2016年06月18日

英国民は「EUからの離脱」を選択するか? 西欧においてナショナリズム(国家主義・民族主義)が復活した背景を読み解く

はじめに

フランス革命とアメリカ独立宣言に代表される「自由・平等・博愛(友愛)」を唱える理想主義(人権主義)は、被抑圧個人を国家の規制や共同体の呪縛から解放するものとされた。個人を絶対無二の「崇高にして犯すべからず存在」として確立したのがユダヤ・アングロサクソン同盟、共産主義者、社会主義者・社会民主主義者、無政府主義者であった。彼らは自らの意思で国を捨てた亡国の民、かつ自らの伝統宗教を捨ててユダヤ教徒となったアシュケナージ系ユダヤ人の精神的継承者である。

国家や地域共同体の呪縛(保護)から解放された個人は、又は国家や共同体という保護柵を奪われた個人は国際金融資本や多国籍企業の前では「か弱い子羊」であり抵抗する力がない。結婚もできない、子供も産めない劣悪な労働環境の下に置かれ、労働力の再生産機能を担うこともできない劣悪な環境に堕ちた。共産党一党独裁国家(中共)では中国共産党中央総書記習近平が約8千万人の共産党員と同官僚を指揮して、さらに中共軍や武装警察という暴力装置を総動員して13億人民(個人)を統括する。理想主義(人権思想)は人間を国家や共同体から切り離し、無防備な状態において直接管理する世界を創造した。器官を分子や原子に解体して横の連携を断ち、直接支配するという巧妙なる「支配構造(機制)」だ。個人は「人権」という名の透明の鎖につながれ管理されている事実を知らない。目覚めないよう洗脳され調教されてきたからだ。

西欧において、「反EU」を掲げるナショナリズム(国家主義・民族主義)が台頭している直接的要因は「イスラム過激派の相次ぐ無差別テロ」と「東欧やイスラム圏からの大量移民・難民が社会的・経済的混乱をもたらした」と認識されているためである。ナショナリズムには理想主義(人権主義・反国家主義)がもたらす社会的危機に対する自然発生的な防衛機制という要素もある。国家の垣根を取り払い、民族の伝統を破壊した(ユダヤ人が主導した)グローバル経済主義と共産主義思想の害悪がナショナリズムを育み成長させたといえなくもない。西欧のナショナリズム(国家主義・民族主義)は怒りの矛先をグローバル経済と共産主義思想を主導した「ユダヤ人」に向ける虞れがある。歴史上、何度も繰り返されてきた風景が再現されるかもしれぬ。アシュケナージ系ユダヤ人の末裔でフランス人エマニュエル・トッドは「フランスから理想主義(人権主義)が消えた」と嘆いている。フランス社会における排外主義(反イスラム・反ユダヤ)の高まりを肌で感じている証左だ。

第1:「英国のEUからの離脱」は不可避か

英キャメロン首相は2017年までに実施すると公約した「欧州連合(EU)に残留するか、離脱するかを選択する国民投票」を2016年6月23日に実施すると決めたが、その理由はおそらく「2016年6月であれば残留派が勝てる」と考えたからだろう。そして、念には念を入れて、さらに離脱派を切り崩すべく「EUにおける英国の特権的地位の拡充」を承認させた。欧米だけでなく先進国のマスメディアを総動員して「英国はEUに残留すべき」の大キャンペーンを繰り返した。伊勢志摩サミット(G7)は「残留支持」を決定した。

1年ほど前、「残留派」は「離脱派」を10ポイント超上回っていたし、英キャメロン首相は「負けるはずのない戦争」と楽観していたが、数ヶ月前から雲行きが怪しくなった。「残留派」と「離脱派」の支持率が拮抗するようになった。そしてキャメロン政権はマスメデイアを総動員し連日連夜大キャンペーンを繰り返したが、6月には「離脱派」が「残留派」を上回る世論調査の結果が増えた。

英ニュースサイト「インディペンデント」は、欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票についての世論調査で、離脱派が55%と33%の残留派を10ポイント上回ったと報じた。なお、4月の同調査では、離脱派が51%、残留派が49%だった。他の世論調査では両派の支持率はほぼ拮抗、予断を許さない戦いになっている。(12日付け日経より要約抜粋)

灰色の、物言わぬ、被抑圧大衆(サイレントマジョリティ)は、グローバル経済の勝者が国際金融資本と多国籍企業であり、これを推進したのがエスタブリッシュメントといわれる「政官財労の特権階級」であり、マスメディアもその一翼を担っていることを理解した。英米のマスメディアがいくら煽動しても大衆は踊らない。国際金融資本と多国籍企業及び彼らの代理人エスタブリッシュメント(特権的指導階級)は国境の垣根を壊し、ヒト・モノ・カネの移動を自由化し、中産階級を没落させ、下層階級から明日への希望を奪った諸悪の根源とみなされるようになった。グローバル経済又は理想主義(人権主義)の負け組とされる彼らは、ナショナリズム(国家主義・民族主義)にかすかな希望を求め夢を託す。

凶暴で狡猾、力(財力)と知恵のある植物連鎖の頂点に立つ肉食動物にとっては、規制のない、自由に振る舞うことができるサバンナは「最適環境」であるが、穏和で、誠実で、知恵と力のない植物連鎖の底辺に位置する草食動物にとっては「生き地獄」だ。グローバル経済又は理想主義(人権主義)にも勝者と敗者がいる。1930年代初頭、ヒットラーの「わが闘争」に共感し、ナチス党による独裁政権を支援し熱狂したドイツ国民の多数派についてエーリッヒ・フロムは「自由からの逃走」との名文句を残した。ヒトは苛烈な生存競争のサバンナの自由に耐え切れず、柵で囲われた不自由なサファリを求めたという趣旨の分析を残した。フロムは数百年前に生まれ、歴史の試練を経ていない「自由」という観念を神聖にして侵すべからずと考え、当為のものとして肯定した。「私(人権)以外を敬ってはならない」とする一神教の信者であった。

「EUからの離脱の是非を問う」英国の国民投票日が近づくにつれて「離脱派」が増えている現実を勘案した投資家は「世界の株式市場から逃げ(株価大暴落)日米独の国債購入(国債急騰や急激な円高)や現物金の購入等安全資産に資金を移動させた。しかしながら英国民がいかなる選択をしても大勢に影響はない。というのも、「反EU」は英国だけでなく、フランス、オーストリア、オランダ、ベルギーそしてEUの中核国ドイツでも大きなウネリとなって押し寄せているからだ。先進国各国が「EUからの離脱」を巡って先陣争いしている状態だ。

第2:西欧社会における不安の高まりとナショナリズムの台頭

辞書によると、ナショナリズムとは「他からの圧力、干渉を排して、その国家の統一、独立、発展を推し進めようとする思想や運動。国家主義、民族主義」とされている。戦後、西欧では中東やアフリカ、冷戦終了後は東欧から大量の移民を受け入れてきた。企業の国際競争力を維持し、企業利益の最大化を図るための開発途上国からの移民を大量に受け入れてきた。移民はハンデキャップを乗り越え、奮励努力して生活基盤を築き、子供に教育を施して、立身出世を遂げた者もいるが、多くは「下層移民」から抜け出すことができない。企業は「より安い賃金で雇用できる労働者」であれば出自に拘らないから、小さなパイを巡って下層原住民と下層移民が仕事を奪い合うことになった(敵対矛盾)。

現在、中東やアフリカ等の紛争地域及び開発途上国の東欧諸国から脱出して西欧に押し寄せる移民(難民)は年間100万人以上、下層原住民と下層移民の不満は高まるばかり。政府は無策だから移民(難民)の流入に歯止めがかからない。中道政権(左派・右派)が推進してきた「移民受け入れ政策」と「EU域内のヒト・モノ・カネの自由化政策」の勝ち組と負け組の色分けと固定化が進んでいる。閉塞感で不満のはけ口がない下層現住民はナショナリズム(国家主義・民族主義)に夢を託す。一方、西欧キリスト教文明社会で豊かな生活を享受できないイスラム教徒の青少年の一部は、イスラム過激派ISや同シンパに共感し、アフガン、イラク、シリア、リビア等の内戦に加わるか又は西欧に留まって無差別テロを企てる。

第3:英国におけるナショナリズム(国家主義・民族主義)

英国は形式上は連合王国(イングランド、ウエルズ、スコットランド、北アイルランド)とされているが、実態はイングランド王国が隣接する3王国を軍事制圧して併合したもので、現代風にいうと、資金力に勝るイングランド王国が隣接する王国に敵対的買収を仕掛け吸収合併したのと同じ。1995年公開の米映画「ブレイブハート」で、メル・ギブソンはスコットランドの英雄ウイリアム・ウオーレス役を演じた。ウオーレスはイングランド王国の圧政に対する抵抗運動を続け、武装蜂起してイングランド王国軍を潰走させたこともあった。現在でもスコットランドの英雄として各地で顕彰されている。2014年実施された「スコットランド独立の可否を問う住民投票」では独立反対派が僅少差で勝利したものの、スコットランド独立の火種は700年前からくすぶり続けている。スコットランド独立をめざす地域政党は「英国のEU離脱」が決まったならば、スコットランドはEUに留まるべく英国からの独立の可否を問う住民投票を行う」と表明した。

英国保守党キャメロン政権は、西欧主要国の中道政権と同じく、「移民・難民の激増」と「イスラム過激派の無差別テロ」に対する有効な手段を持ちあわせていない。今や、「ナショナリズム(国家主義・民族主義)」という妖怪が西欧全域を徘徊するようになった。

ユダヤ・アングロサクソン同盟と共産主義・社会主義・社会民主主義を信奉する左翼は「ナチス=凶悪」という図式を描く。「賢明なドイツ国民がなぜ、ナチスというマンガチックな悪党に騙されてしまったのか?」と考える。もとより、1930年代のドイツ国民は人格障害者でもなく、ナチスの一方的な煽動と宣伝に騙された訳でもない。大恐慌以降の暗黒時代、既成政党の「決められない政治」に我慢できなくなったドイツ国民はナチスに「地獄に仏」を感じたのだ。ナチスの国家主義・民族主義に賭けたのだ。ドイツ国民の「不安」がナショナリズムを高揚させ高みに押し上げたのだ。

英国の独立機運を高めている「不安」とは何か。西欧社会が共有する大量移民の流入による失業者の増加と社会福祉制度の崩壊及びイスラム過激派による無差別テロに加え英国独自の「不安」もある。

(欧州連合(EU)はドイツが主導する大陸同盟)

欧州連合(EU)28か国中、海洋国家は英国だけで、地政学的にみても英国は特殊な地位にある。英国の宿敵ドイツは豊かな経済力によってEUの覇者となって「大陸同盟」を統括する立場を確立した。「EU=ドイツ経済圏」といってもよい。ドイツ国歌が唱える「世界に冠たるドイツ」が実現した。ヒットラーが戦争で敗北し未完に終わった「世界に冠たるドイツ」を、メルケル首相は経済戦争に勝利して実現した。(いつまで続くか分からないが・・)

「英国のEU残留」がもたらすもの、それは英国の主権の一部を放棄して欧州連合(ドイツ)の軍門に下ること、その代償として経済的利益を得られるということに尽きる。金儲けのために主権の一部を譲渡するか?それとも「武士は食わねど高楊枝」を貫くか?の選択なのだ。英キャメロン首相と同オズボーン財務相は「離脱すれば英国経済に破滅的悪影響が出る」と絶叫している。キャメロンとオズボーンは「英国経済の未来」を悲観し焦っている。世界最大の人権侵害国家の習近平総書記を国賓として招き破格の接待を行った。エリザベス女王陛下は習近平の「礼儀をわきまえない傍若無人な態度」に立腹された。キャメロンとオズボーンは金銭亡者に成り下がった。

約500年前、シェイクスピアは戯曲「ベニスの商人」で、ユダヤ人金貸しの金銭亡者ぶりを批判し聴衆の大喝采を受けたという。西洋キリスト教文明に「排他的ではあるが健全な精神が宿っていた時代」の話だ。当時は「人はパンのみにて生きるに非ず」というキリスト教の精神は残っていた。現在、ユダヤ人の金貸しが流布し創造した金銭万能社会の悪臭が世界を覆っている。これに反発する健全なキリスト教徒の怒りが、地の底(深層意識)から噴出する時代になった。ナショナリズムは「人権思想」という名の抑圧機制を解き放つ。活性化した深層意識は巨大なマグマとなって地表を突き破り噴出する。

かって、英国の後ろ盾となってきたアメリカ合衆国は重心をアジアに移した。(オバマのリバランス政策)、そして次期大統領候補トランプは「国益第1」(国家主義・白人優位主義)を表明した。これまで不磨の大典とされてきた「人権主義」に対し、公然と異議申し立てを行い、共和党予備選を勝ち抜くことに成功した。西欧社会と同様、米国社会においてもナショナリズム(国家主義・民族主義)が台頭している。英国はドイツを盟主とする大陸同盟に対抗して海洋同盟を組む仲間がいない。米国の支援なしには強大な大陸同盟に対抗する手段はない。英国は今、EUに残留してドイツ経済圏の一員に甘んじるか?それともEUを離脱して孤高の道を選ぶか?の岐路にある。

米国が「英国のEU残留」を求めるのは、独仏を中核とする大陸同盟が米国から自立しないよう「監視役」として英国を配置しておきたいからだろう。米英にとって、独仏がロシアと談合して決める「ウクライナ停戦方式」は好ましい出来事ではない。米英抜きでヨーロッパ問題が処理されるのは困る。歴史的経緯もあって、ロシアとドイツを信頼していないポーランドとバルト三国は米英に懇願、それぞれにNATO軍(米英独)千名を派遣し駐留してもらうことになった。

ドイツが「英国のEU残留」を求めている理由は、英国のEUからの離脱が引き金になって、西欧全域で「反EU」の火の手が燃え上がることを恐れているからだ。もっとも、EUが解体すれば、ドイツは「親ドイツ国」を糾合してドイツ第4帝国の結成を急ぐ。幼少期から「世界に冠たるドイツ」という国歌を斉唱させられ刷り込まれたドイツ国民が野望を捨てることはない。

国民投票の1週間前(16日)、「EU残留」の運動に従事していた英労働党ジョー・コックス下院議員が銃殺(刺殺)された。容疑者は犯行現場で「ブリテン・ファースト」と叫んでいたという。この「英国が第1」という意味が大英帝国への回帰という意味なのか、それともドイツに屈しない自立した英国中心の政治を(国益第1)という意味なのかは判然としないが「反EU]であることは明らかだ。暴力で言論を封殺する蛮行を肯定する個人・団体・政党はいないであろうが、英国民の投票行動にどのような影響を与えるかは不明だ。「同情票が残留派に集まる」という見方もあるが、アングロサクソンはそれほど人情に厚い、軟弱な民族とは思えない。

第4:ロシアによる「EU分断戦略」と「反EU勢力支援」

EU(NATO)の東方拡大は「東欧→バルカン半島→ジョージア(グルジア)→ウクライナ・ベラルーシをロシアの勢力圏から剥ぎ取ってロシアを丸裸にした上で解体する」との大戦略をもって推進されてきた。これに危機感を抱いたプーチンのロシアは「対グルジア戦争」を仕掛けて一部を併合、ロシア黒海艦隊の拠点クリミア半島を奪取、ウクライナ東部の親露派武装勢力を支援してウクライナ内戦に介入した。親欧米のウクライナ政権に圧力をかけ瓦解させることを当面の目標とする。プーチン大統領は「いかなる犠牲を払っても、ロシアの防衛ラインは死守する」と考え、一歩も譲る意思はない。ナポレオン軍のモスクワ侵攻(1回目)、ヒットラー軍のカフカス侵攻(2回目)に続く3回目の国家的危機がEU(NATO)の東方拡大と位置づけ「必要があれば核兵器の先制使用も躊躇しない」と覚悟しているはずだ。

(ロシアから見ると)幸いにも、EU28か国は同床異夢の互助会組織で、重大案件(移民対策等)になればなるほど利害対立が深まり統一した対応がとれない。加えてNATOは「米国・英国・カナダ」がロシア敵視組、「フランス・ドイツ」がロシアと是々非々、「イタリア・ギリシャ」がロシアに融和的、「ポーランド・バルト三国」が反ロシアの看板を掲げ米英依存を深めているという具合だ。プーチンはメルケル(独)とオランド(仏)と談合してウクライナの停戦合意を成立させた。さらにプーチンはギリシャとイタリアを訪問して首脳会談を行う予定で、本年末には訪日も計画中だ。プーチンは「優柔不断な理想主義者オバマの任期が終わる2017年1月までに局面を大転換させる」との決意をもって着々と布石を打っている感じだ。

西欧社会は「大量に押し寄せる移民・難民対策」と「頻発するイスラム過激派による無差別テロ対策」に翻弄され国論は分裂。各国政府は有効な対策を打ち出すことができないから国民のイライラは募るばかり。「人権思想」を絶対視しないナショナリズム(国家主義・民族主義)への期待が急速に高まっている。仮に、英国の国民投票で「残留派」が勝利したとしても、西欧全体を覆うナショナリズムの台頭を食い止める手段はない。プーチンはこれら「反EU勢力」を支援し「EU解体」を狙う。西ユーラシアにおいては「EU解体」と「NATO弱体化」、東ユーラシアにおいては「中共解体」と「日米同盟弱体化」がロシアの国家安全保障戦略の基軸と位置づけられていると考えてよい。

まとめ

仮に、英国民が当面の利益を保持するために「EU残留」を選択しても「EU解体」の流れは変わらない。特に「受益は少なく、負担は増える一方」と感じている英国、フランス、ベルギー、オランダ、オーストリア(最近はドイツも)の中道政権(右派・左派)は、国民の怒りを抑えて政権を維持すべく「国益第1」(ナショナリズム)の旗を掲げざるを得なくなった。その代表格がフランス社会党のオランド大統領だ。もはや「国益第1」(ナショナリズム)は極右や極左の専売特許ではなくなった。戦後、「人権主義」を掲げて政権を担ってきた中道政権(右派・左派)は、これまでの政策を堅持して自滅するか、それとも国家主義的・民族主義的要素を取り入れた政策に変更して生き延びるか、の岐路に立っている。欧州における国家主義及び民族主義政党の伸長と米国におけるトランプ・サンダース旋風は戦後の「人権主義」が崩壊しつつあることを示している。

各国が「国益第1」で動くようになれば、EUは機能不全、統制不能に陥る。参加国は「国益第1」を優先し「EUの全体利益」を軽視するからだ。重要な課題で統一した政策を打ち出すことができないから、参加国はそれぞれの損得勘定で行動する。移民・難民受け入れ問題でEUの弱点が露呈した。

「国益の最大化」を求めて、参加国がそれぞれ「国益第1」を選択したならば、参加国は、国益の最大化を達成できないばかりでなく、これまで確保していた権益も失う。将来獲得できたであろう利益(得べかりし利益)も失う(合成の誤謬)。

「国益の最大化」は、トランプが主張するように、他国を威圧して屈服させ、負担を押しつけることでは達成できない。「国益の最大化」は短期売買で稼ぐのではなく長期投資を基本とすべきであろう。近江商人の三方良し精神「相手国にも恩恵があり、第3国にもメリットが波及し、自国もそこそこ儲けることができる」を国家戦略の基軸におきたい。そうすれば、仲間は増えることはあっても減ることはない。利益は薄くても「塵も積もれば山となる」だ。「薄利多売」ではなく「薄利長売」を心がけたいものだ。



白髪爺 at 21:58|PermalinkComments(14)clip!

2016年06月01日

G7伊勢志摩サミットの秘匿された核心的テーマは「中国包囲網の強化策」だったのか?

