ドゥテルテは米国の横暴で自己中心的な振る舞いに対する不満と米国の植民地であった当時の先祖の怨念が脳裏にこびりついている。決定的場面において人間は理性ではなく情動に突き動かされて行動する。

第5:ドゥテルテ大統領の内戦対策を読む

歴代フィリピン政権の最重要課題は共産党(新人民軍)、イスラム過激派(モロ民族解放戦線)そして覚せい剤等の麻薬取引で強大化した暴力団(マフィア)を鎮圧し、又は和解して治安を回復することであった。この課題は独立後約70年経過した現在でも解決されていない。フィリピンがタイ、インドネシア、シンガポール、ベトナム、マレーシアに比べて経済発展が遅れたのも、外国資本が進出を躊躇してきたのも、殺人・身代金誘拐等の凶悪犯罪が常態化しているという「悪すぎる治安状態」にあった。歴代政権は国民の期待を背負ってそれなりに頑張ってきたが今なお内戦収束のメドが立っていない。

政府軍が地域社会に根を張った反政府ゲリラや暴力団(マフィヤ)との内戦を続けているのはフィリピンのほか新疆ウイグル自治区(東トルキスタン)、ミャンマー、タイ、コロンビア、メキシコ、アフガン、イラク、シリア、リビア、スーダン、パキスタン、ソマリア、イエメン、マリ、ナイジェリア等増える一方だ。地域社会に根をおろした反政府ゲリラや暴力団を根絶することは至難の業であり、失業対策・貧困対策、格差是正、汚職撲滅、麻薬根絶など、社会的・経済的構造改革なしには実現できないものばかりだ。習近平・王岐山が断行している反腐敗闘争(大粛清)程度では職権乱用と贈収賄という漢族の性向を矯正することはできないし、ドゥテルテが断行している「武力討伐戦」程度の対症療法では敵は何度でも蘇生する。「永遠回帰の内戦」に忙殺される宿命(さだめ)かもしれぬ。

ミンダナオ島は反政府ゲリラ「モロ民族解放戦線」の拠点で、共産党「新人民軍」や暴力団(マフィア)も跳梁跋扈する等フィリピンで最悪の治安状態にあるとされてきた。しかるに、ドゥテルテはミンダナオ島最大の都市ダバオ市長を20年も続けることができた。なぜか?警察や自警団(私兵)を活用して麻薬取引業者(マフィア)や麻薬取引に関与した者及び麻薬常習者を探し出し、問答無用で殺害する恐怖政治を断行したことで治安を改善したといわれているが、それだけか?

ドゥテルテ(ゴッドファザー)は、共産党(新人民軍)やモロ民族解放戦線という大組織(マフィア)と「兄弟分の盃」を交わして便宜を供与し、彼らの戦闘員に報酬を与えて自警団(私兵)に組み入れ、敵を「麻薬取扱い業者(マフィア)と麻薬常習者」に絞り込み殲滅戦を仕掛けた。我が国でいえば、警察が山口組と住吉会に便宜を供与して協力を求め、暴力団構成員を刺客として雇用して「自警団(私兵)」に組み入れ、極道にあるまじき工藤会を殲滅する作戦を立てたようなものだ。

ドゥテルテはミンダナオ(ダバオ)で成果を上げた方式をルソン島ほかフィリピン全土で断行中。すでに麻薬関連の業者(マフィア)や麻薬常習者が2000人以上も殺害され、数十万人が自首し「命乞い」をしたという。フィリピン政府はマフィアの幹部を殺害したものには、格に応じて数百万円から数千万円の報奨金を出すと表明、マフィア側も「ドゥテルテ大統領を殺した者には1億円の懸賞金を出す」と対抗。メキシコと同様フィリピンも「殺すか、殺されるか」のマフィアとの戦争又はマフィア戦争に突入した。

ドゥテルテ大統領は共産党(新人民軍)と和解し政策協定を締結して閣内に取り込みたいと考え画策しているようであるが、乗り越えるべきハードルは高い。共産党は「財閥(大地主)が保有している農地を解放せよ」との条件を提示したという。「農地解放」は戦後、我が国に進駐したマッカーサー元帥率いる連合国軍司令部(GHQ)の占領政策の一環として断行されたもので、平時にあってこれを断行することは至難の業だ。フィリピン経済を支配している財閥(大地主)が自らの意思で所有権を放棄することはあり得ない。

第6:人権擁護か、治安回復か

欧米列強は開発途上国政権(中国を除く)の人権侵害行為を非難し経済制裁を加えてきた。人権は何よりも優先されるべき普遍的価値というのである。ドゥテルテ政権が「麻薬の撲滅」を理由に掲げて超法規的措置(殺人)を行うことを非難する。第1順位の「人権擁護」のために、第2順位以下の「麻薬撲滅」が困難となっても「それはそれで仕方がない」と考える。

フランスや米国でも無差別テロが頻発するようになった。国民は「人権擁護よりも治安維持を優先すべき」と考え始めた。フランス国民は非常事態宣言下で人権が制約されても仕方がないと感じるようになった。「生きることへの不安」がトランプやドゥテルテの人気を押し上げた。

立憲主義や人権擁護という上部構造(楼閣)は、安定した統治機構と地域共同体の絆という下部構造(秩序)によって支えられているもので、秩序がなければ立憲主義も人権擁護も存在できないことは内戦中のアフガン、イラク、シリア、リビア、ソマリア、スーダン、イエメン等を見ても明らかだろう。トルコのエルドアン大統領やフィリピンのドゥテルテ大統領が、理想主義者オバマの非難に反抗したのは、トルコとフィリピンが置かれた情況を勘案するとやむを得ない面もある。オバマのように「高みの見物をして講釈を垂れ流す」ような余裕はないのだ。

まとめ

「常識を疑え」という言葉がある。中国や韓国の常識には改竄された歴史教科書で洗脳され大脳皮質に刷り込まれたものもあるが、マスメディアが唱和して醸成した社会的雰囲気もある。先進国の常識と開発途上国の常識は異なっているのが常態であって、歴史・社会・経済等の背景を反映しない常識は存在しない。白人には白人の常識があり、黒人には黒人の常識がある。キリスト教徒、イスラム教徒、仏教徒、ヒンズー教徒、多神教徒にもそれぞれの常識がある。

世界は無味乾燥の一色ではなく色鮮やかな多色で構成されている。無理して一色に染め上げる必要はない。ユダヤ人が発明した「私以外の神を敬ってはならない」とする一神教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、共産主義、グローバリズム)は大自然の摂理に反しているから世界に災難をもたらす。大自然の摂理に敵対するユダヤの神は自らを破滅に導く。

大自然の摂理を反映した多神教は特定の神を絶対視しない。山の神、海の神、田の神、安産の神、交通安全の神等を序列化しない。それぞれに「神が宿る」と考える。

古代文明の嫡出子たる我が日本民族は無原則を原則となし、無定見を定見とみなす。人権をテーゼとする先進国(G7)の仲間入りもできるし、強権を振りかざす開発独裁国とも親しく交わることができる。一言でいうと「融通無碍」であり「超現実主義」というべきだろう。

「人類は皆兄弟」又は「人類は皆家族」(ドゥテルテ)は、排他的・排外的な一神教ではなく、異質な存在を無条件で受容する多神教の言葉であろう。

白髪爺 at 20:26|PermalinkComments(15)clip!

2016年09月07日

9.2 ウラジオストクにおける日露首脳会談は東アジアの戦後体制を掘り崩す起爆剤となるか?

はじめに

ロシアのプーチン大統領が主宰する「東方経済フォーラム」に招請され日露首脳会談を行うことにつき、米国は「参加すべきでない」と執拗な妨害工作を行った。この情報はテレビや新聞でも繰り返し報道されたから知らない者はいない。つまり、日露首脳会談はオバマ政権から「米国の国益に反する行為」と認識されていた。これが米国の国益を損なうということを意味するのか?それとも「中共の国益」を代弁したライス大統領補佐官が中共の要請を受け、又は意向を忖度してオバマ政権の外交を紊乱したのではないか?との疑念の声もある。

5月の連休中、安倍総理はソチで日露首脳会談を行ったが、以来4か月、日露両国は今回の「東方経済フォーラム」に向け緻密な検討と準備作業を行ってきた。今回の日露首脳会談は日露経済協力を深化させ、実行速度を加速させることで合意した。今回の合意は相互補完関係にある日露両国の経済協力を深化させ、北方四島の帰属問題に決着をつけることを展望する。ロシアの狙いは「中国一辺倒からの脱却」であり、我が国の狙いは成熟産業の需要を開発途上国(ミャンマー・カンボジア・アフリカ・中南米・ロシア等)に求めたとなる。

今回の「東方経済フォーラム」に招待された主な首脳は「日本と韓国」で、いずれも日本海に面している。ロシアはウラジオストークを環日本海通商の拠点に発展させたいと考えているほか、これを契機にして、日米同盟・米韓同盟に楔を打ち込む戦略を立て日韓両国首脳を招請した側面もあろう。狙いは一つではない。

第1:東アジアにおける米国の「分断支配」

ヨーロッパにおいて、米国(英国)の「仮想敵国」はソ連(ロシア)であったから、「敵と味方」の色分けに戸惑うことはなかった。米国はヨコの軍事同盟(NATO)を締結し、ソ連が率いる軍事同盟ワルシャワ条約機構軍と対峙した。

東アジアにおいて、米国は、国共内戦の途中から国民党支援から「中国の赤い星(中共)支援」に転換、中国共産主義革命を成功させた。東アジアにおいては米国の「仮想敵国」は中華人民共和国ではなかったし、国連常任理事国を国民党政権(台湾)から剥奪して中華人民共和国に贈与したこともある。米国が陰に陽に中共を保護してきたことは歴史的諸事実が立証している。つまり、ソ連邦が崩壊した1991年をもって、日米軍事同盟、米韓軍事同盟は「仮想敵国」を失ったのだ。そこで、米国は日米軍事同盟、米韓軍事同盟を維持して「日本と韓国」を管理する必要上、新生ロシアを「仮想敵国」に仕立て上げた。この幻想が崩れないよう「ロシアには接近するな」と圧力をかけ続けた。

また、米国の思惑と許容範囲を超えて日・中・韓が接近することは「米国の国益に反する行為」と認識されているから、米国は日中韓3国が接近し、団結し過ぎないよう「対立の種を蒔く」こともある。江沢民・胡錦濤・習近平が強行した「反日宣伝と反日洗脳教育」は中国共産党の反人民的性向を隠蔽する明確な意思で継続されてきた一面と、田中角栄と周恩来が米国の頭越しで推進した「日中共同宣言」に危機感を抱いた米国(キッシンジャー大統領補佐官)が、日中離間策を仕掛けたことがなかったとはいえない。米国が「日中韓を分断し、支配することは米国の国益に適う」と考えたとしても不思議ではない。さらに、米国の経済覇権に挑戦する日本国を制裁する手段の一つとして、中韓両国指導者に歴史問題を捏造させ煽動したとしても何の不思議もない。歴史問題も謀略・煽動・情報戦の一素材に過ぎないのであって、事実か否かは問題ではない。ウソも100回唱えると真実になる(ナチス党宣伝局長ゲッペルス)という世界なのだ。

「分断支配」の要諦は「団結させず、対立(紛争)を激化させない」という微温状態に止めおくことであるが、事態が米国の想定を超えて「良くない方向に傾く」こともあり得る。この場合、米国は強権的に介入し調整せざるを得ない。米国は日中韓の対立状態を温存し活用して各国を「アメとムチ」で飼いならす。米国にとって最もウマミのある「分断支配」を死守したいと考える。米国のエスタブリッシュメント(超党派)が、外交オンチのトランプ候補を非難し攻撃するのも無理はない。戦後、営々と築き上げた特権を失うのではないかと恐れているのだ。

第2:韓国は周辺大国に服属し延命を図る

東アジアにおける米国の主要同盟国(日韓)の首脳がプーチン大統領が主宰する東方経済フォーラムに招請され出席したから、米国(オバマ政権、エスタブリッシュメント)は腸が煮えくり返るほど激怒していることであろう。飼い犬(二匹)に足を噛まれたと感じているはずだ。安倍総理と朴槿恵大統領のいずれかが(米国から見て)不祥事を起こした場合は格差をつけて処遇すればよいが、日韓両国が一致してロシアに接近するのは想定の範囲外であったろう。主要同盟国を冷遇してロシア側に追い込むのも得策ではないし、米国の東アジア戦略が根本から揺らぐ。

朴槿恵大統領はオバマ大統領の意向に反して、中共が主宰するAIIBへの参加を決断、中共主宰の「反ファシズム・抗日戦勝利70周年記念の大軍事パレード」にも列席した。「米国からの離反」と「中共への擦り寄り」を鮮明に打ち出した。韓国が中国経済への依存度を高めてきたという現実と、中共が北朝鮮の核実験を阻止してくれるのではないかという甘い期待で視野が狭窄になった。北朝鮮は中共の意向を無視して核実験を強行したが、中共は国連安保理でも北朝鮮を擁護する立場を捨てることができなかった。朴槿恵大統領は半狂乱状態に陥り、即座に在韓米軍のTHAAD配備を了承した。

米韓両軍は「北朝鮮に先制攻撃を加え、核ミサイル関連施設等を破壊する合同軍事演習を行っている」といわれているが、オバマ大統領にはこの軍事作戦を実行する意思がない。単なる役割演技と底が割れているから北朝鮮も脅えていない。さらに米国の次期大統領候補各位も国益第1(孤立主義)を公約しているから、米国が朝鮮半島で先制攻撃を行う可能性も全くない。

という訳で、北朝鮮は核弾頭の小型化とミサイル技術の性能向上を進め着実に核保有国への階段を駆け上る。韓国は「核武装」と「原潜建造」で対抗したいと考えているが、米国が韓国の核武装を認めないから、朴槿恵大統領が「国家存亡の危機」と焦燥感を募らせ切歯扼腕しているのも無理はない。米国がダメなら中共、中共がダメならロシアと事大先を変えても不思議ではない。これが、周辺大国に隷属し延命を図ってきた韓族二千年の歴史なのだ。事大主義を国是とする韓国の哀しい宿命(さだめ)といってよい。

中国経済の低迷→崩壊は中国経済への依存度が高い韓国経済に深刻な打撃を与え始めた。世界有数の海運企業が破産。財閥系企業でも倒産の嵐が吹き荒れる兆しがある。もともと国民が過剰消費型(借金漬け)で、これ以上内需に期待できない開発途上国型韓国経済にとって命の綱は外需であり、世界経済の縮小(デフレ)が即、韓国経済を直撃する。反面、韓国には独力で難局を切り開く基礎体力がないから、米国・中国・日本・ロシア等周辺大国の軒下を借りて商売する以外にない。日露経済協力が具体的に動き始めたのを察知した韓国は「私も同じ船に乗りたいわ」と申し出た。いつもの手口だ。

義理人情や信義誠実のカケラもなく、名誉・報恩・羞恥の観念が欠落している韓族は、時々の「最大利益」を求め世界中を徘徊する。安保は米国に、経済は中国に依存する二股外交(ツートラック)に注力する。事大先を米中2か国から、米中日露4か国に増やして難局を切り抜けたいと考えている。彼らは「周辺大国の周囲を韓国が回っているのではなく、周辺大国が韓国の周囲を回っている」と妄想し自らを慰める。

韓族の無原則的事大主義が歴史を回転させる原動力となることもある。米国の反対を押し切って「AIIBに加盟」し、天安門楼上で中露を初め反米国家らの首脳と「反ファシズム戦争勝利70周年記念の大軍事パレード」を祝った。そして、今回、朴槿恵大統領はプーチン大統領から「東方経済フォーラムの主賓」として招待され参列した。米国が嫌がる「安倍・プーチン会談」の緩衝材役を演じてくれた。

第3:日露経済協力の推進と日露平和条約の締結が狙うもの

ロシア経済は、原油や天然ガスの暴落による国家財政の破綻、通貨ルーブルの暴落による輸入物価の急騰(インフレ)等の未曾有の危機状態にある。外貨を取り崩し又は国有財産を切り売りしている。地下資源に依存する国家(ロシア・サウジアラビア・ウズベキスタン・アフリカ・ベネズエラ・ブラジル・南アフリカ等)は国家破産の危機にある。安定した国家財政を構築するには、地下資源依存型経済から脱皮し、外資系企業を誘致し、雇用を拡大する殖産興業政策に切り替えるべきと考えている。資金を蓄え、技術を磨いてきた我が国企業に対する誘致合戦が始まった。

戦後、日本経済を牽引してきた電気・自動車・電力・原子力・鉄鋼・化学・土木・建築・商社等いわゆる成熟産業は少子高齢化が進む国内の需要では「ジリ貧」を免れることはできない。成熟産業から人工知能を活用した新たな産業構造に転換するか、又は開発途上国のインフラ整備事業に投融資して、蓄積してきた技術と眠っている資金を有効活用して稼ぐか、息の長い取り組みが求められている。

安倍総理が経団連傘下の企業経営者を伴いミャンマー、インド、ベトナム、中近東、アフリカ、中南米、中央アジアそしてロシアに出かけ経済外交を行っているのは、成熟産業を「守り」から「攻め」に転換させたいと考えているのだろう。我が国経済は円高・デフレの20年で、「輸出依存型」から、「出稼ぎ・仕送り型」に転換した。長期にわたる貿易赤字を海外からの仕送りで弁済してきた。企業は治安や法的整備が不十分な開発途上国に進出するのを躊躇するから、政府が先導して投資を促す。

ロシアにとって、日露経済協力が進展すれば、米国、EU(独仏)、中共に対する交渉力は飛躍的に向上する。専守防衛から反撃防衛に転換できる。中共から「格下の同盟国」と馬鹿にされている現状を覆し対等な中露関係を構築できる。

我が国にとって、日露経済協力が進展すれば(1)北方四島の帰属への道筋を描くことができる、(2)日米同盟の双務化を図り、防衛装備品の国産化を加速することができる、(3)安全保障面での日露対話と日露海軍の合同軍事演習を定例化することで、東シナ海・南シナ海の制海権掌握と中央アジアの属国化を狙う中共の膨張路線(一帯一路)を牽制することができる。中共が東シナ海と南シナ海で行っている制海権掌握の策動と北方・西方国境地帯(ロシア・中央アジア)の平穏維持は密接にからんでいる。中共はロシア(中央アジア)との関係が微妙になると、現代版「万里の長城」の建設に忙殺され海洋進出を狙う余裕が乏しくなる。

第4:米大統領選と長期化する米政権のレームダック状態

ヒト・モノ・カネが瞬時に世界を駆け回る忙しい現代、1年以上もかけて大統領予備選・本選を競わせ、最後まで勝ち残った者が大統領に就任するというシステムは、民主主義の極致なのか?それとも民主主義を骨抜きにするために考案されたものなのか?が問われなければならない。今回の大統領予備選で勝ち残った民主党ヒラリー候補と共和党トランプ候補の不支持率はいずれも50%を超えた。米国民は「大統領不適格者とみなすヒラリーとトランプのいずれか」を大統領に選出せざるを得ない。民意が反映されない米大統領選は民主主義といえるのか?

トランプは大衆迎合主義の煽動で勝ち残り、ヒラリーは国務長官時代の国家機密情報の漏洩疑惑問題やエスタブリッシュメントに対する忌避感情の高まりによってサンダース候補に苦戦。ウォール街の金融資本から集めた数千億円の政治献金を活用し、マスメディアを総動員しているが人気は低迷したままだ。米国民は多くが、ヒラリー陣営とトランプ陣営の暴露合戦に「もう少し、米国の明るい未来を語る政策論争をしてよ」と感じているはずだ。

良質な候補が振るい落とされ、もっとも質(たち)の悪い候補が勝ち残るシステムには重大な欠陥がある。ウォール街の金融資本が「民主主義らしく見える手法」を編み出して大統領を選出するシステムを考案したのではなかろうか。知恵のある大統領よりも操り易い阿呆の大統領が選出されるようにだ。英明な指導者、例えば、リンカーンやケネディのように金融資本に歯向かうような大統領は国民多数からは歓迎されるであろうが、金融資本の利権を脅かすこともある。

米大統領の任期満了1年前から、マスメディアは大統領予備選・本選を取り上げ喧伝する。情報操作によって、米国民の関心は現在進行中の政治ではなく大統領選に向かう。大統領のレームダック状態は任期満了の1年以上も前から始まる。オバマ大統領は「核廃絶」の呪文を唱え、レガシーづくりに励む。オバマ大統領の8年は「リーマン・ショックからの経済立て直し」以外にめぼしい成果がない。外交は迷走し、全戦線で退却一路の道程であった。米国の権威は失墜、同盟国は離反傾向を強め、米国の勢力圏は縮小した。

列強は米大統領の長過ぎるレームダック状態(有効な対策がとれない)を奇貨とし、米国に対抗して利権や勢力圏拡大を企てる。昆虫が古い甲殻を脱ぎ捨てる(脱皮)時間は外敵に狙われ易い危険な状態であるが、国家でも政権交代時のレームダック状態はなるべく短期間で終え、すみやかに新政権を樹立すべきなのだ。1年以上もかけて大統領選を行うなんてマンガというほかはない。

第5:日露平和条約の締結は戦後体制を変える

戦後、我が国は連合国軍司令部(GHQ)の軍政下に置かれ主権を剥奪されたが、朝鮮戦争(1950−1953)の最中に、米英仏等当時の西側陣営49か国との間でサンフランシスコ講和条約を締結して独立を回復した。ソ連邦とは日ソ共同宣言(1956)によって、一応国交回復したものの、北方四島の帰属を巡って合意に達しなかった。同宣言9項で「引き続き、平和条約交渉を行う」と明記されたが、諸般の事情により一歩も前進せず60年が過ぎた。

米ソ冷戦下、我が日本列島は東西対立の最前線であったから、自衛隊は在日米軍(太平洋軍)の補完部隊として育成され活用された。自衛隊は北海道に重点配備され、ソ連原子力潜水艦の動向を探知する偵察機を米国から大量購入した。結果、我が海自は世界有数の対潜水艦作戦部隊に成長した。冷戦時代、米国が日露接近を喜ばず、妨害したのも(米国から見ると)合理的な理由があったといえるが、冷戦終了後も、米国が日露接近を喜ばず妨害するのはなぜか?が問われなければならない。

戦後、我が日本列島の安全保障は世界最大・最強の軍事力を有する米4軍(陸・海・空・海兵隊)に全面的に委任することを基本とした。日本国憲法第9条は「日本国の安全保障を米第7艦隊を初めとする在日米軍に委ね、日本国を米国の軍事統制下に置くこと」が前提となっていた。サンフランシスコ講和条約の施行日と同日付けで旧日米安保条約が締結されたのも、連合国軍(GHQ)による軍事占領体制を日本国の独立以降も温存するためであった。

以来65年。現在でも、首都圏に厚木(海軍)・横田(空軍)・座間キャンプ(陸軍)・横須賀(海軍)の米軍基地がある。米国務長官や米太平洋軍(艦隊)司令官はいつでも米空軍横田基地から入国できる。(我が国から見て)超法規的存在たる米太平洋軍(艦隊)は70年前と同じ感覚で、日本国の安全保障を担っていると考えている。彼らの70年前の意識は現在でも変わっていない。戦後、我が国の独立承認と抱合せで成立した「日米安保体制」は開閉扉のない密室空間であったから、いかに理不尽と思えるジャパン・バッシング(虐待)にも我慢せざるを得なかった。「日米同盟以外の選択肢を考えてはならない」とされた。

米国が「日本国を隷属させ、密室に囲い込んで独占するという特権」を自らの意思で手放すことはあり得ない。日露平和条約の締結が日米同盟の枠組みを壊すことはあり得ないが、日米同盟の密室空間に扉を設け、行動の選択肢を拡大する効果は期待できる。米国の孤立主義(不関与主義)がさらに深化すれば、自由に外部世界を闊歩できる日が早まるかもしれぬ。それまでは、大喧嘩を避けて穏便に事を運び「なし崩す」以外にない。黒人奴隷は白人の恩寵によって解放されたのではない。仮に、黒人奴隷が白人の恩寵を待っていただけであれば永遠に解放されなかった。黒人が自らの意思で奴隷解放運動を担い、多くの尊い血を流すことで勝ち得たのだ。「求めよ、さらば与えられん」だ。