はじめに

G7サミットを主宰した安倍総理は議長会見において「世界経済の最大のリスクは新興国経済に陰りが見え始めていること。リーマン・ショックによる経済危機が世界を覆っていたとき、世界の景気回復を主導した新興国経済が急速に減速した。最も懸念されるのは世界経済の収縮であり、世界的規模の需要低迷が長期化するリスクをはらんでいる。ここで対応を誤れば世界経済は通常の景気循環を超えて危機に陥るリスクが高い。G7は強い危機感を共有し、協調して金融政策、財政政策、構造改革を進め、3本の矢を放っていくことで合意した」と述べた。

安倍総理が「世界経済の危機(Crisis)が迫っている」と主張したのに対し、メルケル首相(独)とキャメロン首相(英)は「世界経済の現状は危機(Crisis)とはいえない。世界経済は長期低迷する危険(risk)にあると評価すべき」と反論し、意見の不一致が表面化したと報じられた。経済学者、マスメディア、そして民進党岡田克也党首もこれに便乗、「安倍総理は世界経済の危機を煽り、消費増税時期の2年半延期の理由づけに利用した」と非難した。

安倍総理は「(中国を始めとする)新興国経済が急減速、世界経済が過激な収縮過程にある(中国発経済危機)」と具体的事実を列挙して警戒信号を発したと推定されるが、もとより中国と利害関係の深い日米にとっても中国を刺激し過ぎることは得策ではないし国益にもつながらない。他方、中国経済への依存を深めている独メルケル首相と英キャメロン首相は「中国経済が危機に陥ることは国益を損なう」と考えているから、希望的な観測を交えて発言した。なお英独仏ら欧州諸国にとって東アジアは遠く、当事者意識も希薄で、情報の収集と分析が粗雑で、伝聞情報や中共の「札束外交」と巧言令色的宣伝に騙され易い。さらに、目の前においしい食い物を提示されると、ヒトは欲望に目がくらみ、期待と願望に胸を膨らませる。中国の険しい現実に目を背け、中国を美化して眺める。「惚れた女の痘痕(あばた)は笑窪(えくぼ)に見える」という人間心理だ。

安倍総理が英独仏の首脳に「中国に騙されてはいけませんよ」と忠告しても聞く耳を持たなかったのか?あるいは「アベの見解は理解できるが、中国の心証を害すれば、姑息な手法で嫌がらせをされるかもしれず、今回は、日欧の世界経済の現状認識が異なっていた」ということにしておきたいということであったのか?真偽は不明である。おそらく、安倍総理は「中国経済が崩壊過程にある客観的資料を掃いて捨てるほど保持していたであろうし、その一部は極秘資料として各位に提供されたはずであるが、公式的には、中国経済の現状とは直接関係のない(説得力のない)「4枚の資料」を提示しただけとされた。中国を刺激しないための「政治的配慮(パフォーマンス)」ではなかろうか?共同宣言や議長声明で明らかなように、伊勢志摩サミットでは「中国の政治・経済・外交・軍事の現状と課題及び周辺国の対応」について相当突っ込んだ協議がなされたことは明白であるが、過敏症に罹患し、被害者意識を高めている中国を刺激しないよう、個別・具体的な批判(対北朝鮮・対ロシア)は避けた。

第1:国家の「意思」が経済を創造し、停滞させ又は破壊する

自然科学は「仮説→検証→仮説の修正→検証・・・」の実験を繰り返して、大自然の摂理に接近する手法をとっているのであるが、社会科学や人文科学が担う分野は研究対象が巨大で、かつ複雑すぎるから「仮説を立てて実験を行って検証する」という手法が使えない。そこで、過去完了の歴史的事実を調査・発掘・収集し、事実の周期性や類似性に着目し、経験知を加味して「仮説」を立て、将来に発生するであろう事象の予測を行う。直下型地震の発生確率や罫線を利用した株価予測はその典型であるが、このような手法では「当たるも八卦、当たらずも八卦」の域を超えるのは不可能だろう。

近代経済学の未来予測も同様であって、経済学者が100人おれば100通りの経済分析と未来予測がなされるのが常態であるから、経済学者の見解を鵜呑みにする馬鹿はいない。相手にされていないから、判断や予測を間違えても誰からも非難攻撃されることはない。彼ら経済学者と称する輩は「経済予測の不確実性」を糊塗するために、複雑な計算方式や図式を提示して「本物らしく」繕う。「詐欺師」と異なる点はない。

我々は、経済行為が人間の営みの一つであり、人間の「意思」が経済行為を活性化させることも、経済行為を停滞させることも、そして経済行為を破壊することがあることを知っている。経済行為が人間の「意思」によって生みだされるとすれば、経済危機もまた人間の「意思」が生み出したと想定せざるを得ない。周期的・循環的に訪れる経済危機は資本主義が内包する矛盾と見るべきではなく、バブル経済を煽り、推進し、崩壊させることで最大利益を得んと欲する少数者の「意思」が生み出すものと考えざるを得ない。サバンナには草木を食んで生きている草食動物、他の動物を食って生きている肉食動物、そして死肉に群がるハゲタカやハイエナ、他の哺乳動物に寄生し生き血を吸って生きているヒル等、自然界には多様な生活スタイルがある。

同様、人間の経済行為や国家の経済政策も多様であってさまざまなタイプがある。人間だけではなく、国家の鳥獣戯画図も描けるのではなかろうか。という訳で、資本主義制度を創造し、バブルの発生とバブル崩壊を演出し、濡れ手に粟の大儲けを企み、実行している投機集団又は投機国家がいたとしても何の不思議もないのだ。バブルとバブル崩壊は彼らの「意思」と「戦略」が練り上げた工程表に沿って運用されていると見るべきではなかろうか。真の経済戦略家は目立つのがお好きでない、正体を秘匿するよう努めている。

経済や戦争等人間の営みがある場所では「人間の意思」が介在し局面を動かしている。人間は「意思の力」によって、人間社会を大自然が想定していた軌道から逸脱させた。

国家が主導する経済活動(交易・為替・商品売買・投資等)は国家の「意思」によって、戦略的又は恣意的に行われている。特定の国家(例えばインド)の経済を発展させようと考え、投資を集中することもできるし、逆に、特定の国家(例えば中国)の経済を破綻させようと考え、当該国の経済活動を妨げる諸施策を講じ、又は目に見えない制約や目に見える経済制裁を課して当該国の経済を破滅に追い込むこともできる。

戦後、我が国が長期間の経済成長を享受することができたのは我が国民の勤勉性に加え、米国が「米ソ冷戦」に勝ち抜くために、東アジアにおける米国の最重要拠点と位置づけた日本国の経済発展を支援してきたことが大きい。1991年、米ソ冷戦が終わり、米国にとって我が国の戦略的価値は大きく低下した。特別待遇を付与する必要が乏しくなった。さらに、1980年代以降、我が国の経済力は米国覇権の最大の脅威となった。「失われた20年」は我が国の政治的混乱や経済・金融政策の誤りとされているが、腰縄手錠をかせられ、「それ以外の選択肢がなかった」と解すべきだろう。経済は慈善事業ではない、戦争と同じく「国益と国益」、「国家の意思と国家の意思」が激突する修羅場であるからやむを得ない。

第2:サミットの影の主役は中国(中共)

(以下1−8はG7首脳宣言と同付属文書の骨子・・28日付け日経より抜粋)

1.世界経済(中国経済?)の下方リスクが高まっている。

2.(中国の?)過剰生産能力が(世界の?)経済、貿易、労働者に与える負の影響を認識

3.実質的所有者情報の透明性の改善は腐敗、脱税、テロ資金供与、資金洗浄防止のために必要(開示されたパナマ文書に中共の高官一族ら3万人?)。ペーパーカンパニーの実質的所有者に関する各国の行動計画を完全に実施。

4.TPPと日欧EPA、日本とEUの強固なコミットメントを歓迎(ASEAN+3又はASEAN+6ではない?)

5.東シナ海、南シナ海の状況(中国による岩礁埋め立てと軍事基地建設?)を懸念し「海洋安全保障に関するG7外相声明」を支持

6,質の高いインフラ投資(非中国的?)

7.サイバー空間の悪意ある利用者(中国?)に対し、密接に協力して断固とした強固な措置をとる。国連憲章を含む国際法(戦争行為とみなす?)をサイバー空間で適用することは可能

8,インフラ関連の公共調達の腐敗リスクを意識し、公共調達プロセスの透明性を向上(中国の賄賂外交を問題視?)

以上、G7首脳宣言と付属文書の核心は「中国関連事項」であり、伊勢志摩サミットの主要テーマが「秩序破壊を企てている中国(中共)」であることを疑うものはいない。誰よりも中国(中共)自身が伊勢志摩サミットの真の狙いを理解し半狂乱状態に陥った。

第3:サミット直後の動き

1.27日、米連邦準備理事会イエレン議長は「米経済は改善しており、数ヶ月以内に利上げするのがおそらく適切だ」と述べた。(28日付け日経・夕刊)

2.安倍首相は30日、環太平洋経済連携協定(TPP)の国会承認を追求し、発効の機運を高める。アジアに加え、世界全体に対して2017年から5年間で総額2000億ドル規模のインフラ投資を実施する方針を示した。(31日付け日経)

3.政府は伊勢志摩サミットの合意を受け、世界的な鉄鋼の過剰生産を是正するための対応に乗り出す。不当に安い価格での輸出に対し、反ダンピング(不当廉売)関税などの措置を検討、中国への対抗措置を強めている欧米と足並みをそろえる。(31日付け日経)

米国が利上げすると、資金が中国を初め新興国から米国に還流する(米ドル高、新興国(中国)の通貨安)。安倍総理が議長会見で述べた「新興国経済の急減速」に弾みをつける狙いであろう。つまり、経済恐慌は自然現象ではなく、資本主義が内包する宿痾(しゅくあ)でもなく、何者か?(背後霊)の「意思」が経済恐慌を惹起するのだ。そういえば、1年ほど前、ユダヤ人の金融投機家ソロスが「中国人民元売り」を表明した。ハゲタカファンドにとっては腐りかけた肉ほど美味しいものはない。中国は「腐りかけた肉」と位置づけられたように見える。

第4:安倍総理のサミット前後の動き

1.英独仏伊4か国訪問
安倍総理の訪欧はサミットの事前打ち合わせであろうが、他方、東シナ海と南シナ海における中国の「力による現状変更」と「周辺国の反発」を説明し同意を求めた。中国経済への依存を深めている英独と中国の蜜月関係に楔を打ち込む狙いがなかったとはいえない。同時期(5月連休)、岸田外相はミャンマー、ラオス、ベトナムを歴訪し地固めをした。

2.ソチでの日露首脳会談
安倍総理がオバマ大統領の強い反対を押し切ってプーチン大統領との首脳会談に踏み切った背景は冷却状態に陥っている日露関係を修復すること、ロシアを中国依存一辺倒から引き剥がし、中露蜜月関係に楔を打ち込むこと等の狙いがあったとしても不思議ではない。ロシアにとっても「中国依存からの脱却」と、「対日関係・対米関係・対欧関係を改善しロシアに対する経済制裁を緩和してもらうこと」は喫緊の課題となっている。ロシアは伝統的に戦線を絞り込み、戦力を集中投入する性癖がある。西部戦線が忙しい時は、東部戦線は平穏でなければならないと考える。そして、東アジア戦略において、中国と日本をはじめとする周辺国のいずれにも偏せず、中立の立場で紛争を調整し、漁夫の利を得ることがロシアにとって最大の国益と考えている。

3.アジア・アフリカ首脳との会談
安倍総理は28日、伊勢志摩サミット拡大会議に出席したアジア・アフリカの首脳と名古屋市内のホテルで個別会談。「質の高いインフラ投資」で支援する考えを示すほか、中国の南シナ海などへの進出を踏まえ海洋安全保障も協議する。スリランカ、アフリカ連合(AU)議長国チャド、バングラデシュ、パプアニューギニア、ASEAN議長国ラオス。その後、東京に移動し、ベトナムのフック首相と会談する。(28日付け日経・夕刊)

以上のほか、昨年末、米国の要請と支援により、安倍総理は従軍慰安婦問題で日韓合意をとりつけ、北朝鮮の核実験を契機として中韓離間策を仕掛けた。「覆水盆に返らず」というから、当面、中韓関係が元の蜜月関係に戻ることはあるまい。さらに、台湾でも親中の国民党馬英九総統から親米・親日の民進党蔡英文総統に交代した。習近平は日本国安倍総理を包囲殲滅するつもりで取り組んできたのであろうが、気がついてみたら、いつの間にか、中国の方が孤立無援、四面楚歌に陥ってしまった。習近平は国内でも軍高級幹部を含む政敵数十万人を粛清したから、当然ながら政敵側の反撃を警戒せざるを得ない。政敵がいかなる手口で仕掛けてくるか、夜も安心して眠ることができない。

今や、中共中央の権力闘争も最終段階に至っているが、誰もが粛清を恐れ面従腹背に徹しているから敵と味方を識別するのが容易ではない。盟友王岐山(党中央規律委員会書記)には政敵側に寝返るかもしれぬという不穏な動きがある。かくして、習近平・王岐山が二人三脚で推進してきた「反腐敗闘争」に急ブレーキがかかった。習近平一家の一族郎党は「我に利あらずスイ往かず」と感じ始めたのではなかろうか。この微妙な変化を嗅ぎつけたのか?、江沢民・曽慶紅一派に弾圧された健康修練団体「法輪功(大紀元)」は「習主席は中国共産党を解体すべきだ。中共を解体すれば中国5千年の歴史に名声を刻むことができる」と煽動した。「民主中国の習近平大統領に横滑りできるし、一族郎党の身の安全も確保できる」と催促した。

まとめ

米国発世界恐慌(リーマン・ショック)から世界経済を回復させた原動力は中国が行った住宅建設、高速道路建設及び高速鉄道建設を中心に投入された約60兆円の公共事業であった。中国の資源爆買いによって資源産出国を初め世界中がリーマン・ショックの痛手から立ち直り活気を取り戻した。中共中央と同地方政府はあたかも「もののけ」に取り憑かれた如く、利用価値の乏しい公共事業や採算を度外視した公共事業に予算を投入した。上海・北京・天津・重慶等の特別市から山間僻地の末端地方政府に至るまで、浮かれたようにゴーストタウンを造った。結果、中国共産党中央と同地方政府直営の公共事業関連国有企業は生産体制を拡充、数千万乃至数億人の農民工(出稼ぎ労働者)を雇用した。中共中央と同地方政府が総力を上げて取り組み構築したのが「過剰生産体制」である。

13億人民を一元的に管理する共産党独裁政権を維持するためには、軍・武装警察・民兵等の暴力装置のほか、密告を奨励し、警察などの治安機関を総動員して人民を弾圧し、人権を蹂躙し、「力による人民管理」を徹底しなければ、民心を完全に失った共産党一党独裁政権を維持することはできない。もともと、中国人民の粗暴な性向は「抗日無罪」「革命無罪」という毛沢東の暴力肯定思想によって教導されたものだ。その矛先が共産党に向けられるようになっただけなのだ。

漢族は数千年に及ぶ異民族の支配に甘んじたが、その代わり、「中央に政策あれば地方に対策あり」という独特の文化を身につけた。中央が発する通達は地方政府によって骨抜きにされる。天子の厳命であっても、中国全土、津々浦々に至るまで徹底することはない。

毛沢東は中途半端なやり方では漢族を管理できないことを知っていた。そこで、毛沢東は全党を上げて大躍進政策(鉄鋼や農産物の大増産等)の号令を発し断行した。反対する者は容赦なく切り捨て粛清した。結果、中国全土の山林が伐採されてハゲ山と化した。羊や山羊の過放牧によって緑野が砂漠になった。農薬の大量使用によって農地の毒物汚染が進んだ。大自然の摂理を無視した毛沢東の大躍進政策は見事に失敗、5000万人が餓死した。そして、毛沢東は共産党中央の解体と再編成を企図して青少年を扇動し、紅衛兵を組織して蜂起させた(革命無罪)。文化大革命はイスラム国(IS)と同じく、伝統文化を含む既存の文明を否定し破壊した。文化大革命の10数年間に虐殺され又は餓死した者は3000万人に達した。中国という超巨大マンモスタンカーを動かすためには「極端な政策」を掲げ、いかなる怠業も許さず、いかなる犠牲も覚悟して政策を貫徹しなければならない。危険を察知しても迅速かつ機敏な危機回避策はとれないし、座礁すると分かっていても難破するまで前進する以外にない。

中国の土地バブル、公共投資バブル、資源爆買いバブルは世界の常識をはるかに超えるものであるが、これは彼らの無知ぶりを示すというより、超巨大マンモスタンカーの体質的欠陥というべきだろう。一度走りだすと、誰にも止めることができないのだ。いま、中国の金融機関(国有・民間・闇金融等)が抱える回収できない不良債権の総額は中共中央も、同地方政府も、誰も、把握できない。不良債権総額は少なく見積もっても数百兆円、巷では1500兆円を超えているといわれている。

失業者の急増による治安の悪化、地方政府の財政破綻による地方政府の崩壊等共産党一党独裁政権を支えてきた支柱が壊れ始めた。中共中央は先般、利子さえも払えないほど膨大な負債を抱えているゾンビ国有企業に債券発行する権利を与えた。ゾンビ国営企業の借金を第三者の金融機関や個人に「移し替える」ことで、当座をしのごうという訳だ。もとより、紙くず同然の債券を買う馬鹿はいないから、この債券は行政命令を発して金融機関に押しつける以外にない。その代わり、当該金融機関には中国人民銀行が紙幣を大増刷して資金を湯水の如く流し込む。結果、人民元紙幣が大量に印刷され頒布されることで通貨価値は暴落する(ハンパーインフレ)。これを想定した資金の国外逃避(キャピタルフライト)に歯止めがかからない。習近平を筆頭とする党中央政治局常務委員や共産党・軍の高官の一族郎党は率先垂範、職権を悪用し、香港に本拠を構えるユダヤ系金融資本HMBC等を介してタックスヘイブンに設立したペーパーカンパニーに天文学的資金を逃避させてきた。「悪い奴ほど生き残る」という見本だ。

政府が「紙幣の大量発行(通貨発行特権の濫用)」に手を染めるのは中国王朝末期の特徴で、戦前、日本軍と戦っていた中華民国軍(国民党蒋介石政権)は軍費を賄うため紙幣を増刷したため中国人の信頼を失ったといわれている。

世界は今、中国発経済危機(チャイナ・クライシス)の影響を軽減すべく備えを固め始めた。消費増税時期の2年半延期はその対策の一つに過ぎない。ところで、中国の不動産バブルも、大規模公共事業も、生産設備への過剰投資も、強欲で無知な中共中央高官に食わせた毒饅頭かもしれぬ。経済は国家やヒトの「意思」が創り出し、停滞させ、破壊するものであるから、中国経済の破綻と崩壊は「工程表通り順調に推移している」という診断が下っているとしても不思議ではない。

数年前、某国が「そろそろ中国の経済成長に幕を下ろす時がきた。中国経済を余りにも長く支えすぎて中共中央を増長させてしまった。豚は太らせて食えとはいうが太りすぎた豚は美味しくない」と考え直し進路変更したと仮定してみる。結果、「中国の高度経済成長時代が終わり、中国経済は右肩下がりの崩落過程に移行した」と仮定してみる。そして、「中国に代わってインドが、新たな高度経済成長国に指定された」と仮定してみる。一体全体、そのような荒唐無稽でマンガみたいな仮説が実在してよいものだろうか?「事実は小説よりも奇なり」というから予断はできない。

現実の流れを眺めていると、コインの表が裏に見え、コインの裏が表に見えることがある。どちらが真の姿なのか?、あるいは、どちらも真の姿なのか?疑念は尽きない。

白髪爺 at 23:34|PermalinkComments(22)clip!

2016年05月22日

世界の対立軸を決めるテーマは「対テロ戦争」か、それとも列強が生き残りを賭けて争う「世界戦争」か

はじめに

無差別殺人や強盗・強姦・放火等の凶悪事件は我が国でも年間数千件、全世界では数十万件も発生しているから猟奇的殺人事件の如き特別の事情がない限りマスメディアの報道も短期間で終わる。ところが、「テロ」と称される犯罪については繰り返し、長期間、報道される傾向がある。「特定の犯罪行為(テロ)」だけが抽出され、特別扱いされているように見える。「テロ」だけが犯罪行為を罰するのではなく、テロを行った人間(極悪非道な)が詳細に分析され、又は「信念に殉じた戦士」として美化されている。彼らは単なる犯罪者であってはならず、「悪逆非道な人間」又は「聖戦の勇士」でなければならないとされている。

誰もが、自爆テロや小銃等で一般市民を無差別に殺害するのは許せないと感じている。しかしながら、犯行現場が欧米であれば大々的に繰り返し報じられるが、欧米から見て辺境のロシア、トルコ、エジプトの市民であれば被害が同程度であってもっても扱いは小さくて短い。そして、米国やロシアの空爆で殺されているイラクやシリアの非戦闘員市民の惨状が報道されることはほとんどない。欧米で発生しているテロ被害者の何十倍・何百倍の規模で殺されているというのに。それとも、戦時の被害者(イラク・シリア)と平時の被害者(欧米)は同一基準で論じるべきではないということか?

第1:「対テロ20年戦争」がもたらしたもの

2001.9、11複数の旅客機を乗っ取った犯人グループは、同旅客機を米国防総省本館や国際貿易センタービル等に激突させて破壊した。旅客機の搭乗員、乗客、実行犯は全員が死んだ。倒壊した世界貿易センタービルを脱出できなかった市民数千人が殺された。米国政府は即刻「イスラム過激派アルカイダの犯行」と認定、アルカイダの首領オサマ・ビン・ラディン一味を匿っているアフガニスタンのタリバン政権に「犯罪者の引き渡し」を求めた。米国は「犯罪者引き渡しに関する回答期限」を数日後に指定したから、タリバン政権側に検討する時間的余裕があったか否か疑問が残る。さらにブッシュ政権はタリバン政権に検討するだけの時間的余裕を与えないで、初めから時間切れを狙っていたのかもしれぬ。何しろ、ブッシュ政権は9.11同時多発テロからわずか数日で犯行グループとして「アルカイダ」を認定、アルカイダの首領を匿っているアフガンのタリバン政権に「数日以内にオサマ・ビン・ラディンを引き渡さなければ攻撃を開始する」との最後通牒を突き付けた。同時並行して世界各地に分散・停泊していたはずの5つの米空母打撃群を戦争モード(水・食料・弾薬の補給等)に切り替えてアラビア海に集結させた。以上の事前準備が、事件発生後わずか1か月程度でなされた。ブッシュ大統領は戦争準備をすべて整えた後、上下両院において「対テロ20年戦争」を宣言し「アフガン戦争」を始めた。以上の経緯により、犯罪集団「アルカイダ」は、聖戦の戦士「アルカイダ」に昇格した。

約1年でタリバン政権を打倒した米国は勢い余って「イラク戦争(2003、3ー)」に突入。英国諜報機関がもたらした「イラクのフセイン政権が大量破壊兵器を保持している」との不確かな情報を真正なものとみなしたというが真偽不明。「イラク戦争をやる」との決意を固めてから、攻撃のネタを探した疑念もある。情報の信ぴょう性を十分に検討せず、「真正な情報」と信じたことにして利用した疑念がある。

イラク戦争は米英が主導し豪韓ポなどが追随して有志国連合を結成して行ったもので、中露独仏を初め国際社会の多くが賛同しなかった。イラクのフセイン政権は「負け戦」を覚悟していたのか、イラク軍は徹底抗戦を避け、主力部隊を解散して温存する戦術(戦争→ゲリラ戦→自爆テロ戦)に転換した。

8年後(2011.12)イラク駐留の米軍・英軍ら(最高時27万人)が全面撤収したことを奇貨としてフセイン軍残党(主力)は組織の再結集を図り一斉蜂起した。フセイン軍残党は戦術を「自爆テロ戦→ゲリラ戦→戦争」に転換し一斉蜂起、たちまちイラクとシリア北部地域を支配下に置いてイスラム国(IS)を名乗った。

現在、ISは米国やロシアの空爆、クルド人部隊やイラク・シリア政府軍の攻勢によって支配地域の約半分を失ったといわれている。一方、イラクの首都バクダッドのシーア派地域で自爆テロが頻発しているから、フセイン軍残党(アルカイダ)は再び「戦争→ゲリラ戦→自爆テロ戦」に戦術を転換したのではないかと推測される。敵が強大な場合は戦線を縮小するか又は支配地域を放棄するかしてゲリラ戦や自爆テロ戦に切り替え、敵が弱体化した場合は、分散している戦闘員をかき集めて一斉蜂起、戦争を仕掛ける戦術を採用しているのではなかろうか。

なお、同時多発無差別テロの標的となったフランスのオランド大統領は「対テロ戦争」を表明し、「非常事態」を宣言した。空母をシリア沖に派遣して報復攻撃を行った。世界中がイスラム国(IS)を「敵」と認定し宣伝してくれるから、彼らの市場価値はさらに高まった。中東・中央アジア・アフリカだけでなくインドネシアやミンダナオ島のイスラム過激派の一部もISを名乗るようになった。叩けば叩くほどホコリが出るように、攻撃されればされるほどISは世界各地に転移して増殖する。

イスラム過激派「アルカイダ」が9.11米中枢部に対する同時多発テロを実行した動機は何か?彼らが聖地と考える中東地域に土足で踏み込み乱暴狼藉を働いた米国に対する報復なのか、それとも、短絡的なブッシュ大統領(当時)を激昂させ、米国を「対テロ20年戦争」の泥沼に引きずり込む計略だったのか。さまざまな怨念が積み重なり、さまざまな動機や計略が合流し、大きな流れ(犯行動機)となったのではなかろうか。緻密なテロ計画、長期にわたる準備、そして同時間帯に数機の旅客機をハイジャックして自爆テロを断行する等、規模・態様において誰も想定できない犯罪であった。犯罪者は「米国との戦争」と考え9.11を行った。そして、彼らの作戦通り、米国はアフガン・イラク・シリアの泥沼戦争に引きずり込まれ、国家経済を破綻させ、孤立主義(不介入主義)に転じた。

第2:IS(イスラム国)を支援し又は利用する個人・組織・団体・国家

2016年現在、公然とISを支援する国家はないが、湾岸諸国の資産家(個人)が資金を提供していることは公然の秘密となっている。ISは「100年前、英仏露がオスマン帝国領(シリア・イラク等)の分割を密約したサンクス・ピコ協定は認めない」と述べた。これは、英国の三枚舌外交に翻弄され、使い捨てられたアラブの恨みを代弁したものといえ、共感し、支援する資産家が相当数いても不思議ではない。

オスマン帝国の最強部隊といわれていた氏族の末裔(フセイン軍残党)とトルコ陸軍諜報機関との濃密な関係も指摘されており、ISがトルコ経由でヒト・モノ・カネを移動させていることは周知の通り。トルコ政府やトルコ陸軍が黙認しなければ国境を超えて自由に往来することは不可能であり、原油の輸送も円滑に行われてきたといわれている。オスマン帝国の再興を願うトルコの大統領にとって、露払い役のISがアラブ、アフリカ及び中央アジアに拡大するのを妨害する理由はない。

サウジアラビアとヨルダンは有志国連合の一員としてIS支配地域の空爆作戦に参加したこともあるが、半身の構えで本気度が疑われている。ISはイラン・イラク・シリア・ヒズボラ(シーア派枢軸)の膨張を妨げる主要な勢力で、「アサド政権(シリア)打倒を悲願とする湾岸諸国やトルコ(いずれもスンニ派)の補完勢力的役割を担っている。

イスラエルにとっても、ISが滅亡し、イラン・イラク・シリア・ヒズボラ・ハマス(ガザ地区)の「反イスラエル勢力」がイスラエル包囲網を完成させることは最悪のシナリオで、そのような事態が発生しないよう権謀術数を駆使しているはずだ。つまり、ISを「反イラン・反シーア派」の防波堤として温存することはトルコ、アラブ湾岸諸国及びイスラエルの共同利益だ。だが、公然と「ISを支持する」とは言えないから、ケイマン諸島等世界中の租税回避地にペーパーカンパニーを立ち上げて匿名で支援しているはずだ。要するに、IS、アルカイダ及びタリバンに期待し、これを支援する有力者、組織、団体及び国家が存在する限り、ISを初めとするイスラム過激派武装集団を壊滅させることは不可能だろう。

第3:東アジアにおける列強の角逐と合従連衡

戦後、いち早く高度経済成長の軌道に乗った我が国は中・韓・台を初めアジア主要国(インドネシア・タイ・マレーシア・ベトナム・フィリピン・インド)の経済発展を支援した。その結果、「21世紀はアジアの時代」といわれるようになった。

中国(中共)は共産党一党独裁を維持しつつ、日米欧等の外国資本(企業)を誘致して経済発展を図る「改革開放政策」を導入。結果、外国資本(企業)が雪崩をうって中国に流入した。中国は他人の褌で経済成長を実現できたし、経済成長の果実を得て二桁増の軍事予算を20年以上も続けることができた。中共は歴代中国王朝の前例を踏襲し東アジアの覇権を求めるようになった。中共帝国を頂点とし、以下蛮族(中小国家)を序列づけて統治するタテ社会型「中華冊封体制」の復活を企てるようになった。

中共版の「中華冊封体制」の特徴は、中小零細国で産出する地下資源や農産物等を購入してやること、ヒト・モノ・カネを投じてインフラを整備してやること、相手国と通貨スワップ協定を締結し、自国通貨建て貿易決済方式で商いができるよう配慮してやること、中共最高幹部らが不正な手段で獲得した数十兆円の闇資金の洗浄を委託し、又は闇資金の運用を任せる等して手数料を稼がせ、中国への経済的依存度を高めた。経済で生殺与奪の権を握り、経済をテコにして政治的圧力を加えた。この方式が中共型新植民地収奪政策の特徴なのだ。中華冊封体制に組み込まれた中小国家や列強は短期的には国庫が潤うが、中長期で見ると「ジリ貧」になることは必定で、北朝鮮、ミャンマー、ラオス、中央アジア5か国、アルゼンチン、ベネズエラ、ニュージランド、台湾、韓国等で実証済だ。これらの国では「中華冊封体制からの離脱」が国家的命題となっている。まもなく、英国とドイツも同様の課題を抱えるはずだ。

中国のバブル経済が最盛期を過ぎ崩壊過程に突入した時期は2014年春というのが通説になっている。同時期から、中共版「中華冊封体制」のタガが緩み始めた。カネでつなぎ留めておくことが困難になった。中華冊封体制から離脱した国(イラン・キューバ・ミャンマー・北朝鮮・韓国等)や、中共の影響下に置かれている事実上の属国では経済が悪化し、国民の信頼を失った親中政権が倒れた。アルゼンチン、台湾、そしてまもなくベネズエラやブラジル等の南米でも中華冊封体制の崩壊が始まった。「資源収奪・環境破壊・官僚腐敗・一党独裁」がもたらした当然の帰結といってよい。

米オバマ政権は「アジアに重心を移すリバランス政策に転換した」と唱えているが、現実は、ヨーロッパ戦線(ウクライナ・ポーランド・バルト三国・ジョージア等)や、中東戦線(アフガン・イラク・シリア)に足を取られ身動きできない状態。しかも、ホワイトハウスはライス大統領補佐官ら媚中派が占拠し牛耳っており、国防総省の意向はほとんど無視されている様子だ。結果、オバマ政権の「対中融和・米中談合」に変化はなく、中共軍は安心して南シナ海の岩礁を埋め立て、空軍基地・海軍基地の建設に専念できる。オバマ大統領の任期が終わるまでの半年余りの間に、中共軍は南シナ海西沙諸島及び同南沙諸島の岩礁の埋め立て工事と空軍基地・海軍基地の建設を完了する予定だろう。

英国は中共の最高幹部が不正な手段で獲得した闇資金を香港経由で受け入れ、タックスヘイブンで設立しておいたペーパーカンパニーを利用して資金洗浄を手助けすることで、仲介手数料を稼ぎ、集めた資金の運用でも手数料を稼いでいるとみられている。中共高官が外国に持ち出すアングラマネーの取り扱い業務がなくなれば英国経済は成り立たないほどに中共への依存を深めている。その証拠が訪英した習近平総書記一行の横柄な態度だ。「中共が主人」で、「英国は下僕」という立場を行動で示した。エリザベス女王陛下も「中共の礼儀をわきまえない無礼な態度」に激昂された。

ドイツのメルケル首相は「商売一筋」、中共詣でを繰り返し、恥も外聞もかき捨てて「中共御用達」の商売人役を演じてきた。自動車(VW)を初めドイツの基幹産業の多くが中国に進出し莫大な利益を上げた。メルケルにとって中国は「金のなる木」であったし、足を向けては寝れないほどの相思相愛の関係にあった。だが、中国への依存度が高ければ高いほど、中国経済の崩壊がもたらす衝撃は大きくなる。台湾や韓国が中国経済への依存度を下げたいと願っているのは、「尻に火がつき」大火傷になる危険が高まっているからなのだ。中国経済の崩壊が台湾と韓国の経済を直撃し経済悪化が止まらないから狼狽しているのだ。永続的な国家の発展と自立した国家を建設し維持するためには、一つの籠に全財産を盛らないこと、大事な卵は3つの籠に分散して盛っておくべきなのだ。

我が国外交の基本は「日米豪印比越」の海洋同盟の結成と「日露蒙印越」の環中国協商を推進し二重の中共包囲網を形成すること。中共を孤立させ、共産党一党独裁に風穴を開けて中国の民主化を促すこと」であらねばならない。我が国にとって「中露接近」は悪夢であるが、中共にとって「日露接近」は悪夢となる。何しろ、中露国境は約6000キロでロシアとの関係が悪化すれば、中共は海軍を増強して海洋進出するどころの話ではなくなる。陸軍20万人の削減計画も見直さざるを得なくなる。習近平が打ち出した「一帯一路」の戦略は「中露連携」がギクシャクすれば即破綻する儚い宿命(さだめ)だ。

米国はクリミア半島を奪取したロシアを極悪犯人に特別認定してG8から追放、経済制裁を加えて孤立させた。南シナ海で岩礁を埋め立て、空軍基地・海軍基地を建設し、南シナ海全域を実効支配する野望を隠さない中共については「お咎め無し」の偏った判断だ。要するに、米国はロシアに経済制裁を加え、孤立化させ、ロシアが中共依存を深めざるを得ない立場に追い込んだ。かって米国はイラン・ミャンマー・北朝鮮・ベネズエラ・リビア及びアフリカの独裁国家に経済制裁を加え、孤立化させ、中共の縄張りに追い込んだことがあった。米国の歴代政権は中共の縄張りに小魚を追い込む漁の達人なのだ。「追い込んだ魚」をすくって食うのが中共の役目だ。

オバマ大統領が「アベ・プーチン会談」に反対し、強力な圧力をかけてきた意図は「ロシアに対する経済制裁が減殺されるだけ」という正当な理由だけではあるまい。オバマの真意は「アベ・プーチン会談をやめさせることができれば、中露分断を阻止できるし、中共包囲網の完成(中共の孤立化)を遅らせることができる」ということであったとしても誰も驚かない。何しろ、オバマ大統領の実母と妻子は中共の接待で1週間以上も中国旅行を楽しんだことがあった。我が国には1度も立ち寄ったことがない冷ややかな態度と比較するとその差は歴然。オバマ一家は中共とよほど相性が良いのであろう。というウラを読むと、オバマ政権が打ち出した「リバランス政策」を共に担ぐ相棒は同盟国日本ではなく、中国共産党中央ではないのかとの疑念が湧く。

ロシアのプーチン大統領はソチで日露首脳会談を行った2週間後、同じくソチにフィリピンを除くASEAN9か国の首脳を招待して首脳会談を開催した。ロシアとASEANの経済交流を一層深めること及び武器輸出を含む安全保障関係を強化することが合意された。

東アジアにおけるオバマ政権の「米中談合(G2)」と「中国包囲網(海洋同盟)」の二枚舌外交は中国と対峙している日本、インド、ベトナム、インドネシア、台湾、韓国から見ると「米国は中共の味方なの?それとも同盟国・友好国の味方なの?」と不安を感じる主たる要因となっている。米国と東アジア同盟国・友好国との微妙な雰囲気を察知したプーチンは「時は今、アジアに食い込む千載一遇の好機」と考えた。日露首脳会談に続いてASEANとの首脳会談を開催して楔を打ち込んだ。

プーチンはシベリア開発をロシア経済発展の起爆剤にしたいと考えているがそれだけではあるまい。オバマ大統領の任期中に、日露関係を深化させ、ASEANとの経済交流と武器輸出を初めとする安全保障関係を質量ともに高めたいと考えている。ロシアが南シナ海の領有権問題で「ベトナムなどとの(インドやインドネシアも?)良好な関係にも配慮しなければならない」として、中共の要請をやんわりと断っているのも、将来を展望した深慮遠謀だろう。「東アジアから米国を追い出した後は、中国との対立が始まる」と想定している訳だ。このテーマがソチにおけるアベ・プーチン会談(5月6日)で話し合われたか否かは明らかではない。

まとめ

G7首脳会談の直後、オバマ大統領は米国大統領としては初めてヒロシマを訪問し、個人的見解を発表することになった。オバマ大統領の任期中、北朝鮮が核保有国になったが、オバマは「非核への思い」を貫いた米国大統領として末永く歴史に刻み込まれるであろう。また、オバマ大統領はヒロシマ訪問を「日米同盟の絆を強固なものにしたい」との思惑があるといわれているし、「安倍総理も真珠湾を訪ね戦死者を慰霊すべき」との意見もある。

オバマ大統領は米国のアジア戦略の要「日米同盟」の絆に不安を感じているのであろうか?中東では同盟国の意向を軽視して仮想敵国イランとの和解を優先させたオバマ、共和党大統領候補トランプ氏はオバマ大統領の如き「中途半端な孤立主義(国益第1)」ではなく、「徹底した孤立主義(国益第1)」と見られている。いうまでもなく、平均的な日本人は「米国の歴代政権が口頭で約束してきた核の傘は機能しないのではないか」と感じている。国益第1主義の米国が核戦争に巻き込まれる危険を犯してまで同盟国を守ることはあり得ないという説には説得力がある。、

安倍総理は「戦後70年経過した現在でもなお日露平和条約が締結されていないのは異常である」との大義名分を掲げ、オバマ大統領の反対を押し切ってアベ・プーチン会談を断行した。公表された合意点は「新たな視点で4島返還問題を検討し、日露関係を総合的に発展させる中で平和条約を締結する」とされているが、もとよりそれだけではあるまい。米国が孤立主義に傾斜する現在、「日米同盟基軸」だけの安全保障体制では、遠くない将来、日本国の安寧と国民の命と暮らしを守ることが不可能になる。「日米同盟基軸」から「多角的安全保障体制」に転換する必要がある。さらに、米国の歴代政権は「中共の味方なの?それとも同盟国(日本)の味方なの?」と疑念を抱かせたことが何度もあった。蒋介石を捨て、毛沢東を支援したトルーマン政権(マーシャル国務長官)の性向は現在でも改まっていないのではないかと疑われている。

世界は、オバマ大統領が同盟国(サウジ・トルコ・イスラエル)の意向を尊重せず、同盟国を窮地に陥れたことを知っている。そしてプーチン大統領がイランと同盟国シリアのアサド政権を徹底して支え切ったことを知っている。同盟国にとって米露のいずれが頼りになる存在か?が問われたシリアの内戦であった。「困った時に助けてくれるのが真の友」というが、「困った時に助けてくれない同盟国」は同盟国とはいえないだろう。そういえば、プーチンはかって「仮に同盟国が侵略された場合、ロシアは核兵器で撃退する」と語ったことがあった。「核兵器のない世界をめざすオバマ」に、米国の同盟国は「核の傘」を期待できるのであろうか?、それとも「過大な期待」を抱くべきではないということなのか?

国家関係も、同盟関係も大きくかつ激しく動いている。永遠不変なものは何もない。

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす(平家物語)」という。

白髪爺 at 07:24|PermalinkComments(8)clip!

2016年05月09日

米国は、オバマの「戦線縮小戦略(リバランス)」から、同盟国に負担を押しつけ自主防衛力の強化を求めるトランプの「後方支援戦略」へ転換する。

はじめに

11月の米大統領選は共和党のトランプ候補と民主党のクリントン候補で戦われることになった。泡沫候補とみられていたトランプが共和党予備選を勝ち抜くなんてマスメディアはもとより本人も想定していなかったであろう。民主党予備選は「クリントンの圧勝」と見られていたが、予備選立候補直前に民主党に入党した社会主義者サンダースの追撃を許し苦戦中だ。

なぜ、トランプとサンダースがこれほど健闘しているのか?企業は利潤を確保し競争力を保持するために、生産工場を労賃が高い先進国から労賃が安い開発途上国に移転した。結果、「労賃の国際競争」によって、開発途上国の賃金は高騰し、先進国等の賃金は横ばい又は下落した。グローバル経済においては先進国と開発途上国の賃金格差は縮小する。さらに米国ではメキシコ等中南米からの大量不法移民が、EUでは東欧・中近東・アフリカ等の開発途上国から大量の移民・難民が流入し、下層労働者の労働条件は悪化するばかりだ。

従来、企業又は国家が担っていた研究・開発・製造等各部門の国際共同化と国際分業化が進んできた。電子機器の発展によって事務部門の効率化・合理化も進んだ。「大学卒・大学院卒」の専門を活かす仕事が見つからない。企業や公務では経費を削減するため非正規雇用を増やす等、中間所得層の転落と、下層所得層の切り捨て不安が募っている。

国家の垣根(保護膜)を取り払うグローバル資本主義は無力な個人を戦場に放り出すことで最大利益を獲得する。、ユダヤ・アングロサクソン同盟が推進してきたグローバル資本主義は「富める者は益々豊かに、貧しい者はますます貧しく」を貫徹する。富者はタックスヘイブンを活用して脱税又は節税に励む。一握りの高所得層とその他大勢の中間所得層以下の経済格差は拡大する。

米国においてグローバル資本主義と戦争経済を推進したのは、米国の真の主権者国際金融資本と軍産複合体であるが、彼らの代理人として政治を執行したのがエスタブリッシュメント(民主党と共和党の主流派)であったから、米国社会では「既成の政治家は悪人、素人政治家は善人」とのイメージが定着したという。

トランプはグローバル資本主義を非難・攻撃して、グローバル資本主義以前の「米国が最も輝いていた1960年代」への回帰を訴えた。実現不可能であることを知りつつ「米国の夢」を提起し共感を得た。そういえば、習近平も実現不可能な「中国の夢」を語った。打開策を見出すことができないから、具体策を提起することはできないから、「夢」を見せて国民を騙すことにした。

1929年の世界大恐慌以後、西欧(仏独伊等)の国民多数はファシズムと共産主義に明日の希望を求めた。今、これに類似する現象が世界各地で発生しているからアメリカだけが例外とはいえない。ヒトは生きるために「一切れのパン(経済と福祉)」を求め、心の不安を打ち消してくれる「夢」にすがる。

第1:アメリカ大統領選の敗者はクリントンか?