まとめ

4・5年前、胡錦濤とプーチンが「米国の一極支配は許さない」と鶏冠(とさか)を立てて走り回っていたが、2016年夏、「米国の一極支配」という言葉を使う者はいない、死語になった。

第2期オバマ政権は「シリア国民を毒ガス兵器で虐殺したアサド政権を処罰するとの国際公約を履行できず放置した件」によって米国の権威を大きく失墜させた。世界は、米国の経済力・軍事力が世界の警察官(覇権国家)としての役割を背負うことができないほど弱体化している「現実」を知った。

習近平やプーチンが米オバマ大統領を見下すかの如き「露骨な嫌がらせ」を示して見せるのも、米国の権威をさらに傷つけようと企てているからにほかならない。レームダック状態のオバマ大統領を怒らせても、奴は何もできないだろうと。お願いする側は米国、嘆願を受け付け善処してやる側は中露両大国と考えている。

米国の同盟国は「国益第1」を優先するようになった。

1.欧州においては、独仏が米国の頭越しにロシアと談合してウクライナの停戦合意を決めた。中国が主宰して立ち上げたアジアインフラ投資銀行(AIIB)には、米国の意向を無視して、英国初め欧州連合主要国が雪崩をうって参加した。

2.中東においては、オバマ政権の「アサド政権に対する中途半端な対応」と「核保有国を目指しているイランへの融和策」がイスラエル・サウジ・トルコなど同盟国を窮地に追い込んだ。オバマ政権の二股外交に翻弄された同盟国はロシアや中共に接近し「米国一辺倒」からの脱却に踏み出した。

3.東アジアにおいては、韓国朴槿恵政権が米国の要請よりも中共の要求を優越させて「AIIB」に加盟、「反ファシズム等70周年大軍事パレード」にも参列。我が安倍内閣は米国の執拗な反対を押し切って日露首脳会談を繰り返す。

米国と同盟国間に意思の不疎通が生まれた背景は米国(英国)の国益と同盟国の国益が一致しなくなったということだろう。ロシア(ウクライナ)、イラン(シリア)及び中国の脅威は米国にとっては「観念」に過ぎないが、同盟国にとっては「切実な死活問題」なのだ。米国には二股外交(ダブルスタンダード)を取捨選択する余地があるが、同盟国は逃げ場のない「背水の陣」で対応せざるを得ない。

安倍総理が日米同盟基軸を堅持しつつ、豪州・インド・ベトナム・フィリピン・タイとの軍事交流を深め、中共と韓国、中共とロシアの蜜月関係に楔を打ち込み離間させる外交を仕掛けているのも、中共の推進する膨張主義を最大の脅威と考えているからだ。油断すると中共は戦争を仕掛けてくるかもしれぬと。

我が国はようやく防衛ラインの重心を北海道から南西諸島に移動させた。ソ連が最大の脅威であった冷戦型から、中国が最大の脅威となった21世紀型に相応した防衛ラインを構築することになった。ひとたび、日中間で緊急事態(戦争)が発生すれば、陸自の対艦・対空ミサイル、海自のイージス艦(護衛艦)と哨戒機、空自の戦闘機、そして潜水艦部隊が連携して日本列島の全海峡を幾重にも封鎖できるよう態勢を整える。日米潜水艦部隊は連携してフィリピン・バシー海峡を封鎖する。中国の暴走を抑止するのは核武装だけではない、インド・ベトナム・韓国・ロシアとの連携だけでもない。中共の軍艦や戦闘機だけではなく、中国に出入国するすべての船舶や漁船の通行禁止、民間航空機の通行禁止等の全面的「経済封鎖」を実行できるよう態勢を整備しておくことが中国の暴走を食い止める最大の武器となる。この経済封鎖が断行されたならば中国経済は数ヶ月で崩壊する。

世界には、米国に代わって秩序を形成するだけの能力を有する超大国がいない、群雄割拠時代といってよい。テーマごとに離合集散を繰り返す不安定な世界だ。列強が生き残りを賭けて権謀術数を駆使する戦国乱世にあっては、優柔不断な理想主義者の出番はない。

無差別空爆、無差別テロ、武力による弾圧(虐殺)と武装蜂起等、暴力肯定の思想が世界を闊歩する。戦国乱世では「奸智に長けた国」が栄え、生き延びるという原則もない。誰からも信頼されず、「カネを配って友達になってもらう関係」は親密そうに見えても長続きしない、カネの切れ目が縁の切れ目となる。

信義誠実、真実一路を貫きながら、かつ敵の奸計にハメラレないよう知恵を磨きながら、着実に信用を獲得した国が将来のリーダーとなる。「愚鈍さ」を貫徹しながら、情況に応じて「身軽」に対応できる柔軟さを兼ね備えた国が将来のリーダーとなる。



白髪爺 at 04:55|PermalinkComments(9)clip!

2016年08月23日

新興大国の勃興と斜陽化する覇権国家が対峙する帝国主義時代の地政学

はじめに

地球儀を俯瞰する地理的戦略思想家の先駆けとされる英国のハルフォード・マッキンダー(1861−1947)は、七つの海の制海権と世界最大の植民地を領有した大英帝国が絶頂期を過ぎ斜陽化する時代に活躍した。

19世紀中葉以降の世界情勢を概観すると、プロイセン国王を盟主とするドイツ帝国の誕生(1871−1918)、ロシアの中央アジア侵攻(1868)、同シベリア鉄道着工、同満州(中国東北部)に対する鉄道敷設権入手(1896)と鉄道二路線完成(−1903)、日清戦争(1894)、日英同盟(1902)、日露戦争(1904)、辛亥革命(1911)、米国によるハワイ王国併合・米西戦争に勝利した米国がグアム、フィリピン、バハマ諸島を植民地化(1898)など、帝国主義列強による「勢力圏争奪戦」が激化していた。

ハルフォード・マッキンダーは「西欧におけるドイツ帝国の膨張、中央アジアと東アジアにおける帝政ロシアの南下、太平洋の制海権を掌握した米国、そして東アジアの巨龍「清」の大海軍を壊滅させた大日本帝国海軍。これら新興大国を抑え込む力は斜陽の大英帝国にはなかったから、大英帝国が覇権国家の特権を維持し、又は大英帝国存亡の危機を乗り越えるためには、シーパワー(日・米・仏)との連携を強化しランドパワー(独・露)に対抗せざるを得ない」と考えた。日英同盟を締結してロシアの南下を食い止め、第一次・第二次世界大戦ではランドパワー(独・露)の分断工作を仕掛けて成功、大英帝国の滅亡をかろうじて防ぐことができた。

21世紀、衰退しつつある覇権国家は米国、台頭する列強は「日・独(欧)・露・中・印」の5か国。英仏両国にはシーパワー又はランドパワーを率いる力はないから、米国に追随するか(英)、又はドイツと提携するか(仏)で急場をしのぐほかはない。

第1:2016年の地政学

マッキンダーは帝政ロシアを「中軸地帯(ハートランド)」とみなし、大陸欧州(ドイツ帝国等)を「内側の三日月地帯」と位置づけ、海洋(海軍)国家たる英国を「外側の三日月地帯」に分類した。英国はロシアや大陸欧州と提携するのではなく海洋国家(日米等)との同盟を進めるべきとした。先般、英国が国民投票によって「EUからの離脱」を決めた背景は「ヒト・モノ・カネの自由化是か非か」を問う(グローバリズムか?ナショナリズムか?)が主要な争点とされたから、英国民の深層心理に根深く残っている「大陸欧州への違和感」が国民投票に影響を与えたことは間違いない。「ヒトはパンのみにて生きるにあらず」という面もある。

英国民は欧州連合(EU)に残留し、その一員としての役割を担い続ける心理的負担を耐え忍ぶよりも、誰に気兼ねすることなく、自己の意思に従って、自由に行動できる道を選んだ。そもそも、法律の条文で「権利と義務」を細かく規定され、行動に枠をはめられて生きるのはアングロサクソンの体質に合わない。情勢の変化に応じて臨機応変・融通無碍に生きるところに人生の醍醐味があるのであって、「杓子定規で面白みがない生き方はドイツ人に任せておけばよい」と考える。ドイツ観念論とイギリス経験論は永遠に交わることができない異質な文明なのだ。

第2:欧州連合(EU)にとって「最大の脅威」はロシア

欧州連合(EU)とロシアの周辺国にとっては、昔も今も、「最大の脅威」はロシアであった。ロシアの領土拡張欲求は半端ではなく、東は太平洋、西はバルト海、北は北極海、南は黒海(カスピ海)に至る広大な国土を領有する。ソ連邦時代は東欧や南カフカス、中央アジアまで領土・勢力圏を拡大した。この民族的性向は時代を超え、体制を超えて継承されている。

ソ連邦解体によって国土の相当部分を失ったロシア、欧州連合(EU)の東方拡大によって国土防衛戦に追い込まれたロシアは「窮鼠猫を噛む」の例え通り反転攻勢に打って出た。まず、ジョージア(グルジア)に戦争を仕掛けて一部を奪取、ウクライナの内戦を奇貨としてクリミア半島を併合、目下、ウクライナの内戦に介入、親欧米政権を打倒し親露政権を樹立する明確な意思をもって持久戦を展開中。

ロシアは寄せては返す波の如く耐久レースを続けるほか、欧米とトルコ(エルドアン大統領)の関係悪化を奇貨としてトルコ取り込みを画策中。イラン・イラク・シリア・トルコをロシアの同盟国・友好国に囲い込むことができれば、中東全域から欧米の影響力を駆逐できる。さらにロシアは欧州連合(EU)の民族主義派を支援して内部対立を煽り、EU内部から切り崩す戦略を打ち出した。英国が「EUからの離脱」を決めたのはロシアにとっては望外の成果であり、プーチンも「ようやくツキ(幸運の女神)が巡ってきた」とニンマリしたはずだ。

8月23日、独仏伊3か国首脳がフランスの空母艦上で密談。「英国が離脱した後のEUの在り方について協議した」とされるが、もとよりそれだけではない。米英やイスラエルの諜報機関による盗聴を防止する必要があって首脳会談が空母艦上で行われた。独仏伊3か国首脳は「ユダヤ・アングロサクソン同盟に知られたくない特別の機密事項(対米英・対露)」について協議した。大陸欧州は英国という重荷がなくなったから外交と安全保障戦略の自由度を確保できると考えている。一方、米国は盟友「大陸欧州」が米国の引力圏を超えて天高く飛び出すことを何よりも恐れている。

東アジアと中国(中共)の周辺国にとっては、中国(中共)が最大の脅威である事実は昔も今も変わらない。中国(中共)はASEAN等周辺国家のヨコの連携を遮断し、各個撃破(二国間交渉)して従属させ、領土・領海・領空を拡大すべく着々と布石を打ち、既成事実を積み重ねてきた。周辺国は経済的恩恵(アメ)と恫喝(ムチ)で脅迫され身動きがとれない。中国(中共)に正面切って文句が言え、防衛力増強を含む対抗措置をとっているのは日本、ベトナム、インド位のもので、韓国を初めその他大勢は泣き寝入りを強いられている。

つまり、欧州連合にとって最大の懸念材料(仮想敵国)はロシアであって中国(中共)ではない。したがって、欧州各国が中国(中共)との経済関係を深め「対露包囲網」の結成を推進しても何の不思議もないし、遠交近攻に適った合理的な戦略といえる。

第3:東アジア・南アジアにとって「最大の脅威」は中共(中国)

東アジア及び南アジアにとって最大の懸念材料は「武力を振り回す中共」であってロシアではない。インドやベトナムが日米に接近しながら同時にロシアとの「準軍事同盟関係」を維持しているのも、そして、我が国がフィリピン、ベトナム、インドとの軍事交流を推進し、日露平和条約締結に向けて注力するのも、「中露蜜月」に楔を打ち込み、離間工作を仕掛けているということだ。傍若無人で国際法を無視し、武力を振り回して恫喝する「中共(中国)」は東アジア、南アジア、中央アジアにおける「最大の脅威」とみなされている。周辺国が「対中包囲網」の結成に取り組むのも自然の成り行きで、遠交近攻に適った合理的な判断だ。

一方、中共(中国)が韓国、ミャンマー、タイ、カンボジア、ラオス、マレーシア、フィリピン、インドネシア等中国への経済依存度が高い周辺国を懐柔し、又は恫喝して中華冊封体制に組入れたいと画策しているのも、合従連衡策の現代版であって不思議なことは一つもない。1対1で弱小国を威嚇し各個撃破して屈服させる計略だ。

第4:米国の仮想敵国はロシア、中共(中国)は友好国待遇?

米国(共和党・民主党)のエスタブリッシュメントにとって「最大の脅威」はロシアであって中共(中国)でないことは誰でも知っている。米国のエスタブリッシュメントは中共(中国)を「倒すべき敵」と考えたことは一度もない。米中は利益を分け合い、手を携え前に進む仲間と考えている。米太平洋艦隊はハワイ沖で実施している「自由と民主主義の価値観を共有する海軍の合同軍事演習(リムパック)」に、2015年から中共海軍を招待し参加させた。これが米中関係の本質なのだ。

米国は「敵と味方を混同した中東政策」の失敗によってイスラエル、トルコ、サウジアラビア等主要同盟国の信頼を失った。同じく、米国は東アジア・南アジアにおいても、主要同盟国・友好国の信頼を失う。目下、中東全域がロシア勢力圏に組み込まれる様相を呈しているが、東アジア・南アジアにおいても、近未来、同盟国・友好国の信頼を失うであろう米国に代わってロシアが「対中包囲網」の結成を主導する。ロシアはそのための準備作業に着手した感じだ。

プーチンは欧米(とりわけ米英)の「対露経済制裁・対露包囲網」の圧力を緩和すべく中露接近を図っているが、欧州戦線と中東戦線に一定の目処が立てば、そして「対露経済制裁」を一定程度緩和させることができれば、中露関係を是正し本格的に東アジア攻略に取り組む。

第5:ユダヤ・アングロサクソン同盟の落日

「EUからの離脱」によって、欧州における英国の政治的・経済的・外交的影響力は急速に低下する。英国が抜けた欧州連合(EU)は米英(外側の三日月地帯)とロシア(ハートランド)の中間(内側の三日月地帯)にあって独自外交に踏み出す。NATOの形骸化がさらに進む。

かって米国は軍事力と経済力で世界に屹立していたが今や見る影もないほど零落した。比較優位の経済力と相対的に優勢な軍事力だけでは7つの海の制海権を維持することは不可能で、かつ覇権国家としての特権(通貨発行特権・ルール制定権)を保持することも困難だろう。米国の頼るべき同盟国が欧州の孤児英国と我が国だけというのも自然の摂理とはいえ哀しすぎる。

日米軍事同盟は「保護と被保護」「矛と盾」の役割分担型から、「協同防衛・協同反撃」の双務型に変質した。自衛隊は今後、「専守防衛用」から「反撃防衛用」へ、そして「先制攻撃用」へと装備の重心を移さざるを得ない。何事も「事実先行」であって法律改正は事後承認の手続きに過ぎない。敵国の核ミサイルが10分後に到達するという時代なのに、何十年もかけて小田原評定をやっている場合ではない。国家・国民が生き残るために必要であれば国家はいつでも超法規的措置をとることができる(自然権)と解すべきだ。

まとめ

中共(中国)は「米国に代わって覇権国家となり、中国が世界を思いどおりに動かしたい」と考え着々と布石を打っているのに対し、米国のエスタブリッシュメント(民主党・共和党)の多くが、不可解なことに「中国との共存共栄」を唱えている。中国共産党が米国の政界・官界にばら撒いているカネがその威力を発揮しているのだろう。私益優先の米国と中共は「地獄の沙汰もカネ次第」というカネ万能社会だ。彼らには「国益」という観念はない、ただ「私益又は一族郎党益」があるだけ。

8月21日付け日本経済新聞は、クリントン米大統領候補の有力な外交参謀の一人ジェームス・スタヴリディス(NATO元最高指揮官)の国際情勢に対する認識と米国の安全保障戦略についての見解を報じた。この中で彼は

1.プーチン大統領の訪日について

「対話」はいつの世でも良いものだ。技術的(国際法上)、まだ戦争状態にあるともいえる日本とロシアの関係について、議論を続けることもよい。北方領土問題について話し合いを持つことも意味がある。この問題で米国は100%日本の側にいる。

以上は米国の真意ではない。鳩山一郎内閣が日ソ平和条約の締結交渉に注力し妥結寸前に至った段階で、米国の強力な圧力によって頓挫させられたことがあった。橋本龍太郎総理・森喜徳輙も日露交渉に尽力したがいずれも米国の頑強な反対に遭遇し潰されたといわれている。安倍総理は米国の反対を押し切ってソチ五輪に参列し、さらに日露経済協力の具体化とプーチン大統領訪日を実現すべく布石を打っているが、これを妨害して潰すべく画策している張本人が米国であることを知らないものはいない。

米ソ冷戦時代であればともかく、冷戦が終了した1991年以降も、米国歴代政権が「日露接近」を喜ばず、執拗な妨害工作を仕掛けている。これが日露関係・日朝関係が進展しない背景なのだ。我が国にとって唯一の同盟国(米)が我が国の自立外交を妨げる元凶なのだ。

2.一方、スタヴリデスは「安倍首相はとても洗練された政治家であり」と持ち上げつつ、「彼とプーチン氏の対話が我々を間違った方向に導くものではないと思う」と警戒心を隠さない。日米同盟の土台を掘り崩すことは許さないと脅しをかけた。さらに「プーチン氏が抱えている数々の問題を鑑みれば(訪日によって)多くの進展があるという見方には懐疑的にならざるを得ない」と牽制する。要するに、「ロシアに対する経済制裁を骨抜きにするような取引はするな」と恫喝しているのだ。

なぜ?米国はロシアと同じく「力による現状変更」を行っている中共(中国)に対しては無罪放免して最恵国待遇扱いを維持しながら、さらに中国との経済的・金融的連携を深めている英独には何らの注文をつけないのに、日露平和条約締結に向けた日露関係の改善を妨害するとはいかなる了見なのか?いかなる正当な理由があるのか?我が国を永遠に「米国の忠犬ポチ」として繋ぎとめ、使い捨てるつもりなのか?

3.独メルケル首相について

スタヴリデスは「メルケル首相はクリミア問題に関する対露政策については厳しい姿勢を貫くと思う。彼女こそ、この制裁において欧州連合を団結させている要だ」と賛美してみせる。しかし、独仏露3か国は談合して、米英の頭越しにウクライナ休戦を締結したことがある。さらに、CIAがメルケル首相個人の携帯電話を盗聴し米独の政治問題に発展したこともあった。米独関係は「疑心暗鬼」の微妙な関係であって、形式上は同盟関係にあるが、内実は「寝首を掻くかもしれない」と恐れている間柄なのだ。米国にとってドイツは「欧州最大の仮想敵国」であり、米国にとって日本は「アジア最大の仮想敵国」と位置づけられている。

戦後72年、冷戦終了後25年、現在でも、米国は我が国とドイツに世界最大規模の兵力を駐留させている。しかし、日米関係の力関係や米独関係の力関係が変化すれば、自ずから駐留米軍の役割も変質する。駐留米軍は監督者から同盟者へ、そしてトランプが主張する米軍の駐留経費の全額負担を受け入れたならば、駐留米軍は「傭兵」となる。

スタヴリディスは「独露による電撃的な握手はあり得ない。ドイツの友人達はこの問題について、自らの立場を堅持する術にたけている」と述べた。

現実主義者独メルケル首相は米国との正面衝突を巧みに避けながら、かつ周辺国の警戒心を煽らないよう留意して「米国の要請」を受け入れる方式でドイツ軍の増強を行っている。先般は米国の要請を受けてドイツ軍10万人の増員を行うと表明。我が国も「米国の要請」を待って、安全保障体制を整備し、ミサイル防衛網を構築し、独自の情報収拾態勢を整備する。

戦争に負けた国が名実ともに主権を回復するのは容易ではない。臥薪嘗胆して力を蓄え、好機が到来するのを待たねばならない。高みに達するには、石段を一段づつ登るほかはないと諦観し、一足飛びに何十段も飛び越えるが如き「一か八か」の夢に賭けるべきではない。人生は賭博ではない。

「待てば海路の日和あり」という。その内、霧が晴れ、風がおさまることもある。ボス猿の任期は「2期6年」と決まっている訳ではないが「体力次第で任期が決まる」というのが大自然の摂理だろう。

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2016年08月06日

小池ゆりこは、石原一家の縄張りを切り崩す刺客だったのか?小池候補に圧勝をもたらした「神の見えざる手」を考える。

はじめに

都知事を4期十余年も続けると、良かれ悪しかれ、都政が石原一家の縄張り化するのは避けられない。石原知事(当時)が登庁するのは週に2日であったというから、実務の大半は副知事と各部門官僚(局長以下)に「おまかせ」であった。「狡賢い官僚」は責任を分散すべく事前に、都議会議員団(与野党)に根回しすることを怠らなかった。結果、「官僚と議会(特に自民党都議団)の談合と取引」という非制度的な慣行が制度化した。法律で決められている手続と役割分担が軽視され談合政治が常態となった。

石原慎太郎法皇は朝外にあって、官僚に対する絶大な影響力を駆使して君臨した。石原一家の跡目相続人石原伸晃は自民党東京都連会長として自民党都議会を統括した。石原親子は役割分担して官僚と都議会に対する絶大な影響力を行使した。後継に指名された猪瀬知事(当時)、さらに同知事が収賄等の嫌疑で辞職に追い込まれた直後、急遽登板した舛添知事(当時)を囲い込み傀儡化した。官僚組織と自民党都議団に敵対する知事は職務を全うできないという不文律が定着した。

小池ゆりこがいう「ブラックボックス」は自民党都連の手続が不分明というだけではなく、「都政全般が不分明」という意味なのだ。小池ゆりこは「情報を公開することで、談合・慣れ合いによる利権政治から適正手続による公明正大な政治に転換させよう」と訴え都民の支持を得た。その代わり、これまで甘い汁を吸ってきた石原慎太郎法皇から「厚化粧した年増の女」と誹謗中傷された。既得権を奪われる側も必死だ。

第1:都知事選の経緯

小池候補は増田候補(自民・公明・こころ推薦)と鳥越候補(共産・民進・社民・生活推薦)に挟撃され孤立無援の戦いを始めた。小池候補は「天涯から飛び降りる心境」と語った。討ち死に覚悟の「背水の陣」で臨んだ都知事選であった。

政治的経験が豊富で知名度抜群の小池候補であるが、圧倒的な組織力を誇る増田候補陣営及び鳥越候補陣営と五分以上の戦いをするのは容易ではなかった。公示後、小池候補支援の輪は徐々に広がったというが、それでも「追風が吹いた」という雰囲気はなかった。最終的に小池候補は第2順位の増田候補に100万票以上の大差を、第3順位の鳥越候補にダブルスコアーの大差をつけて圧勝した。小池候補がどんぐりの背比べ競争を抜け出し圧勝することができたのはなぜか?

マスメディアやジャーナリストによれば、小池候補の勝因は(1)与野党が参院選開票後に推薦候補者を決める以前に、マスメディアを独占し、利用した巧みな選挙戦術、(2)自民党東京都連(都議会)を「悪の巣窟」に見立て、世直しに邁進する劇場型選挙(小池ゆりこは「正義の味方」)、(3)敵失。自民党都連が石原会長と内田幹事長の連名で「議員や家族が党推薦以外の候補(小池候補)を支援した場合除名処分に付する」との脅迫文書を発出したとの記事がコピーで大々的に報道され、ブーメランとなって増田候補陣営を直撃した(4)石原慎太郎元都知事が小池候補を「厚化粧の年増女」と罵倒したとの記事がマスメディアで大々的に取り上げられ、繰り返し報道されたため、増田候補に対するイメージが悪化した。(4)小池候補は増田候補や鳥越候補のように政策を「上から目線」で提示するのではなく、オバマ流の「Yes We Can」と同じく、都民の目線に立って「一緒に改革しましょう」と呼びかけた。小池候補の勝因は小池ゆりこの政治的感性の秀逸さと卓越した選挙戦術にあるというのである。

小池候補がさまざまな政党を渡り歩き、場数を踏み、政治的駆け引きに磨きをかけていることは間違いないとしても、今回の都知事選では大した追風が吹いたともいえないのに、これほどの大差をつけて圧勝するためには、他に理由があったと見るべきだろう。「勝ちに不思議の勝ちあり」というから、人智を超えた「神の見えざる手が働いた」と考えるほかはない。

第2:神の見えざる手か?

投票日の10日前(7月21日)、週刊文春は「14年前、鳥越候補は若い女性を別荘に連れ込み卑猥な行為に及んだ」との記事を大々的に報じた。この情報は「電車の吊り広告」や「各紙掲載の宣伝広告」となって拡散、雰囲気を一変させた。結果、まず鳥越候補が脱落した。

鳥越候補を擁立した民進党や共産党は週刊文春の記事を「選挙妨害」とみなして東京地検に告発。憲法第21条でいう「・・言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」という規定と公職選挙法がからみあう微妙なケースだ。しかし、週刊文春の記事が選挙中盤の山場で報道されたから、有権者が鳥越候補の資質に重大な懸念を感じたことは間違いないし、実際、鳥越候補に対する女性の支持率が10ポイント以上も急落した。さらに、投票日の3日前(7月28日)、週刊新潮が鳥越候補がかって(20数年前)女子大生を別荘に連れ込み、わいせつ行為に及んだとの記事を掲載、追い打ちをかけた。「鳥越候補は当選させない」との明確な意思をもって緻密に練り上げられた情報戦とみなしてよい。

周知の通り、週刊文春や週刊新潮は「政治家や著名人の素行や非行を暴露して販売部数を伸ばす」という売上至上主義の週刊誌だ。彼らが標的とするのは内閣、政治家、芸人等、いわゆる著名人で右でも左でも関係ない。しかるに、彼らが政治色の濃厚な記事を掲載するときは、依頼者から高額の報酬(記事掲載費)をもらっていると推定できる。商売のネタを発掘する費用(取材費)も不要で、かつ販売部数を何倍にも伸ばすことができるから一石二鳥のおいしい話なのだ。一度食ったら依存症になる。

鳥越候補の卑猥な行為を報道するよう週刊文春に持ちかけ、実行させたのは何者なのか?選挙妨害又は違法すれすれの大胆不敵な行為を週刊文春に促したのは何者なのか?

通常、都市部の選挙では、雰囲気(風向き)に流されて投票する有権者が少なくないといわれている。さらに、日頃から、仕事を介して、名前と顔を売っているアナウンサーやコメンテーターは集票力が高いと見られている。今回の都知事選では当初、鳥越候補と小池候補が浮動票獲得のゼロ・サムゲームを展開すると想定されていた。鳥越候補を見捨てた有権者は「増田候補」には向かわず「小池候補」に流れると想定されていた。日本共産党支持者や民進党支持者の相当数が「小池候補」に流れたのもその証拠。

つまり、週刊文春(週刊新潮)に鳥越候補の素行や不良行為を暴露し掲載させた何者かの狙いは「鳥越候補を落選させること」にあった。小池候補が漁夫の利を得る立場にあった。神(かみ)の見えざる手が働き、小池候補に幸運を呼び込んだ。さらに、投票日の3日前(28日)に発行された週刊文春8月4日号は、増田候補の主力応援団自民党都連内田幹事長の「芳しくない素行歴」を大々的に報じた。まず鳥越候補を潰し、しかる後に増田候補に打撃を与えるという作戦が実行された。

第3:小池ゆりこの選挙スタンス

2015年11月22日、大阪市長、大阪府知事を選ぶ、いわゆる大阪ダブル選が行われた。結果、大阪市長選では橋下徹の後継者おおさか維新の会推薦の吉村洋文候補が約59万票を獲得し、自民・民主・共産・社民・生活等の既成全政党が推薦又は支持する柳本あきら候補・自民(約40万票獲得)を圧倒した。大阪府知事選ではおおさか維新の会推薦の現職松井一郎知事が自民党推薦候補にダブルスコアーの大差をつけて圧勝。出口調査によれば、いずれの選挙でも、自民党支持者の半数以上がおおさか維新の会候補に投票したとされている。

大阪ダブル選の特徴は(1)おおさか維新の会が既成の全政党と対決して戦ったこと、(2)おおさか維新の会候補は安倍内閣の政策を評価する一方、共産党と共闘した「自民党大阪府連(当時)」を悪の巣窟とみなし、徹底的に批判し自民党支持者の取り込みを図ったことだ。

自民党本部は大阪ダブル選挙を勝ち抜くべく、谷垣幹事長、石破地方創生相、稲田政調会長(いずれも当時)ら多数の党幹部や国会議員を大阪に送り込み総力戦を戦ったが、自民党支持者の過半数の離反を招き大敗した。自民党大阪府連執行部は惨敗の責任をとって総辞職し解体的出直しに追い込まれた。

選挙期間中、安倍総理(自民党総裁)は所用のため神戸や和歌山を巡回していたから、自民党推薦候補の応援演説を行う時間的余裕はあったと推測されるが、安倍総理は大阪府連の度重なる要請に応じなかった。負けることが分かっている地方の首長選に総理が首を突っ込む政治的ダメージを恐れたのか?あるいは「おおさか維新の会」との義理を優越したのか?あるいは、当時の自民党大阪府連は「おおさか維新の会打倒」の旗を掲げ、宿敵たるべき日本共産党(安倍内閣打倒を党是とする)と野合していたから、お灸をすえる必要があると考えたのか?真偽は明らかではない。

7月上旬、小池ゆりこは都知事選出馬にあたり、安倍内閣の主要政策「デフレからの脱却をめざすアベノミクス」と「女性が輝く社会の実現」は共感できると表明。「安倍内閣は善だが、自民党東京都連は悪」という大阪ダブル選と同じ構図の戦闘態勢を敷いた。都知事選では谷垣幹事長に代わって菅官房長官が増田候補応援の陣頭指揮をとったほか、系列の国会議員、都議会議員、区議会議員、区長、市町村長を総動員して増田候補の選挙活動に注力した。

一方、安倍総理(自民党総裁)は大阪ダブル選への対応と同じく増田候補を応援する街頭演説に参加せず。敗戦が見込まれていた増田候補の応援に躊躇したのか?それとも、東京都の行政・議会・企業の持ちつ持たれつの爛れた関係を勘案すると、新都知事は調整役の増田候補よりも、突破力・破壊力のある小池候補の方が適任と考えのか?いずれにせよ、「小池候補」は「大阪ダブル選」と同じく自民党支持者の過半を取り込んで圧勝できた。これを称して「レジャビュー(既視感)」という。

小泉純一郎は「自民党をぶっ壊す」と叫んで、抵抗勢力を党外に放逐して郵政民営化の是非を問う解散を仕掛けた。抵抗勢力の選挙区に刺客を送り込み落選させた。小池ゆりこは「刺客1号」として東京10区に送り込まれ勝ち抜いた。

安倍晋三には小泉純一郎のような劇場型の華々しさはない。時間をかけて政敵を追い込む「ユデガエル方式」を愛用しているように見える。異端児や異端政党をテコに自民党の悪しき金権腐敗体質にメスを入れたい(自浄)と考えているように見える。安倍総理・菅官房長官とおおさか維新の会は「ウインウインの関係」、安倍総理・二階幹事長と小池都知事も「ウインウインの関係」を目指しているのであろうか?

第4:小池ゆりこが都知事選立候補にあたり相談した相手(1人)とは?

小池ゆりこは今回の都知事選立候補に当たって「相談したのは1人」と述べた。乾坤一擲の大勝負を賭ける境地で相談する候補は、政治家に抜擢してくれた旧日本新党細川護熙党首、旧新進党・旧自由党小沢一郎党首、環境大臣に抜擢してくれた小泉純一郎元総理、女性初めての防衛大臣(第1次安倍内閣)に抜擢してくれた安倍晋三総理、そして4年前、自民党総裁選の最有力馬であった石破茂であろう。

「機を見るに敏」で政治感覚に優れた小池ゆりこが、今や政治的影響力がゼロの細川護熙、小泉純一郎、小沢一郎に相談した可能性はない。何のメリットもないからだ。4年前の自民党総裁選で安倍晋三に敗れた石破茂は、2年前、No.2の自民党幹事長から「地方創生担当国務大臣」に取り込まれ、政治的影響力を失い影が徐々に薄くなった。小池ゆりこが人生最後の勝負を賭ける都知事選立候補に際し、落ち目の石破茂に相談した可能性も低い。小池ゆりこが直接又は人を介して相談した相手は最高権力者安倍晋三総理以外にない。

一昨日だったか、テレビ番組で、下村博文(当時安倍総裁特別補佐)は「私は小池さんとは選挙区が隣接し親しく接してきた。今回の件で小池さんから相談されたことは事実」と告白した。下村博文は「友人」として相談されたのか、それとも「安倍総裁特別補佐」として相談されたのかは明示しなかったが、歴戦の雌小池ゆりこが下村博文に「個人的な悩み」を打ち明けたと考えることはできないから、下村博文を介して「安倍総理に伝達し、意向を伺った」と見るべきだろう。

東京都は十数年に及ぶ石原都政により、成果と共に、積年の膿が異臭を放つようになっていたのではあるまいか。知事・副知事、官僚、都議会、企業の癒着が蔓延し、行政の肥大化と税金の浪費を常態化させているのではなかろうか。自浄能力を失った権力は必ず腐敗する。猪瀬・舛添と2代続けて都知事が辞任に追い込まれたのは氷山の一角というべきだろう。

2年前、小池ゆりこは石原慎太郎から都知事選立候補を打診されその気になったことがあると告白したが、いかなる事情があってか、舛添要一が自民・公明両党の推薦を受け都知事選に立候補して当選した。当時、小池ゆりこは石破総裁・総理誕生に賭けて勝負に敗け、いわゆる「干され組」に編入され、暇を持て余していた。常にスポットライトを浴びる場面を歩いてきた小池ゆりこにとっては「することがない日々」ほどの耐え難いものはない。小池ゆりこは齢64、「このまま齢を重ね、持てる力を十分に発揮する機会もなく終わってしまうのか」と考えるだけでも狂い死にそうになった。

小池ゆりこは「このまま朽ち果てるのは口惜しい。天涯から飛び込むつもりで人生最後の勝負を賭けてみたい。金権腐敗と既得権の巣窟東京都の改革に挑戦してみたい」と下村博文に心情を告白し、「安倍総理の意向を伺って欲しい」と伝言した可能性はある。安倍総理の意向を伺うという形式を踏んで、自らの意思を安倍総理に伝え、「然るべき支援を」と密かに期待したとしても何の不思議もない。自民党所属の衆院議員小池ゆりこが自民党総裁に相談したとしても奇異な行為とはいえない。

おおさか維新の会橋下徹・松井一郎らは戦後長らく日本社会党(民主党・民進党)と日本共産党の巣窟であり、彼らの既得権の最重要拠点の一つであった大阪市役所と大阪府庁の改革に乗り出した。大阪維新の会は発足直後から、安倍晋三を事実上の後見人として仰ぎ見ていた。その関係は今でも変わっていない。

都知事選が告示される前、自民党本部(谷垣幹事長)と同党都連は水面下で、増田元総務大臣(第1次安倍内閣)を擁立する方向で動いていた。都議会、区議会、市町村会等に根回して周辺を固めた。安倍総裁(総理)が党本部や都連の動向を無視して「小池ゆりこの都知事選立候補」に賛同し激励することはあり得ない。したがって、安倍総理は「衆院議員の資格を失う危険を犯してまで都政改革のために一命を賭すと覚悟を決めたのであれば、これに反対する理由はない。靖国神社参拝と同じく、本人の心の問題だ」とか言って、婉曲的に自らの真意を伝えたのではなかろうか。「以心伝心」又は「言外の言(空気)」で真意を察知させる日本式コミュニケーションだ。

第5:小池都知事と都議会自民・公明両党の関係調整問題

大阪維新の会は、発足後の府議会選と大阪市議会選で単独過半数を獲得したから、全野党の反対を押し切って強引な政権運営を行うことが可能であったし、岩盤の如く牢固な既得権をある程度切り崩すことができた。しかるに4年後の地方選で大阪維新の会は大阪市議会では単独過半数割れに追い込まれた。結果、野党(自民・公明・共産・民主等抵抗勢力)が過半数を占める市議会の反対で法案が尽く否決され、又は棚晒しとなった。橋下徹が目指した改革は進まず行政全般が遅滞した。「大阪都構想の賛否を問う住民投票」は公明党との取引が成立しようやく実施することができたが、その他の主要な案件は氷結状態に陥った。

小池知事は都議会の95%以上が野党という最悪の状態から出発する。しかも選挙期間中、「自民党都連は悪の巣窟」と名指しで罵倒したから、自民党都連(自民党都議会議員)の反発も半端ではない、恨み骨髄に達している。仮に、自民・公明両党で約3分の2を占める都議会と都知事が対立を続けた場合、東京五輪の準備作業が遅滞するほか、小池知事が提出する予算案を初めあらゆる法案が成立せず都政全般が行き詰まる。都民の不満は公約を実行できない小池知事だけでなく、自民・公明両党都議団にも向けられる。「喧嘩している場合じゃないでしょう。山積している諸課題に取り組んでよ」と相成る。来年度は都議会議員選挙が控えているから、自民・公明両党の都議も一定の成果を上げておく必要がある。なお、都知事選と同日に行われた都議会補欠選挙(4地区)において、自民党が全勝したのも、都民が自民党への期待を失っていない証拠だ。

8月4日、安倍総理は表敬訪問してきた小池都知事との話し合い(10分間)を公開し、政府と東京都の関係修復を世間に知らしめた。さらに小池知事は自民党二階幹事長と面談し「私を支持してくれた国会議員、都議会議員、区議会議員等に対する処分をなるべく穏便にお願いしたい」と申し入れた。二階幹事長は「処分を急ぐつもりはない、撃ち方止めだ」と応じた。政府も、自民党本部も小池都知事との関係悪化は避けたいというのが本音だろう。「都民のため」にならないからだ。

自民党都連は5日、知事選惨敗の責任をとって石原伸晃会長、内田幹事長ほか5役の辞任を了承し、新たな執行部選出の手続きに移行した。菅官房長官、自民党本部の誰も責任をとっていないが、自民党都連の5役が敗戦の責任を背負うことで一件落着を図った。いわゆる「トカゲの尻尾切り」であるが、鳥越が惨敗したのに、共産党志位和夫も、民進党岡田克也も責任をとっていない。選挙(戦争)に負けた程度でハラを切っていてはいくら命があっても足りないから目くじらを立てて云々するほどのことではないということか。

小池ゆりこは自らの意思で自民党を離党するつもりはないようで、「進退伺い」を提出した。ボールを預かっている自民党本部(二階幹事長)は「当面処分は行わない」との無期限延長論だ。結果、自民党員の小池都知事と、都知事と話もできない自民党都議会議員という倒錯した関係が続く。小池都知事が自民党を離党すれば一件落着となるが、小池都知事にとって自民党に留まるメリットも少なくない。「今、自民党都議団の嫌がらせで困っている。何とか指導してもらえないか?」との陳情も可能だから、中途半端という身分も悪くはない。

4日、自民党都連は、石原伸晃会長、内田幹事長ほか3人の幹部を辞任させ、新たな執行部を立ち上げることを決めた。小池都知事と昵懇の二階俊博幹事長、自民党都連所属の下村博文幹事長代行(前安倍総裁特別補佐)、同じく丸川珠代五輪相らが窓口となって都知事と都議会自民党議員団の仲裁に乗り出す以外にない。今回の内閣改造と党本部役員人事はそのような事態を想定して行われた面もあろう。下村博文幹事長代行と丸川珠代五輪相(いずれも総裁閥細田派)は安倍総理の直系子分だ。

小池候補は「自民党都連はブラックボックス」と非難・攻撃し、世間の喝采を浴びた。小泉純一郎・橋下徹・トランプが愛用する劇場型選挙戦術だ。この戦法の弱点は選挙が終っても後遺症が残る点にある。勝者は簡単に忘れるが、被害者は恨み骨髄で千年でも万年でも忘れない。小池都知事は就任直後、「都民のため、都政を前に進めるために都議会との話し合いを心がけたい」と路線を修正した。選挙戦術と実際の行政を使い分けるのは政治の「イロハ」ではあるが、それにも限度というものはある。勝者は「それはそれ、これはこれ」と簡単に切り替えることができるが、さんざんコケにされ、弄ばれてきた被害者は心に傷を負っている(トラウマ)から、手の平を返す気分になれない。米共和党の大統領予備選においてトランプ候補に罵倒されトラウマになったクルーズ候補やブッシュ候補と同じ気分だろう。人間は感情で生きる動物であり、自分を律することがとても難しい厄介な動物なのだ。

第6:自民党本部の役員人事と同都連の再建

数年前から、自民党大阪府連(柳本卓司会長・二階派)は保守の矜持を捨て、日本共産党や旧民主党等左翼勢力との「反維新共闘」を追求してきたが、大阪ダブル選に惨敗し執行部総辞職による解体的出直しに追い込まれた。結果、安倍晋三直系の中山泰秀府連会長(前外務副大臣・細田派)が率いる新体制に移行した。

今回の都知事選では自民・公明両党推薦の増田候補が惨敗。その責任をとって石原伸晃会長や内田幹事長らが辞職に追い込まれた。石原伸晃はよほど口惜しかったのか?「今回の知事選は党本部が主導したもので、谷垣幹事長が責任をとるべきところ、同氏が事故入院中で不在のため、私(石原伸晃)が代わって辞任する」との心境を披瀝した。党本部による「トカゲの尻尾きり(責任転嫁)に我慢できず、つい「日頃の鬱憤(本音)」が出たのであろう。この非政治的発言は又はいつもの暴言癖(舌足らず)が出たのであろうが、何とも冴えない話ではある。

東京都選出の自民党衆院議員は16人。会長適任者は鴨下一郎(石破派・元環境相)、下村博文(細田派・幹事長代行)、萩生田光一(細田派・内閣官房副長官)の3人。石破一家の若頭補佐鴨下一郎に我が国最大の地方組織(都連)の運営を任せる訳にもいかないだろうから、大阪府連に続いて東京都連の再建も総裁閥「細田派」が担うのではあるまいか。鎌倉御家人が不祥事を起こすたびに北条一族の領地が拡大した。同じく、外様大名が取り潰されるたびに徳川・松平家の藩領が拡大した。

まとめ

関ヶ原の合戦は豊臣政権内部の権力闘争であった。東軍が徳川家康を擁立し、西軍が石田三成を神輿に担いだ。今回の都知事選においては自民・公明・こころの3党が増田候補を擁立し、共産・民進・社民・生活の4党が鳥越候補を神輿に仕立て上げ選挙戦を戦った。そして「政党や組織に依存しない個人」を標榜したのが小池候補。小池候補を神輿にして担いだのは、橋下徹風にいうと「ふわふわした民意」ということになろうか。日頃はどこにいるのか分からない空気みたいな存在が風に煽られ竜巻となって荒れ狂うこともある。

情報化社会特有の「ふわふわした民意」が選挙戦の帰趨を決定することはこれまでも指摘されてきたが、筆者は戦争(選挙戦)の帰趨に決定的影響を与えながらも歴史の裏面に潜んでいる「力」を直視すべきではないかと考えている。目に見える権力闘争と目に見えない権力闘争があるのではないかと。

豊臣政権の中核的存在であった加藤清正や福島正則ら有力大名にとって秀吉の正室ねねは「地母神」であった。結果から見ると、ねねは理知的な石田三成よりも、仁義に厚い徳川家康とウマが合ったといえようか。地母神ねねの意向を忖度した加藤清正や福島正則らは徳川家康を擁立して関ヶ原の合戦に臨んだ。「ねね」の意向が関ヶ原の合戦に決定的影響を与えたといってよい。

小池ゆりこを圧勝に導いた要因の一つは、(1)舛添前知事が韓国・朴槿恵大統領と約束した「都所有地を韓国系民団の学校建設用地として貸与する件」について明確に否定したこと。(2)「在日外国人に対する地方参政権を付与する件」についても、鳥越や増田と異なり明確に否定したことが挙げられる。このテーマで小池候補は保守層の心をがっしりとつかみ、保守系団体の支援を獲得することができた。中国(中共)や韓国と関連するテーマは各候補の色合いを鮮やかにあぶり出すから誤魔化しはきかない。

今回、小池候補を応援した保守系団体は最後まで黒子役に徹した。「小池候補を応援していること」を知られたくない何らかの事情、又は秘匿すべき特別の背景があったのだろう。彼らは歴史の転換に決定的な影響を与えながら、その業績が歴史に記録されることはない。「神の見えざる手」とされて永遠に封印される。

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2016年07月24日

トルコは「無差別テロ・クーデター未遂・内戦」の国家的危機を乗り越えることができるか?