米大統領選まで5か月余。5月5日、米司法省はクリントンが国務長官在任中に、私的メールを使って国家最高機密情報を漏洩したとして、クリントンの最側近の捜査に着手。まもなく、クリントン候補本人が捜査の対象になるといわれている。さらに、クリントン候補は中国共産党系の在米企業から政治献金を受け、発覚後返還したことがあったが、誰もが、クリントン一家と中国共産党の濃密な関係から見て、発覚したのは氷山の一角であろうと感じている。パナマ文書1100万件の内中国共産党関連文書の解読が進んだならば、あるいはクリントン一家と中国共産党の濃密な関係を示す新たな証拠が暴露される虞れもある。

以上、危険が一杯のクリントンのおかれた情況を勘案すると、「トランプ候補を10ポイント差でリード」から「トランプがクリントンを逆転した」となっても何の不思議もない。もっとも、トランプも安全地帯にいるとは言い難いので何で転ぶか分からない。米大統領選の行方は「一寸先は闇」であり誰も予想できない。

なお、トランプの経済政策は「TPPの否定、国内産業の保護・振興による雇用拡大、法人税の大幅減税、国民皆保険制度の実現、国内インフラ整備事業への財政資金の投入、対米貿易の大幅黒字国に対する対抗措置」等で、小さな政府を唱える共和党よりも、大きな政府を掲げる民主党のオバマやサンダースとの共通点が多い。

トランプは共和党大統領予備選を勝ち抜く過程で他候補を非難・中傷・罵倒してきたし、人種差別などメディアの耳目を集める過激すぎる発言をあえて行ってきた。トランプは手練手管を使って共和党大統領予備選に勝つことはできたが、共和党穏健派を初め多くの政敵をつくった。共和党の重鎮(若干名)は「トランプには投票しない、民主党のクリントンに投票する」と告白。共和党所属の下院議長は共和党分裂を回避すべく「トランプ候補が変わらなければ支持できない」と述べた。

クリントンは首を洗って刑事捜査を待つという心境であるのに対し、トランプは自らが蒔いた災の種を刈り取らなければならない。米憲政史上例をみないほど次元の低い大統領選になった。

第2:トランプの安全保障政策の狙い

トランプの考えを筆者なりに整理すると(1)国家の安全保障は自主防衛を原則とし、集団的安全保障体制(軍事同盟)は同盟国の自主防衛力の不足する部分を補完するものだ。(2)世界最大の債務国で、かつ事実上の破産国家米国が、経済的に裕福なドイツ、日本、サウジアラビア、韓国を防衛するために、米国民の血税を年間数兆円も費やすのは正義に反する。(3)現行の軍事同盟は片務的で双務的ではない。米国は同盟国を防衛する義務を負うが、同盟国は米国を防衛する義務はないという不公正なものだ。(4)受益国(同盟国)は米軍駐留経費の全額を負担すべきで、仮に、受益国(同盟国)が米軍駐留経費全額の支払いを拒絶するのであれば、米駐留軍は撤退させる(駐留なき安保)。

オバマは「米国は世界の警察官ではない」と表明、米国は覇権国家ではなく比較優位な国家に過ぎないと告白。しかるにトランプは「保護する国(米国)と保護される国(同盟国)」という関係ではなく、「能力に応じて負担しあう対等な同盟関係をめざすべき」というのである。「武力をもっている米国は武力を提供し、カネをもっているドイツ、サウジ、日本、韓国はカネを出せ」というのである。「この合意(取引)が成立しない場合、同盟契約は無効になる」というのである。

戦後70年、我が国は「米国の妾」といわれ、「対米従属国家」と馬鹿にされてきた。米国のエスタブリッシュメントは我が国を半人前(被保護国)と考え、自在に操ることができる国と位置づけてきた。トランプは戦後はじめて、我が国を取引できる対等な国家として扱ってくれた。対等な国家と認識するからこそ遠慮会釈なく言いたいことが言えるのだろう。

トランプの本音を類推すると「我が国や韓国に米軍駐留経費全額の支払いを請求すれば、日韓両国はこれを拒否するであろうから、米軍撤退(段階的)時期を明示して自主国防力の向上促す」ということであろう。駐留経費の削減と米国製兵器の販路拡大の一石二鳥を狙っている。将来的には我が自衛隊を東アジアの要として育て上げ(自衛用戦術核兵器の供与を含む)、中共軍や朝鮮人民軍の暴発を抑止する。米国の軍事予算が大幅に削減される情勢の下で、中共軍の中距離ミサイルの先制攻撃で壊滅すると想定される最前線基地(在日米軍基地や在韓米軍基地)に米軍を駐留させておくのは危険が大きく合理的ではない。情報収集部隊と軍事顧問・司令部調整担当だけを残留させ、米軍主力はアラスカ、ハワイ、グアムの第2列島線に撤収するという計画だろう。

第3:安全保障と「自助・共助・公助」

米ソ冷戦時代、世界は米国とソ連の2つの陣営に分かれ対峙した。米ソ両国はそれぞれの勢力圏に囲い込んだ同盟国に大軍を進駐させ又は軍事物資を供与し経済支援を行った。同盟国の安全保障は米国とその同盟国又はソ連とその同盟国によって担保されていた(共助・公助)。ソ連が崩壊したとき、ソ連の軍事同盟(共助・公助)は解体されたが、役割を終えたはずの米国の軍事同盟(共助・公助)は残った。米国の同盟国にとって軍事同盟(被保護同盟)は既得権となり、軍事同盟を支えてきた米国にとって軍事同盟(保護同盟)は履行すべき義務となった。トランプが文句をいうのにも一理ある。

「被保護同盟」に慣れ親しみ、米国から公的支援を受けることが国家安全保障の基本と考えてきた欧州や東アジアの同盟国にとって「米国が駐留経費の全額を請求し、これができないならば米駐留軍を撤退させる」というトランプの提言は暴言に見える。「戦後体制を一方的に改編するなんてとんでもない」と感じる。「トランプは日米安保条約を読んだことがないのではないか(石破茂)」と腹を立てる。

長年、米国の妾として匿われ、安逸で怠惰な生活に慣れ親しんだ女が「明日から自立せよ」といわれても、そう簡単に自立できるものではない。職業訓練も必要であるし、何よりも独立心を養うだけでも数年はかかる。韓国の場合、妾暮らし(公的支援)に馴染みすぎて自立心が全くないし、矯正可能性もゼロ、展望は全くない。

トランプは「自助(自主防衛)の意思がなく、公助(米軍)への依存心だけは人一倍強い韓国のような同盟国を、なぜ、米国の若者が命を賭けて守ってやらねばならないのか」と憤っている。「バルト三国のような弱小国であればともかく、ドイツ、ポーランド、イラク、韓国、日本の如く自主防衛できる経済力を有する国を防衛するために、事実上の破産国家である米国の軍隊が仮想敵国との最前線に駐留して、「弾除け」の役割を引受けなければならないのか」と感じている。

米国の国益は「冷戦時代→冷戦終了以後の一極支配時代→グローバル経済を推進していた時代→Gゼロ時代→孤立主義時代」で転変してきたし、現在も動いている。トランプが「米軍駐留経費の100%負担を同盟国に求め、同盟国がこれを拒否した場合は米軍を撤退させる」というのも、軍事同盟国間の力関係が変化した証拠だ。覇権国家の甘い汁を吸った米国がこれを捨て、「孤立主義に傾いている」のにも相応の理由がある。

第4:米国の安全保障戦略は転換した?

同盟国に対するトランプの脅しは、米国のエスタブリッシュメントがいえない本音を代弁し、同盟国の反発又は反応を探っていると見ることもできる。同盟国に防衛分担金の増額を求めるほか、米駐留軍の肩代わりができる程度の自主防衛力(自助)の強化を促す計画だろう。トランプは核不拡散条約を無視して「韓国や日本が核武装するのを容認する」と一歩踏み込んだ。国会審議の中で、現内閣法制局長官は「防衛用核兵器を保持することは違憲ではない」との答弁を行った。もともと非核三原則は不磨の大典ではないし、内外情勢の変化や我が国の安全保障の必要性によって新たに「核保有に関する原則」を閣議決定することもできる。

米国の軍事予算が大幅削減されることは既定方針であり、誰が大統領に就任してもこの基本方針が変更されることはない。そこで、米国が同盟国に対して駐留経費の負担増と軍事的役割の肩代わりを求めてくることは避けて通ることはできないし、米国の財政事情から見てそれ以外の選択肢はない。結果、米国と同盟国の利害が激突、米国から又は同盟国から軍事同盟の解消を申し出ることがないとはいえない。「永遠の同盟国も永遠の敵国もない、あるのは永遠の国益だけ」という帝国主義時代の常識が蘇ることもあり得る。

オバマは同盟国を軽視し仮想敵国と融和(友愛)することで同盟国の米国離れを加速させた。英国はオバマの反対を押し切って中共主宰のAIIBに加盟。韓国はオバマの意向に反して中共主宰の「反ファシズム戦争勝利70周年記念大軍事パレード」に参列。イスラエル、トルコ、サウジアラビア等中東の主要同盟国は米国の対イラン融和路線に反発、米国へのいらだちを隠さない。豪州は我が国のそうりゅう型潜水艦の購入を勧める米国の意向よりも、これに反対する中共の意向を優先、フランスから潜水艦を購入することを決定した。そして、我が安倍総理はオバマの執拗な反対を押し切ってプーチン大統領とソチでの首脳会談を行った。オバマの同盟国軽視が同盟国の米国からの離反を加速させた。

商売人トランプは「米国は莫大な税金を投じて同盟国を守ってやっている白馬の騎士」とみなしているのではなかろうか。「米国は同盟国に駐留経費の全額を支払わせる権利(債権)があり、同盟国が義務を履行しない場合は(債務不履行)同盟関係(契約)を解消することもあり得る」と示唆した。トランプは自らの主張に正当性があると信じているのか、それともロールプレイ(役割演技)なのか。

戦後まもなく、ソ連を盟主とする共産主義陣営の世界支配を防ぐために結成された軍事同盟には北大西洋条約機構(NATO)のような集団的安全保障型と、日米同盟、米韓同盟、米比同盟、米豪同盟の如く米国と当該国との1対1関係で締結された個別的安全保障型があった。北大西洋条約機構(NATO)は「共産主義陣営が西欧に拡大するのを防止するためには米軍を欧州戦線に繋ぎ止める必要があると考えた英チャーチル首相(当時)の策略が結実したもの」と言われている。

一方、東アジアでは、日本、韓国、フィリピン等は我が国が固有の領土(本土)を除く全領土を放棄したことで「力の空白地帯」となった。その穴を米軍(連合国軍)が進駐して統治したから、そもそも独立国家同士が連携する集団的安全保障体制を構築する条件が十分ではなかった。また、韓国初代大統領李承晩が日本を含む東アジアの集団的安全保障体制に頑強に反対したことで、米国はやむを得ず、1対1の軍事同盟を締結することになったという説もある。建国以来、韓国の反日政策は国是であり、政権交代で変わるほどヤワなものではない。結果、東アジアの軍事同盟は、政治・経済・外交を含む保護・管理(米国)と被保護・被管理(同盟国)のタテ型軍事同盟となって結実し現在に至っている。人類史上類例がない異常な軍事同盟が65年も続いた。

さらに、我が国は(1)米国債を約1兆ドル買わされているが、利息も支払ってもらえない。永久に売却できない「塩漬け債権」だ。(2)自衛隊(陸・海・空)の装備品は米太平洋軍(艦隊)との連携の必要上米軍事産業の製品を購入することになっている。日韓台の軍装備品は米国の排他的独占市場になっている。(3)我が国の金融政策は米国の意向に沿うよう運営されてきた。米国の利益を害さないよう指導されてきた。(4)中国は人民元建て貿易決済を拡大しているが、我が国は円建て貿易決済を自粛するよう、米ドル基軸通貨体制を支えるよう監督されてきた。以上、我が国は在日米軍の駐留経費総額の何十倍・何百倍の利益を米国に提供してきたのであって、米国から感謝されることはあっても非難される理由は全くない。

商売人トランプが大統領になって「在日米軍を撤収し、同米軍基地を全面返還してくれる」というのであれば、我が国にとってはこれほどの慶事はない。とりあえず「在日米軍が撤退したら力の空白が生まれ地域が不安定化するので困ります」とか言って、米軍の撤退に賛成出来ない姿勢を示しておくことが肝要である。「米国の都合であればやむを得ません。我が国も貴国の足手まといにならないよう自主防衛力を強化します。」とかいって弁明しておくべきだろう。間違っても「米軍撤退を感謝します」等といって米国を警戒させてはならない。

第5:米国は中共(韓国)の代理人か?

中共(習近平)と韓国(朴槿恵)は我が国(安倍晋三)に申し入れても門前払いされるだけと分かっているから、たびたび米国(オバマ)に依頼又は泣きついて我が国(安倍)に圧力をかけさせ目的を達成する方式(策)をとっている。

冷戦時代、米国は我が国に核兵器に転用可能なプルトニュームを約300キログラムほど貸与した。その条件として日米原子力協定を締結させ、米国が我が国の核開発や関連物質に関与し監督できる体制を整えさせた。先般、米国の要請により、東海村原発と京都大学で保管してきた(米国等から貸与の)プルトニューム約300キログラムを米国等に返還したが、これは中共(習近平)が米国(オバマ)に要望し、米国が我が国に圧力をかけて実行に移されたものと解することができる。さらに、中共(習近平)は「日本の原発から排出され積み上がっている使用済み核燃料(プルトニューム)は核弾頭5000発を製造できる」といって騒いでいる。中共(習近平)の意向を忖度又は要請を受けた米国(オバマ)は、現在の日米原子力協定が2017年に終了すると米国の監視が困難になることを想定し、日米原子力協定の再締結を求めてきたし、その方向で段取りが進んでいる。おそらく、中共(習近平)はオバマに感謝感激しているはずだ。そして、中共(習近平)は、日露首脳会談が「中ロ分断を狙うもの」と邪推して、米国(オバマ)を唆し、日露首脳会談の開催を妨害するよう画策、オバマの尻を突いたはずだ。米国と中共が共謀する対日管理策は一般的に想定されているよりも広範囲で、かつ根が深いと考えておくべきだろう。

さらに、オバマ政権は中共海軍が3年前から南シナ海岩礁を埋め立て軍港と軍飛行場を建設していることを知りながら秘匿してきた。民間企業が衛星写真で暴露したから止むを得ず、オバマ政権の対中融和路線に不満を抱いてきた軍部が企画した「自由の航行作戦」を制止することができず駆逐艦や空母を南シナ海に派遣することに同意した。駆逐艦が帰途、香港に寄港して中共軍に一定の配慮も行っているのは記憶されてよい。米国は同盟国・友好国と中共に対する顔を使い分けている。中共も米国のダブルスタンダード外交に不信感を抱いている。「米国はどちらの味方なの?」と。

以上、米国が同盟国を操り指導してきた世界の秩序(戦後体制)は崩壊した。米国の拘束から脱出した同盟国は自立性を強めている。帝国主義列強は「力による現状変更」に乗り出した。米国の民衆は理解した。何事にも中途半端で優柔不断、指導力が欠如しているオバマの時代が終わったことを。トランプの如き国益第1を掲げる排外主義者が世界を闊歩し始めたことを。

まとめ

世界は今、中国経済の崩壊の危機、EUの解体と準基軸通貨ユーロの消滅危機、アラブ連合(イスラエル・トルコ)とイランとの紛争(戦争)の危機という3つの不治の病に冒されている。さらに、トランプが新たな危機の発生源になるのではないかと懸念されている。

オバマは同盟国を軽視して同盟国の「米国離れ」を加速させたが、トランプは「米国の国益第1」とイスラム教徒の排斥や主要同盟国に狙いを絞った「不公正貿易の是正」を声高に叫ぶ。仮にトランプが次期米大統領に就任し、選挙公約を貫徹すれば、米国と同盟国の対立は激化せざるを得ない。場合によっては、同盟関係が危機に瀕することもあり得る。米国から冷遇された同盟国は自国経済を守るため「自国通貨建て貿易決済」を増やし、米ドルによる貿易決済を減らすであろう。米国の新政権がTPPを否定すれば、東アジアでは「ASEAN+6か国」又は「ASEAN+3か国」の緩やかな経済連携協定の合意に向けた取り組みが加速する。世界は「米国抜き」で動き始める。そして米ドルは世界の貿易決済通貨(基軸通貨)から地域限定貿易決済通貨に転落する。使用価値が減殺した米ドルは暴落、米国をハイパーインフレが襲う。約70年続いた「米ドル基軸通貨体制(戦後レジューム)」が崩壊すれば、未曾有の経済恐慌が世界を襲う。

民主党のクリントン大統領候補がメール問題で起訴され、大統領選(本選)から撤退せざるを得なくなった場合は、民主党の大統領候補(本選)は極左(第4インター系)のサンダースになるのか?いずれにせよ、米国民は「どちらがマイナスが少ないか」を判断基準にして投票するのではなかろうか?

中共とロシアが「トランプ大統領歓迎」を唱える理由は、米国と同盟国の対立が激化し、軍事同盟が形骸化又は解消するかもしれぬと期待しているからだ。米国の一極支配が完全に終わると考えるからだ。藩屏を失った米国なんぞ怖くないと考えているはずだ。我が国がこれを「災難」と考えるか、それとも「千載一遇の好機」と考えるかによって処遇方針は異なる。筆者は戦後レジュームという二重の檻を抜け出すチャンスが到来したと考えたい。「トランプをテコにして、新たな世界戦略を描き構築すべきである」と。

白髪爺 at 05:47|PermalinkComments(15)clip!

2016年04月28日

我が国は「直下型大地震の多発期」に突入したのか?大自然が与える試練を乗り越え、鍛えあげてきた日本民族の心性

はじめに

21年前、地震学者も想定できなかった阪神・淡路大地震(1995.1ーM7.3)が発生した。以後、新潟県中越地震(2004.10ーM6.8)、同中越沖地震(2007.7ーM6.8),東日本沖大地震(2011.3−M9.0)、そして今回の熊本大地震(2016.4.14ーM7.0、2016.4.16ーM7.3)が発生した。何十年も前から地震学者が警告を発してきた静岡県沖から四国沖の太平洋海底で発生するとされる東南海大地震(M9以上)と東京直下型大地震(M7程度)は発生していない。地震学者が全く想定していなかった大地震が次々に発生したというのに。おそらく、これからも地震学者が警告を発していない地域の活断層が数千年乃至数万年ぶりに動き大地震を発生させると考えておくべきだろう。地震学者は「直下型地震の発生時期を予測することはほぼ不可能」と述べている。

第1:火山と地震が集中する日本列島の特異性

我が日本列島は北緯25度から45度の中緯度地帯にあって四季の変化を楽しむことができる風光明媚の島だ。東は太平洋、南西は東シナ海、西は日本海、北はオホーツク海と荒ぶる大海が天然の要害となって外敵の侵攻を妨げてきた。我が民族は異民族の侵略と略奪を防ぐための人工構造物(万里の長城や城郭都市)を造る必要も感じなかったといってよい。家の戸締まりをしなくても空き巣や強盗が侵入してこないだろうと考えていた。我が民族にとっての脅威は異民族の来襲ではなく「地震(津波)・台風・水害・干害・冷害等」の自然現象であった。大自然の怒りを鎮撫することが最大の関心事であった。

我が日本列島は地質学的には(1)ユーラシアプレートと太平洋プレートが邂逅する東北・北海道地域、(2)ユーラシアプレートとフィリピン海プレートが邂逅する糸魚川・静岡構造線以西の西日本・沖縄諸島地域、(3)ユーラシアプレート・太平洋プレート・フィリピン海プレートが邂逅するフォッサマグナ(中央地溝帯)地域ー関東・甲信越)の3つに分類されているようであるが、その他、(4)今回の熊本大地震の震源となった日奈久断層から中央構造線(大分・愛媛・香川・徳島・淡路島・和歌山(紀の川)・伊勢・諏訪湖)の南側は急峻な山々が連なり峡谷も深いのに対し、(5)同北側の九州北部・中国地方・瀬戸内海沿岸の四国地方は比較的なだらかな山地が続いている。

我が日本列島は、火山の噴火によるマグマの堆積と、海底を押上げた地殻変動、大陸の一部や太平洋の島々をかき集め、貼りあわせたモザイク状態で形成されているのではなかろうか。日本列島に加えられている圧力が増すと、地溝帯や活断層といわれている接合箇所が破断するという仕組みになっているのではなかろうか。地溝帯や活断層は日本列島が破断した結果生まれたのではなく、もともと地質の異なる島々の塊が集合し接合したため、プレートの移動等わずかな圧力の変化によって接合部分が破断し直下型地震を惹起するということではなかろうか。

鹿児島の錦江湾や阿蘇の外輪山の内側は巨大カルデラで、かっての火山爆発の規模がいかに巨大なものであったかを示す証だ。深海底で生息していた貝の化石が山中で発見されるが、これも深海底が何百・何千メートルも隆起した証である。今日の穏和な地球と異なり、かっての地球は想像できないほど躍動的な惑星であった。

第2:天災と日本民族の心性

古来、我が国には恐れるべき存在が4つあった。「地震・雷・火事・親父」である。地面が割れ、津波が押し寄せすべてを飲み込む大地震、予告なしに天から降ってくる雷、出火すれば焼け死ぬか又は延焼を食い止めることができない密集した木造家屋、そして親父に反抗すれば殴り殺されるか又は女郎屋に売られることを覚悟しなければならなかった。民衆は自らの意思では避けることができない(不可抗力の)「地震・雷・火事・親父」を何よりも恐れた。民衆は大自然の怒りを受容し耐え忍ぶ以外になかった。異民族の襲来であれば、これに備えることもできたであろうが、相手が大自然では「被害を軽微にする方策」を考えることはできたとしても、地震(津波)や雷の発生を防ぐことはできない。

漢族・朝鮮族・韓族の執念深い性向はどうして形成されたのか?といえば、異民族に支配され、屈従し、略奪された体験を何百回・何千回も積み重なねてきたからであると思う。古来、ユーラシアにおいては各民族が生き残りを賭けて死闘を繰り広げた。弱肉強食のサバンナでは「隣国は常に敵」であった。被った被害体験(トラウマ)は千年たっても忘れることはない(朴槿恵大統領)」というほど執念深くなってもやむを得ない。敵は同類であって大自然ではなかったから怨念が残る。

四囲を荒ぶる海という防波堤に守られていた我が日本民族は異民族間戦争を免れた特異な存在である。我が民族は外敵の侵攻に脅えることなく惰眠を貪ることができた。その代償として、大自然は我が民族に「天災」という恐るべき試練を与えた。反面、大自然は温暖で湿潤な気候と豊穣の稔りを約束してくれる心優しい神々でもあった。我が民族は神々の怒りを恐れ、神々を敬い、神々に感謝した。大自然は、人智を超越した抗うことのできない絶対者であったから、大自然に対する恐怖心と感謝という「矛盾の自己同一」が我が民族の心性となった。