はじめに

国民の95%がイスラム教徒であるトルコに近代西欧文明(政教分離や人権思想等)を移植する欧化政策は本質的な矛盾を内包していた。トルコ共和国初代大統領ムスタファ・ケマル軍司令官を初め歴代軍事独裁政権は「力による上からの民主化(世俗主義)」を推進した。

本来、民主主義の対極にある軍事独裁政権が民主主義(議会制度)を推進することは自己矛盾だ。多くの場合、軍事独裁政権は「民主主義国家を樹立するための捨て石」となることができず、軍部の既得権擁護を優先するから、民主主義は不徹底に終わる。仮に、民主主義が徹底し、軍部の既得権が剥奪された場合は、軍部が蜂起して(クーデター)民主主義政権を打倒、奪われた軍部の既得権を回復する(例:タイ・ミャンマー・パキスタン・エジプト等多数)。

イスラム教徒が国民の圧倒的多数占めるトルコやエジプトで議会制度(選挙)を導入した場合、多数派のイスラム教徒の意向を反映した大統領や議会が誕生する可能性が高い。トルコ共和国初代大統領ムスタファ・ケマルが推進した世俗主義(政教分離・選挙制度・人権保障等)を推進すればするほどイスラム教色の濃厚な大統領や議会が誕生する。欧化政策の担い手であった軍部の意向とイスラム教の復活をめざす大統領や議会との意見対立が国の進路を迷走させ、テロ、クーデター、内戦の温床となる。

第1:クーデターの鎮圧と超法規的措置(拘束・公職追放等)の断行

今回のクーデター未遂事件(7月15日)は軍部の一部2千数百人が蜂起したもので、クーデターの意図も不明瞭で、戦略・戦術も杜撰、クーデターに動員された軍人の士気もお粗末で警察に逮捕されるマンガチックなものであった。クーデター軍のヘリコプターが無人の国会議事堂を空爆、歩行者のいない道路を銃撃した。「エルドアン政権による自作自演のクーデターではないか?」との疑念の声が上がるのも無理はない。

エルドアン政権と軍部(陸軍・同諜報機関)はクーデターの鎮圧と並行して、クーデターを支援したとみなす「軍人・警察官・裁判官・検察官等約7000人を拘束した。内務省、警察、地方自治体等の幹部ら9000人弱を解任、裁判官、検察官3000人弱を解任、公務員300万人の休暇を停止した(7月20日付け日経より抜粋)」。

そして、「20日には、大学教員や研究者の海外出張禁止を通達、海外にいる教員らに早期の帰国を求めた。国家教育省はこれまで2万2000人の教員らを解任、私立の教育機関で教える2万1000人の免許取り消しも決めた(7月21日付け日経より抜粋)。

トルコ議会の決議を経て、エルドアン大統領が「非常事態」を宣言したのは20日夜(日本時間21日朝)であったから、前述した措置は「クーデター鎮圧の一環」という理由をつけてなされた超法規的措置であった。国家は存立危機事態に陥ったとき、いつでも憲法以下の法律の規定を無視して、必要とされるあらゆる「超法規的措置をとることができる(自然権)」とみなした。我が国が存立危機事態に陥ったとき(例えば、東南海大地震や首都直下型大地震)、国は固有の自然権に基づき、必要と考える超法規的措置を行うことができるし、行わなければならないということなのだ。日本国憲法に規定があるか否かは本質的な問題ではない。

エルドアン政権と軍部主流派は「クーデターの鎮圧が遅れ不徹底で終わったならば、クルド人過激派の武装闘争を励まし、IS戦闘員による無差別自爆テロを頻発させる危険が高い。さらに、外国の支援を受けた反エルドアン勢力が一斉に蜂起して、内戦に突入する(シリア化)虞れもある」と考え、危機意識を高めたとしても不思議ではない。

第2:ボーダーライン(境界線)国家トルコの哀しき宿命(さだめ)

1.地政学

トルコ共和国は北方を黒海、西方をエーゲ海、南方を地中海に囲まれた半島国家で、国土面積は約76万平方キロメートル、人口約7600万人。

トルコ共和国は西アジア(アナトリア半島−96%)と東ヨーロッパ(バルカン半島東端−4%)というアジアと欧州の双方に属している特異な国家だ。人口比でいうと90%弱がアジア地域に、10%強が欧州地域に居住する。トルコ政府は「トルコは欧州の一員」と認識し、欧州連合(EU)への加盟申請を執拗に求めているがこれが承認される可能性はゼロだ。EU側は「トルコは異質なイスラム文明に属するアジアの国家」と考えているから、トルコの「片想い」が成就することはない。

2.トルコの世俗主義(政教分離)が内包する自己矛盾

第1次世界大戦でドイツと軍事同盟を締結し戦い、敗北したオスマン帝国は戦勝国(英仏露)によって解体された。オスマン帝国軍の残党を率いて蜂起したムスタファ・ケマル(アタチュルク)は周辺国との戦争に勝ち抜き、現トルコ共和国の所在地にトルコ共和国を建国した(1923)。イスラム教徒が90%超を占める中東イスラム圏において、史上初めての世俗主義(政教分離)国家が生まれた。壮大な社会実験となった。

イスラム教徒が国民の圧倒的多数を占める中近東・アフリカ地域においては「民意を反映させる民主主義(選挙制度)」は政教分離や人権思想等の近代西欧の価値観を強める方向ではなく、近代西欧の価値観を否定する方向で動くことが証明された(例:パキスタン・エジプト等)。ケマルの世俗主義は本質的に自己矛盾を内包する政治制度であった。選挙で選ばれた大統領や議会がイスラム色を強めたとき、世俗主義の貫徹を願う軍部はクーデターによって、逸脱した軌道を元に戻す。永遠回帰の哀しい話だ。

3.大国が邂逅する接点トルコ(アナトリア半島とバルカン半島)

古来、アジアと地中海(ローマ)の物流の中継基地として繁栄したエーゲ海・黒海沿岸は、古代ギリシャのアレクサンダー大王、古代ペルシャ帝国、古代イスラム帝国、古代ローマ帝国、中世大モンゴル帝国等が押し寄せ征服した地域だ。欧州、中央アジア、地中海、ロシア、ペルシャ・アラブで大国が興ったとき、彼らは交通の要所バルカン半島とアナトリア半島を目指す。最近、中共(中国)の習近平が「一帯一路戦略」を掲げてトルコを取り込む作戦に乗り出したほか、ロシアのプーチンは中露両国が共催する上海協力機構に、インド・パキスタン・イランと共にトルコを加盟させる方向で調整中だ。トルコは現在、上海協力機構のオブザーバー参加国であるが、正規加盟国となる意思を表明したといわれている。

ロシアにとって、黒海ーボスポラス海峡ーダーダネルス海峡ーエーゲ海ー地中海の海上交通路を確保することは帝政ロシア・ソ連以来の国是となっている。できればトルコをロシアの勢力圏に取り込みたいとの大望がある。ロシアがトルコを勢力圏に取り込むことができれば、中東全域をロシアの勢力圏に組み込むことも不可能ではない。これまで、オスマン帝国(トルコ)が帝政ロシア・ソ連・ロシアの南下を食い止める最大の障壁となって立ち塞がっていた。

欧米列強(米英仏独)もロシアの野心を警戒、トルコをNATOに加盟させて支援。トルコにとってNATO加盟の意義は「ロシアの圧力を緩和するため」であった。後発の中共帝国も遅れてトルコへの関与を強めている。オバマ政権が孤立主義(不関与主義)に傾斜し同盟国軽視の姿勢を見せるようになったから、トルコは(イスラエル・サウジ・エジプトも)不安になった。NATOへの一極依存から多角的安全保障体制に切り替えるべきではないか?と考え、ロシアと中共にも接近しバランスを取るようになった。

第3:トルコは「シリア化(内戦)」を避けることができるか?

チュニジア・リビア・エジプトの長期独裁政権を打倒した民主革命(大衆が蜂起し軍が分裂したジャスミン革命)の結末は周知の通り。民主主義制度を導入したがたちまち崩壊し内戦が始まった。独裁政権蛾に担ってきた「力による秩序」が破壊され、「無差別テロと内戦」が常態となった。

シリアで民主化を求める大衆蜂起と軍の分裂、アサド政権の統治能力の欠如、そして外国諸勢力の介入によってシリアは群雄割拠の内戦状態(無秩序)に突入した。国内難民は数知れず、周辺国に脱出した難民は約400万人で、その内トルコに逃れたシリア難民は250万人とも、それ以上ともいわれている。国境管理も不十分で実態は誰にも分からない。トルコからエーゲ海を渡ってギリシャに脱出し西欧に流入したのはその一部(数万人)に過ぎない。

トルコは大量の難民を受け入れ経済的に過重な負担を強いられている。また、トルコが米国の圧力に抗しきれなくなってISへの空爆拠点となる飛行場の使用を許可したことで、トルコとISとの是々非々の関係が破綻した。トルコでもISによる無差別テロ自爆テロが頻発するようになった。加えて、トルコ軍はクルド人過激派武装勢力との軍事衝突を繰り返している。

トルコは内憂外患、未曾有の国難を克服すべき国論は四分五裂、臨機応変かつ機動的な対策を打ち出すことができない。憲法で国是としてきた世俗主義(政教分離)を堅持し、さらに強化したいと欲する勢力、イスラム教色を強めたいと願う勢力、そしてその中間にさまざまな穏健各派が存在する。また、EU加盟を乞い願う勢力と、EUへの未練を捨てるべきと考える勢力、安全保障をNATOに固定化すべきと主張する勢力と、中露を含む多角的安全保障体制を構築すべきと主張する勢力等、あらゆる分野で百家争鳴状態にある。民主主義国家において国論の分裂は不可避であるが、国家が存亡の危機に遭遇した時は、「何も決められない民主主義」は機能不全に陥る。大衆は「即断即決できる独裁制」を求める。目下、無差別テロに遭遇しているフランスは「非常事態」の期間をさらに6か月延長した。

第4:クーデター鎮圧と超法規的措置

第1で述べたように、エルドアン政権はクーデター鎮圧の一環として(又は同時並行して)、クーデターを支援し、幇助し、又は阻止せず放置した容疑(不作為)で、軍人・警察官・裁判官・検察官約7000人を拘束した。公職追放された公務員は数万人に達した。以上は「非常事態を宣言する前の超法規的措置」であるから、非常事態が宣言された20日以降はその規模が10倍化しても何の不思議もない。

今後、共謀や幇助だけでなく、職務怠慢(不作為)がクーデター未遂事件の共鳴者とみなされるようになれば、内務省管轄の情報機関や大統領警護部隊の解体、政党・団体の解散、マスメデイア等の営業停止、陸・海・空三軍と諜報機関の大規模な再編、教育・一般行政の改組等あらゆる分野の整理・統合・粛清が始まる。その規模は想像を絶するほど大規模なものになる。権限を大統領に集中する憲法改正を行い、エルドアン独裁政権を確立し、未曾有の国難を乗り越える予定ではなかろうか。その前に、これに反対する勢力(政党・団体・メディア)を解体しておくという段取りだろう。

中国(中共)の習近平総書記は反腐敗闘争という大義名分を掲げ、数年かけて数十万人の共産党員(軍)幹部を粛清したが、エルドアン大統領はクーデターの勃発を奇貨として、反エルドアン勢力への攻撃を強めている。欧米が「民主主義の後退又は破壊」と懸念する事態が加速。エルドアンは「民主主義を堅持して国家が破綻しシリア化しては元も子もない」と考えているから、既定方針を変更することはない。

オバマ大統領の同盟国軽視(理想主義)に不安を感じている中東地域の同盟国はロシアと中共に接近、米国依存一辺倒からの脱却を図ってきた。したがって、欧米の威嚇は従前ほどの効果はもたらさない。ロシアと中共は米英仏独の同盟国トルコがNATOから離反するのを期待を込めて見守っている。エルドアンは米英独仏中露を相互牽制させ「白色革命」を貫徹する。

第5:エルドアンの危険な「一本調子の攻め」

エルドアンはクーデターの発生を千載一遇の好機(神の恩寵)とみなし政敵掃討作戦に着手した。政敵が外国の支援を得て態勢を整える前に殲滅しようというのである。短期的に見ると、エルドアンはトルコの独裁者となって君臨する。しかしながら、「力による一方的な現状変更」は政敵を増やし、政敵を過激化させる両刃の剣で、「血の応酬」を呼びこむ危険もある。

クルド人武装勢力に対するトルコ空軍の越境爆撃がトルコ領内におけるクルド人過激派の武装闘争を刺激した。さらに、米国の圧力に屈したトルコが有志国連合の「IS掃討作戦」に加担するようになったから、ISはイスタンブール等の主要都市で「無差別テロ」を繰り返すようになった。「目には目を、歯に歯を」が中東イスラム圏の掟なのだ。弾圧すれば弾圧するほど敵が増え、敵が連帯する。

エルドアンは習近平と同じく「一本調子の攻め」が好きだ。あれこれ思い悩む必要がない力で押し切る戦法を愛用する。善意に解釈すれば「果断」となるが、悪意に解釈すれば「単純馬鹿」となる。プーチンの如く、情勢に応じて臨機応変に動く「風林火山型」ではない。長年の盟友や側近さえも信用できない孤独な独裁者になる。毒殺・謀反・クーデターに脅えて暮らすことになろう。

まとめ

明治維新の欧化政策を主導したのは、尊皇攘夷(排外的復古主義)を唱える最も過激な民族主義集団(薩摩藩・長州藩)であった。彼らは「天皇親政と神道復権」という日本民族の背骨だけを温存しつつ伝統文化の多くを破棄して近代西洋文明を直輸入し移植した。本来、糾弾すべき立場、天誅を加えるべき立場の民族主義者が、立場を反転させ欧化推進勢力に転じたから、反対勢力の勢いが削がれたことは間違いない。

明治維新政府が手本とした当時の西欧列強はいずれも強大な軍事力を擁する帝国主義国家であったから、我が国が「富国強兵政策」を採用したのは自然の成り行きであった。我が国が「力による現状変更を競い合う帝国主義時代」で生き残るためには、まず軍事力を増強し、国防を国家政策の大本に置かざるを得なかったという背景もある。結果、我が国は「日清戦争」と「日露戦争」に勝利することができたし、両戦争に勝利したことで我が国は帝国主義列強の一角に食い込むことができた。

反面、我が国の経済力を大きく超える軍事力を維持し、さらに拡大するための軍事費は膨張する一方であったから民需は衰弱した。世界に冠たる連合艦隊や戦闘機を大量に造ったが国民生活は破綻し、民は飢え、娘は女郎屋に売られた。当時の日本国はソ連末期と同じく、国防費が国家経済を押しつぶすほどに膨張していた。戦艦大和1隻の建造費は東海道新幹線(東京ー大阪)の建設費に相当するほど高額であったという指摘もある。仮に、我が国が対米英戦争を回避できたとしても、国家の経済力を大きく超える軍事偏重路線を続けることは困難で、いずれ自壊せざるを得なかったのだ。「負けに不思議の負けなし」であった。

米国の巨大な軍事力・経済力に圧倒され敗北した我が国は、戦後、連合国軍(米軍)の軍政下に置かれた。連合国軍司令官マッカーサー元帥は「天皇制の存続を除く我が国の伝統文化を尽く破壊する民主化」を断行した。この民主化に協力し、協同したのが軍政下で内閣総理大臣となった吉田茂。彼はアングロサクソンの強欲かつ凶暴なる資質と功利主義(二重基準)による欺瞞性を熟知していた民族主義者であったが、在日米軍基地の存続(旧日米安保条約の締結)を条件とするサンフランシスコ講和条約に調印。日本共産党や日本社会党ら左翼(学者・メディア)は中ソを含む全面講和を主張して我が国の独立(サンフランシスコ講和条約)に反対した。彼らは米ソの冷戦が終わって全面講話が可能となるまで(1991年)、我が国を連合国軍の軍政下に置くことを主張した。

1960年の日米安保条約の存続と再締結は、米国の強い要請によって行われたもので、これを推進したのが民族主義者の岸信介である。日本共産党や日本社会党と傘下の学者やマスメディアはスターリンや毛沢東の指令を受け、又は意向を忖度して「日米安保条約破棄(廃棄)」の国民運動を組織し、連日連夜デモを繰り返した(第1次安保闘争)。

以上、明治の「欧化政策」と、戦後の「民主化」は思想的には相容れないはずの民族主義者によって推進された。民族主義者が「国体護持」という一点を除いて自己の思想・信条を捨て異文明を取り入れた点に特徴がある。結果、我が国の「欧化政策」と「民主化」は生体移植手術は拒絶反応を抑え込むことに成功した。民族主義者の安倍晋三が主宰する内閣でなければ、TPPの協議に参加することも、TPPの合意に至ることもできなかったはずだ。我が国の大変革(大革命)は、民族主義者が「国体護持という1点を除いて、自らの主義・思想を棚上げ又は否定することで実現した事実」は看過されるべきではない。

トルコの悲劇は、オスマン帝国が多民族国家であり、ムスタファ・ケマル(アタチュルク)には死守すべき民族の伝統が希薄であった点にある。ケマル(軍部)が主導した「欧化政策」はオスマン帝国の伝統文化を全否定し、欧化を全肯定するゼロ・サムゲームであった。トルコの現実から遊離した理想主義であったといってよい。結果、トルコは「イスラムに向かう内的衝動」と「欧化への意思」の間を揺れ動く不安定な国となった。

エルドアンは「オスマン帝国の伝統(イスラム+多民族共棲)」を復活させて国家・国民を統合する礎としながら、緩やかな欧化を進めたいと考えているのではなかろうか。エルドアンは「プーチンが独裁政権を樹立し、ロシア正教会を復活させてロシア国民の心の絆を取り戻し、軍事強国となってロシアの勢力圏を回復する」というプーチン方式を参考にしているのではなかろうか。もっとも、舵取りを間違うと軍事偏重の先軍国家になる危険もある。

エルドアン大統領の超法規的強行措置に対し欧米各国は「法治国家を破壊する暴挙」とみなして一斉に非難した。ナチスの「全権委任法」による独裁政権の樹立と同種のものとみなした。しかしながら、「トルコのシリア化」が進行した場合、誰が責任をとるのか。オバマやメルケルが責任をとってくれるのか、という問題もある。トルコの国難はトルコ自身が解決する以外にない。誰も代替できないからだ。

あるいは、米英独仏中露とイスラエルの軍産複合体(武器商人)はアフガン・イラク・シリア・エジプト・リビア・チェニジアの内戦をトルコにも拡大し、ハルマゲドン(世界最終戦争)を狙っているのか?との疑念もわく。米オバマ大統領の平和外交(理想主義)の狙いは、世界の平和を進めることではなく、世界の秩序を破壊する謀略を粉飾することにあるのではないか?との疑念もわく。結果から判断するとそのように見える側面もある。

親日国トルコ、安倍晋三の盟友エルドアン、そして世界の安全保障環境に決定的影響を及ぼすであろうトルコの近未来。エルドアンの社会実験がいかなる結果を生むのか、現状では何ともいえない。いえることは、「トルコのシリア化だけは何としても食い止めなければならない」ということだ。

白髪爺 at 22:32|PermalinkComments(14)clip!

2016年07月14日

7.10参院選を総括する。なぜ、そんなに安倍・自民党は強いのか? 

はじめに

今回の参院選にあたり安倍総理は獲得議席目標を問われ「与党で改選議席の2分の1(61)」と表明した。結果は自民党が56(改選議席+5),公明党が14(改選議席+5)となり目標を超過達成した。与党は衆院では3分の2超、参院でも過半数を大きく超える146議席を得て長期安定政権の基礎を築くことができた。改憲を唱えるおおさか維新の会12,日本のこころ3,その他1を加えると162議席となったから、戦後、自民党が党是としてきた自主憲法制定(憲法改正)への足がかりをつかんだ。

東京都舛添知事の不祥事発覚と辞任、熊本直下型大地震の発生、国民投票による英国のEUからの離脱、バングラデッシュ首都ダッカにおける日本人等に対する無差別テロ事件などの大事件が頻発。安倍内閣はこれらの危機対応に追われ選挙運動を自制せざるを得ないこともあった。マスメディアも参院選よりも視聴率が稼げる事件報道に熱中したから、参院選は体力勝負の無風選挙になった。結果、自民党は「満足できるほどではないが、それなりに勝った」し、民進党は「想定以上に善戦し、負けを最小限に抑えることができた」と感じているのだろう。共産党は改選議席は倍増させたが前回(3年前)の参院選獲得議席8からマイナス2の6議席に留まった。

笑いが止まらないのは公明党だけ。おおさか維新の会は一枚看板であった橋下徹の政界引退によって組織の存亡を賭けた戦いであったが共産党を上回る7議席を獲得(計12議席)、参院の法案提出権を得ることができた。「次回衆院選への足がかりができた」とニンマリしていることであろう。弱小政党(社民、生活、こころ、改革)は党の存立が危ぶまれるほど厳しい結果となった。弱小政党の淘汰がさらに進む。

第1:選挙とポピュリズム(大衆迎合主義)

党総裁や党代表を少人数の所属議員が選任する場合は、「協議」、「談合」、「取引」及び「買収」が主要な手法になるが、不特定多数の有権者を対象とする選挙(党員投票や各種選挙)においては有権者の支持を獲得する必要上、いかなる候補者も程度の差はあってもポピュリズム(大衆迎合主義)を軽視することはできない。

ポピュリズム(大衆迎合主義)は選挙制度が内包する宿痾(しゅくあ)であって、その程度が抑制的で常識の範囲内に留まっているか?それとも非常識なレベルなのか?の違いしかない。経済が破綻し、政治が大混乱に陥って自浄能力を失い、将来に対する展望が見えない時、大衆はレーニン、ムッソリーニ、ヒットラー、毛沢東、トランプ等の異常人格者に魅力を感じるようになる。「もしかしたら閉塞感(不安)を打ち破ってくれるのではないか」と。

候補者(ポピュリスト)はさまざまな欲求を持つ選挙民の利益を図り、権利を拡大し、願望を実現させるように見える政策を提示する。この場合、財政的な裏づけを欠くバラマキ政策は「民主党政権の3年」や「ギリシャの急進左派連合ラプラス政権」と同じくたちまち政権運営に行き詰まり破綻する。騙されたと感じた大衆は何十年も怨念を抱き続けるから、一度マイナスイメージが定着した政党は名を変える(民主党→民進党)。

共産主義者・ファシストはプロパガンダ(煽動)によって大衆の恐怖心を煽る手口を常用する。「ウソも100回いうと真実になる」というナチス党ゲッペルス宣伝局長の相続人は日本共産党、社民党、民進党、小沢一派及び極左暴力集団(トロッキスト)だ。曰く「戦争法案反対」「9条守れ」のプロパガンダ(煽動)を呪文のごとく唱えている。彼らは事実を曲解して自己流に解釈し、政敵を倒すための道具とする。彼らは「目的のためには手段は正当化される」(反日無罪・造反有理)と考えているから非合法活動や虚言に抵抗を感じない、何でもやる。という訳で、理性(知性)には理性(知性)で、プロパガンダ(煽動)にはプロパガンダ(煽動)で反撃しなければ敵の情報戦・謀略戦を粉砕することはできない。もともと、理性(知性)は感性の前では無力なのだ。

第2:自民党は参院でも単独過半数を獲得した

参院は定足数は242で過半数は121。今回の参院選で自民党参院は121人となったが、昨年12月、無所属の井上義行が自民党会派に加わったから、自民党参院(会派)は単独過半数122となっている。周知の通り、井上義行は安倍内閣官房長官(当時)の秘書となり、第一次安倍内閣では総理補佐官に抜擢された。現在、自民党清和会(細田派)に所属。なお、参院岩手選挙区から当選した(2013)平野達男(民主党政権復興相・現在無所属)が自民党に入党届を提出した。その他、「日本のこころ」の参院非改選組3人も自民党入党予備群とみなしてよいから、事実上、自民党参院会派は126人以上となる。

官邸及び自民党執行部が「参院でも単独過半数を獲得した」と喧伝しない理由は友党の公明党に配慮しているからだ。参院選1人区では自民党候補を公明党が支援しその見返りに自民党が公明党の比例を支援、3・4人区で公明党が擁立した選挙区では公明党公認候補を自民党が推薦し応援するバーター取引を行った。国政選挙における自公両党の相互依存関係は定着しつつある。自公連立政権が安定するのも、崩壊するのも「自公両党の選挙協力次第(共存共栄)」という訳だ。思想・信条・信仰も異なり、相性も悪い相手と、ちょっとしたハズミで同棲して暮らすうち「一人では生活できないが、二人だと豊かな生活を送れるわ」と感じズルズルと不倫関係を続けているようなものだ。

「人間はパンのみにて生きるに非ず」という言葉がある。その真意は「人間にとって最も大事なものはパン。食い物が保障されているから倫理、道徳、安全を考えることもできる。だが、食い物にこだわりすぎる人生は心の貧困をもたらすだけ」ということだろう。安全保障問題や憲法改正問題は選挙の票に結びつかないから、各党とも、社会保障や教育等身近な問題を政策の基本におく。何しろ「ヒトはより良い環境とパンを求めて動く原始的哺乳動物である」からやむを得ない。大衆は高尚な学問、天下国家の重大事である国防、安全保障、憲法改正等は代理人(国会議員)や有識者に任せておけばよいと達観している。これらの重要な案件には関心がないし熟考したこともない。「何十時間説教されても理解できないわ(馬耳東風)」という感じだ。マスメディアはわざわざ世論調査をやったことにして「議論が尽くされていないとの回答が70%超」と騒いでいるが、これは左翼メディアによる悪意をもった世論操作又は誘導質問と考えてよい。客観性は全くない。

中国共産党の指令を受け、又は意向を忖度した日本共産党は「日本軍国主義の復活を企てる安倍内閣は諸悪の根源であり打倒しなければならない」とか、「格差是正のためには法人税課税を強化し、富裕者税を創設すべき」とか、「自衛隊は憲法違反の軍隊であり、東アジアの平和を実現するためには自衛隊を解体すべき」とかの荒唐無稽な煽動を繰り返している。付言すると中国共産党中央は「日中関係が悪化した責任のすべては保守反動の安倍晋三が背負わなければならない」と強調する。しかし「過ぎたるは及ばざるが如し」であって、煽動でもやり過ぎると逆効果だ。誰も信用しなくなる。13億中国人民が中国共産党中央の繰り返すプロパガンダ(煽動)に不感症になり踊らなくなったように。

第3:「日本共産党」もジリ貧コースに突入

今回の参院選で、民進党、共産党、社民党、生活の党の4党は「改憲阻止の護憲共闘」を立ち上げ選挙協力を行った。ジリ貧コースの4党が選挙互助会を立ち上げ延命を図ったもので、「未来を展望した前向きの政策」は皆無だった。終末期政党の寄り合い所帯から未来を展望した明るい話が生まれるはずはない。

日本共産党の全盛期は50年ほど前、党員は50万人弱、党機関紙「赤旗」の読者は約350万人。現在は党員の高齢化も進み、それぞれ半数以下に激減した。50年ほど前、東京・大阪・京都・神奈川・福岡・北海道を初め主要な都府県や大都市では日本共産党と日本社会党が共闘する「社共統一候補」が首長選挙を勝ち抜き、いわゆる革新自治体が雨後の筍の如く誕生した。当時、日本共産党は「平和的手段(選挙)によって共産党が主導する社会主義政権(民主連合政府)を樹立する」と豪語していた。

今、我が国は「少子高齢化」の進展により、中山間地域においては耕作放棄地が激増、多くの集落が消滅しつつある。足腰の弱った高齢者や通院加療を要する病人にとって、家族もいない、病院もない、スーパーもない、コンビニもない、郵便局もない、交番もないの「ないないづくし」の田舎暮らしを続けることは「拷問に耐えること」と同じだ。自然環境の豊かさを楽しむどころか、生活の不便さを呪わざるを得ない切羽詰まった心境におかれている。都会で暮らしている子供や孫は数年に一度も帰ってこない。

英国がEUから離脱し、年間1兆6千億円の分担金収入が減ると、欧州連合(EU)加盟国は分担金を増額して穴埋めするか、又は欧州連合の経費(職員給料や事務費・運営費等)を削減せざるを得ない。組織の人員や経費を増やすことは容易であるがリストラは簡単ではない。必要があるとして新設した部署や人員のリストラを企画すると関連部局や職員の命がけの抵抗に遭遇すると考えなければならない。リストラを断行すれば多くの血が流れ返り血を浴びる。リストラを断行する者は「一命を賭す」覚悟が求められるから、平凡な知的エリートはリストラを先送りする。かくして、ゾンビ企業は生き残り、無駄な組織が温存され、症状はさらに悪化する。結果、悪性腫瘍を摘出すべき手術のタイミングが遅れ、悪性腫瘍が全身に転移し「死に至る病」となる。大阪府民や大阪市民が大阪維新の会を評価しているのも、同会が既得権益者との血みどろの戦いを展開し一定の成果を上げたと評価しているからだ。大衆(サイレントマジョリティ)は「見るべきところはちゃんと見ている」のだ。

日本共産党は党員と党機関紙読者の減少による収入の激減に伴い、本来であれば、職員や党活動に専念しているプロ活動家を大幅に減らして支出を抑えるべきであろうが、「共産党が資本家と同じことをやってよいのか?」との反発が出て紛糾するから、肥大化した組織のリストラが進んでいるとは思えない。日本共産党全体が「ゾンビ企業化」しているのではなかろうか。党機関で働いている職員やプロ活動家の生活費(給料)は定期的に支払われているのか?給料遅配で専従活動家の生活も困窮しているのではなかろうか。生活を維持するためアルバイトに精を出し無断欠勤する者、いつの間にか出勤しなくなる者が増えているのではなかろうか。

かって、京都・大阪は日本共産党の牙城であり、現在でも主要な拠点とされている。今回の参院選における京都・大阪の共産党候補は京都では第2位当選民主党候補の約半分、大阪では第4位当選おおさか維新の会候補の約半分しか得票していない。つまり、日本共産党に往年の力はなく、これを補うため仇敵であった極左暴力集団(トロッキスト)と手を組み、「民共合作」によって民進党の一翼を取り込むことで延命を図っているように見える。

日本共産党志位和夫委員長は原理原則を貫く従来の路線を投げ捨てて無原則的現実主義(ポピュリズム)に転換した。羅針盤(戦略)なき現実主義は古参党員の求心力を弱め遠心力を強める。自社さきがけ政権を立ち上げた日本社会党村山富市委員長(当時)は総理大臣に就任する必要上、結党以来の党是であった「日米安保条約廃棄」の大看板を投げ捨てた。結果は周知の通り、日本社会党は急速に求心力を失い分裂し消滅した。後継の社民党も風前の灯だ。志位和夫は「天皇制廃止」と「憲法第9条違反の自衛隊解体」という結党以来の党是を投げ捨て、「将来の国民の意思に委ねる」と路線を大転換した。教条主義的立憲主義を投げ捨て、臨機応変・融通無碍・何でもありの現実主義に転換した。

第4:民進党(民主党)の存在意義は「プラットホーム」

自民党が野党に転落したとき、自民党の選挙区支部には多くの「空白」があった。現在、自民党の選挙区支部には「空白」がほとんどない。自民党には政治家志望の新人が食い込む余地はほとんどないから、政治家を志望する野心家は思想や信条を棚上げして「空白」の多い民進党(民主党)の選挙区支部に駆け込んだ。

電力総連・自動車総連・電機労連等連合傘下の企業内組合は、業界と労働者の利益代弁者を国会に送り出すことは必要不可欠と考える。そこで、これまでは「民主党への政治献金」を行い、「民主党の選挙活動」を全面的に支援し、労組の代理人を「民進党公認候補」として擁立させ国会に送り込んできた。今回の参院選では民主党公認の比例当選者10人中8人が労組(単産)の代理人だ。労組(単産)は民進党に代わるプラットホーム(例えば(新日本維新の会)が誕生するまでの期間、民進党を支え、民進党は労組に依存するという共依存関係が続く。

第5:おおさか維新の会は「第1野党(プラットホーム)」を狙う

おおさか維新の会は橋下徹商店から株式会社「おおさか維新の会」に脱皮した。今回の参院選は「背水の陣」で臨んだ。見栄も外聞もかなぐり捨てたようで、自民党堺市議会議員を引き抜いて擁立し大阪選挙区で当選させた。自民党の地盤を切り崩す戦略が功を奏し、大阪選挙区(4人区)で2人を当選させることができた。おおさか維新の会は大阪選挙区で、自民党と公明党の合計得票数に匹敵する約140万票を獲得した。おおさか維新の会が議席を獲得した大阪選挙区(定数4)と兵庫選挙区(定数3)では民進党と共産党は惨敗。かって社会党(民主党)や共産党に流れていた浮動票の多くが維新の会に移動した。維新の会が浮上すると民進党と共産党が沈むという関西様式が全国に普及し一般化するかもしれぬ。

おおさか維新の会は旧みんなの党代表渡辺喜美を比例で擁立し当選させたほか、東京選挙区に元長野県知事田中康夫を擁立したが次点に泣いた。名古屋市河村市長(減税日本)とは「おおさか維新の会の党名変更」を条件として合併するとの合意をとりつけているといわれている。おおさか維新の会は国政政党らしく「(新)日本維新の会」に党名変更して、既成政党に距離をおく国会議員や政治家志望の素浪人らのプラットホーム(受け皿)を狙っている。

「民共合作」に不満を抱く労組(単産)や民主党保守系議員が民進党から離脱するよう唆し、離脱させ、そして提携して、次回衆院選で「野党第1党」の座を狙う段取りだろう。「維新の会」の当面の戦略は(1)自民党地方議員の一部を地盤ごと取り込み、(2)民進党保守系を切り崩して取り込み、(3)はぐれ狼や天下の素浪人をかき集め、(4)政権交代可能な責任野党(プラットホーム)を構築するということだろう。

第6:自民党が甲信越・東北の1人区で惨敗した背景

自民党は28年ぶりに参院でも単独過半数を制することができた。その中で、自民党は甲信越3県と東北6県において1勝8敗と惨敗。その理由は(1)野党が候補を1人に絞った、(2)安倍内閣が公約違反のTPPに合意したことに対する農家の怒りがくすぶっている、(3)安倍内閣が断行した農協改革や農地法改革に対する農協の不満が鬱積している等が指摘されている。

戦後、農協は歴代自民党政権を支えることで農産物市場を独占する特権的地位を保障されてきた。「濡れ手に粟」のオイシイ商売で農協組織は肥大化。農協は自民党歴代政権とオンブニダッコの二人三脚の蜜月関係を築くことで、既得権益を守ってきた。農協は「政商」ならぬ「政農」として農産物関連の仲介業務だけでなく、豊かな資金を活用してスーパー経営等に手を出す等守備範囲を拡大し地場産業の雄となった。

筆者は参院選の結果を見て「明治維新直後の奥羽列藩同盟」を想起した。徳川御三家を初め親藩や三河以来の譜代大名家が「時の流れ」に身を任せ、新時代に適応すべく生まれ変わりつつある時、時代の潮流に抵抗し果てた長岡藩や会津藩の矜持又はタナトス(自殺願望)を想起した。

日本列島(本土)の植生や昆虫の分布は糸魚川ー松本ー諏訪ー静岡という中央構造線(大断層)の東と西で異なっているという。植生や昆虫だけが異なっているのではない、味噌汁の味、電気の周波数も違う。この事実は偶然とみなすべきではなく、我が日本列島(本土)の形成過程、日本国の形成過程、日本人の形成過程に起因するものではないかと推察する。「方言」が「標準語」に置き換わり始めて百余年。とりわけ東北・鹿児島・沖縄の方言は難解だ。

数万年前から我が日本列島の住人であったとされる縄文人(旧モンゴロイド)は高温多湿の照葉樹林帯の豊かな自然環境の下で、独自の先進的文明を発達させてきたといわれている。巨大な木造建築、栗や粟などの栽培、河川や沿岸での漁労そして縄文式土器による調理や食物保管など、山川草木と調和する循環型社会を築いてきた。

古代日本人(縄文人)の原型を色濃く残しているのは、日本列島の南端と北端、つまり沖縄・奄美諸島と北海道のアイヌと推察される。性向は温和、胸幅は厚く、体毛は濃い。縄文人は日本列島の先住民族(古代日本人)であった。そして数千年前、江南・渤海沿岸・半島南部を経て日本列島に漂着した稲作農耕民(倭族)と若干おくれて漂着したツングース系騎馬民族の一派が西日本と房総半島や関東内陸部に侵攻して先住民族を征服した(神武東征神話)。白人がアメリカ大陸の先住民を殺戮して征服した何千年も前に、日本列島でも同様の事態が生起していた。

大和朝廷や京都朝廷は、東方の先住民(蝦夷)の相次ぐ反乱に苦しんだ。平安時代には坂上田村麻呂を征夷大将軍に任じて征討させた。まもなく陸奥の国で安倍貞任一族(安倍総理の祖)らが率いた「前九年の役」や「後3年の役」が発生した。先住民から見ると「十分な説明もなく、負担を一方的に押しつけてくる中央政府(大和朝廷)は許せない」ということであろうが、中央政府(大和朝廷)から見ると「我が強く従順でない」と感じたのであろう。朝廷は源頼朝を征夷大将軍に任じて鎌倉に幕府を開設させ、同じく徳川家康を征夷大将軍に任じて江戸に幕府を開設させた。

明治維新政府軍は会津・長岡両藩を中核とする奥羽列藩同盟を征討すべく大軍を派遣した。徳川将軍家の居城江戸城は無血開城されたが、長岡藩と会津藩は徹底抗戦。長岡藩と会津藩は損得計算(理性)で動いた徳川将軍家と異なり、道義を重んじ、憤怒の情(感性)を優越させたというべきだろう。感性が豊かな縄文人と理性的な弥生人の混血と同化が進んでいる西日本・関東と、混血と同化が進んでいない甲信越・東北・沖縄はもとより相性が悪い。常に被害者的立場に置かれてきた東北(蝦夷)と沖縄には中央政府(朝廷)の指示・命令に従いたくない深層心理(集合的無意識)が積み重なっている。

西日本と関東平野に進出した新モンゴロイド(弥生人)の性向は、情勢に応じて臨機応変に自らの態度を変える現実主義を特徴とする。TPPや農協改革等環境の変化に合わせて自らの対応を変える柔軟性があると言い換えてもよい。西日本の農協では「もはやTPP反対とか、農協改革反対に拘泥している場合ではないし、新たな情勢を視野に入れた農業経営の在り方、農協の企業化と企業との連携の在り方を模索している」と考えてよい。一方、甲信越・東北・北海道の農協は「安倍・自民党の契約違反は許さない」と激怒し自民党支持を撤回した。「怒りの感情を行動で示さないと憤怒の川を渡ることはできない」ということであったのかもしれぬ。

季節の変化は西日本で始まり、東北・北海道で終わる。

まとめ

米英独仏伊蘭等先進国の政権は「国益第1」を掲げる国家主義・民族主義政党(ナショナリズム)によって政権基盤を掘り崩されている。今や「2大政党による円滑な政権交代」という平和な時代は終わった。戦後体制(レジューム)を主導してきた米共和党と民主党は内部対立が激化し分解寸前にある。英独仏伊蘭を初め西欧各国においては民族主義政党が第1党の座を狙えるまでに勢力を拡大した。戦後70年続いてきた潮の流れが反転した。

安倍総裁率いる自由民主党は世界の趨勢に反して、衆院選と参院選に連勝して政権基盤をさらに固めた。左翼系マスメディアが喧伝しているように「野党第1党の民主党(民進党)が内部抗争に明け暮れ、対案も出せず、何でも反対の万年野党路線に陥っているために、選択肢が自民党しかない」という消極的な選択なのか。自民・公明両党は「敵失に救われ、安定した政権基盤を整えることができた」ということか。いかにも、自民党の優越さを認めたくない左翼メディアや左翼学者らしい我田引水的解釈であって客観性は全くない。

戦後長らく単独政権を担ってきた自由民主党は「大企業・中小企業・農家(農協)および業界団体」の利益を代弁し、万年野党の日本社会党は「労働者(組合)」の代理人であった。そして、派閥の権力闘争に敗れた小沢一郎や羽田孜らが自民党を脱党したことが契機となり、細川8党連立政権を初め不安定な連立政権(失われた20年)が続いた。そして捲土重来、復活・再生した安倍晋三総裁は自民党の支持団体を固め直し、さらに労組や学生にウイングを広げている。

自民党は「ムラ社会型ちゃんぽん政党」であって、ナショナリズムを信奉する者もいればグローバリズムを推進したいと考える者もいる。国家統制を強めるべきと考える者もいれば、規制撤廃を唱える者もいる。米国を基準にとると、共和党と民主党を合体し、トランプとサンダースの味付けをしたような政党なのだ。常に分裂の危機を内包しながらも「利権」や「権力」が接着剤になっている。

安倍総理は「正規・不正規労働者の賃上げ」「最低賃金の引き上げ」「保育所の拡充や育児費用の支援」「奨学金制度の改善」等の社会民主主義的政策を取り込んでいる。民主党(民進党)や共産党が独占してきた領域に大きく踏み込んでいる。結果、与野党の政策が近似し「争点なき選挙」が始まった。野党の存在意義(レーゾンデートル)が失われた。

安倍・自民党はグローバル資本主義と、自由主義・民主主義と、国家社会主義の「ちゃんぽん政党」をめざしているのではなかろうか。「国益の最大化」を求めて、必要に応じて硬軟使い分け、情況に応じて色を変えるカメレオンを理想型とみなしているのではなかろうか。「○○主義は国益第1を実現する手段にすぎない」と。

白髪爺 at 21:56|PermalinkComments(11)clip!

2016年06月18日

英国民は「EUからの離脱」を選択するか? 西欧においてナショナリズム(国家主義・民族主義)が復活した背景を読み解く

はじめに

フランス革命とアメリカ独立宣言に代表される「自由・平等・博愛(友愛)」を唱える理想主義(人権主義)は、被抑圧個人を国家の規制や共同体の呪縛から解放するものとされた。個人を絶対無二の「崇高にして犯すべからず存在」として確立したのがユダヤ・アングロサクソン同盟、共産主義者、社会主義者・社会民主主義者、無政府主義者であった。彼らは自らの意思で国を捨てた亡国の民、かつ自らの伝統宗教を捨ててユダヤ教徒となったアシュケナージ系ユダヤ人の精神的継承者である。

国家や地域共同体の呪縛(保護)から解放された個人は、又は国家や共同体という保護柵を奪われた個人は国際金融資本や多国籍企業の前では「か弱い子羊」であり抵抗する力がない。結婚もできない、子供も産めない劣悪な労働環境の下に置かれ、労働力の再生産機能を担うこともできない劣悪な環境に堕ちた。共産党一党独裁国家(中共)では中国共産党中央総書記習近平が約8千万人の共産党員と同官僚を指揮して、さらに中共軍や武装警察という暴力装置を総動員して13億人民(個人)を統括する。理想主義(人権思想)は人間を国家や共同体から切り離し、無防備な状態において直接管理する世界を創造した。器官を分子や原子に解体して横の連携を断ち、直接支配するという巧妙なる「支配構造(機制)」だ。個人は「人権」という名の透明の鎖につながれ管理されている事実を知らない。目覚めないよう洗脳され調教されてきたからだ。

西欧において、「反EU」を掲げるナショナリズム(国家主義・民族主義)が台頭している直接的要因は「イスラム過激派の相次ぐ無差別テロ」と「東欧やイスラム圏からの大量移民・難民が社会的・経済的混乱をもたらした」と認識されているためである。ナショナリズムには理想主義(人権主義・反国家主義)がもたらす社会的危機に対する自然発生的な防衛機制という要素もある。国家の垣根を取り払い、民族の伝統を破壊した(ユダヤ人が主導した)グローバル経済主義と共産主義思想の害悪がナショナリズムを育み成長させたといえなくもない。西欧のナショナリズム(国家主義・民族主義)は怒りの矛先をグローバル経済と共産主義思想を主導した「ユダヤ人」に向ける虞れがある。歴史上、何度も繰り返されてきた風景が再現されるかもしれぬ。アシュケナージ系ユダヤ人の末裔でフランス人エマニュエル・トッドは「フランスから理想主義(人権主義)が消えた」と嘆いている。フランス社会における排外主義(反イスラム・反ユダヤ)の高まりを肌で感じている証左だ。

第1:「英国のEUからの離脱」は不可避か

英キャメロン首相は2017年までに実施すると公約した「欧州連合(EU)に残留するか、離脱するかを選択する国民投票」を2016年6月23日に実施すると決めたが、その理由はおそらく「2016年6月であれば残留派が勝てる」と考えたからだろう。そして、念には念を入れて、さらに離脱派を切り崩すべく「EUにおける英国の特権的地位の拡充」を承認させた。欧米だけでなく先進国のマスメディアを総動員して「英国はEUに残留すべき」の大キャンペーンを繰り返した。伊勢志摩サミット(G7)は「残留支持」を決定した。

1年ほど前、「残留派」は「離脱派」を10ポイント超上回っていたし、英キャメロン首相は「負けるはずのない戦争」と楽観していたが、数ヶ月前から雲行きが怪しくなった。「残留派」と「離脱派」の支持率が拮抗するようになった。そしてキャメロン政権はマスメデイアを総動員し連日連夜大キャンペーンを繰り返したが、6月には「離脱派」が「残留派」を上回る世論調査の結果が増えた。

英ニュースサイト「インディペンデント」は、欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票についての世論調査で、離脱派が55%と33%の残留派を10ポイント上回ったと報じた。なお、4月の同調査では、離脱派が51%、残留派が49%だった。他の世論調査では両派の支持率はほぼ拮抗、予断を許さない戦いになっている。(12日付け日経より要約抜粋)

灰色の、物言わぬ、被抑圧大衆(サイレントマジョリティ)は、グローバル経済の勝者が国際金融資本と多国籍企業であり、これを推進したのがエスタブリッシュメントといわれる「政官財労の特権階級」であり、マスメディアもその一翼を担っていることを理解した。英米のマスメディアがいくら煽動しても大衆は踊らない。国際金融資本と多国籍企業及び彼らの代理人エスタブリッシュメント(特権的指導階級)は国境の垣根を壊し、ヒト・モノ・カネの移動を自由化し、中産階級を没落させ、下層階級から明日への希望を奪った諸悪の根源とみなされるようになった。グローバル経済又は理想主義(人権主義)の負け組とされる彼らは、ナショナリズム(国家主義・民族主義)にかすかな希望を求め夢を託す。

凶暴で狡猾、力(財力)と知恵のある食物連鎖の頂点に立つ肉食動物にとっては、規制のない、自由に振る舞うことができるサバンナは「最適環境」であるが、穏和で、誠実で、知恵と力のない食物連鎖の底辺に位置する草食動物にとっては「生き地獄」だ。グローバル経済又は理想主義(人権主義)にも勝者と敗者がいる。1930年代初頭、ヒットラーの「わが闘争」に共感し、ナチス党による独裁政権を支援し熱狂したドイツ国民の多数派についてエーリッヒ・フロムは「自由からの逃走」との名文句を残した。ヒトは苛烈な生存競争のサバンナの自由に耐え切れず、柵で囲われた不自由なサファリを求めたという趣旨の分析を残した。フロムは数百年前に生まれ、歴史の試練を経ていない「自由」という観念を神聖にして侵すべからずと考え、当為のものとして肯定した。「私(人権)以外を敬ってはならない」とする一神教の信者であった。

「EUからの離脱の是非を問う」英国の国民投票日が近づくにつれて「離脱派」が増えている現実を勘案した投資家は「世界の株式市場から逃げ(株価大暴落)日米独の国債購入(国債急騰や急激な円高)や現物金の購入等安全資産に資金を移動させた。しかしながら英国民がいかなる選択をしても大勢に影響はない。というのも、「反EU」は英国だけでなく、フランス、オーストリア、オランダ、ベルギーそしてEUの中核国ドイツでも大きなウネリとなって押し寄せているからだ。先進国各国が「EUからの離脱」を巡って先陣争いしている状態だ。

第2:西欧社会における不安の高まりとナショナリズムの台頭

辞書によると、ナショナリズムとは「他からの圧力、干渉を排して、その国家の統一、独立、発展を推し進めようとする思想や運動。国家主義、民族主義」とされている。戦後、西欧では中東やアフリカ、冷戦終了後は東欧から大量の移民を受け入れてきた。企業の国際競争力を維持し、企業利益の最大化を図るための開発途上国からの移民を大量に受け入れてきた。移民はハンデキャップを乗り越え、奮励努力して生活基盤を築き、子供に教育を施して、立身出世を遂げた者もいるが、多くは「下層移民」から抜け出すことができない。企業は「より安い賃金で雇用できる労働者」であれば出自に拘らないから、小さなパイを巡って下層原住民と下層移民が仕事を奪い合うことになった(敵対矛盾)。

現在、中東やアフリカ等の紛争地域及び開発途上国の東欧諸国から脱出して西欧に押し寄せる移民(難民)は年間100万人以上、下層原住民と下層移民の不満は高まるばかり。政府は無策だから移民(難民)の流入に歯止めがかからない。中道政権(左派・右派)が推進してきた「移民受け入れ政策」と「EU域内のヒト・モノ・カネの自由化政策」の勝ち組と負け組の色分けと固定化が進んでいる。閉塞感で不満のはけ口がない下層現住民はナショナリズム(国家主義・民族主義)に夢を託す。一方、西欧キリスト教文明社会で豊かな生活を享受できないイスラム教徒の青少年の一部は、イスラム過激派ISや同シンパに共感し、アフガン、イラク、シリア、リビア等の内戦に加わるか又は西欧に留まって無差別テロを企てる。

第3:英国におけるナショナリズム(国家主義・民族主義)