第3:大災害への対応(国・地方自治体・企業・民間団体の総力戦)

阪神淡路大震災、新潟地震・新潟沖地震、東日本大震災及び今回の熊本大地震のような大規模災害が発生すれば、都道府県(道州制)や市町村単位では対応できないから、国家を初め全国の地方自治体・企業・民間団体が総掛かりで取り組まざるを得ない。日本列島は大地震の多発期に突入したようで、21年前の阪神淡路大震災以降、M6.8以上の大地震が6回も発生した。「災難は忘れた頃にやってくる」ではなく、4・5年単位で大地震が発生し甚大な被害を与える時代になった。我が国はこれを検証し、不十分ではあるがさまざまな地震対策を行ってきた。

これまでの取り組みが不備な点を総括して、より機動的で効果的な救援活動や電気・水道・ガス・道路・鉄道等インフラの復旧工事が迅速に行われるようになった。もとより、大地震が発生した地域の特性や発生した時刻、大地震が発生した地盤によって倒壊家屋の規模や火事の発生件数は変わる。災害対応のマニュアル(定石)を基本において、ケースの特殊性を加味した臨機応変な対策をとること(応用)が求められているといえる。

ニュージランドやネパールでは大地震からの復興が進んでいないという。国家財政に余裕がなく復興に要する財源を確保できないことや、国家や地方自治体の統治能力が十分ではなく、震災復興を推進するシステムがないため復旧・復興事業が休眠状態に陥っているという。世界中から寄せられた義援金を政府高官が着服したり、義援金が活用されないまま放置されていることもあるという。「馬を水辺に連れていくことはできるが、馬に水を飲ませることはできない」ということだろう。

26日、安倍総理が民進党、共産党、おおさか維新の会など全野党の党首・幹事長と面談、「熊本大地震対策の補正予算案を5月13日に提出するから5月中の成立に協力してもらいたい」旨要請、全野党が協力すると約束した。「国家総動員体制」という上から組織した戦時体制ではなく、大震災という非常事態に対処すべく「国家・地方自治体・企業・民間団体・国民」がそれぞれの持ち場で役割を果たす「国家・国民総参加体制」が構築された。

関係各位のご奮闘により、震災発生後2週間(4月27日)で九州新幹線が全線開通。九州自動車道(高速道路)も4月中に開通する予定。全国の自治体・関連企業等の支援を得て、電気・水道・ガスの復旧も進んでいる。一時18万人ほどいた避難者もインフラの復旧により4万6千人ほどに減少した。しかし、調査途中の現段階で、全壊又は半壊した住宅戸数は阪神淡路大震災の規模を上回っているから、自宅に戻れず、避難生活を脱することができない人は数万人ほどいるはずだ。目下、熊本県が仮設住宅の建設、公営住宅や民間住宅の借り上げを進めているが、被災者に対する長期の支援体制を構築する必要がある。

5年前の東日本大震災や福島原発事故による後遺症が癒えていない中で、熊本大地震が発生した。我が国を未曾有の国難が襲っているが、同時に、この国難を乗り越えるべく国家・地方自治体・企業・民間団体・国民多数が連携して立ち向かっていることは誠に喜ばしい。世界の模範といえるのではなかろうか。

まとめ

サミュエル・ハンチントンは主著「文明の衝突」において、我が日本文明を「友達のいない孤独な文明」と規定した。我が日本民族と漢族・朝鮮族・韓族等周辺族とは全く異なる属性と性向を有する存在とみなした。ハンチントンの仮説を正しいとすれば、日本列島の地理的特異性が日本民族の特異な性向(日本文明)を育んだといわねばならない。中国文明を輸入し換骨奪胎して消化した飛鳥・奈良・平安時代、西欧の科学技術文明を取り入れたが、西欧の道徳や精神には同化しなかった明治時代。そして戦後、米駐留軍が押しつけた米国様式の資本主義は日本型資本主義に変質させ、米国のプラグマチズムは近江商人の「三方良し」に修正した。有史以来、我が日本民族は異文明を貪欲に吸収してきたが、無条件に吸収し同化したのではなく、有害物質を取り除いて浄化し「世界に冠たる孤独なる日本文明」を築いてきたのであった。

我が民族は何千年も、何万年も、大地震(津波)、台風、水害、干ばつなど自然の猛威に繰り返し襲われた。太陽の恵みに感謝して崇め、大地の怒りを和らげるべく地鎮祭を行なった。何よりも、人智を超えた大自然の怒りを恐れた。お供えをして神々の怒りを和らげ、神々の恵みに感謝した。

我が日本文明は孤独な文明ではない。古代エジプト文明、古代メソポタミア文明、古代イスラエル文明、ユカタン半島の古代マヤ文明、揚子江中流・支流域の古代河姆渡文明等「太陽神を尊崇する古代文明の嫡出子」なのだ。そればかりでない。大地震、大津波、台風(サイクロン)が周期的に襲ってくる環太平洋地域やカリブ海地域は、おそらく日本民族と同様の心性を持っているはずだ。人間は降り注ぐ太陽光と、温かい大地と、循環する大気に生かされているちっぽけな存在であることを理解し、人間を初め生きとし生ける者はすべて大自然の脅威(暴力)と恵みを無条件で受け入れざるを得ないことを。

「艱難辛苦は汝を玉にす」という。我が日本民族は大自然が課した厳しい試練に耐えながら自らの心性を鍛えてきたし、今も鍛えつつある。飲料水等の備蓄、避難所の確定、耐震構造建築物の普及、沿岸のかさ上げによる浸水被害地域の縮小、避難誘導路の建設や避難誘導訓練の実施等、不十分ではあるが大震災対策を進めてきた。自衛隊、消防、警察、NPO、地方自治体、関連企業等の連携と情報伝達等ソフト面も強化されている。大地震や大津波の発生を未然に防ぐことはできないが、被害をなるべく軽くする方策や、被害が発生した場合の救援・救護・復旧体制のあり方が工夫されてきた。多くの犠牲者と避難者を出している大震災の貴重な経験(事例)は我が国だけでなく世界共有の財産となるであろう。

筆者は熊本で生まれ育った。崩壊した家々や避難している方々の映像を見ると胸が痛む。深夜遅くまでたたずみ、話しあい、歩きまわった熊本城が崩落する光景を見ながら50数年前にタイムスリップした。熊本城は単なる文化財ではない。肥後・熊本の民は先祖代々加藤清正公を尊崇してきた。熊本城は清正公が建設した天下の名城であり、熊本県民の心の拠り所だ。

先日、馳文科大臣が「何十年かけても熊本城を再建する」と表明してくれた。超多忙の中(29日)、安倍総理は「崩壊した熊本城と大分県の被災地由布院を視察する予定」といわれている。熊本の再建は熊本城の修復が完了するまで終わらない。

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2016年04月12日

タックスヘイブン(租税回避地)関連の「パナマ文書」を入手し、リークしたのは何者か?情報戦の狙いを読み解く。

はじめに

欧州連合はギリシャに滞留している難民・移民をトルコに強制送還すると決め即実行に移した。「不良品を返品する」という感じだ。中世ヨーロッパではユダヤ人に対する迫害と虐殺そして国外追放の嵐が吹き荒れた。
70数年前、ヒットラー率いる国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)がユダヤ人に対する迫害を300年ぶりに復活させた。ヨーロッパ白人社会から見ると、異教徒や異端は「社会の秩序を紊乱する邪悪な存在」であり、必要があれば、これらを排斥し、国外追放するのは当然と考える。

古代中国の思想家老子は「大道廃れて仁義あり」と喝破した。古代中国の戦国時代、現在と同様、強欲・狡猾・凶暴な人間が満ち溢れ悪臭紛々であったから、その反作用として「儒教」が生まれた。中世ヨーロッパでは異教徒や異端を容赦なく処刑したから、その反作用として「人権思想」が生まれた。けれども「儒教」や「人権思想」は建前であるから彼らの凶暴・悪徳・独善という本性が改まった訳ではない。ちょっとした刺激を受けるだけで一瞬で先祖返りする。

第1:いわゆるパナマ文書を入手し、リークしたのは誰か?(仮説)

(公開されている情報によれば)

1.ドイツの有力紙南ドイツ新聞は「1年以上前、匿名の人物がパナマの法律事務所モサック・フォンセカの内部文書を持ち込んできた。南ドイツ新聞はこの人物と数ヶ月にわたってインターネットのチャットを通じてやりとりをし、1150万件に上る文書データーを受理した。

2.南ドイツ新聞はワシントンの国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に連絡し、共同でデーターの分析を行っている。

本事案は、ウイキリークスの創始者ジュリアン・アサンジが行ったアメリカ外交公電の入手と公開や、CIA局員ジョセフ・スノーデンが行った米諜報機関による同盟国首脳に関する電話盗聴等の実態を暴露した事案とは異なり、情報漏洩者が特定されないよう工夫が施されている。興味やカネ目的で行う個人レベルの盗みではなく、例えば、某国諜報機関又は同国税当局が立ち上げた「脱税探索特命部隊」による情報戦のニオイがする。

米国防省傘下の国家安全保障局(NSA)や中央情報局(CIA)は、ISや北朝鮮への資金流入ルートの解明や、仮想敵国中国共産党の最高幹部とその一族による資金洗浄の実態把握を目的としてタックスヘイブン(租税回避地)の調査を行っているはずで、その過程で、脱税と資金洗浄の中継基地(ペーパーカンパニーの卸問屋)の一つであるパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」の内部文書を入手することに成功したとしても不思議ではない。

現在、米国ではサンダース現象やトランプ旋風のように、「貧富の格差拡大と格差の固定化」に対する中所得層・下層の怒りが高まっている。富裕層と巨大企業はタックスヘイブン(租税回避地)を活用して、納税義務を怠り膨大な利益を得ているのではないかという不満が高まっている。税務当局もこれまでのように、富裕層や巨大企業の脱法・脱税を見逃すことができなくなった。タックスヘイブンの中継基地パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」など、富裕層と巨大企業のカネの流れを捕捉し必要な措置をとらざるを得なくなった。

パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」の内部文書の流出が諜報活動(ヒューミント)の成果なのか?あるいはインターネットを操るハッカーの所業なのかは明らかにされないだろう。「パナマ文書」が南ドイツ新聞にリークされた事実および南ドイツ新聞がワシントンに拠点をおく「国際調査報道ジャーナリスト連合」と連携して情報の分析を行うことにした事実が開示されただけで、何者が、いかなる動機で、いかなる経緯でパナマ文書を入手することができたのか?そして、南ドイツ新聞にリークしたのはなぜか?南ドイツ新聞はなぜ国際調査報道ジャーナリスト連合を資料分析の協同者に選んだのか?真相は闇の中だ。「最も利益を得る者が犯人」というから、開示される情報によって首謀者を推定する以外にない。

第2:国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の第1次公開情報

(以下1−4は、4月9日付け日本経済新聞より抜粋)

1.パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」は1977年から2015年にかけて21か国・地域に21万社のペーパーカンパニーを設立した。21万社のうち半数以上の11万3千社は英領バージン諸島にあり、4万8千社がパナマ、1万6千社がバハマ、1万5千社がセーシルにあった。

2.ペーパーカンパニーの設立をモサックに依頼したのは、金融機関や他の法律事務所、コンサルテイング会社などだ。金融機関はクレディ・スイスやUBS系(モナコ)、HSBC系(スイス)、ソシエテ・ジェネラル系(ルクセンブルグ)など欧州主要行及び同系列会社が名を連ねる。モサックに関わった金融機関の多くはルクセンブルグやスイス、英国に本拠を置き、欧州が節税ネットワークの中心にあったことがうかがえる。

3.パナマ文書で明らかになったタックスヘイブン(租税回避地)の顧客

第1次開示分として、習近平中共総書記、劉雲山中共中央書記処書記、張高麗筆頭副首相、毛沢東、胡耀邦、李鵬、曽慶紅、賈慶林などの親族、キャメロン英国首相の亡父、プーチンロシア大統領の友人、グンロイグソンアイスランド前首相、北朝鮮の核開発関連企業、シリアのアサド大統領の従兄弟(情報局元幹部)、イラン政府系企業等。(その他、サウジアラビアのサルマン国王、アラブ首長国連邦(UAE)のハリファ大統領、イラクのアラウィ元首相、エジプトのムバラク元大統領の息子など)。

4.ICIJは5月上旬、パナマ文書に登場する企業や関連人物の全リストをホームページ上に記載する。世界各国の首脳や著名人の租税回避が新たに明らかになれば、トップの辞任など、波紋がさらに広がる可能性も出てくる。

以上、(米国から見ると)米ドル基軸通貨体制の存続を脅かす「習近平と不愉快な仲間達」の親族や友人の関与が暴露されている。米国の同盟国筆頭と見られていた英国のキャメロン首相が標的とされたのはなぜか?が問われなければならない。

第3:英国キャメロン政権は米国の敵になった?

昨年、英キャメロン首相は米国の反対を押し切り(欧州諸国に先駆け)中共が立ち上げたアジアインフラ投資銀行(AIIB)に加盟し流れをつくった。いうまでもなく、AIIBは同じく中共が立ち上げたBrics銀行と同様、米ドルの基軸通貨体制を掘り崩す狙いをもった戦略性の高い国際金融機関であるが、先進7か国(G7)では英仏独伊が加盟し、カナダも加盟する予定で、日米両国は加盟していない。英キャメロン首相は目先の欲に目がくらみ、米英同盟から中英枢軸に乗り換えたのか?

英キャメロン首相は金融街(シティ)で中国人民元建て国債を発行する権利を得て一稼ぎできると「とらぬ狸の皮算用」をはじいている。習近平をバーミンガム宮殿で手厚くもてなし、破格の国賓として接遇した。「カネのためなら手段は選ばない。毒杯も飲むし、悪人とも手を結ぶ」という英国の本性が露呈した。強大なソ連邦が崩壊した(1991)から、(英国の国益から見て)米国に依存する理由が乏しくなった。キャメロン首相は衰退する米国に依存するよりも、飛躍が期待できる(?)中共に賭けた。米国の利用価値よりも中共の利用価値が大きいと判断した。

第4:欧州は反社会的金融機関の巣窟?

第2次世界大戦後、世界の基軸通貨は英ポンドから米ドルに入れ替わった。世界金融の中心がシティ(英)からウォール街(米)に移転した。かって「日の沈まない王国」と言われるほど広大な国土(植民地)を領有していたイギリスの没落が確定した。さらにイギリスの植民地インド・シンガポール・ビルマ(ミャンマー)・パキスタン・イラク・シリア等の国民が蜂起して独立国家を樹立した。イギリスは人口約6千万人の中堅国家に転落した。気位だけは人一倍強いが国力が伴わない没落貴族になったといってよい。

合法的手段では食えないヤクザ(マフィア)が麻薬取引等の非合法行為に活路を見出す如く、国際競争力を低下させた英国を初め欧州の金融機関が富裕層や巨大企業の脱税指南や巨悪の資金洗浄を援助するシステムを構築し利鞘を狙うのは自然の成り行きであった。彼らはペーパーカンパニーを設立し、仲介業務を担う法律事務所を立ち上げ、英国領のバハマ諸島やケイマン諸島等にタックスヘイブン(租税回避地)を構築した。そして、脱税と資金洗浄を手助けして手数料を稼いできた。

バハマ諸島やケイマン諸島は英国の属領(1国2制度)である。タックスヘイブン(租税回避地)に指定したのは英国政府(又は王室)であるから、英国は国家ぐるみで脱税と資金洗浄をそそのかし、支援して稼ぐ反社会的行為を公然と行ってきたといってよい。サッチャー元首相が述べた「ユダヤ・アングロサクソン同盟」が主導した。「カネを儲けるためには手段は選ばない」というのが彼らの流儀だ。

周知の通り、タックスヘイブンを活用した「脱税と資金洗浄」は何十年も行われてきた。彼らはあたかも空気を吸うような気分で反社会的行為を続けてきた。この「強き(悪人)を助け、弱き(善人)をくじく金融システム」は徴税による富の再分配機能を妨げ、経済格差を拡大させる要因の一つだ。脱税と資金洗浄が数百億円、数千億円規模にとどまっている間は目をつぶることができたが、中国共産党最高幹部とその一族による千億円単位、兆円単位の資金洗浄が常態化する中で、世界の金融秩序に歪みが目立つようになった。金融秩序の主宰者米国が「悪貨が良貨を駆逐する現状を放置することはできない」と考えたとしても何ら不思議ではない。

第5:「パナマ文書」に関するオバマ大統領の見解(4月5日記者会見)

1.「課税逃れは世界的な大問題だと改めて分かった」と述べ、対策を強化する考えを示した。オバマ氏は「米国には富裕層と巨大企業だけの抜け穴があり、中間層にしわ寄せが行く。学校、道路、橋に投資できない」と指摘。巨大企業が米国で道路などのインフラ(社会基盤)を使って利益を上げていると批判し、4日に発表した巨大企業に対する課税逃れ防止策に対する支持を求めた。
(以上、4月6日ヨミウリ・オンライン14:29)

(以下、2−5は4月9日付け日本経済新聞より抜粋)

2.英金融行為監督機構(FCA)は7日、大手金融機関(HSBC?)に対してパナマとの取引の有無やマネーロンダリング対策に関して調査するよう指示した。英税務当局である歳入関税庁(HMRC)もパナマ文書の調査を主導する国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に対して情報共有を求め、脱税の調査を強化している。

3.スイスの金融市場監督局(FINMA)は金融機関の関与の全容を把握した上で調査に踏み切るかどうかを決める方針。フランスやドイツの金融監督当局も金融機関に情報開示を求め、不正への関与について調査を始めている。

4.オランダでは、金融大手ABNアムロが監査役会メンバーであるベルト・メールスタット氏の名前がパナマ文書に載っていたことを受けて、7日に同氏の辞任を発表した。オーストリアでも金融機関トップが辞任に追い込まれた。

5.欧州では過去にも、英金融大手HSBCのスイスのプライベート・バンキング部門がマネーロンダリング対策の不備で富裕層の脱税を幇助した疑いで当局の捜査を受けるなど、取り締まりが強化されている。

オバマ大統領の見解はサンダース・トランプ旋風に見られる米国の中間層以下の不満を代弁したもので、富裕層と巨大企業の脱税を唆し、支援した欧州金融機関等の不正行為を調査した上、事案に応じて厳しい制裁を課すとの脅しでもある。米国市場から閉めだされ、天文学的制裁金を課されるのではないかとの不安が世界を駆け巡った。英国、スイス、ルクセンブルグを初め欧州の金融機関を監督する金融当局は、当該金融機関に対する米国の経済制裁を回避し、又は経済制裁を軽減させるためには政府としても「必要な措置を行った」という証拠を残しておかなければならないと考えた。とりあえず行政措置をとって「改悛の情」を示したことにして、米国金融当局との「制裁軽減交渉に臨む」という段取りだろう。

我が政府の反応は鈍い。「火の粉は飛んでこない」と読んでいるのかどうかは不明である。日本郵船や商船三井等が保有する商船の相当数が「パナマ船籍」とされてから何十年も経過した。反社会的行為・反国家的脱税行為が公然となされてきた。日本企業が保有するパナマ船籍の商船は日本国に税金を払わないで、海賊対策では日本船籍と同程度の保護を受けている。国家の保護を受けつつ税金は払わないという身勝手さが何十年も容認されてきた。この背景には、商船不況を乗り越えさせるためにタックスヘイブン(租税回避地)を活用させる緊急避難という側面があったのかもしれぬが、以来数十年、景気が回復してもパナマ船籍の船が日本船籍に戻ることはなかった。不道徳的行為又は反社会的行為も「平穏かつ公然」に行われると既得権化するという見本だ。

まとめ

米国諜報機関によるドイツのメルケル首相を初め同盟国首脳の電話盗聴を暴露したスノーデンは、香港に逃亡しロシアに亡命した。中共とロシアの諜報機関が裏で糸を引いていた何よりの証拠だ。世界を揺るがすほどの事案は各国諜報機関が関与していなければ個人的義侠心だけで行えるものではない。

パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」の内部文書1100万件を盗み出したのも、海外情報通信の収集と分析を行っているとされる米国防省傘下の国家安全保障局(NSA)の如き専門的諜報組織であろう。オバマ政権はISへの資金ルートの解明、中国共産党最高幹部による数千億円乃至数兆円規模の資金洗浄の実態把握、そして英国(シティ)と中国(香港)の金融同盟の深化の程度について特別の関心をもって情報収集を行ってきたはずだ。南ドイツ新聞(ドイツ)と国際調査報道ジャーナリスト連合(ワシントン)が情報の発信元となっているのも、米国とドイツの両諜報機関の連携を窺わせる。

ドイツのメルケル首相は中国を6回も訪問して独中蜜月関係を築いてきた。中国に進出したドイツ企業(VW等)は大規模工場を立ち上げ稼いできた。だが、中国では人件費高騰や社会保障費の負担急増に加え、鉄やセメントだけでなく自動車も過剰生産に陥った。中国に進出した我が国製造業の大半が赤字又は減益決算に追い込まれているが、独企業の収益も急降下しているはずだ。一方、とりわけ金融部門において、英国と中共の蜜月関係が目立つようになった。ドイツ(メルケル)に代わってイギリス(キャメロン)が中国利権を独占する雰囲気が漂っている。米独の戦略的利害が一致するようになった。

今回リークされた各国政府首脳級は
(1)習近平・劉雲山・張高麗・毛沢東・胡耀邦・李鵬・曽慶紅・賈慶林の中国共産党最高幹部(現・元)で、江沢民・胡錦濤・温家宝が漏れているのは不可解。
(2)プーチン大統領の友人?が二千数百億円を運用しているというのも不可解な話だ。情報入手者はプーチンが関与した証拠を握っていながら、脅しをかけ、プーチンに「逃げ道」を与えているのかもしれぬ。取引を催促しているのかもしれぬ。
(3)米国の同盟国サウジアラビア国王やUAE大統領がリークされたのは「ISへの資金供与を疑わしめる資料」が見つかったということか?
(4)先進国(G7)で唯一英国のキャメロン首相がリークされたのは、キャメロン政権が(米国にとって)危険な存在に浮上したということか?
(5)アルゼンチンで十数年ぶりに政権に復帰した親米派の大統領は窮地に陥っているが、これは如何なる事情によるリークなのか?客観性を担保するための生け贄か?