英国は形式上は連合王国(イングランド、ウエルズ、スコットランド、北アイルランド)とされているが、実態はイングランド王国が隣接する3王国を軍事制圧して併合したもので、現代風にいうと、資金力に勝るイングランド王国が隣接する王国に敵対的買収を仕掛け吸収合併したのと同じ。1995年公開の米映画「ブレイブハート」で、メル・ギブソンはスコットランドの英雄ウイリアム・ウオーレス役を演じた。ウオーレスはイングランド王国の圧政に対する抵抗運動を続け、武装蜂起してイングランド王国軍を潰走させたこともあった。現在でもスコットランドの英雄として各地で顕彰されている。2014年実施された「スコットランド独立の可否を問う住民投票」では独立反対派が僅少差で勝利したものの、スコットランド独立の火種は700年前からくすぶり続けている。スコットランド独立をめざす地域政党は「英国のEU離脱」が決まったならば、スコットランドはEUに留まるべく英国からの独立の可否を問う住民投票を行う」と表明した。

英国保守党キャメロン政権は、西欧主要国の中道政権と同じく、「移民・難民の激増」と「イスラム過激派の無差別テロ」に対する有効な手段を持ちあわせていない。今や、「ナショナリズム(国家主義・民族主義)」という妖怪が西欧全域を徘徊するようになった。

ユダヤ・アングロサクソン同盟と共産主義・社会主義・社会民主主義を信奉する左翼は「ナチス=凶悪」という図式を描く。「賢明なドイツ国民がなぜ、ナチスというマンガチックな悪党に騙されてしまったのか?」と考える。もとより、1930年代のドイツ国民は人格障害者でもなく、ナチスの一方的な煽動と宣伝に騙された訳でもない。大恐慌以降の暗黒時代、既成政党の「決められない政治」に我慢できなくなったドイツ国民はナチスに「地獄に仏」を感じたのだ。ナチスの国家主義・民族主義に賭けたのだ。ドイツ国民の「不安」がナショナリズムを高揚させ高みに押し上げたのだ。

英国の独立機運を高めている「不安」とは何か。西欧社会が共有する大量移民の流入による失業者の増加と社会福祉制度の崩壊及びイスラム過激派による無差別テロに加え英国独自の「不安」もある。

(欧州連合(EU)はドイツが主導する大陸同盟)

欧州連合(EU)28か国中、海洋国家は英国だけで、地政学的にみても英国は特殊な地位にある。英国の宿敵ドイツは豊かな経済力によってEUの覇者となって「大陸同盟」を統括する立場を確立した。「EU=ドイツ経済圏」といってもよい。ドイツ国歌が唱える「世界に冠たるドイツ」が実現した。ヒットラーが戦争で敗北し未完に終わった「世界に冠たるドイツ」を、メルケル首相は経済戦争に勝利して実現した。(いつまで続くか分からないが・・)

「英国のEU残留」がもたらすもの、それは英国の主権の一部を放棄して欧州連合(ドイツ)の軍門に下ること、その代償として経済的利益を得られるということに尽きる。金儲けのために主権の一部を譲渡するか?それとも「武士は食わねど高楊枝」を貫くか?の選択なのだ。英キャメロン首相と同オズボーン財務相は「離脱すれば英国経済に破滅的悪影響が出る」と絶叫している。キャメロンとオズボーンは「英国経済の未来」を悲観し焦っている。世界最大の人権侵害国家の習近平総書記を国賓として招き破格の接待を行った。エリザベス女王陛下は習近平の「礼儀をわきまえない傍若無人な態度」に立腹された。キャメロンとオズボーンは金銭亡者に成り下がった。

約500年前、シェイクスピアは戯曲「ベニスの商人」で、ユダヤ人金貸しの金銭亡者ぶりを批判し聴衆の大喝采を受けたという。西洋キリスト教文明に「排他的ではあるが健全な精神が宿っていた時代」の話だ。当時は「人はパンのみにて生きるに非ず」というキリスト教の精神は残っていた。現在、ユダヤ人の金貸しが流布し創造した金銭万能社会の悪臭が世界を覆っている。これに反発する健全なキリスト教徒の怒りが、地の底(深層意識)から噴出する時代になった。ナショナリズムは「人権思想」という名の抑圧機制を解き放つ。活性化した深層意識は巨大なマグマとなって地表を突き破り噴出する。

かって、英国の後ろ盾となってきたアメリカ合衆国は重心をアジアに移した。(オバマのリバランス政策)、そして次期大統領候補トランプは「国益第1」(国家主義・白人優位主義)を表明した。これまで不磨の大典とされてきた「人権主義」に対し、公然と異議申し立てを行い、共和党予備選を勝ち抜くことに成功した。西欧社会と同様、米国社会においてもナショナリズム(国家主義・民族主義)が台頭している。英国はドイツを盟主とする大陸同盟に対抗して海洋同盟を組む仲間がいない。米国の支援なしには強大な大陸同盟に対抗する手段はない。英国は今、EUに残留してドイツ経済圏の一員に甘んじるか?それともEUを離脱して孤高の道を選ぶか?の岐路にある。

米国が「英国のEU残留」を求めるのは、独仏を中核とする大陸同盟が米国から自立しないよう「監視役」として英国を配置しておきたいからだろう。米英にとって、独仏がロシアと談合して決める「ウクライナ停戦方式」は好ましい出来事ではない。米英抜きでヨーロッパ問題が処理されるのは困る。歴史的経緯もあって、ロシアとドイツを信頼していないポーランドとバルト三国は米英に懇願、それぞれにNATO軍(米英独)千名を派遣し駐留してもらうことになった。

ドイツが「英国のEU残留」を求めている理由は、英国のEUからの離脱が引き金になって、西欧全域で「反EU」の火の手が燃え上がることを恐れているからだ。もっとも、EUが解体すれば、ドイツは「親ドイツ国」を糾合してドイツ第4帝国の結成を急ぐ。幼少期から「世界に冠たるドイツ」という国歌を斉唱させられ刷り込まれたドイツ国民が野望を捨てることはない。

国民投票の1週間前(16日)、「EU残留」の運動に従事していた英労働党ジョー・コックス下院議員が銃殺(刺殺)された。容疑者は犯行現場で「ブリテン・ファースト」と叫んでいたという。この「英国が第1」という意味が大英帝国への回帰という意味なのか、それともドイツに屈しない自立した英国中心の政治を(国益第1)という意味なのかは判然としないが「反EU]であることは明らかだ。暴力で言論を封殺する蛮行を肯定する個人・団体・政党はいないであろうが、英国民の投票行動にどのような影響を与えるかは不明だ。「同情票が残留派に集まる」という見方もあるが、アングロサクソンはそれほど人情に厚い、軟弱な民族とは思えない。

第4:ロシアによる「EU分断戦略」と「反EU勢力支援」

EU(NATO)の東方拡大は「東欧→バルカン半島→ジョージア(グルジア)→ウクライナ・ベラルーシをロシアの勢力圏から剥ぎ取ってロシアを丸裸にした上で解体する」との大戦略をもって推進されてきた。これに危機感を抱いたプーチンのロシアは「対グルジア戦争」を仕掛けて一部を併合、ロシア黒海艦隊の拠点クリミア半島を奪取、ウクライナ東部の親露派武装勢力を支援してウクライナ内戦に介入した。親欧米のウクライナ政権に圧力をかけ瓦解させることを当面の目標とする。プーチン大統領は「いかなる犠牲を払っても、ロシアの防衛ラインは死守する」と考え、一歩も譲る意思はない。ナポレオン軍のモスクワ侵攻(1回目)、ヒットラー軍のカフカス侵攻(2回目)に続く3回目の国家的危機がEU(NATO)の東方拡大と位置づけ「必要があれば核兵器の先制使用も躊躇しない」と覚悟しているはずだ。

(ロシアから見ると)幸いにも、EU28か国は同床異夢の互助会組織で、重大案件(移民対策等)になればなるほど利害対立が深まり統一した対応がとれない。加えてNATOは「米国・英国・カナダ」がロシア敵視組、「フランス・ドイツ」がロシアと是々非々、「イタリア・ギリシャ」がロシアに融和的、「ポーランド・バルト三国」が反ロシアの看板を掲げ米英依存を深めているという具合だ。プーチンはメルケル(独)とオランド(仏)と談合してウクライナの停戦合意を成立させた。さらにプーチンはギリシャとイタリアを訪問して首脳会談を行う予定で、本年末には訪日も計画中だ。プーチンは「優柔不断な理想主義者オバマの任期が終わる2017年1月までに局面を大転換させる」との決意をもって着々と布石を打っている感じだ。

西欧社会は「大量に押し寄せる移民・難民対策」と「頻発するイスラム過激派による無差別テロ対策」に翻弄され国論は分裂。各国政府は有効な対策を打ち出すことができないから国民のイライラは募るばかり。「人権思想」を絶対視しないナショナリズム(国家主義・民族主義)への期待が急速に高まっている。仮に、英国の国民投票で「残留派」が勝利したとしても、西欧全体を覆うナショナリズムの台頭を食い止める手段はない。プーチンはこれら「反EU勢力」を支援し「EU解体」を狙う。西ユーラシアにおいては「EU解体」と「NATO弱体化」、東ユーラシアにおいては「中共解体」と「日米同盟弱体化」がロシアの国家安全保障戦略の基軸と位置づけられていると考えてよい。

まとめ

仮に、英国民が当面の利益を保持するために「EU残留」を選択しても「EU解体」の流れは変わらない。特に「受益は少なく、負担は増える一方」と感じている英国、フランス、ベルギー、オランダ、オーストリア(最近はドイツも)の中道政権(右派・左派)は、国民の怒りを抑えて政権を維持すべく「国益第1」(ナショナリズム)の旗を掲げざるを得なくなった。その代表格がフランス社会党のオランド大統領だ。もはや「国益第1」(ナショナリズム)は極右や極左の専売特許ではなくなった。戦後、「人権主義」を掲げて政権を担ってきた中道政権(右派・左派)は、これまでの政策を堅持して自滅するか、それとも国家主義的・民族主義的要素を取り入れた政策に変更して生き延びるか、の岐路に立っている。欧州における国家主義及び民族主義政党の伸長と米国におけるトランプ・サンダース旋風は戦後の「人権主義」が崩壊しつつあることを示している。

各国が「国益第1」で動くようになれば、EUは機能不全、統制不能に陥る。参加国は「国益第1」を優先し「EUの全体利益」を軽視するからだ。重要な課題で統一した政策を打ち出すことができないから、参加国はそれぞれの損得勘定で行動する。移民・難民受け入れ問題でEUの弱点が露呈した。

「国益の最大化」を求めて、参加国がそれぞれ「国益第1」を選択したならば、参加国は、国益の最大化を達成できないばかりでなく、これまで確保していた権益も失う。将来獲得できたであろう利益(得べかりし利益)も失う(合成の誤謬)。

「国益の最大化」は、トランプが主張するように、他国を威圧して屈服させ、負担を押しつけることでは達成できない。「国益の最大化」は短期売買で稼ぐのではなく長期投資を基本とすべきであろう。近江商人の三方良し精神「相手国にも恩恵があり、第3国にもメリットが波及し、自国もそこそこ儲けることができる」を国家戦略の基軸におきたい。そうすれば、仲間は増えることはあっても減ることはない。利益は薄くても「塵も積もれば山となる」だ。「薄利多売」ではなく「薄利長売」を心がけたいものだ。



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2016年06月01日

G7伊勢志摩サミットの秘匿された核心的テーマは「中国包囲網の強化策」だったのか?

はじめに

G7サミットを主宰した安倍総理は議長会見において「世界経済の最大のリスクは新興国経済に陰りが見え始めていること。リーマン・ショックによる経済危機が世界を覆っていたとき、世界の景気回復を主導した新興国経済が急速に減速した。最も懸念されるのは世界経済の収縮であり、世界的規模の需要低迷が長期化するリスクをはらんでいる。ここで対応を誤れば世界経済は通常の景気循環を超えて危機に陥るリスクが高い。G7は強い危機感を共有し、協調して金融政策、財政政策、構造改革を進め、3本の矢を放っていくことで合意した」と述べた。

安倍総理が「世界経済の危機(Crisis)が迫っている」と主張したのに対し、メルケル首相(独)とキャメロン首相(英)は「世界経済の現状は危機(Crisis)とはいえない。世界経済は長期低迷する危険(risk)にあると評価すべき」と反論し、意見の不一致が表面化したと報じられた。経済学者、マスメディア、そして民進党岡田克也党首もこれに便乗、「安倍総理は世界経済の危機を煽り、消費増税時期の2年半延期の理由づけに利用した」と非難した。

安倍総理は「(中国を始めとする)新興国経済が急減速、世界経済が過激な収縮過程にある(中国発経済危機)」と具体的事実を列挙して警戒信号を発したと推定されるが、もとより中国と利害関係の深い日米にとっても中国を刺激し過ぎることは得策ではないし国益にもつながらない。他方、中国経済への依存を深めている独メルケル首相と英キャメロン首相は「中国経済が危機に陥ることは国益を損なう」と考えているから、希望的な観測を交えて発言した。なお英独仏ら欧州諸国にとって東アジアは遠く、当事者意識も希薄で、情報の収集と分析が粗雑で、伝聞情報や中共の「札束外交」と巧言令色的宣伝に騙され易い。さらに、目の前においしい食い物を提示されると、ヒトは欲望に目がくらみ、期待と願望に胸を膨らませる。中国の険しい現実に目を背け、中国を美化して眺める。「惚れた女の痘痕(あばた)は笑窪(えくぼ)に見える」という人間心理だ。

安倍総理が英独仏の首脳に「中国に騙されてはいけませんよ」と忠告しても聞く耳を持たなかったのか?あるいは「アベの見解は理解できるが、中国の心証を害すれば、姑息な手法で嫌がらせをされるかもしれず、今回は、日欧の世界経済の現状認識が異なっていた」ということにしておきたいということであったのか?真偽は不明である。おそらく、安倍総理は「中国経済が崩壊過程にある客観的資料を掃いて捨てるほど保持していたであろうし、その一部は極秘資料として各位に提供されたはずであるが、公式的には、中国経済の現状とは直接関係のない(説得力のない)「4枚の資料」を提示しただけとされた。中国を刺激しないための「政治的配慮(パフォーマンス)」ではなかろうか?共同宣言や議長声明で明らかなように、伊勢志摩サミットでは「中国の政治・経済・外交・軍事の現状と課題及び周辺国の対応」について相当突っ込んだ協議がなされたことは明白であるが、過敏症に罹患し、被害者意識を高めている中国を刺激しないよう、個別・具体的な批判(対北朝鮮・対ロシア)は避けた。

第1:国家の「意思」が経済を創造し、停滞させ又は破壊する

自然科学は「仮説→検証→仮説の修正→検証・・・」の実験を繰り返して、大自然の摂理に接近する手法をとっているのであるが、社会科学や人文科学が担う分野は研究対象が巨大で、かつ複雑すぎるから「仮説を立てて実験を行って検証する」という手法が使えない。そこで、過去完了の歴史的事実を調査・発掘・収集し、事実の周期性や類似性に着目し、経験知を加味して「仮説」を立て、将来に発生するであろう事象の予測を行う。直下型地震の発生確率や罫線を利用した株価予測はその典型であるが、このような手法では「当たるも八卦、当たらずも八卦」の域を超えるのは不可能だろう。

近代経済学の未来予測も同様であって、経済学者が100人おれば100通りの経済分析と未来予測がなされるのが常態であるから、経済学者の見解を鵜呑みにする馬鹿はいない。相手にされていないから、判断や予測を間違えても誰からも非難攻撃されることはない。彼ら経済学者と称する輩は「経済予測の不確実性」を糊塗するために、複雑な計算方式や図式を提示して「本物らしく」繕う。「詐欺師」と異なる点はない。

我々は、経済行為が人間の営みの一つであり、人間の「意思」が経済行為を活性化させることも、経済行為を停滞させることも、そして経済行為を破壊することがあることを知っている。経済行為が人間の「意思」によって生みだされるとすれば、経済危機もまた人間の「意思」が生み出したと想定せざるを得ない。周期的・循環的に訪れる経済危機は資本主義が内包する矛盾と見るべきではなく、バブル経済を煽り、推進し、崩壊させることで最大利益を得んと欲する少数者の「意思」が生み出すものと考えざるを得ない。サバンナには草木を食んで生きている草食動物、他の動物を食って生きている肉食動物、そして死肉に群がるハゲタカやハイエナ、他の哺乳動物に寄生し生き血を吸って生きているヒル等、自然界には多様な生活スタイルがある。

同様、人間の経済行為や国家の経済政策も多様であってさまざまなタイプがある。人間だけではなく、国家の鳥獣戯画図も描けるのではなかろうか。という訳で、資本主義制度を創造し、バブルの発生とバブル崩壊を演出し、濡れ手に粟の大儲けを企み、実行している投機集団又は投機国家がいたとしても何の不思議もないのだ。バブルとバブル崩壊は彼らの「意思」と「戦略」が練り上げた工程表に沿って運用されていると見るべきではなかろうか。真の経済戦略家は目立つのがお好きでない、正体を秘匿するよう努めている。

経済や戦争等人間の営みがある場所では「人間の意思」が介在し局面を動かしている。人間は「意思の力」によって、人間社会を大自然が想定していた軌道から逸脱させた。

国家が主導する経済活動(交易・為替・商品売買・投資等)は国家の「意思」によって、戦略的又は恣意的に行われている。特定の国家(例えばインド)の経済を発展させようと考え、投資を集中することもできるし、逆に、特定の国家(例えば中国)の経済を破綻させようと考え、当該国の経済活動を妨げる諸施策を講じ、又は目に見えない制約や目に見える経済制裁を課して当該国の経済を破滅に追い込むこともできる。

戦後、我が国が長期間の経済成長を享受することができたのは我が国民の勤勉性に加え、米国が「米ソ冷戦」に勝ち抜くために、東アジアにおける米国の最重要拠点と位置づけた日本国の経済発展を支援してきたことが大きい。1991年、米ソ冷戦が終わり、米国にとって我が国の戦略的価値は大きく低下した。特別待遇を付与する必要が乏しくなった。さらに、1980年代以降、我が国の経済力は米国覇権の最大の脅威となった。「失われた20年」は我が国の政治的混乱や経済・金融政策の誤りとされているが、腰縄手錠をかせられ、「それ以外の選択肢がなかった」と解すべきだろう。経済は慈善事業ではない、戦争と同じく「国益と国益」、「国家の意思と国家の意思」が激突する修羅場であるからやむを得ない。

第2:サミットの影の主役は中国(中共)

(以下1−8はG7首脳宣言と同付属文書の骨子・・28日付け日経より抜粋)

1.世界経済(中国経済?)の下方リスクが高まっている。

2.(中国の?)過剰生産能力が(世界の?)経済、貿易、労働者に与える負の影響を認識

3.実質的所有者情報の透明性の改善は腐敗、脱税、テロ資金供与、資金洗浄防止のために必要(開示されたパナマ文書に中共の高官一族ら3万人?)。ペーパーカンパニーの実質的所有者に関する各国の行動計画を完全に実施。

4.TPPと日欧EPA、日本とEUの強固なコミットメントを歓迎(ASEAN+3又はASEAN+6ではない?)

5.東シナ海、南シナ海の状況(中国による岩礁埋め立てと軍事基地建設?)を懸念し「海洋安全保障に関するG7外相声明」を支持

6,質の高いインフラ投資(非中国的?)

7.サイバー空間の悪意ある利用者(中国?)に対し、密接に協力して断固とした強固な措置をとる。国連憲章を含む国際法(戦争行為とみなす?)をサイバー空間で適用することは可能

8,インフラ関連の公共調達の腐敗リスクを意識し、公共調達プロセスの透明性を向上(中国の賄賂外交を問題視?)

以上、G7首脳宣言と付属文書の核心は「中国関連事項」であり、伊勢志摩サミットの主要テーマが「秩序破壊を企てている中国(中共)」であることを疑うものはいない。誰よりも中国(中共)自身が伊勢志摩サミットの真の狙いを理解し半狂乱状態に陥った。

第3:サミット直後の動き

1.27日、米連邦準備理事会イエレン議長は「米経済は改善しており、数ヶ月以内に利上げするのがおそらく適切だ」と述べた。(28日付け日経・夕刊)

2.安倍首相は30日、環太平洋経済連携協定(TPP)の国会承認を追求し、発効の機運を高める。アジアに加え、世界全体に対して2017年から5年間で総額2000億ドル規模のインフラ投資を実施する方針を示した。(31日付け日経)

3.政府は伊勢志摩サミットの合意を受け、世界的な鉄鋼の過剰生産を是正するための対応に乗り出す。不当に安い価格での輸出に対し、反ダンピング(不当廉売)関税などの措置を検討、中国への対抗措置を強めている欧米と足並みをそろえる。(31日付け日経)

米国が利上げすると、資金が中国を初め新興国から米国に還流する(米ドル高、新興国(中国)の通貨安)。安倍総理が議長会見で述べた「新興国経済の急減速」に弾みをつける狙いであろう。つまり、経済恐慌は自然現象ではなく、資本主義が内包する宿痾(しゅくあ)でもなく、何者か?(背後霊)の「意思」が経済恐慌を惹起するのだ。そういえば、1年ほど前、ユダヤ人の金融投機家ソロスが「中国人民元売り」を表明した。ハゲタカファンドにとっては腐りかけた肉ほど美味しいものはない。中国は「腐りかけた肉」と位置づけられたように見える。

第4:安倍総理のサミット前後の動き

1.英独仏伊4か国訪問
安倍総理の訪欧はサミットの事前打ち合わせであろうが、他方、東シナ海と南シナ海における中国の「力による現状変更」と「周辺国の反発」を説明し同意を求めた。中国経済への依存を深めている英独と中国の蜜月関係に楔を打ち込む狙いがなかったとはいえない。同時期(5月連休)、岸田外相はミャンマー、ラオス、ベトナムを歴訪し地固めをした。

2.ソチでの日露首脳会談
安倍総理がオバマ大統領の強い反対を押し切ってプーチン大統領との首脳会談に踏み切った背景は冷却状態に陥っている日露関係を修復すること、ロシアを中国依存一辺倒から引き剥がし、中露蜜月関係に楔を打ち込むこと等の狙いがあったとしても不思議ではない。ロシアにとっても「中国依存からの脱却」と、「対日関係・対米関係・対欧関係を改善しロシアに対する経済制裁を緩和してもらうこと」は喫緊の課題となっている。ロシアは伝統的に戦線を絞り込み、戦力を集中投入する性癖がある。西部戦線が忙しい時は、東部戦線は平穏でなければならないと考える。そして、東アジア戦略において、中国と日本をはじめとする周辺国のいずれにも偏せず、中立の立場で紛争を調整し、漁夫の利を得ることがロシアにとって最大の国益と考えている。

3.アジア・アフリカ首脳との会談
安倍総理は28日、伊勢志摩サミット拡大会議に出席したアジア・アフリカの首脳と名古屋市内のホテルで個別会談。「質の高いインフラ投資」で支援する考えを示すほか、中国の南シナ海などへの進出を踏まえ海洋安全保障も協議する。スリランカ、アフリカ連合(AU)議長国チャド、バングラデシュ、パプアニューギニア、ASEAN議長国ラオス。その後、東京に移動し、ベトナムのフック首相と会談する。(28日付け日経・夕刊)

以上のほか、昨年末、米国の要請と支援により、安倍総理は従軍慰安婦問題で日韓合意をとりつけ、北朝鮮の核実験を契機として中韓離間策を仕掛けた。「覆水盆に返らず」というから、当面、中韓関係が元の蜜月関係に戻ることはあるまい。さらに、台湾でも親中の国民党馬英九総統から親米・親日の民進党蔡英文総統に交代した。習近平は日本国安倍総理を包囲殲滅するつもりで取り組んできたのであろうが、気がついてみたら、いつの間にか、中国の方が孤立無援、四面楚歌に陥ってしまった。習近平は国内でも軍高級幹部を含む政敵数十万人を粛清したから、当然ながら政敵側の反撃を警戒せざるを得ない。政敵がいかなる手口で仕掛けてくるか、夜も安心して眠ることができない。

今や、中共中央の権力闘争も最終段階に至っているが、誰もが粛清を恐れ面従腹背に徹しているから敵と味方を識別するのが容易ではない。盟友王岐山(党中央規律委員会書記)には政敵側に寝返るかもしれぬという不穏な動きがある。かくして、習近平・王岐山が二人三脚で推進してきた「反腐敗闘争」に急ブレーキがかかった。習近平一家の一族郎党は「我に利あらずスイ往かず」と感じ始めたのではなかろうか。この微妙な変化を嗅ぎつけたのか?、江沢民・曽慶紅一派に弾圧された健康修練団体「法輪功(大紀元)」は「習主席は中国共産党を解体すべきだ。中共を解体すれば中国5千年の歴史に名声を刻むことができる」と煽動した。「民主中国の習近平大統領に横滑りできるし、一族郎党の身の安全も確保できる」と催促した。

まとめ

米国発世界恐慌(リーマン・ショック)から世界経済を回復させた原動力は中国が行った住宅建設、高速道路建設及び高速鉄道建設を中心に投入された約60兆円の公共事業であった。中国の資源爆買いによって資源産出国を初め世界中がリーマン・ショックの痛手から立ち直り活気を取り戻した。中共中央と同地方政府はあたかも「もののけ」に取り憑かれた如く、利用価値の乏しい公共事業や採算を度外視した公共事業に予算を投入した。上海・北京・天津・重慶等の特別市から山間僻地の末端地方政府に至るまで、浮かれたようにゴーストタウンを造った。結果、中国共産党中央と同地方政府直営の公共事業関連国有企業は生産体制を拡充、数千万乃至数億人の農民工(出稼ぎ労働者)を雇用した。中共中央と同地方政府が総力を上げて取り組み構築したのが「過剰生産体制」である。

13億人民を一元的に管理する共産党独裁政権を維持するためには、軍・武装警察・民兵等の暴力装置のほか、密告を奨励し、警察などの治安機関を総動員して人民を弾圧し、人権を蹂躙し、「力による人民管理」を徹底しなければ、民心を完全に失った共産党一党独裁政権を維持することはできない。もともと、中国人民の粗暴な性向は「抗日無罪」「革命無罪」という毛沢東の暴力肯定思想によって教導されたものだ。その矛先が共産党に向けられるようになっただけなのだ。

漢族は数千年に及ぶ異民族の支配に甘んじたが、その代わり、「中央に政策あれば地方に対策あり」という独特の文化を身につけた。中央が発する通達は地方政府によって骨抜きにされる。天子の厳命であっても、中国全土、津々浦々に至るまで徹底することはない。

毛沢東は中途半端なやり方では漢族を管理できないことを知っていた。そこで、毛沢東は全党を上げて大躍進政策(鉄鋼や農産物の大増産等)の号令を発し断行した。反対する者は容赦なく切り捨て粛清した。結果、中国全土の山林が伐採されてハゲ山と化した。羊や山羊の過放牧によって緑野が砂漠になった。農薬の大量使用によって農地の毒物汚染が進んだ。大自然の摂理を無視した毛沢東の大躍進政策は見事に失敗、5000万人が餓死した。そして、毛沢東は共産党中央の解体と再編成を企図して青少年を扇動し、紅衛兵を組織して蜂起させた(革命無罪)。文化大革命はイスラム国(IS)と同じく、伝統文化を含む既存の文明を否定し破壊した。文化大革命の10数年間に虐殺され又は餓死した者は3000万人に達した。中国という超巨大マンモスタンカーを動かすためには「極端な政策」を掲げ、いかなる怠業も許さず、いかなる犠牲も覚悟して政策を貫徹しなければならない。危険を察知しても迅速かつ機敏な危機回避策はとれないし、座礁すると分かっていても難破するまで前進する以外にない。

中国の土地バブル、公共投資バブル、資源爆買いバブルは世界の常識をはるかに超えるものであるが、これは彼らの無知ぶりを示すというより、超巨大マンモスタンカーの体質的欠陥というべきだろう。一度走りだすと、誰にも止めることができないのだ。いま、中国の金融機関(国有・民間・闇金融等)が抱える回収できない不良債権の総額は中共中央も、同地方政府も、誰も、把握できない。不良債権総額は少なく見積もっても数百兆円、巷では1500兆円を超えているといわれている。

失業者の急増による治安の悪化、地方政府の財政破綻による地方政府の崩壊等共産党一党独裁政権を支えてきた支柱が壊れ始めた。中共中央は先般、利子さえも払えないほど膨大な負債を抱えているゾンビ国有企業に債券発行する権利を与えた。ゾンビ国営企業の借金を第三者の金融機関や個人に「移し替える」ことで、当座をしのごうという訳だ。もとより、紙くず同然の債券を買う馬鹿はいないから、この債券は行政命令を発して金融機関に押しつける以外にない。その代わり、当該金融機関には中国人民銀行が紙幣を大増刷して資金を湯水の如く流し込む。結果、人民元紙幣が大量に印刷され頒布されることで通貨価値は暴落する(ハンパーインフレ)。これを想定した資金の国外逃避(キャピタルフライト)に歯止めがかからない。習近平を筆頭とする党中央政治局常務委員や共産党・軍の高官の一族郎党は率先垂範、職権を悪用し、香港に本拠を構えるユダヤ系金融資本HMBC等を介してタックスヘイブンに設立したペーパーカンパニーに天文学的資金を逃避させてきた。「悪い奴ほど生き残る」という見本だ。

政府が「紙幣の大量発行(通貨発行特権の濫用)」に手を染めるのは中国王朝末期の特徴で、戦前、日本軍と戦っていた中華民国軍(国民党蒋介石政権)は軍費を賄うため紙幣を増刷したため中国人の信頼を失ったといわれている。

世界は今、中国発経済危機(チャイナ・クライシス)の影響を軽減すべく備えを固め始めた。消費増税時期の2年半延期はその対策の一つに過ぎない。ところで、中国の不動産バブルも、大規模公共事業も、生産設備への過剰投資も、強欲で無知な中共中央高官に食わせた毒饅頭かもしれぬ。経済は国家やヒトの「意思」が創り出し、停滞させ、破壊するものであるから、中国経済の破綻と崩壊は「工程表通り順調に推移している」という診断が下っているとしても不思議ではない。

数年前、某国が「そろそろ中国の経済成長に幕を下ろす時がきた。中国経済を余りにも長く支えすぎて中共中央を増長させてしまった。豚は太らせて食えとはいうが太りすぎた豚は美味しくない」と考え直し進路変更したと仮定してみる。結果、「中国の高度経済成長時代が終わり、中国経済は右肩下がりの崩落過程に移行した」と仮定してみる。そして、「中国に代わってインドが、新たな高度経済成長国に指定された」と仮定してみる。一体全体、そのような荒唐無稽でマンガみたいな仮説が実在してよいものだろうか?「事実は小説よりも奇なり」というから予断はできない。

現実の流れを眺めていると、コインの表が裏に見え、コインの裏が表に見えることがある。どちらが真の姿なのか?、あるいは、どちらも真の姿なのか?疑念は尽きない。

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2016年05月22日

世界の対立軸を決めるテーマは「対テロ戦争」か、それとも列強が生き残りを賭けて争う「世界戦争」か

はじめに

無差別殺人や強盗・強姦・放火等の凶悪事件は我が国でも年間数千件、全世界では数十万件も発生しているから猟奇的殺人事件の如き特別の事情がない限りマスメディアの報道も短期間で終わる。ところが、「テロ」と称される犯罪については繰り返し、長期間、報道される傾向がある。「特定の犯罪行為(テロ)」だけが抽出され、特別扱いされているように見える。「テロ」だけが犯罪行為を罰するのではなく、テロを行った人間(極悪非道な)が詳細に分析され、又は「信念に殉じた戦士」として美化されている。彼らは単なる犯罪者であってはならず、「悪逆非道な人間」又は「聖戦の勇士」でなければならないとされている。

誰もが、自爆テロや小銃等で一般市民を無差別に殺害するのは許せないと感じている。しかしながら、犯行現場が欧米であれば大々的に繰り返し報じられるが、欧米から見て辺境のロシア、トルコ、エジプトの市民であれば被害が同程度であってもっても扱いは小さくて短い。そして、米国やロシアの空爆で殺されているイラクやシリアの非戦闘員市民の惨状が報道されることはほとんどない。欧米で発生しているテロ被害者の何十倍・何百倍の規模で殺されているというのに。それとも、戦時の被害者(イラク・シリア)と平時の被害者(欧米)は同一基準で論じるべきではないということか?

第1:「対テロ20年戦争」がもたらしたもの

2001.9、11複数の旅客機を乗っ取った犯人グループは、同旅客機を米国防総省本館や国際貿易センタービル等に激突させて破壊した。旅客機の搭乗員、乗客、実行犯は全員が死んだ。倒壊した世界貿易センタービルを脱出できなかった市民数千人が殺された。米国政府は即刻「イスラム過激派アルカイダの犯行」と認定、アルカイダの首領オサマ・ビン・ラディン一味を匿っているアフガニスタンのタリバン政権に「犯罪者の引き渡し」を求めた。米国は「犯罪者引き渡しに関する回答期限」を数日後に指定したから、タリバン政権側に検討する時間的余裕があったか否か疑問が残る。さらにブッシュ政権はタリバン政権に検討するだけの時間的余裕を与えないで、初めから時間切れを狙っていたのかもしれぬ。何しろ、ブッシュ政権は9.11同時多発テロからわずか数日で犯行グループとして「アルカイダ」を認定、アルカイダの首領を匿っているアフガンのタリバン政権に「数日以内にオサマ・ビン・ラディンを引き渡さなければ攻撃を開始する」との最後通牒を突き付けた。同時並行して世界各地に分散・停泊していたはずの5つの米空母打撃群を戦争モード(水・食料・弾薬の補給等)に切り替えてアラビア海に集結させた。以上の事前準備が、事件発生後わずか1か月程度でなされた。ブッシュ大統領は戦争準備をすべて整えた後、上下両院において「対テロ20年戦争」を宣言し「アフガン戦争」を始めた。以上の経緯により、犯罪集団「アルカイダ」は、聖戦の戦士「アルカイダ」に昇格した。

約1年でタリバン政権を打倒した米国は勢い余って「イラク戦争(2003、3ー)」に突入。英国諜報機関がもたらした「イラクのフセイン政権が大量破壊兵器を保持している」との不確かな情報を真正なものとみなしたというが真偽不明。「イラク戦争をやる」との決意を固めてから、攻撃のネタを探した疑念もある。情報の信ぴょう性を十分に検討せず、「真正な情報」と信じたことにして利用した疑念がある。

イラク戦争は米英が主導し豪韓ポなどが追随して有志国連合を結成して行ったもので、中露独仏を初め国際社会の多くが賛同しなかった。イラクのフセイン政権は「負け戦」を覚悟していたのか、イラク軍は徹底抗戦を避け、主力部隊を解散して温存する戦術(戦争→ゲリラ戦→自爆テロ戦)に転換した。

8年後(2011.12)イラク駐留の米軍・英軍ら(最高時27万人)が全面撤収したことを奇貨としてフセイン軍残党(主力)は組織の再結集を図り一斉蜂起した。フセイン軍残党は戦術を「自爆テロ戦→ゲリラ戦→戦争」に転換し一斉蜂起、たちまちイラクとシリア北部地域を支配下に置いてイスラム国(IS)を名乗った。

現在、ISは米国やロシアの空爆、クルド人部隊やイラク・シリア政府軍の攻勢によって支配地域の約半分を失ったといわれている。一方、イラクの首都バクダッドのシーア派地域で自爆テロが頻発しているから、フセイン軍残党(アルカイダ)は再び「戦争→ゲリラ戦→自爆テロ戦」に戦術を転換したのではないかと推測される。敵が強大な場合は戦線を縮小するか又は支配地域を放棄するかしてゲリラ戦や自爆テロ戦に切り替え、敵が弱体化した場合は、分散している戦闘員をかき集めて一斉蜂起、戦争を仕掛ける戦術を採用しているのではなかろうか。

なお、同時多発無差別テロの標的となったフランスのオランド大統領は「対テロ戦争」を表明し、「非常事態」を宣言した。空母をシリア沖に派遣して報復攻撃を行った。世界中がイスラム国(IS)を「敵」と認定し宣伝してくれるから、彼らの市場価値はさらに高まった。中東・中央アジア・アフリカだけでなくインドネシアやミンダナオ島のイスラム過激派の一部もISを名乗るようになった。叩けば叩くほどホコリが出るように、攻撃されればされるほどISは世界各地に転移して増殖する。

イスラム過激派「アルカイダ」が9.11米中枢部に対する同時多発テロを実行した動機は何か?彼らが聖地と考える中東地域に土足で踏み込み乱暴狼藉を働いた米国に対する報復なのか、それとも、短絡的なブッシュ大統領(当時)を激昂させ、米国を「対テロ20年戦争」の泥沼に引きずり込む計略だったのか。さまざまな怨念が積み重なり、さまざまな動機や計略が合流し、大きな流れ(犯行動機)となったのではなかろうか。緻密なテロ計画、長期にわたる準備、そして同時間帯に数機の旅客機をハイジャックして自爆テロを断行する等、規模・態様において誰も想定できない犯罪であった。犯罪者は「米国との戦争」と考え9.11を行った。そして、彼らの作戦通り、米国はアフガン・イラク・シリアの泥沼戦争に引きずり込まれ、国家経済を破綻させ、孤立主義(不介入主義)に転じた。

第2:IS(イスラム国)を支援し又は利用する個人・組織・団体・国家

2016年現在、公然とISを支援する国家はないが、湾岸諸国の資産家(個人)が資金を提供していることは公然の秘密となっている。ISは「100年前、英仏露がオスマン帝国領(シリア・イラク等)の分割を密約したサンクス・ピコ協定は認めない」と述べた。これは、英国の三枚舌外交に翻弄され、使い捨てられたアラブの恨みを代弁したものといえ、共感し、支援する資産家が相当数いても不思議ではない。

オスマン帝国の最強部隊といわれていた氏族の末裔(フセイン軍残党)とトルコ陸軍諜報機関との濃密な関係も指摘されており、ISがトルコ経由でヒト・モノ・カネを移動させていることは周知の通り。トルコ政府やトルコ陸軍が黙認しなければ国境を超えて自由に往来することは不可能であり、原油の輸送も円滑に行われてきたといわれている。オスマン帝国の再興を願うトルコの大統領にとって、露払い役のISがアラブ、アフリカ及び中央アジアに拡大するのを妨害する理由はない。

サウジアラビアとヨルダンは有志国連合の一員としてIS支配地域の空爆作戦に参加したこともあるが、半身の構えで本気度が疑われている。ISはイラン・イラク・シリア・ヒズボラ(シーア派枢軸)の膨張を妨げる主要な勢力で、「アサド政権(シリア)打倒を悲願とする湾岸諸国やトルコ(いずれもスンニ派)の補完勢力的役割を担っている。

イスラエルにとっても、ISが滅亡し、イラン・イラク・シリア・ヒズボラ・ハマス(ガザ地区)の「反イスラエル勢力」がイスラエル包囲網を完成させることは最悪のシナリオで、そのような事態が発生しないよう権謀術数を駆使しているはずだ。つまり、ISを「反イラン・反シーア派」の防波堤として温存することはトルコ、アラブ湾岸諸国及びイスラエルの共同利益だ。だが、公然と「ISを支持する」とは言えないから、ケイマン諸島等世界中の租税回避地にペーパーカンパニーを立ち上げて匿名で支援しているはずだ。要するに、IS、アルカイダ及びタリバンに期待し、これを支援する有力者、組織、団体及び国家が存在する限り、ISを初めとするイスラム過激派武装集団を壊滅させることは不可能だろう。

第3:東アジアにおける列強の角逐と合従連衡

戦後、いち早く高度経済成長の軌道に乗った我が国は中・韓・台を初めアジア主要国(インドネシア・タイ・マレーシア・ベトナム・フィリピン・インド)の経済発展を支援した。その結果、「21世紀はアジアの時代」といわれるようになった。

中国(中共)は共産党一党独裁を維持しつつ、日米欧等の外国資本(企業)を誘致して経済発展を図る「改革開放政策」を導入。結果、外国資本(企業)が雪崩をうって中国に流入した。中国は他人の褌で経済成長を実現できたし、経済成長の果実を得て二桁増の軍事予算を20年以上も続けることができた。中共は歴代中国王朝の前例を踏襲し東アジアの覇権を求めるようになった。中共帝国を頂点とし、以下蛮族(中小国家)を序列づけて統治するタテ社会型「中華冊封体制」の復活を企てるようになった。

中共版の「中華冊封体制」の特徴は、中小零細国で産出する地下資源や農産物等を購入してやること、ヒト・モノ・カネを投じてインフラを整備してやること、相手国と通貨スワップ協定を締結し、自国通貨建て貿易決済方式で商いができるよう配慮してやること、中共最高幹部らが不正な手段で獲得した数十兆円の闇資金の洗浄を委託し、又は闇資金の運用を任せる等して手数料を稼がせ、中国への経済的依存度を高めた。経済で生殺与奪の権を握り、経済をテコにして政治的圧力を加えた。この方式が中共型新植民地収奪政策の特徴なのだ。中華冊封体制に組み込まれた中小国家や列強は短期的には国庫が潤うが、中長期で見ると「ジリ貧」になることは必定で、北朝鮮、ミャンマー、ラオス、中央アジア5か国、アルゼンチン、ベネズエラ、ニュージランド、台湾、韓国等で実証済だ。これらの国では「中華冊封体制からの離脱」が国家的命題となっている。まもなく、英国とドイツも同様の課題を抱えるはずだ。

中国のバブル経済が最盛期を過ぎ崩壊過程に突入した時期は2014年春というのが通説になっている。同時期から、中共版「中華冊封体制」のタガが緩み始めた。カネでつなぎ留めておくことが困難になった。中華冊封体制から離脱した国(イラン・キューバ・ミャンマー・北朝鮮・韓国等)や、中共の影響下に置かれている事実上の属国では経済が悪化し、国民の信頼を失った親中政権が倒れた。アルゼンチン、台湾、そしてまもなくベネズエラやブラジル等の南米でも中華冊封体制の崩壊が始まった。「資源収奪・環境破壊・官僚腐敗・一党独裁」がもたらした当然の帰結といってよい。

米オバマ政権は「アジアに重心を移すリバランス政策に転換した」と唱えているが、現実は、ヨーロッパ戦線(ウクライナ・ポーランド・バルト三国・ジョージア等)や、中東戦線(アフガン・イラク・シリア)に足を取られ身動きできない状態。しかも、ホワイトハウスはライス大統領補佐官ら媚中派が占拠し牛耳っており、国防総省の意向はほとんど無視されている様子だ。結果、オバマ政権の「対中融和・米中談合」に変化はなく、中共軍は安心して南シナ海の岩礁を埋め立て、空軍基地・海軍基地の建設に専念できる。オバマ大統領の任期が終わるまでの半年余りの間に、中共軍は南シナ海西沙諸島及び同南沙諸島の岩礁の埋め立て工事と空軍基地・海軍基地の建設を完了する予定だろう。

英国は中共の最高幹部が不正な手段で獲得した闇資金を香港経由で受け入れ、タックスヘイブンで設立しておいたペーパーカンパニーを利用して資金洗浄を手助けすることで、仲介手数料を稼ぎ、集めた資金の運用でも手数料を稼いでいるとみられている。中共高官が外国に持ち出すアングラマネーの取り扱い業務がなくなれば英国経済は成り立たないほどに中共への依存を深めている。その証拠が訪英した習近平総書記一行の横柄な態度だ。「中共が主人」で、「英国は下僕」という立場を行動で示した。エリザベス女王陛下も「中共の礼儀をわきまえない無礼な態度」に激昂された。

ドイツのメルケル首相は「商売一筋」、中共詣でを繰り返し、恥も外聞もかき捨てて「中共御用達」の商売人役を演じてきた。自動車(VW)を初めドイツの基幹産業の多くが中国に進出し莫大な利益を上げた。メルケルにとって中国は「金のなる木」であったし、足を向けては寝れないほどの相思相愛の関係にあった。だが、中国への依存度が高ければ高いほど、中国経済の崩壊がもたらす衝撃は大きくなる。台湾や韓国が中国経済への依存度を下げたいと願っているのは、「尻に火がつき」大火傷になる危険が高まっているからなのだ。中国経済の崩壊が台湾と韓国の経済を直撃し経済悪化が止まらないから狼狽しているのだ。永続的な国家の発展と自立した国家を建設し維持するためには、一つの籠に全財産を盛らないこと、大事な卵は3つの籠に分散して盛っておくべきなのだ。

我が国外交の基本は「日米豪印比越」の海洋同盟の結成と「日露蒙印越」の環中国協商を推進し二重の中共包囲網を形成すること。中共を孤立させ、共産党一党独裁に風穴を開けて中国の民主化を促すこと」であらねばならない。我が国にとって「中露接近」は悪夢であるが、中共にとって「日露接近」は悪夢となる。何しろ、中露国境は約6000キロでロシアとの関係が悪化すれば、中共は海軍を増強して海洋進出するどころの話ではなくなる。陸軍20万人の削減計画も見直さざるを得なくなる。習近平が打ち出した「一帯一路」の戦略は「中露連携」がギクシャクすれば即破綻する儚い宿命(さだめ)だ。

米国はクリミア半島を奪取したロシアを極悪犯人に特別認定してG8から追放、経済制裁を加えて孤立させた。南シナ海で岩礁を埋め立て、空軍基地・海軍基地を建設し、南シナ海全域を実効支配する野望を隠さない中共については「お咎め無し」の偏った判断だ。要するに、米国はロシアに経済制裁を加え、孤立化させ、ロシアが中共依存を深めざるを得ない立場に追い込んだ。かって米国はイラン・ミャンマー・北朝鮮・ベネズエラ・リビア及びアフリカの独裁国家に経済制裁を加え、孤立化させ、中共の縄張りに追い込んだことがあった。米国の歴代政権は中共の縄張りに小魚を追い込む漁の達人なのだ。「追い込んだ魚」をすくって食うのが中共の役目だ。

オバマ大統領が「アベ・プーチン会談」に反対し、強力な圧力をかけてきた意図は「ロシアに対する経済制裁が減殺されるだけ」という正当な理由だけではあるまい。オバマの真意は「アベ・プーチン会談をやめさせることができれば、中露分断を阻止できるし、中共包囲網の完成(中共の孤立化)を遅らせることができる」ということであったとしても誰も驚かない。何しろ、オバマ大統領の実母と妻子は中共の接待で1週間以上も中国旅行を楽しんだことがあった。我が国には1度も立ち寄ったことがない冷ややかな態度と比較するとその差は歴然。オバマ一家は中共とよほど相性が良いのであろう。というウラを読むと、オバマ政権が打ち出した「リバランス政策」を共に担ぐ相棒は同盟国日本ではなく、中国共産党中央ではないのかとの疑念が湧く。

ロシアのプーチン大統領はソチで日露首脳会談を行った2週間後、同じくソチにフィリピンを除くASEAN9か国の首脳を招待して首脳会談を開催した。ロシアとASEANの経済交流を一層深めること及び武器輸出を含む安全保障関係を強化することが合意された。

東アジアにおけるオバマ政権の「米中談合(G2)」と「中国包囲網(海洋同盟)」の二枚舌外交は中国と対峙している日本、インド、ベトナム、インドネシア、台湾、韓国から見ると「米国は中共の味方なの?それとも同盟国・友好国の味方なの?」と不安を感じる主たる要因となっている。米国と東アジア同盟国・友好国との微妙な雰囲気を察知したプーチンは「時は今、アジアに食い込む千載一遇の好機」と考えた。日露首脳会談に続いてASEANとの首脳会談を開催して楔を打ち込んだ。

プーチンはシベリア開発をロシア経済発展の起爆剤にしたいと考えているがそれだけではあるまい。オバマ大統領の任期中に、日露関係を深化させ、ASEANとの経済交流と武器輸出を初めとする安全保障関係を質量ともに高めたいと考えている。ロシアが南シナ海の領有権問題で「ベトナムなどとの(インドやインドネシアも?)良好な関係にも配慮しなければならない」として、中共の要請をやんわりと断っているのも、将来を展望した深慮遠謀だろう。「東アジアから米国を追い出した後は、中国との対立が始まる」と想定している訳だ。このテーマがソチにおけるアベ・プーチン会談(5月6日)で話し合われたか否かは明らかではない。

まとめ

G7首脳会談の直後、オバマ大統領は米国大統領としては初めてヒロシマを訪問し、個人的見解を発表することになった。オバマ大統領の任期中、北朝鮮が核保有国になったが、オバマは「非核への思い」を貫いた米国大統領として末永く歴史に刻み込まれるであろう。また、オバマ大統領はヒロシマ訪問を「日米同盟の絆を強固なものにしたい」との思惑があるといわれているし、「安倍総理も真珠湾を訪ね戦死者を慰霊すべき」との意見もある。

オバマ大統領は米国のアジア戦略の要「日米同盟」の絆に不安を感じているのであろうか?中東では同盟国の意向を軽視して仮想敵国イランとの和解を優先させたオバマ、共和党大統領候補トランプ氏はオバマ大統領の如き「中途半端な孤立主義(国益第1)」ではなく、「徹底した孤立主義(国益第1)」と見られている。いうまでもなく、平均的な日本人は「米国の歴代政権が口頭で約束してきた核の傘は機能しないのではないか」と感じている。国益第1主義の米国が核戦争に巻き込まれる危険を犯してまで同盟国を守ることはあり得ないという説には説得力がある。、

安倍総理は「戦後70年経過した現在でもなお日露平和条約が締結されていないのは異常である」との大義名分を掲げ、オバマ大統領の反対を押し切ってアベ・プーチン会談を断行した。公表された合意点は「新たな視点で4島返還問題を検討し、日露関係を総合的に発展させる中で平和条約を締結する」とされているが、もとよりそれだけではあるまい。米国が孤立主義に傾斜する現在、「日米同盟基軸」だけの安全保障体制では、遠くない将来、日本国の安寧と国民の命と暮らしを守ることが不可能になる。「日米同盟基軸」から「多角的安全保障体制」に転換する必要がある。さらに、米国の歴代政権は「中共の味方なの?それとも同盟国(日本)の味方なの?」と疑念を抱かせたことが何度もあった。蒋介石を捨て、毛沢東を支援したトルーマン政権(マーシャル国務長官)の性向は現在でも改まっていないのではないかと疑われている。

世界は、オバマ大統領が同盟国(サウジ・トルコ・イスラエル)の意向を尊重せず、同盟国を窮地に陥れたことを知っている。そしてプーチン大統領がイランと同盟国シリアのアサド政権を徹底して支え切ったことを知っている。同盟国にとって米露のいずれが頼りになる存在か?が問われたシリアの内戦であった。「困った時に助けてくれるのが真の友」というが、「困った時に助けてくれない同盟国」は同盟国とはいえないだろう。そういえば、プーチンはかって「仮に同盟国が侵略された場合、ロシアは核兵器で撃退する」と語ったことがあった。「核兵器のない世界をめざすオバマ」に、米国の同盟国は「核の傘」を期待できるのであろうか?、それとも「過大な期待」を抱くべきではないということなのか?