目下、パナマ文書(1100万件)を管理しているICIJは「5月上旬、パナマ文書に登場する企業や関連人物の全リストをホームページ上に記載する」という。タックスヘイブン(租税回避地)を利用したとされる企業、団体、個人は反社会的・反国家的・反国民的存在の烙印を押され糾弾され「脱税の容疑者」となる。大衆は「生け贄」を求めている。

公正中立な組織であると称するICIJは「発表する情報には政治的思惑はない、事実をありのままに報じただけ」と主張する。しかし、関係者以外に資料を閲覧できないから真偽は藪の中だ。何者かが、資料の客観性を担保するために、公正中立らしく見える南ドイツ新聞と国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)を活用したといえなくもない。元来、世界の政治・経済に重大な影響を与える機密情報をリークすること自体が政治的目的をもっているし、そもそも公正中立な機密情報のリークはあり得ない。また、南ドイツ新聞やICIJがパナマ文書を入手した組織の意向に反して、無条件にリークすることはありえない。以心伝心の信頼関係があるはずだ。これは遊びではない、国家と国家の利害が激突する戦場(情報戦)なのだ。

米国政府はドイツ経済の中核企業VWのプログラム改竄問題で「2兆2千億円の制裁金を課す」と脅迫した。加えて、VWは米国を初め世界中の顧客から損害賠償請求の集団訴訟が提起される可能性が高い。米国政府はドイツ経済に対する生殺与奪の権を握ったといえる。独メルケル首相は米国に屈服、制裁金減額交渉を始めているはずだ。

英キャメロン首相に対する情報戦が仕掛けられている。そして「中国共産党と不愉快な仲間たち」に対する目に見えない経済制裁と情報戦が密かに強化されている。あたかも「真綿で首を絞める」が如く息苦しくなって窒息させるという仕掛けだ。

オバマ大統領の任期は残すところ8か月余、オバマは「失うものがない強み」を利用して火事場の馬鹿力を発揮する。大統領予備選に対する露骨な干渉等、大統領としては前代未聞の蛮行を行った。人間、死ぬ気になれば怖いものなしだ。

白髪爺 at 22:24|PermalinkComments(11)clip!

2016年03月26日

「孤立主義」のトランプが次期大統領になれば、「駐留なき日米安保体制」に舵を切るのではなかろうか? 自主防衛力の強化を急げ。

はじめに

米大統領予備選を盛り上げている主役は共和党のトランプと民主党のサンダースといっても異論は出ないであろう。トランプは「反ワシントン」、サンダースは「反ウォール街」のスローガンを標榜して、党員や支持者の心をつかんだ。トランプは政治プロが取り仕切ってきたワシントン(既成政治)を非難・攻撃し、自らを清廉潔白な政治アマに位置づけることで、既存の政官財癒着の政治に対する不満の受け皿となっている。サンダースは金融資本の総本山ウォール街を超格差社会を生んだ悪の巣窟と規定、これを解体して平等社会の実現を図るという幻想をばらまくことで若年不満層の支持を得た。

金融資本と産業資本はアメリカ合衆国を建国し、米国の政治・経済を支え、支配してきた事実上の主権者であるが、建前としては「人民による、人民のための、人民の政治」が行われているということであった。特に、第1次・第2次世界大戦で世界の富をかき集め巨大化した金融資本と軍産複合体は共和党や民主党のオーナーで、大統領は彼らの代理人であると言われてきた。共和党又は民主党の指名を獲得した候補のどちらが大統領に選任されてもこの支配構造は微動だにしなかった。7年前、オバマは大衆の期待を背負って颯爽と登板したが、代理人の役割を超えることはできなかった。かつ与党民主党が連邦議会の少数派に転落したこともあって国政全般が遅滞した。

大統領予備選と本戦を戦うためには数百億円の軍資金が必要であり支援者から提供される軍資金を当てにせざるを得ない。カネがなければ戦争を続けることができないのはISも大統領候補も同じ。トランプがいうように、業界や団体などと無縁で清廉潔白な人間は大統領選に立候補できない選挙構造になっている。そして大統領予備選・本選を戦う中で大統領候補は支援者との「ズブズブの貸借関係」を深める。カネがものをいう長丁場の大統領選を勝ち抜くためには「シガラミ」と「貸借関係」を避けることはできないのだ。

第1:トランプの外交政策(3月23日付け日経より抜粋)

(以下1−7は、21日付けワシントン・ポストの外交政策に関するインタビュー)

1.日本や韓国など海外に駐留する米軍が米国(の国益)にとって意義ある存在かどうかを問われ「個人的にはそうは思わない」と述べた。駐留米軍の費用負担について「よりよい取引をする」と表明し駐留先の各国に負担増を求める考えを明らかにした。

2.トランプ氏は「米国は力強い豊かな国だったが、今は貧しい。債務超過国だ」と指摘。日韓やドイツ、サウジアラビアなど米軍の駐留国に対して「絶えず艦船や航空機を送り戦争ゲームをしているのに、費用のほんのわずかしか支払われていない」と不満を述べた。

3.「北大西洋条約(NATO)には大金がかかっている」とも語り、「これ以上の余裕はない」と米国の関与を引き下げる方針を示唆。ウクライナ危機についてはドイツなど近隣諸国がロシアと対峙すべきだと主張した。

4.過激派組織「イスラム国」(IS)に対しては「何らかの形で徹底的にたたく」とする一方で「米軍は使いたくない」と話した。

5.中国を「信じられないほどの野心を持っている」と評し、「米国から多くの金を奪い、自国を立て直した」と批判。過去には中国からの輸入品に45%の高関税をかける政策も口にしている。

6.トランプ氏は21日、ユダヤ系ロビー団体の米イスラエル広報委員会(AIPAC)の総会で演説,自身が大統領に就任すれば、オバマ大統領が推進したイラン核合意を破棄すると表明した。

7.メキシコ国境に「万里の長城」をつくり、1100万人の不法移民を強制退去させる。イスラム教徒の入国禁止。

オバマ大統領は「米国は世界の警察官ではない」と表明して重心を東アジアに移すリバランス政策に舵を切ったが、トランプは「米国は債務超過国だ」との認識の下、米軍のヨーロッパ戦線からの撤収と、日韓・サウジ等に米軍駐留経費の大幅負担を求める」という。米国の国益から見ると、諸国に米軍を駐留させる理由はなく、当該国の要請に応えて米軍を駐留させているだけであるから、米軍駐留経費の全額を当該国が負担すべきという理屈だ。「共産主義の脅威から自由主義陣営を守る」とか、「自由と民主主義を守る」とかの価値観(使命感)を捨てたトランプの関心事は「米国の国益を守ることだけ」ということのようだ。

「戦後、米国は自由と民主主義を守るため世界の警察官役を担ってきた」というのは「半面の真理」といえるが「すべて」ではない。米国は経済力、工業生産力、金融力、軍事力、保有金で世界を圧倒していたばかりではない。資本主義陣営の盟主として同盟国を率いて君臨した。この力をバネにして「米ドル」は貿易と金融取引の主要な決済通貨となることができた。米国は基軸通貨「米ドル」の通貨発行特権を活用して「濡れ手で粟」の利益を享受してきた。貿易赤字の増大を心配することなく、世界各国から何でも輸入できる唯一の国になった。

米軍を同盟国に駐留させ、同盟国の安全を保障することは、何よりも米国自身の利益であった。同盟国の支持を得て「米ドルによる貿易決済・金融取引(基軸通貨体制)」を維持することの礎であった。つまり集団安全保障体制は、被保護国が一方的に利得を得たのではなく、宗主国米国の国益がこれを上回っていると認識されていたから軍事同盟が維持されてきた。

米国民は「米国は白馬の騎士(警察官)である」と洗脳・教育されてきたのかもしれぬ。米国は、主権国家に軍事基地をおいて当該国の安全を保障してやる代わり、当該国の主権行為に干渉して米国の国益を損なうことがないよう誘導し管理した。何事も「無料(ただ)ほど高くつくものはない」のだ。同盟国に駐留している米軍はガードマンでもなければ傭兵でもない。

米国は我が国とドイツを核不拡散条約で封じ込めて将来の禍根を断っただけではない。米国は、対中外交の持ち駒として「日米同盟、米韓同盟、台湾関係法」を利用した。日韓台の軍事力(核武装やミサイルを含む)が中共軍の脅威とならない水準に抑えてきた。結果、中共軍は周辺国を圧倒する軍事力を備えるに至り、「太平洋の管轄権を中国と米国で二分しよう」と主張するほどに増長させた。中共軍は着々と東シナ海・南シナ海の制海権と制空権の掌握に乗り出している。

仮に、トランプが大統領に就任した場合、米国はヨーロッパ戦線、中東戦線、東アジア戦線から離脱し、勢力圏(縄張り)を北米と中南米に縮小し、スペインからグアムとフィリピンを奪った1898年以前に回帰する可能性もある。米駐留軍が撤退したヨーロッパ戦線ではロシア軍の侵攻を牽制すべくドイツが、東アジアでは中共軍の膨張を抑えるべく我が国が自主防衛力(核とミサイルを含む)を強化し「力の空白」を埋めざるを得ない。

そして、軍事力を背景とする米ドルの基軸通貨体制が崩壊し、貿易と金融取引の決済通貨が「米ドル」から「他の通貨」に分散した場合、「米ドル」の暴落は避けられない。米国は国家破産に追い込まれる。「トランプショック」が世界を恐怖のどん底に突き落とす。

第2:トランプの主要な内政政策

1.累進課税の強化、2.強い政府、大きな政府、3.富裕層への懲罰的課税、4.所得格差是正、5.社会福祉の拡充、6.TPP反対

(以下は社会主義者サンダースの主要な内政政策)

「就任後、100日間で実施する政策(医療の国民皆保険、最低賃金1時間・15ドルへの引き上げ、インフラ整備への投資拡大、富裕層への課税強化、巨大金融機関の解体、公立大学授業料の無償化、人種間の平等の実現と公民権の擁護、TPP反対、海外へのアウトソーシング反対、子供の貧困と若年失業者の削減、企業による大口献金の禁止、市民権確保の道を開くための移民法改正」

(以下は茶会系クルーズの主要な内政政策)

「小さな政府(エネルギー、商務等の省庁廃止)、所得税を一律10%に、医療制度を「オバマ以前」に巻き戻す。TPP反対、(イランとの核合意破棄)」

国民投票で大統領や国会議員を選任する民主主義国家において、国民多数の支持を得て当選するために各党・各候補が「福祉政策と経済対策」を重視するバラマキ政策に傾斜することは避けられない。そして、財源の目当てがないバラマキ政策(国民の生活が第1)を公約して政権を奪取したものの立ち往生した鳩山・菅・野田の民主党政権の3年、「福祉削減反対」を選挙公約に掲げて政権を奪取したギリシャの急進左派連合政権は、発足後たちまち政権運営に行き詰まり方針を180度転換。南米アルゼンチン、ベネズエラ、ブラジル等の左翼政権は経済の持続的発展を軽視した大衆迎合の福祉対策を行ってきたが、そのツケが、経済破綻、資本の逃避(キャピタルフライト)、インフレ(物価の高騰)、失業者の急増、財政破綻、国家破産(デフォルト)の危機を招いた。

社会主義者サンダース候補が仮に大統領選を勝ち抜いても、彼のバラマキ政策が米連邦議会で可決・成立する可能性はゼロであるが、仮にこの大盤振る舞いの福祉政策を実施した場合、民衆は覚せい剤を使用したのと同じように一時的な快感に浸ることができるが、「米国のギリシャ化」は避けられない。巨大金融機関や多国籍企業の米国離れと富裕層の国外脱出が加速する。米国社会は福祉に依存しなければ生きていけない生活困窮者だらけになる。

ギリシャ・アルゼンチン・ベネズエラ・ブラジル等社会主義的バラマキ政権のケースは国家の経済成長力を超えて実施された「人気取り福祉政策」の壮大な実験であった。国家経済は衰え、社会福祉を維持することもできなくなった。結果、社会福祉の大幅切り捨てに追い込まれている。安全保障と経済の発展がなければ社会福祉は存続できない宿命(さだめ)なのだ。

トランプもサンダースと同様、富裕層から税金を取り立て、社会福祉を充実させるという。これはフランスのオランド社会党政権が導入しわずか2年で廃止に追い込まれた制度の二番煎じだ。富裕層はフランスから脱出しスイス等の国籍を取得し、国外に財産を移転した。結果、フランスでは富裕層の空洞化が急速に進み、税収が減少した。グローバル時代にあっては、貧困層は国家の社会福祉に依存し、富裕層は、必要に応じて国家を選ぶ。国家は貧困層に優しいばかりではなく、富裕層にとっても居心地の良いものでなければ明るい未来はない。税金に依存する貧困層や中小零細企業だけでは国家経営は成り立たない。税金を納めてくれる富裕層や大企業が存在してこそ国家経営は成り立つ。

トランプは挑発的な言動で大衆を煽動し一定の人気を保っているが、具体的な政策を論議するのではなく「言語明瞭・意味不明」の焦点外しで時間を稼ぎ、大統領本戦に向けて修正できる余地を残しているように見える。共和党主流派(穏健保守)を取り込むため、徐々にスタンスを変え、現実路線に転換する可能性もある。

サンダースは大統領予備選を社会主義の宣伝・啓蒙活動の一つと位置づけているから実現可能性の有無はどうでもよい立場だ。予算の裏づけを欠いた「絵に書いた餅」であろうとなかろうと頓着しない。日々の生活に困窮している民衆は「既成の政治家は口先だけ、期待できない」と感じているから「藁にでもすがる思い」をもってサンダース株を買う。

現代は、ナショナリズムが台頭した1930年代に似ているとの説がある。ナチス党は「アーリア人による世界に冠たるドイツ帝国の復活」と「ユダヤ人排斥」を掲げて国民の支持を獲得した。トランプは「(白人?による)偉大なアメリカの復活」を掲げた。そういえば、ロシアのプーチンも、中共の習近平も似たようなスローガンを打ち上げた。帝国主義者の感性は「偉大な国家」とか「強大国」という言葉が好きだ。

第3:米国の一極支配から群雄割拠の勢力均衡体制へ

アメリカ合衆国が帝国主義戦争に乗り出したのはスペインとの海戦に勝利しフィリピンを植民地化した1898年(明治30年)であった。そして、第1次世界大戦(1914ー1918)と第2次世界大戦において戦争物資の最大の供給国となって稼ぎまくった。わずか半世紀で米国は世界最強の軍事力と最大の経済力を有する大帝国に跳躍した。

戦後体制は米国とソ連邦が世界を二分して対峙する「米ソ2極体制」(冷戦)で、ソ連邦が崩壊した1991年までの46年間。以後、十数年が「米国1極体制」といわれている。国際金融資本と多国籍企業が推進したグローバル経済政策は、開発途上国への投資、低賃金国への工場移転と生産委託等企業利益の最大化を図る目的をもって推進された。結果、米国を初め先進国では国内産業の空洞化が加速し、中国を初め開発途上国の経済は飛躍的に発展した。先進国と発展途上国・中進国の経済力格差が縮小した。G7からG20へ。「G20財務相・中央銀行総裁会議」が始まった(1999)。

世界の工場は先進国(日米欧)→中進国(韓・台等)→開発途上国(中国等)に移った。米国は金融帝国に転換し、金融商品(投資、先物売買、デリバティブなど)を創出して稼ぐ金融立国になった。名門GEさえも(我が国のソニーも)金融業に進出した。2008年9月のリーマン・ブラザーズの破綻(リーマン・ショック)によって、米国発金融恐慌が始まった。

G20首脳会議(サミット)が始まった(2008.11)。Brics首脳会議も始まった(2009.6)。米国発金融恐慌によって、先進国と開発途上国・中進国の経済格差がさらに縮小し、一部は逆転した。米国の一極支配が終わり、世界は無極(Gゼロ)時代に突入した。米国は軍事でも、経済でも、金融でも比較優位の地位に転落したが、「米ドル」に代わる基軸通貨がない(1強多弱)ため、とりあえず、世界の貿易決済は「米ドル」に依存せざるを得ない状況が続いている。

リーマン・ショック直後に大統領に就任したオバマの使命は米国経済の崩壊を軟着陸させ、金融機関を再編し、基幹産業ビッグ3を救済することであった。同時に、アフガン・イラク戦争を終結させ、米派遣軍を撤収し、疲弊した米国の経済力と軍事力に相応するよう戦線を(守備範囲)を縮小、東アジアと太平洋に戦略の重心を移すことであった(リバランス政策)。オバマ大統領は当初の目標をほぼ達成した。オバマ大統領はどんなに馬鹿にされても限定的関与の方針を崩さず、「弱腰外交」に徹し戦線を縮小した。ヨーロッパ(英仏独等)から見ると「米国の悪癖(孤立主義)が始まった」となる。

今回の大統領予備選の有力候補はほぼ全員が「TPP反対」を訴え、国内産業の保護と雇用拡大を公約した。オバマが覇権国家の影をひきずり悪戦苦闘しているのに対し、有力候補各位は「国益第1」を堂々と主張する。覇権国家の立て直しも、同盟国への配慮も眼中にない。

しかし、本戦になれば、自己の政治信条を脇に置いてでも支持を集めなければ勝てない。トランプが「共和党をまとめる」と言い出した。共和党主流派(穏健保守)は、トランプとクルーズの草刈り場になった。主流各派も政策ではなく「勝馬に乗る」との心理が働いた。「勝ち馬」に乗ってこそ、戦後の報償が期待できるし、人事や政策に意見を反映することができる。

国際情勢が急変しない限り、誰が、次期米国大統領になっても、オバマ大統領が推進した戦線縮小路線を継承し、さらに徹底するのではなかろうか。米国民は10年以上続いたアフガン戦争とイラク戦争の後遺症もあって「内向き」になっている。

まとめ

現在、欧州連合(EU)主要国では相次ぐイスラム過激派の無差別テロ、移民・難民の流入問題、ナショナリズムの台頭、経済の停滞そしてEUからの離脱問題等課題が山積し出口が見えない。EU加盟国は地雷原のようなもので、どこで爆発しても不思議ではない。

ロシア経済は原油の暴落もあって国家予算を組めないほど弱っている。ウクライナやシリアで戦争している場合ではない。窮乏生活に耐え切れなくなった国民の不満が徐々に蓄積、プーチン独裁政権の足元を掘り崩している。さすがのプーチンも「できれば米国と折り合いをつけて経済制裁を解除してもらい、インフレを沈静化させ、先進国企業を誘致し、ロシア経済を復活させたい」と考えているはずだ。

中国経済は輸出入の大幅減少、ゾンビ国有企業の倒産と失業者の急増、地方政府の破産危機、人民元の暴落とキャピタルフライトの拡大等、誰もが「中国発経済恐慌が始まった」と感じている。目下、中共中央は必死で隠蔽工作(情報操作・宣伝)を行っているがもはや誰も大本営発表を信じていない。親中派の朝日・毎日新聞や外務省・日銀・外務省の親中派官僚及び中共側代理人福田康夫らは中共に懇願され、又は中共の意向を忖度して「日中関係の立て直しを急げ」と叫んでいる。「火中の栗を拾い心中せよ」と言っているに等しい。「巧言令色」に騙されてはならない。

現在、「中国発経済恐慌」が先行しているが、「EU発経済恐慌」の危険も高まっている。世界恐慌(動乱)を無事に生き抜いた主要国が新たな世界秩序を創出する。70年続いた「戦後体制」はまもなく終わる。軍事同盟・経済同盟の再編が始まる。

我が国から見ると「艱難辛苦に耐えた70年」であった。我が国はこれから訪れるであろう「千載一遇のチャンス」を跳躍台にして天高く飛翔するに違いない。

仮に、トランプが次期大統領に就任すれば、「在日米軍基地の全面返還」と「在日米軍の全面撤収」の時期が早まるかもしれぬ。あるいは、「駐留なき日米安保体制」に移行してくれるかもしれぬ。期待を込めて、米大統領予備選・本選の推移を見守りたい。



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2016年03月15日

人工知能「アルファー碁」が韓国イ・セドル9段に3連勝した。人工知能(AI)の進化がもたらす社会変動を考える。

はじめに

チェスの世界王者が人工知能(AI)との対戦に敗れてから約10年。いずれ囲碁でも人工知能(AI)に勝てなくなる時代がくるとは想定されていたが、その時期がかくも早く訪れるとは誰も予想していなかったであろう。プロ棋士だけでなく囲碁愛好者にも衝撃が走った。筆者もその一人である。

囲碁は19×19の碁盤(小宇宙)に、先手(黒)と後手(白)が交互に石を打ち合う単純なゲームで定まったルールもほとんどない。先人の指した棋譜、プロ棋士が悪戦苦闘してひねり出した指し手及び当該局面で最も合理的とみなされる定石や手筋を学習した上で戦に臨む。一手投じるたびに局面が変化するから、その都度、新たな局面に即応した「敵の出方と防衛・反撃策」(仮説)」を幾通りも考える。

棋士は無限に存在する指し手の中から、大局観、直感、経験知によって数十の仮説を立て、当該仮説の有効性を比較検討して最善手と思われる一手を指す。一流棋士は短時間で数千手先まで読むといわれているから「生きたコンピューター」だ。大局観と情報の評価と選別という作業は人間理性の特徴であり従来の人工知能(AI)では乗り超えることができない大きな壁であった。

2010年設立された英国Deep Mind社は、画像認識や音声認識等で応用されているDeep Learning(深層学習)という自己学習システムを活用して最後に残った人類の牙城である囲碁の攻略に乗り出した。コンピューターにトップ棋士の棋譜から約3000万手を記憶させ、さらに囲碁ソフト同士を戦わせて「新らしい指し手」を加え、囲碁ソフト「Alpha Go(アルファー碁)」を開発した。研究着手から数年、目下、発展途上にあるといってよいから、おそらく1年以内に弱点を克服し、世界最高レベルの棋士を圧倒することは間違いない。

第1:アルファー碁が第4戦で機能不全に陥った理由は何か?