国家関係も、同盟関係も大きくかつ激しく動いている。永遠不変なものは何もない。

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす(平家物語)」という。

白髪爺 at 07:24|PermalinkComments(8)clip!

2016年05月09日

米国は、オバマの「戦線縮小戦略(リバランス)」から、同盟国に負担を押しつけ自主防衛力の強化を求めるトランプの「後方支援戦略」へ転換する。

はじめに

11月の米大統領選は共和党のトランプ候補と民主党のクリントン候補で戦われることになった。泡沫候補とみられていたトランプが共和党予備選を勝ち抜くなんてマスメディアはもとより本人も想定していなかったであろう。民主党予備選は「クリントンの圧勝」と見られていたが、予備選立候補直前に民主党に入党した社会主義者サンダースの追撃を許し苦戦中だ。

なぜ、トランプとサンダースがこれほど健闘しているのか?企業は利潤を確保し競争力を保持するために、生産工場を労賃が高い先進国から労賃が安い開発途上国に移転した。結果、「労賃の国際競争」によって、開発途上国の賃金は高騰し、先進国等の賃金は横ばい又は下落した。グローバル経済においては先進国と開発途上国の賃金格差は縮小する。さらに米国ではメキシコ等中南米からの大量不法移民が、EUでは東欧・中近東・アフリカ等の開発途上国から大量の移民・難民が流入し、下層労働者の労働条件は悪化するばかりだ。

従来、企業又は国家が担っていた研究・開発・製造等各部門の国際共同化と国際分業化が進んできた。電子機器の発展によって事務部門の効率化・合理化も進んだ。「大学卒・大学院卒」の専門を活かす仕事が見つからない。企業や公務では経費を削減するため非正規雇用を増やす等、中間所得層の転落と、下層所得層の切り捨て不安が募っている。

国家の垣根(保護膜)を取り払うグローバル資本主義は無力な個人を戦場に放り出すことで最大利益を獲得する。、ユダヤ・アングロサクソン同盟が推進してきたグローバル資本主義は「富める者は益々豊かに、貧しい者はますます貧しく」を貫徹する。富者はタックスヘイブンを活用して脱税又は節税に励む。一握りの高所得層とその他大勢の中間所得層以下の経済格差は拡大する。

米国においてグローバル資本主義と戦争経済を推進したのは、米国の真の主権者国際金融資本と軍産複合体であるが、彼らの代理人として政治を執行したのがエスタブリッシュメント(民主党と共和党の主流派)であったから、米国社会では「既成の政治家は悪人、素人政治家は善人」とのイメージが定着したという。

トランプはグローバル資本主義を非難・攻撃して、グローバル資本主義以前の「米国が最も輝いていた1960年代」への回帰を訴えた。実現不可能であることを知りつつ「米国の夢」を提起し共感を得た。そういえば、習近平も実現不可能な「中国の夢」を語った。打開策を見出すことができないから、具体策を提起することはできないから、「夢」を見せて国民を騙すことにした。

1929年の世界大恐慌以後、西欧(仏独伊等)の国民多数はファシズムと共産主義に明日の希望を求めた。今、これに類似する現象が世界各地で発生しているからアメリカだけが例外とはいえない。ヒトは生きるために「一切れのパン(経済と福祉)」を求め、心の不安を打ち消してくれる「夢」にすがる。

第1:アメリカ大統領選の敗者はクリントンか?

米大統領選まで5か月余。5月5日、米司法省はクリントンが国務長官在任中に、私的メールを使って国家最高機密情報を漏洩したとして、クリントンの最側近の捜査に着手。まもなく、クリントン候補本人が捜査の対象になるといわれている。さらに、クリントン候補は中国共産党系の在米企業から政治献金を受け、発覚後返還したことがあったが、誰もが、クリントン一家と中国共産党の濃密な関係から見て、発覚したのは氷山の一角であろうと感じている。パナマ文書1100万件の内中国共産党関連文書の解読が進んだならば、あるいはクリントン一家と中国共産党の濃密な関係を示す新たな証拠が暴露される虞れもある。

以上、危険が一杯のクリントンのおかれた情況を勘案すると、「トランプ候補を10ポイント差でリード」から「トランプがクリントンを逆転した」となっても何の不思議もない。もっとも、トランプも安全地帯にいるとは言い難いので何で転ぶか分からない。米大統領選の行方は「一寸先は闇」であり誰も予想できない。

なお、トランプの経済政策は「TPPの否定、国内産業の保護・振興による雇用拡大、法人税の大幅減税、国民皆保険制度の実現、国内インフラ整備事業への財政資金の投入、対米貿易の大幅黒字国に対する対抗措置」等で、小さな政府を唱える共和党よりも、大きな政府を掲げる民主党のオバマやサンダースとの共通点が多い。

トランプは共和党大統領予備選を勝ち抜く過程で他候補を非難・中傷・罵倒してきたし、人種差別などメディアの耳目を集める過激すぎる発言をあえて行ってきた。トランプは手練手管を使って共和党大統領予備選に勝つことはできたが、共和党穏健派を初め多くの政敵をつくった。共和党の重鎮(若干名)は「トランプには投票しない、民主党のクリントンに投票する」と告白。共和党所属の下院議長は共和党分裂を回避すべく「トランプ候補が変わらなければ支持できない」と述べた。

クリントンは首を洗って刑事捜査を待つという心境であるのに対し、トランプは自らが蒔いた災の種を刈り取らなければならない。米憲政史上例をみないほど次元の低い大統領選になった。

第2:トランプの安全保障政策の狙い

トランプの考えを筆者なりに整理すると(1)国家の安全保障は自主防衛を原則とし、集団的安全保障体制(軍事同盟)は同盟国の自主防衛力の不足する部分を補完するものだ。(2)世界最大の債務国で、かつ事実上の破産国家米国が、経済的に裕福なドイツ、日本、サウジアラビア、韓国を防衛するために、米国民の血税を年間数兆円も費やすのは正義に反する。(3)現行の軍事同盟は片務的で双務的ではない。米国は同盟国を防衛する義務を負うが、同盟国は米国を防衛する義務はないという不公正なものだ。(4)受益国(同盟国)は米軍駐留経費の全額を負担すべきで、仮に、受益国(同盟国)が米軍駐留経費全額の支払いを拒絶するのであれば、米駐留軍は撤退させる(駐留なき安保)。

オバマは「米国は世界の警察官ではない」と表明、米国は覇権国家ではなく比較優位な国家に過ぎないと告白。しかるにトランプは「保護する国(米国)と保護される国(同盟国)」という関係ではなく、「能力に応じて負担しあう対等な同盟関係をめざすべき」というのである。「武力をもっている米国は武力を提供し、カネをもっているドイツ、サウジ、日本、韓国はカネを出せ」というのである。「この合意(取引)が成立しない場合、同盟契約は無効になる」というのである。

戦後70年、我が国は「米国の妾」といわれ、「対米従属国家」と馬鹿にされてきた。米国のエスタブリッシュメントは我が国を半人前(被保護国)と考え、自在に操ることができる国と位置づけてきた。トランプは戦後はじめて、我が国を取引できる対等な国家として扱ってくれた。対等な国家と認識するからこそ遠慮会釈なく言いたいことが言えるのだろう。

トランプの本音を類推すると「我が国や韓国に米軍駐留経費全額の支払いを請求すれば、日韓両国はこれを拒否するであろうから、米軍撤退(段階的)時期を明示して自主国防力の向上促す」ということであろう。駐留経費の削減と米国製兵器の販路拡大の一石二鳥を狙っている。将来的には我が自衛隊を東アジアの要として育て上げ(自衛用戦術核兵器の供与を含む)、中共軍や朝鮮人民軍の暴発を抑止する。米国の軍事予算が大幅に削減される情勢の下で、中共軍の中距離ミサイルの先制攻撃で壊滅すると想定される最前線基地(在日米軍基地や在韓米軍基地)に米軍を駐留させておくのは危険が大きく合理的ではない。情報収集部隊と軍事顧問・司令部調整担当だけを残留させ、米軍主力はアラスカ、ハワイ、グアムの第2列島線に撤収するという計画だろう。

第3:安全保障と「自助・共助・公助」

米ソ冷戦時代、世界は米国とソ連の2つの陣営に分かれ対峙した。米ソ両国はそれぞれの勢力圏に囲い込んだ同盟国に大軍を進駐させ又は軍事物資を供与し経済支援を行った。同盟国の安全保障は米国とその同盟国又はソ連とその同盟国によって担保されていた(共助・公助)。ソ連が崩壊したとき、ソ連の軍事同盟(共助・公助)は解体されたが、役割を終えたはずの米国の軍事同盟(共助・公助)は残った。米国の同盟国にとって軍事同盟(被保護同盟)は既得権となり、軍事同盟を支えてきた米国にとって軍事同盟(保護同盟)は履行すべき義務となった。トランプが文句をいうのにも一理ある。

「被保護同盟」に慣れ親しみ、米国から公的支援を受けることが国家安全保障の基本と考えてきた欧州や東アジアの同盟国にとって「米国が駐留経費の全額を請求し、これができないならば米駐留軍を撤退させる」というトランプの提言は暴言に見える。「戦後体制を一方的に改編するなんてとんでもない」と感じる。「トランプは日米安保条約を読んだことがないのではないか(石破茂)」と腹を立てる。

長年、米国の妾として匿われ、安逸で怠惰な生活に慣れ親しんだ女が「明日から自立せよ」といわれても、そう簡単に自立できるものではない。職業訓練も必要であるし、何よりも独立心を養うだけでも数年はかかる。韓国の場合、妾暮らし(公的支援)に馴染みすぎて自立心が全くないし、矯正可能性もゼロ、展望は全くない。

トランプは「自助(自主防衛)の意思がなく、公助(米軍)への依存心だけは人一倍強い韓国のような同盟国を、なぜ、米国の若者が命を賭けて守ってやらねばならないのか」と憤っている。「バルト三国のような弱小国であればともかく、ドイツ、ポーランド、イラク、韓国、日本の如く自主防衛できる経済力を有する国を防衛するために、事実上の破産国家である米国の軍隊が仮想敵国との最前線に駐留して、「弾除け」の役割を引受けなければならないのか」と感じている。

米国の国益は「冷戦時代→冷戦終了以後の一極支配時代→グローバル経済を推進していた時代→Gゼロ時代→孤立主義時代」で転変してきたし、現在も動いている。トランプが「米軍駐留経費の100%負担を同盟国に求め、同盟国がこれを拒否した場合は米軍を撤退させる」というのも、軍事同盟国間の力関係が変化した証拠だ。覇権国家の甘い汁を吸った米国がこれを捨て、「孤立主義に傾いている」のにも相応の理由がある。

第4:米国の安全保障戦略は転換した?

同盟国に対するトランプの脅しは、米国のエスタブリッシュメントがいえない本音を代弁し、同盟国の反発又は反応を探っていると見ることもできる。同盟国に防衛分担金の増額を求めるほか、米駐留軍の肩代わりができる程度の自主防衛力(自助)の強化を促す計画だろう。トランプは核不拡散条約を無視して「韓国や日本が核武装するのを容認する」と一歩踏み込んだ。国会審議の中で、現内閣法制局長官は「防衛用核兵器を保持することは違憲ではない」との答弁を行った。もともと非核三原則は不磨の大典ではないし、内外情勢の変化や我が国の安全保障の必要性によって新たに「核保有に関する原則」を閣議決定することもできる。

米国の軍事予算が大幅削減されることは既定方針であり、誰が大統領に就任してもこの基本方針が変更されることはない。そこで、米国が同盟国に対して駐留経費の負担増と軍事的役割の肩代わりを求めてくることは避けて通ることはできないし、米国の財政事情から見てそれ以外の選択肢はない。結果、米国と同盟国の利害が激突、米国から又は同盟国から軍事同盟の解消を申し出ることがないとはいえない。「永遠の同盟国も永遠の敵国もない、あるのは永遠の国益だけ」という帝国主義時代の常識が蘇ることもあり得る。

オバマは同盟国を軽視し仮想敵国と融和(友愛)することで同盟国の米国離れを加速させた。英国はオバマの反対を押し切って中共主宰のAIIBに加盟。韓国はオバマの意向に反して中共主宰の「反ファシズム戦争勝利70周年記念大軍事パレード」に参列。イスラエル、トルコ、サウジアラビア等中東の主要同盟国は米国の対イラン融和路線に反発、米国へのいらだちを隠さない。豪州は我が国のそうりゅう型潜水艦の購入を勧める米国の意向よりも、これに反対する中共の意向を優先、フランスから潜水艦を購入することを決定した。そして、我が安倍総理はオバマの執拗な反対を押し切ってプーチン大統領とソチでの首脳会談を行った。オバマの同盟国軽視が同盟国の米国からの離反を加速させた。

商売人トランプは「米国は莫大な税金を投じて同盟国を守ってやっている白馬の騎士」とみなしているのではなかろうか。「米国は同盟国に駐留経費の全額を支払わせる権利(債権)があり、同盟国が義務を履行しない場合は(債務不履行)同盟関係(契約)を解消することもあり得る」と示唆した。トランプは自らの主張に正当性があると信じているのか、それともロールプレイ(役割演技)なのか。

戦後まもなく、ソ連を盟主とする共産主義陣営の世界支配を防ぐために結成された軍事同盟には北大西洋条約機構(NATO)のような集団的安全保障型と、日米同盟、米韓同盟、米比同盟、米豪同盟の如く米国と当該国との1対1関係で締結された個別的安全保障型があった。北大西洋条約機構(NATO)は「共産主義陣営が西欧に拡大するのを防止するためには米軍を欧州戦線に繋ぎ止める必要があると考えた英チャーチル首相(当時)の策略が結実したもの」と言われている。

一方、東アジアでは、日本、韓国、フィリピン等は我が国が固有の領土(本土)を除く全領土を放棄したことで「力の空白地帯」となった。その穴を米軍(連合国軍)が進駐して統治したから、そもそも独立国家同士が連携する集団的安全保障体制を構築する条件が十分ではなかった。また、韓国初代大統領李承晩が日本を含む東アジアの集団的安全保障体制に頑強に反対したことで、米国はやむを得ず、1対1の軍事同盟を締結することになったという説もある。建国以来、韓国の反日政策は国是であり、政権交代で変わるほどヤワなものではない。結果、東アジアの軍事同盟は、政治・経済・外交を含む保護・管理(米国)と被保護・被管理(同盟国)のタテ型軍事同盟となって結実し現在に至っている。人類史上類例がない異常な軍事同盟が65年も続いた。

さらに、我が国は(1)米国債を約1兆ドル買わされているが、利息も支払ってもらえない。永久に売却できない「塩漬け債権」だ。(2)自衛隊(陸・海・空)の装備品は米太平洋軍(艦隊)との連携の必要上米軍事産業の製品を購入することになっている。日韓台の軍装備品は米国の排他的独占市場になっている。(3)我が国の金融政策は米国の意向に沿うよう運営されてきた。米国の利益を害さないよう指導されてきた。(4)中国は人民元建て貿易決済を拡大しているが、我が国は円建て貿易決済を自粛するよう、米ドル基軸通貨体制を支えるよう監督されてきた。以上、我が国は在日米軍の駐留経費総額の何十倍・何百倍の利益を米国に提供してきたのであって、米国から感謝されることはあっても非難される理由は全くない。

商売人トランプが大統領になって「在日米軍を撤収し、同米軍基地を全面返還してくれる」というのであれば、我が国にとってはこれほどの慶事はない。とりあえず「在日米軍が撤退したら力の空白が生まれ地域が不安定化するので困ります」とか言って、米軍の撤退に賛成出来ない姿勢を示しておくことが肝要である。「米国の都合であればやむを得ません。我が国も貴国の足手まといにならないよう自主防衛力を強化します。」とかいって弁明しておくべきだろう。間違っても「米軍撤退を感謝します」等といって米国を警戒させてはならない。

第5:米国は中共(韓国)の代理人か?

中共(習近平)と韓国(朴槿恵)は我が国(安倍晋三)に申し入れても門前払いされるだけと分かっているから、たびたび米国(オバマ)に依頼又は泣きついて我が国(安倍)に圧力をかけさせ目的を達成する方式(策)をとっている。

冷戦時代、米国は我が国に核兵器に転用可能なプルトニュームを約300キログラムほど貸与した。その条件として日米原子力協定を締結させ、米国が我が国の核開発や関連物質に関与し監督できる体制を整えさせた。先般、米国の要請により、東海村原発と京都大学で保管してきた(米国等から貸与の)プルトニューム約300キログラムを米国等に返還したが、これは中共(習近平)が米国(オバマ)に要望し、米国が我が国に圧力をかけて実行に移されたものと解することができる。さらに、中共(習近平)は「日本の原発から排出され積み上がっている使用済み核燃料(プルトニューム)は核弾頭5000発を製造できる」といって騒いでいる。中共(習近平)の意向を忖度又は要請を受けた米国(オバマ)は、現在の日米原子力協定が2017年に終了すると米国の監視が困難になることを想定し、日米原子力協定の再締結を求めてきたし、その方向で段取りが進んでいる。おそらく、中共(習近平)はオバマに感謝感激しているはずだ。そして、中共(習近平)は、日露首脳会談が「中ロ分断を狙うもの」と邪推して、米国(オバマ)を唆し、日露首脳会談の開催を妨害するよう画策、オバマの尻を突いたはずだ。米国と中共が共謀する対日管理策は一般的に想定されているよりも広範囲で、かつ根が深いと考えておくべきだろう。

さらに、オバマ政権は中共海軍が3年前から南シナ海岩礁を埋め立て軍港と軍飛行場を建設していることを知りながら秘匿してきた。民間企業が衛星写真で暴露したから止むを得ず、オバマ政権の対中融和路線に不満を抱いてきた軍部が企画した「自由の航行作戦」を制止することができず駆逐艦や空母を南シナ海に派遣することに同意した。駆逐艦が帰途、香港に寄港して中共軍に一定の配慮も行っているのは記憶されてよい。米国は同盟国・友好国と中共に対する顔を使い分けている。中共も米国のダブルスタンダード外交に不信感を抱いている。「米国はどちらの味方なの?」と。

以上、米国が同盟国を操り指導してきた世界の秩序(戦後体制)は崩壊した。米国の拘束から脱出した同盟国は自立性を強めている。帝国主義列強は「力による現状変更」に乗り出した。米国の民衆は理解した。何事にも中途半端で優柔不断、指導力が欠如しているオバマの時代が終わったことを。トランプの如き国益第1を掲げる排外主義者が世界を闊歩し始めたことを。

まとめ

世界は今、中国経済の崩壊の危機、EUの解体と準基軸通貨ユーロの消滅危機、アラブ連合(イスラエル・トルコ)とイランとの紛争(戦争)の危機という3つの不治の病に冒されている。さらに、トランプが新たな危機の発生源になるのではないかと懸念されている。

オバマは同盟国を軽視して同盟国の「米国離れ」を加速させたが、トランプは「米国の国益第1」とイスラム教徒の排斥や主要同盟国に狙いを絞った「不公正貿易の是正」を声高に叫ぶ。仮にトランプが次期米大統領に就任し、選挙公約を貫徹すれば、米国と同盟国の対立は激化せざるを得ない。場合によっては、同盟関係が危機に瀕することもあり得る。米国から冷遇された同盟国は自国経済を守るため「自国通貨建て貿易決済」を増やし、米ドルによる貿易決済を減らすであろう。米国の新政権がTPPを否定すれば、東アジアでは「ASEAN+6か国」又は「ASEAN+3か国」の緩やかな経済連携協定の合意に向けた取り組みが加速する。世界は「米国抜き」で動き始める。そして米ドルは世界の貿易決済通貨(基軸通貨)から地域限定貿易決済通貨に転落する。使用価値が減殺した米ドルは暴落、米国をハイパーインフレが襲う。約70年続いた「米ドル基軸通貨体制(戦後レジューム)」が崩壊すれば、未曾有の経済恐慌が世界を襲う。

民主党のクリントン大統領候補がメール問題で起訴され、大統領選(本選)から撤退せざるを得なくなった場合は、民主党の大統領候補(本選)は極左(第4インター系)のサンダースになるのか?いずれにせよ、米国民は「どちらがマイナスが少ないか」を判断基準にして投票するのではなかろうか?

中共とロシアが「トランプ大統領歓迎」を唱える理由は、米国と同盟国の対立が激化し、軍事同盟が形骸化又は解消するかもしれぬと期待しているからだ。米国の一極支配が完全に終わると考えるからだ。藩屏を失った米国なんぞ怖くないと考えているはずだ。我が国がこれを「災難」と考えるか、それとも「千載一遇の好機」と考えるかによって処遇方針は異なる。筆者は戦後レジュームという二重の檻を抜け出すチャンスが到来したと考えたい。「トランプをテコにして、新たな世界戦略を描き構築すべきである」と。

白髪爺 at 05:47|PermalinkComments(15)clip!