人工知能(AI)「アルファー碁」はイ・セドル9段に三連勝、一度も劣勢に陥ることがなかった。完璧な打ち回しで圧勝した。世界の囲碁界に衝撃が走った。そして13日の第4戦でも「アルファー碁」は終盤までイ・セドル9段を圧倒、勝利を掌中に収めたと思われた。ところが、「アルファー碁」が突然乱れた。大学院生が突然発狂して知的能力を小学生レベルに低下させ、悪手を連発するようになった。

ゲーム途中で、突然、コンピューターが乱れた理由は(1)例えば、コンピューターがハッカー攻撃を受ける等してシステムの一部が停止する等の障害が発生したのか?あるいは(2)イ・セドル9段が放った「割り込み」の手筋と、アルファー碁の想定を超える局面を複雑化した迷路に立ち往生、判断能力が急激に低下した(迷子)のか、現段階では真相は不明である。Deep Mind社の研究開発陣は早速「アルファー碁が突如乱れた原因究明」に着手したはずだ。いずれであったのかは第5戦の最終戦(15日)で明らかになる。

棋士も人工知能(AI)も「最善手を求める」という点において異なる点はない。最善手を見つけることができない場合、棋士はやむを得ず「次善の策」や「三善の策」を選んで辛抱する。悩みに悩んだ挙句「最悪手」を指すこともある。人間はもともと不可知論者であるし、間違うこともあることを知っている。井山裕太6冠は対戦後の感想を問われ「いろいろ間違えましたが、現在の実力は発揮することができたと思います」と語っている。人間は間違える事を知っているし、最善手を発見できないからといって心神耗弱に陥ることはない。人間知性は「自らが不完全であると認識できる」ことにおいて人口知能(AI)と区別されるのではないか。想定外の事態に遭遇しても、態勢を立て直し、臨機応変に対処できる柔軟性を持っていることこそ人間の特性なのだ。

第2:「アルファー碁」を開発した英Deep Mind社の戦略

2014年、Deep Mind社は米グーグル社に4億ドルで買収された。現在、約200人の研究者が人工知能(AI)を研究している。彼らはディープラーニング技法(深層学習)を活用して画期的な囲碁ソフト「Alpha Go」(アルファー碁)を開発した。

プロ棋士が打った棋譜はすべて公開されているから、ソフト開発企業は無料で良質な情報を大量に入手できる。これを基礎資料としてディープラーニング(深層学習)を試行し、より効果的で効率的な囲碁ソフトを創出することができる。そして、韓国イ・セドル9段と対戦させディープラーニング(深層学習)の成果と弱点を検証できる。もとより囲碁ソフトは彼らの研究目的ではなく汎用研究を進めるための手段に過ぎない。

Deep Mind社のデミス・ハサビス最高経営責任者(CEO)は「人工知能(AI)は病気、医療、気候、エネルギー、データ、ゲームなど多くの問題の解決に役立つだろう」とし、「汎用目的を持った学習機械の開発が最終目標。キーワードは汎用と学習だ。1つのシステムが多様な状況でも使えるし、加工されていない入力資料から自らが学習する」と述べた。(以上はデミス・ハサビスCEOが韓国で行った講演の骨子。朝鮮日報電子版・日本語版より抜粋)

目下、ディープラーニング(深層学習)の最前線は「自動運転の開発」であるが、トヨタやGMなどの多国籍企業は深層学習機能の向上を目指して熾烈な開発競争を展開中だ。自動運転を可能にするためには、時々刻々変化する道路事情、他の通行車両との位置関係、標識や信号の認識、通行人や障害物の動態把握と安全運転操作を結合させる必要がある。極めて難易度の高い研究開発競争と言わねばならない。仮に、人工知能(AI)に問題があって自動運転中の自動車が事故を惹起した場合、莫大な損害賠償請求がなされ、天文学的制裁金が課せられ企業破産に追い込まれることは必至だ。一つの誤操作も許されない。「想定外の事態」と言って逃げることはできないのだ。

第3:道具としての人工知能(AI)

音声言語分野における人工知能(AI)と人型ロボットの開発は、接客、福祉及びサービス分野で実用を競い合う段階になった。音声言語だけではなく、ヒトの表情や感情を理解する人工知能の研究・開発も始まっている。福島第1原発の溶融した原子炉の調査・解体・廃棄を担うロボットの研究・開発も進んでいる。ヒト(研究者)・モノ(技術力)・カネ(資金力)が集まる所で花は咲く。

数十万年前、人類の祖先ホモ・サピエンスは「火」を生活の道具として活用することで他の哺乳動物と枝分かれした。「火」がホモ・サピエンスに絶大な力を与えた。ホモ・サピエンスは「火の力」を応用することで他の哺乳類を圧倒した。そして人間は燃焼効率の高い化石燃料を手に入れた。原子力・太陽光・地熱・風力・潮汐等を利用した発電を開発し、新たなエネルギーを獲得した。人間は自らの身体能力を高めて他の哺乳動物に対抗するのではなく、外界のエネルギー資源を道具として利用することで動物界の食物連鎖の頂点に君臨することができた。現在、人間は内なる自然である「知力」を何百万倍・何千万倍に拡張する人工知能(AI)の研究・開発に邁進している。人間は新たな敵(地球外生命体)を求めて宇宙に飛び出す。

50年ほど前、大型の電子計算機が開発され市販され算盤と競合するようになった。手書きからワープロへ、ワープロからパソコンへ、切符・タバコ・飲み物の小売店から自動販売機へ、手書きの速記録から音声認識パソコンへ云々、列挙したらきりがない。我々の生活は隅々まで「自動化」という名の人工知能(AI)に侵食されている。自動車は人工知能(AI)の塊となり、販売価格は上がることはあっても下がることはない。消費者は「便利さを求めてカネを払う」から、事業主も自動化競争に一層励む。人工知能(AI)の研究・開発に従事する者は「頭脳」を使い、大衆は「カネ」を使う。二極分化がさらに進む。

「知恵ある者」は持てる才能をさらに進化させ、「知恵なき者」は持てる才能をさらに退化させる。「富者」はますます裕福になり、「貧者」はますます困窮する。新世紀型階級対立が激化し、社会システムを支えることが困難になりガラガラポンの革命に至る。

第4:人工知能(AI)の進化と産業構造の変化

戦後70年。我が国の産業構造は農業国家から産業国家に転換した。農村から都市への人口の大移動が行われた。農民の子弟は労働者やサラリーマンになった。エネルギー政策が「石炭から石油へ」転換したことで、全国の炭鉱が閉山に追い込まれ炭鉱夫は転職を余儀なくされた。

会計事務が算盤から電子計算機へ、手書き文からワープロ・パソコンによる文書作成へ、速記録から自動録音文書の作成へ、証券マンが取り次いでいた株式売買からネットによる自動売買へ、洗濯板から自動洗濯機へ、対面販売から自動販売・通信販売へ、乗車切符の面談検札から自動検札へ、その他列挙したらきりがない。戦後の歴史は、技能・熟練労働者や専門職の職域が自動機械に侵食され置き換えられてきた時代であった。

大工・左官・瓦葺等の職人の姿も消え、住宅建築資材は工場で製造され現場では組み立てるだけ。自動車、建設機械、電気・家電等我が国を代表する企業は自動化・無人化が進んでいる。品質にむらのない製品を大量生産できる態勢づくりが進んでいる。国宝級の特別の技能を有する者を除いて、その他大勢の専門家や技術者は仕事を失った。「1億総中流」の中核をなしたサラリーマンと専門職が激減した。

「人工知能(AI)」の発展は従来の専門職・技能職を消失させ、いわゆる「中流層」を融解させたが新たな「中間層」が生まれた。「人工知能(AI)の研究・開発に従事する者、自動機械を創出する研究者と技術者、自動機械を操作する専門職、自動機械を補修する専門職が求められる時代になった。軍隊でいえば、戦闘機に乗って戦う航空兵が減り、無人偵察機や無人爆撃機を操作し、補修する専門職が増える。護衛艦や潜水艦の自動化が進むと、乗組員の仕事も変わる。衛星やレーダーによる情報収集、分析、対応指針等、戦争の自動化が進む。軍隊は「人工知能(AI)を操作する専門職集団」となる。専門的知識を有する人間が採用され、軍官学校は高度な専門知識を有する人材の養成所となる。

まとめ

「Alpha Go(アルファー碁)」が囲碁界の最高実力者イ・セドル9段に圧勝した。これは、人工知能(AI)が時々刻々変化する局面を判断できる能力と「大局観」を獲得したことを意味する。重要であることと、それほどでもないことを識別し取捨選択できることを意味する。アルファー碁は「人工知能(AI)が人間の頭脳労働の大部分を代替し、乗り超えることができること」を実証した。

研究・開発の99.99%は試行錯誤の連続であるといわれているが、仮に人工知能(AI)に「研究達成目標を指示し、関連情報を提供して深層学習を促すならば、研究・開発期間の大幅短縮を実現できる。アルファー碁はプロ棋士も想定できない「新手」を指した。これは、研究者や技術者が見落としてきた「新たな研究と開発の地平線」を人工知能(AI)が切り開く可能性があることを示唆している。

人工知能(AI)の発展が科学技術の飛躍的発展をもたらし、人類にバラ色の未来を約束するのか?、それとも「人工知能(AI)不拡散条約」が締結され、特定の国・企業が排他的独占権を主張するのか?、現段階では何ともいえない。

人工知能(AI)がさらに発展し、生活関連機器や軍事関連機器の自動化が加速されたとき、人間は肉体労働だけでなく知的労働からも解放(又は排除)される。結果、人間の身体能力や知的能力は一部のスーパーマンを除いて劣化する。人間の身体能力・知的能力の退化を防ぐための健康維持・健康管理企業と知的訓練企業が求められる時代となる。「得るものがあれば失うものもある」というのが大自然の摂理だ。

「少子高齢化・人口減少」に脅え、外国人1000万人の移入を唱える時代ではない。少子高齢化と人口減少の先進国日本は人工知能(AI)と製造技術を融合した自動化社会のリーダーとなる。知恵と、資金と、製造技術を併せ持つ国は我が国をおいて他にない。最近、軍事装備品や原発廃炉等で日米・日米仏・日米英の共同研究が始まっているのはその兆だ。

ホモ・サピエンスは「火を道具として利用できた唯一の哺乳類動物」であった。ホモ・サピエンスは「火」を手に入れることで、類人猿から枝分かれすることができた。「人工知能(AI)」を獲得した人類は今、「自然的人間に留まりたいと願う種」と「人造的人間を志向する種」に分岐し始めたのであろうか?

「火」を手に入れ類人猿から枝分かれしたホモ・サピエンスが「火」を手放すことがなかったように、「人工知能(AI)を手に入れた人類も又人工知能(AI)を手放すことはない。禁断の実を食べた者は引き返すことができない宿命(さだめ)なのだ。

白髪爺 at 13:38|PermalinkComments(14)clip!

2016年03月04日

米大統領共和党予備選が露わにした米国社会の暗部。あのドナルド・トランプが第45代大統領になるのか?

はじめに

近年、「想定外の出来事」がしばしば発生するから、「想定外の出来事」も想定しておかなければならなくなった。それにしても、あのトランプが大統領共和党予備選で他候補を寄せ付けないほど支持を集めているのだから世の中は分からない。共和党員や同党支持者の知的水準が劣化し適正な判断ができなくなったのか?それとも共和党主流派が候補者の一本化に失敗し、候補者が乱立したためトランプに漁夫の利を与えてしまったのか?

第1:トランプが勢いに乗った
(1の代議員獲得数及び2の支持率は3月3日付け日経より抜粋)

1.各候補が獲得した累計代議員数(全体2472人)

スーパーチューズデイを終えた段階で、トランプは315人、小さな政府を唱える茶会のクルーズが205人、主流穏健派のルビオが106人と他候補を圧倒した。共和党の大統領候補は「トランプ」になるであろうといわれている。ペースメーカーと思われていた馬が、想定に反して第3コーナーまで数馬身引き離してダントツで疾走している。冷静に眺めていた観衆が騒ぎ出すのも無理は無い。「先頭をキープしたまま、奴がゴールに駆け込むのではないか」と、早くも勝ち馬に乗り換える者が出た。

2.クリントンとトランプの本選挙対決を想定した支持率

クリントン46.5%、トランプ43.5%

泡沫候補とみなされていたトランプが知名度・家柄ともに抜群のクリントン前国務長官と拮抗する支持率を得るなんて、誰が想定したであろうか?誰もがびっくりしているはずだ。トランプ陣営は気勢が上がっていることであろう。

第2:トランプの政策<3月3日付け日経より抜粋。( )内は筆者>

1.税財政・・・法人税率は35%から15%に、中所得者層に加え高所得者も減税

2.TPP・・・強く反対、「ばかげた協定だ」

3.内政・・・不法移民は強制送還。銃規制強化に反対

4.外交・・・イスラム教徒の入国禁止。メキシコ国境に壁(万里の長城を築く)
5.対日政策・・・円安誘導と批判。安保条約は「日本ただ乗り」(双務化を主張)

(以上、財源を示さないで、企業の大幅減税及び中間層以上の減税を行うほか、同盟国・関係国・イスラム諸国との関係を破壊するつもりなのだろう。イスラム教徒の入国禁止など正気の沙汰とは思えない。無知蒙昧、荒唐無稽の政策である。偉大な米国の復活どころか、米国を世界の孤児に追い込む愚策だ)

(だが、トランプは非難されるのを覚悟の上で、敢えて「非現実的な政策」を打ち出したと考えるべきかもしれぬ。なぜ、トランプの選挙参謀はかくも「八方破れ」の愚策で勝負することにしたのか?)

第3:トランプの戦術

1.差別化

カネ儲けには熟達しているが政治経験が全くないトランプが知事や上院議員経験者等政治経験豊富な政治家と同じ土俵で勝負しても勝ち目はない。そこで、他候補との議論がかみ合わないよう争点をずらし、「敵は敵の土俵、俺は俺の土俵」と異なる次元で相撲を取ることに決めた。

2.目立つ

大統領候補に立候補する者は、有権者に「名前を覚えてもらうこと」が第1であるから、まず民衆の記憶に「強烈な印象」を残さなければならない。ドングリの背比べでは記憶に残らない。「好きか嫌いか」は多少犠牲にしても「目立つか、目立たないか」を重視せざるを得ない。その意味で、優等生タイプの真面目な政治家よりも不良タイプの粗野な政治家が記憶に残る。「嫌だ、嫌だも好きのうち」ということもある。「無視されること」は恐れるべきであるが、「嫌悪されること」は愛されるための最低条件を満たしていると前向きに考えるべきなのだ。世の中、万人に好かれることはありえないし、100人中50人から好かれたならば「御の字」だ。厚顔無恥でなければ政治家は務まらない。

3.情報過多時代に適応するための感度

「情報化社会が到来した」といわれて数十年。社会に垂れ流される情報量は幾何級数的に膨れ上がった。流通する情報が多すぎて、必要な情報と必要でない情報を弁別することも困難な時代になった。個人が受容できる情報の総量は算術級数的にしか増やすことができないが、現実世界では個人の情報受信能力の何万倍も、あるいは何億・何兆倍の情報が流れている。個人は「寄せては返す情報」に翻弄され波の間をさまよう木片の如し。結果、個人は「聞き流す」(情報受信器の最小化)ことで、心身の安全を図る。

米国大統領予備選で、政治的実績もあり、人格・識見も優れていると思われている優等生候補各位は支持率が低迷、次々に落馬した。その中で、民主党サンダース候補は社会主義者らしく「ウオール街(金融資本)の解体」と、若者の最大関心事である「学費の全額国費負担」という甘すぎる餌を見せて支持率を上昇させクリントン候補に肉薄した。サンダースは大統領民主党予備選で勝てるとは考えていないから気楽なものだ。仮に間違って大統領になったら場合は「米サンダース大統領暗殺される」という事件報道が世界を駆け巡る。

共和党のトランプ候補は「イスラム教徒の入国禁止」や「メキシコ国境に万里の長城を築く」という誰も信じないであろう妄想的な政策を展開する。要するに、誰も信じないことを信じて、ひねり出した秘策だろう。周到な準備をして練り上げた戦法だろう。「真面目な政策論」は面白みがないし、情報過多時代の有権者の感覚器官を刺激しないから「聞き流されてしまう」と考えた。マスメディアの触覚や民衆の感覚器官に響くのは「ありえないほどの大声」、「奇想天外な発想」、「危険過ぎる話題」である。マスメディアや民衆は「面白そうな話」や、「刺激が半端でない話題」にしか反応しない。真面目な話題にはアキアキだから「パス」されてしまうのだ。

4.悪魔と悪魔払い

ファシストや共産主義者が好む煽動の手口は、(1)仮想敵(悪魔)を創作する。(2)仮想敵(悪魔)の所業がいかなる害を与えているかを針小棒大に描く。事実であるか否かは全く問題ではない。(3)仮想敵(悪魔)を倒さなければ昇天できないし地獄に落ちるというシナリオを騒ぎ立てる。(4)そして白馬に乗った天使(悪魔払い)が民衆を率いて悪魔と戦う。悪魔を倒して一件落着メデタシメデタシとなるストーリーを描いている。ファシストや共産主義者は自らを天使(悪魔払い又は前衛)と位置づけ、民衆を惑わし煽動する。日本共産党志位和夫委員長以下が大好きな「戦争法案廃棄」の煽動・宣伝工作がこれに当たる。彼らの手口は単純であるが、「ウソでも100回言うと真実になる」というナチス党ゲッペルス宣伝局長の忠実な後継者だ。

トランプは「中国や日本を締め上げ米国の雇用を守る」とか、「イスラム教徒は危険であるから入国を禁止する」と述べているが、トランプがウルトラマンになって虐げられている民衆を救出するという勧善懲悪のシナリオだ。そして、国内に向けて「企業の大幅減税」を唱えて企業を調略し、中間層・上流階層に対する減税を公約して対抗馬の支持層を切り崩す。「予算の裏づけ」は全く示さないで約束手形を切りまくる。覇権国家の地位を失い自信喪失に陥っている国民には「偉大なる米国を復活させる」とリップサービスして見せる。「選挙用脚本」があることは間違いない。

ヒットラーの「仮想敵国」は第一次世界大戦で、天文学的戦後賠償をドイツに請求した英仏露等で、第二次世界大戦でも敵対した。「内なる敵」はドイツを内部から掘り崩す共産主義者とユダヤ人と位置づけた。結果、ドイツ第3帝国は「反共の防波堤」として金融資本に期待され、ドイツ国民の圧倒的支持を獲得した。ヒットラーはナチス党一党独裁政権を樹立、世界大恐慌で生まれた数百万人の失業者に仕事を与え、わずか3年で完全雇用に成功したほか、先駆的な福祉政策を断行した。「敵には鉄槌を、身内には豊かな生活を」がモットーであった。

プーチンの「仮想敵国」はいうまでもなく米国。プーチンは米国を「偉大なる祖国を分裂させた首謀者である」と位置づけている。プーチンは「米国の一極支配は許さない」を国是とし、中共に接近して調略、手中に収めた。そして折からの原油高によって国富に余裕が生まれたことを利用して「ロシア軍の再建」と、「年金等社会福祉の充実」を図るとともに、政敵を追放・処刑・暗殺する等して独裁政権の足場を固め、「強大国ロシアの復活」をめざした。ヒットラーがレーニンを、プーチンとトランプがヒットラーをそれぞれ模倣した。

中華帝国の世界制覇を狙う習近平の「仮想敵国」は米国であるが、米国との貿易で食っている中華帝国としては「米国敵視政策」を公然と打ち出すことができない。そこで、米国の身代わりに我が日本を「仮想敵国」に祭り上げた。中国人民に被害感情を植えつけながら、自らを日本軍国主義と戦い中国人民を解放した主役とする改竄した歴史で中国人民を洗脳した。

国内向けには、最低賃金を年率10%以上を引き上げ(企業に負担を押しつけ)、「虎もハエも退治する」との大義名分を掲げ政敵を次々に粛清し処刑した。習近平の「偉大なる中華民族の夢」を実現すべき打ち出した一帯一路戦略は、露骨な中華帝国の膨張主義であるから、領土・領海を犯される周辺国・関係国の脅威となった。結果、中華帝国は友達を失い孤立化を深めている。札束外交で仲間を増やしているが「カネの切れ目が縁の切れ目」となることは必定だ。

米国民がトランプ旋風の病に煽られて判断を誤り、トランプを米国第45代大統領に当選させた場合、トランプがヒットラー型になるのか、プーチン型になるのか、あるいは習近平型かは明らかではない。おそらく、どの類型にも当てはまらないトランプ型になるはずだ。アメリカ合衆国を分裂させピリオドを打った最後の大統領として歴史に名を刻むのではなかろうか。

まとめ

仮に、ヒットラーという先例がなかったとすれば、米国民は「トランプは何をするか分からない危険な男ではあるが、大化けするかもしれず、一度試してみてはどうか」と考えて大統領に選任するかもしれぬ。

しかしながら、共和党の大統領予備選で共和党内部から「反トランプ」の声が噴出しているから、トランプが共和党大統領候補に指名されたとしても、本選挙で民主党クリントン大統領候補に勝てる確率は限りなく低い。

今、欧州(EU)では、とりわけイスラム圏からの難民や移民に対する忌避感情が高まっている。彼らは、経済的負担に加えアイデンティティの危機を感じている様子なのだ。「ドイツは誰のものか?」と。米国では何年も前に白人は人口の過半数を割り込んだ。黒人と黄人は増えるばかりであるから、米国社会における白人優位はすでに大きく傾いている。

米国白人社会の一部には「米国は誰のものか?」というアイデンティティの危機が充満しているとようで、白人警官複数名が黒人青少年の素行を咎め射殺するケースが相次いでいる。「多民族・多文化共棲」は米国の理念ではあろうが、現実は「白人が黄色人種(インディアン)を掃討し建国した西洋キリスト教文明国家である。建前「そうあるべき」と、事実「である」には大きな溝が横たわっている。「頭」では多民族・多文化共棲国家を理解できても、「心」では納得していない。「白人が建国した国なのに、なぜ?」という不満が間欠泉となって噴出する。

今や、欧州連合(EU)だけでなくアメリカ合衆国も分裂の危機にある。

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2016年02月24日

オバマ大統領が推進する「勢力圏縮小戦略」が狙うもの。米国は欧州と中東から撤退することができるか?

はじめに

英国キャメロン首相は「6月23日、欧州連合(EU)に残留するか、それとも離脱するかの是非を問う国民投票を行う」と表明。現時点では、残留派と離脱派が拮抗しているといわれている。

「EU残留、是か非か」は英国だけの問題ではない。欧州連合(EU)参加国では、国境の垣根を取り払って「ヒト・モノ・カネ」の移動を自由化するグローバリズムと、伝統文化と既成秩序を守ろうとするナショナリズムが激突している。グルーバリズムの果実を食う者とグローバリズムの被害を訴える者の対立が沸騰し制御出来ないレベルに高まっている。グローバリズムは「ヒト・モノ・カネ」の移動を自由化し、国家の保護膜を破壊することでナショナリズムを台頭させた。

ヒトは物心に余裕があれば他人を愛することもできる。権利を主張する前に義務を背負うこともできる。しかしながら、生活が窮迫し切羽詰まったときヒトは他人を殺してでも生きながらえようと欲する。自らの権利は主張するが、他人への奉仕や国家や集団への義務は背負わない。「恒産なきものは恒心なし」はヒトの常態なのだ。

身分・職業・学識・能力・地位・運の違いによって収入格差が出るのは大自然の摂理であり、有史以来の現実であった。そもそも「格差のない平等社会」は空想的社会主義者の妄想が生み出した観念に過ぎない。人類史上最初の共産主義国家となったレーニンのソ連邦では共産党官僚が権力を独占し、人民大衆を収奪して私腹を肥やし、帝政ロシアに勝るとも劣らないほどの格差社会を創出した。現在の中国や北朝鮮も世界最大の格差社会になった。

先進国における「格差拡大」は、生活困窮者を経済的に支援する制度を整えることで解消できるほど単純な問題ではない。先進国における「格差拡大」は社会の安全弁とみられてきた「中間層」を激減させたことの結果であって、逆ではない。

先進国においては、一握りの「エリート層」と大多数の「下層」に二分化されたことに特徴がある。なぜ、中間層は激減したのか?いかなる経済構造の変革が中間層を激減させたのか?旧来の三層構造、「現状に満足派(上層)、現状にやや満足派(中間層)、現状に不満派(下層)」という構図が崩れた要因は何か?が問われなければならない。

グローバル経済の進展によって労働市場が世界的規模に拡大したため、使用者側が労働組合を圧倒する力を持つようになった。安倍内閣が「賃上げ」の音頭をとらないと、労組(連合)が使用者側と対等の賃上げ交渉を行うことができないことが明らかになった。そしてもう一つ、事務部門や生産工程の自動化・人工頭脳化によって、「中間層」を構成してきたホワイトカラーと熟練技能者の職域が急速に失われ、いつでも、誰にでも代替可能で、生産性の低い単純労働・非熟練労働の割合が拡大した。低賃金労働者の代名詞となった非正規労働者が急増した。労働者の味方を自認してきた左翼がグローバリズムを推奨して労働者イジメに奔走、労働者の敵とみなされてきたナショナリズムを標榜する保守又は右翼が労働者の待遇改善に汗をかくというネジレ現象が生まれた。

第1:トランプ旋風の特徴

22日付け日本経済新聞(夕刊)は、「米CNNが公表した予備選参加者2043人対象の出口調査の結果を基に作成」として、米共和党サウスカロライナ州予備選の得票分析(単位%)を報じた。(以下は抜粋)

1.支持政党

共和党(76%)・・・トランプ32,ルビオ23,クルーズ24
無党派(22%)・・・トランプ33,ルビオ19、クルーズ17

2.学歴

大卒以上(54%)・・トランプ25、ルビオ27,クルーズ20
高卒以下(41%)・・トランプ41,ルビオ17、クルーズ25

3.宗教

キリスト教保守派(72%)・トランプ33,ルビオ22,クルーズ27
上記以外(28%)・・・トランプ30,ルビオ22,クルーズ13

4.資質

本選で勝てる(15%)・・トランプ21,ルビオ47,クルーズ17
価値観を共有(37%)・・トランプ8、ルビオ27、クルーズ34
素直に話す(16%)・・・トランプ78,ルビオ3、クルーズ8
変化をもたらす(31%)・・トランプ45,ルビオ16,クルーズ19

以上、トランプは格差社会の底辺層というべき高卒以下で他候補を圧倒した。物事を単純化し、バッサバッサと切り捨てて見せる国家主義的口調がウケ、何か変わったことをしてくれるのではないかと期待されている。出口なしの底辺層の鬱憤を晴らしてやるためには、刺激的かつ短絡的な言葉で煽動する以外にない。仮想敵を仕立てあげ、徹底的に攻撃して爽快感を与えてやる以外にない。もともと、抜本的解決策が簡単に見つかることはなく、その場の気分を高揚させてもらっただけでも儲けものという感じなのだ。これがトランプ支持者の特徴であるが、橋下徹風にいうと信念のない、物事を深く考えない下層階級は「煽動に弱いふわふわした民意」となる。ルビオとクルーズの支持者は「価値観を共有する」ということであるから、比較的に風向きに左右されない固定票といえる。

本選で勝てる候補の第1順位はルビオの47%、次にトランプの21%、クルーズの17%。つまり、奇人変人扱いのトランプやティパーティ(小さな政府)のクルーズでは民主党候補(クリントン又はサンダース)に勝てないという評価が一般的なのだ。勝てるルビオを選ぶか、それとも眺めているだけで面白いトランプを選ぶか、米選挙民の見識が問われている。

民主党では社会民主主義者を公言するサンダースが実現不可能な「弱者保護」の看板を掲げている。下層の期待を集めクリントンに肉薄。超リベラルのオバマよりもさらに確信犯的左翼のサンダースが支持を集めているのも超格差社会米国の産物だろう。トランプもサンダースも下層の不満を吸い上げるために、米国の伝統的行動パターンである「不関与主義」を今以上に進めるはずだ。覇権国家としての恩恵たる「米ドル基軸通貨体制」の果実は食べながら、覇権国家としての義務と責任は果たさないという身勝手な話だ。同盟国は「米国依存からの脱却」を迫られ自立化を急ぐ。内向する米国にもプラスとマイナスの両面がある。

ナショナリズムが台頭している英仏独ほかと左翼が躍進したギリシャ・スペインのように、社会状況が悪化すれば下層階級は「短絡的かつ即物的」となり、極端な右翼か極端な左翼が繰り返す煽動・宣伝に惹かれる。共産主義(左翼)と民族主義(右翼)が掲げる雇用対策・福祉対策に共鳴し支持する。「そんなうまい話があるのか」との批判精神を投げ捨て、単純明快な「○○○語録」の信者となる。

第2:米国は欧州連合(EU)を見捨てることができるか?

合衆国は英仏等の白人が大西洋を西進して定住し、英仏の植民地を経て独立した国家であった。その記憶があるためか、合衆国の衝動は常に西方に向けられた。中西部の大草原→カルフォルニア→そして太平洋へ(ハワイ・グアム・フィリピン)・・・云々。旧宗主国であった英仏に対しては遠慮するところがあったのか?米英関係や米仏関係は「対等・平等・互恵・相互不干渉」の原則が貫かれた感じがしない。

旧宗主国の英仏が「サービスされる側」、米国が「サービスする側」という役割分担が決まっていた感じなのだ。米国は英仏を初めヨーロッパには関与したくなかったのであろうが、最終的には協力させられる方向に追い込まれた。第1次世界大戦と第2次世界大戦において米国は開戦3年目にヨーロッパ戦線に参戦した。粘りに粘った挙句、ようやく重い腰を上げて負け戦の英仏軍を支援した。これが「3年遅れの参戦」の背景だろう。

第2次世界大戦終了直後、英国宰相チャーチルは「米国をヨーロッパに繋ぎ止めるべき」との狙いをもって北大西洋条約機構(NATO)を構想したといわれている。チャーチルは「強大で粗野なソ連軍の西欧侵攻を阻止するためには米軍が盾になってもらわねばならぬ」と考えた。トルーマンの自尊心をくすぐったのであろう、狙い通りの成果を得た。

米国は独立宣言以来一貫して「ヨーロッパには関与しない」と考えてきたようであるが、英仏の方が役者が一枚も二枚も上だ。英仏が窮状を訴え泣きつくと、不条理だと考えつつも、つい同情して加勢する。ダメ亭主(英仏)と賢婦(米)の倒錯的な共依存関係というべきだろう。

(以下1−9は、21日付け日本経済新聞が報じた英フィナンシャル・タイムズ記者フィリップ・スティーブンスの論考からの抜粋)

1.今回の「ミュンヘン安全保障会議」は、プーチン大統領の平和会議を皮肉る冷徹さと、憤慨しているものの足並みがそろわず無力な欧米の戦いだった。

2.シリアのアサド大統領の退陣を求める西側の要求を実現するには、今や米国が軍事的にロシアと対峙することが必要となる。(だが)オバマ氏は戦争を始める気はない。オバマ氏はこう応じる。シリアは確かに地獄に落ちたが、たとえ可能であったとしても、戦火を消すのは米国の役目ではない。

3.米国がシリア系クルド人のことを味方と見なす一方、(トルコの)エルドアン氏は彼らを砲撃している。クルド国家のようなものを樹立するのを恐れているためだ。

4.サウジアラビアはイランの支援を受けたアサド氏が退陣に追い込まれ、イラク北部のスンニ派がバクダッドのシーア派政権から自治を勝ち取るまでは、IS打倒を検討しないだろう。

5.欧州も問題を抱えている。シリア難民の大量流入に圧倒され、各国政府は米国の指導力の欠如について不満を言い、プーチン氏に対しては欧州連合(EU)を不安定化させているとして責めている。

6.欧州の連帯はかねて過大評価されてきた。しかし今や、お互いの利益が自国の利益になるという理解さえ失われつつある。

7.東欧の元共産主義諸国は難民について一切の責任を拒否しながら、西側の近隣諸国がプーチン氏の失地回復主義から自分たちを守ってくれることを望んでいる。

8.フランスは内々に、ウクライナ侵攻後にロシアに科された制裁の緩和を求めるイタリアの要請を支持。欧州各国はプーチン氏の思惑通り内部分裂し、自らを弱体化させているプーチン氏を利用している。

9.オバマ氏は欧州がこのように内部分裂していることを心配すべきだろう。EUは米国の安全保障があってこそ、常に団結できてきたのだということをオバマ氏に認識させる必要がある。欧州は腹立たしい同盟相手かもしれないが、欧州との同盟は米国の国益にとって重要だからだ。

以上の主張は英国の代表的な見解であろう。いかにも英国らしい独善かつ自己中心的な見方である。英国の伝統的行動パターン「困った時の米国頼み」という甘えと依存の態度が見苦しい。英国はオバマの反対を押し切って、中共が主宰するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に率先して加盟、流れをつくった主犯で、シティが中国人民元建て国債の発行を受託することになった。英国は同盟国や友好国の神経を逆なでしながら国益追求第1で動く。そして「困った時は米国に泣きつく」というのだから「馬鹿も休み休み言え」とオバマが一蹴しても誰も文句はいえまい。

欧州連合(EU)は東方への拡大戦略を推進、調子に乗って、旧ソ連共和国のウクライナやジョージアにも手をつけた。プーチンの警戒心を喚起しながら、プーチンに反撃されるとたちまち腰砕けになる。「米国に泣きつく」か、「プーチンは悪い奴」と非難して回る。「依存と他罰」だけで、自己反省が全くない。笑止千万というべきだろう。ロシアと戦争する気概もなく、ロシアと一戦交える準備もしないで、ロシアに喧嘩を仕掛けるというのだからお粗末過ぎる。

第3:米国のリバランス政策と欧州連合(EU)の崩壊

6月23日に行われる英国の国民投票において、残留派が勝利しても、離脱派が勝利しても欧州連合の崩壊は不可避であろう。シリア等からの難民や移民の大量流入がこれからも続くとすれば、EU加盟国間の対立がさらに激化、わずかに残っている細い絆が切れバラバラに分裂する以外にない。EU加盟国内で盛り上がっている反グローバリズム(ナショナリズム)の流れは水かさを増すことはあっても減ることはない。「プーチンの圧力」や「オバマの非協力」は欧州連合を瓦解させる要因の一つではあるが、主要な要因ではない。古来「帝国は外敵によって滅ぼされるのではなく自壊する」といわれている。

オバマ大統領は「米国は世界の警察官ではない」と語った。米国の軍事・外交の重心を東アジア(太平洋)に移す(リバランス政策)と表明。ヨーロッパの問題はヨーロッパ各国が、中東の問題は中東各国が責任を持って処理すべきであるとする戦略転換だ。米国は軍事力の60%を太平洋と東アジア地域に配置換えするとの計画を実行段階に移した。在日米軍基地を母港とする米第7艦隊は空母機動部隊1と攻撃型原潜数隻を加え戦力がさらに強化された。

米国は死守すべき防衛ラインを「太平洋・インド洋・東アジア」に絞り込んだ。朝鮮戦争勃発直前、米アチソン国務長官が表明した(うっかり発言?)「アチソン・ライン」が復活。米国は英仏に調略されて45年間も、ソ連軍の西欧侵攻の防波堤役(盾)を担わされてきた。中東ではイスラエルを守護する仕事を70年間も務め上げてきた。結果、米国は国益に直結しない遠隔地の戦場で数百兆円の軍事費を浪費し、数万人の若い兵士の血を流してきたが、何の見返りもなかった。働き損のくたびれ儲けであった。

英国は今でも米国の宗主国と自認しているのか、「英国が困った時は米国は応援に駆けつける義務がある」と信じているらしい雰囲気なのだ。「親は親らしい事はできないが、子供は子供らしく親孝行に励むべし」という感じなのだ。そして、米国が「不関与主義」の冷淡な態度に出ると、「米国の孤立主義が復活した」と言って大騒ぎする。結果、米国はあたかも泣き叫ぶ赤ん坊をあやすかの如く、英国の面倒をみるから、英国の甘え癖が治らない。「赤ん坊(英国)と母親(米国)」の倒錯した関係もまもなく終わる。米国の足腰も弱り、英仏を監護し甘やかす余裕がなくなった。

第4:ロシアはシリアの泥沼から足抜けできない?

プーチンはアサド政権軍に軍事顧問団を1000人程度派遣、地対空ミサイル等の武器を供与してアサド政権の崩壊を食い止めてきた。アサド政権をロシアの傀儡政権とした上で、反政府軍勢力地域を無差別に空爆してアサド政権の支配地拡大を支援してきた。この方式は米国が行った南ベトナムへの軍事介入やソ連が行ったアフガン戦争への介入を彷彿とさせるものだ。軍事支援が傀儡政権軍を支え、支配地を拡大させることに役立つが、反政府勢力が徐々に軍事力を回復しゲリラ闘争を激化させるから、軍事支援のレベルを引き上げざるを得なくなる。最終的には地上軍を派遣してゲリラ掃討作戦を行うが、持久戦に持ち込まれ、戦力を消耗し国力を疲弊させて撤退に追い込まれる。戦力の逐次投入という最悪のパターンとなる。

しかも、ロシアはウクライナ東部戦線とシリア戦線という二正面作戦を戦っている。加えて、ロシアの財政は原油価格の暴落によって国家予算を組むことも困難とされているほか、通貨ルーブルの暴落によってインフレが加速し国民生活を直撃している。ロシア経済の窮状を見ると「戦争している場合か?」ということになる。プーチン大帝は顔色一つ変えず強気に振る舞っているが、内心では相当困っているはずだ。ロシアがデフォルトに追い込まれる前に、シリアとウクライナ問題を解決したいと考えているはずだ。プーチンがいつまで耐久レースを続けることができるか?世界は固唾を飲んで見守っている。戦争を始めることは簡単だが、終わらせることは至難の業だ。

現在、クリミア半島を強奪し、ウクライナ東南部に義勇兵を派遣してウクライナ政府に圧力をかけ続けているロシアと、ロシアに経済制裁を始めとする経済戦争を仕掛けロシア経済の崩壊を狙っている米国という仇敵同士の外相がシリア内戦の落とし所を見出すべく交渉を繰り返している。しかし、シリアの内戦はシリアの国内諸勢力間の戦争から米国・ロシア・サウジ・トルコ・イスラエル・イラン・ヒズボラ・クルド等周辺国・諸勢力を巻き込んだ世界戦争である。力の衰えた米国とロシアだけで休戦協定に合意しても、これが遵守される保障は全くない。シリアの内戦は関係国の利益が相反し、錯綜しているから一時的な休戦協定を締結することができても恒久的な停戦協定を締結することはほぼ不可能。現在進行中の経済恐慌による関係国や武装集団の盛衰等地政学的大変動によって地域の環境が一変する等の好機が訪れるのを待つしかあるまい。それまでは消耗戦が延々と続く。

まとめ

オバマ大統領は(国外・国内から)「弱腰で国際問題に介入しないため、世界情勢が手に負えなくなるのを許してしまった。」と非難されている。右派のサラ・ベイリン氏はオバマのことを「最高降伏指揮官」と呼んだ。(以上、21日付け日本経済新聞が翻訳し引用した英FT紙のコラムニストギデオン・ラックマンの記事から抜粋)

しかし「弱腰大統領」と非難されながら、「弱腰を貫く」のは凡人ではない。誰もが真似のできることではない。オバマには「弱腰に徹する」との固い信念があるとみなければならない。

オバマは米国政界多数派の意見を無視してキューバとの国交回復の道を切り開いた。そして、イランとの関係改善も、同盟国イスラエルやサウジアラビア等湾岸諸国の反対を押し切って断行した。ミャンマーの民主化を実現させたこともある。インド・ベトナム・フィリピン・韓国との関係改善にも注力。関係団体や与党民主党の反対を押し切って環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を妥結に持ち込んだ。これらはすべて「環中国同盟の結成」を展望した一連の動きとみなすことができる。オバマの対中経済・外交戦争は「リバランス政策」への転換で始まった。

善意に解釈すると、オバマ大統領は罵詈雑言の非難を浴びせられながら、その屈辱に耐え、「米大統領として、今やるべき事をやっている」のであろう。米国覇権を脅かす2番手は絶対許さないと。

米国の国益にとって、ウクライナ問題やシリア・イラク問題は優先順位が高いとは見られていない。したがって、イラクとシリアに軍事顧問団数千人と特殊部隊員数百人を送り込み、財政支援を増やす程度でお茶を濁しているのだ。おそらく、オバマ大統領は「なぜ?、自助自立の精神が欠落しているヨーロッパを守ってやらねばならないのか?」、「なぜ?、米国の権益もそれほど残っていない中東地域の紛争に、何十年も関与し続けるのか?」と感じているに相違ない。「米国は世界の警察官でもないのに、なぜ?莫大な予算を注ぎこみ、米国の若者の血を流し続ける必要があるのか?」と。

覇権国家米国を失った世界は秩序の再編過程にあって混乱しているが、オバマは米国の大統領としては職責(国益第1)を立派に果たしているのだろう。オバマの後継者が誰になっても、米国民の内向き志向(不関与政策)の流れが変わることはない。米国から一方的なサービスを受けることのできる時代は終わった。善意を期待し、口を開けて待っていると米国が餌を与えてくれる時代は去った。米国もまた「ギブ&テイク」を重視する普通の国家になった。

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