プロ雀士吉田光太の横向き激闘記

最高位戦日本プロ麻雀協会 吉田光太のblog。

暴走族の男(掘法-第68話-  雀豪列伝[1]

 波乱の物語から始まった麻雀人生。

 私はその後、五年間あの場所で麻雀を打ち尽くした。
 そして牌は一生握らないと決めて、上京をし法律事務所に就職した。


 紆余曲折あり、結局いまも麻雀三昧の毎日だが。


 そんなある日、パソコンを開くと「拝啓 吉田光太様」というメールが届いていた。
 

 イタズラ? はたまた迷惑メールだろうか。
 私はblogの片隅に自身のメールアドレスを掲載していた事を忘れていた。



 差出人と本文をチェックすると、あの佐々木からだった。

 



「貴方のblogを偶然見ました。
 遠い昔にほんの少しの間、すれ違っただけの者なので忘れていると思いますが。

 貴方があの時期、そんな真剣な気持ちで麻雀を打っていたのかと思うと、気づいてやれなかったもどかしさ、自分を恥じる想いがあります。

 今更ですが、貴方に対する尊敬の念で、いてもたってもいられなく筆をとりました」




 薄れていた記憶が鮮明に蘇る。


 麻雀は、人と人を繋げてくれる。
 現代社会のインターネットも凄い力を持っている。



 “あの日”から実に20年が経過している。



 やんちゃだった“センパイ”も大人になり、私も何とか麻雀打ちを続けている。
 万感の思いが込み上げてきた。



 だが、そういえば私にはダブルリーチの真相を聞く権利があるのだ。
 佐々木がかけたダブリーがノーテンリーチだったのか否か。



[南一局 親・佐々木  ドラ  四萬 ]

  五萬赤横   (ダブルリーチ)



  [ 西家 私の手牌 ]


 一索三索五索赤八索八索四筒六筒南南北北白白   ツモ  二筒




blog「暴走族の男 第8話 疑惑のノーテンリーチ」 
http://blog.livedoor.jp/golden_arm/archives/52111419.html


「まあ、お前が何だっけ、麻雀でずっと? 十年か二十年だか、そのぐらい持ったらそん時は教えてやるよ」




 だが、それには触れず、私は御礼だけを返してパソコンを閉じた。




 答えは、もうあの時に出ているからね。




 fin.

暴走族の男(掘法-第67話-  雀豪列伝[1]

 反町は金が理由で飛んだ。

 元・銀行員と偽っていた反町。
 東京での仕事も、嫁の事も“吹かし”だったのだろう。


 殺人前科のある関根は、前々からウチの客が新しく開く麻雀店から引き抜きを受けていたらしい。

 主任の安岡はある犯罪を犯してパクられた。

 
 そして、暴走族上がりの佐々木は…。
 この世界に見限りをつけたのだろう。
 


 六萬:麻雀王国六萬:麻雀王国七萬:麻雀王国七萬:麻雀王国八萬:麻雀王国五索:麻雀王国五索赤:麻雀王国六索:麻雀王国七索:麻雀王国八索:麻雀王国六筒:麻雀王国七筒:麻雀王国八筒:麻雀王国   リーチ


 こんな手が下手の横好きの親爺のクソ待ちに負けることだってある。
 美しい手牌のときほど、負けることが多い気がする。


 揺れない心を培ってきた心算だ。
 感情的になった時点で、勝負師ではない。


 麻雀の待ちに、状態に、他人に多くを求めてはいけない。



 暗く陽の届かない場所で、勝手に私が麻雀打ちを気取っていただけだ。
 道を外した自分を否定するのが嫌で、この世界と繋がりを美化しようとしていた。



 他に自身の日々を納得させる“理由”が無かっただけだ。


 
 この日を境に、私は麻雀の鬼になることを決めた。


「信じられるのは、自分の右腕だけ…」



 それでも長い時が経った今でも、先輩たちに良くしてもらった事。
 


 そして、熱く麻雀を打った日々を忘れる事だけは無い。




 fin.

暴走族の男(掘法-第66話-  雀豪列伝[1]

 私の携帯電話に空しくコール音が響き渡る。

 一体どうしたというんだ。
 バックヤードで苛立ちを隠せない私に、マネージャーの小島が声をかけてきた。


 主任の安岡と共に、歌舞伎町から流れてきた小島。
 白髪のオールバックが似合う古い遊び人だ。


 私は少し躊躇した。
 しかし小島になら話しても良いと思い、元銀行員・反町の件を説明した。


 腕を組みながら話を聞いていた小島が、落ち着いた声色で言う。


「あのな、吉田。反町が飛んだかどうかは俺も知らん。だがな…」


 私に気を使っている含みが見れたので、頷いて続きを待った。


「そもそも、アイツは銀行員なんかじゃないからな。そんな“カタり”を信じてるのは、お前だけだよ」


「え……」

 小島は決して馬鹿にしたような口調ではなく、スマンなという表情で言ってきた。
 



「勝負の世界で信じられるのは自分だけ…」


 マンション麻雀で会ったゲン爺の台詞が脳裏を去来する。





 その日の内に、安岡と関根、そして佐々木が飛んだ。




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暴走族の男(掘法-第65話-  雀豪列伝[1]

 佐々木が飛んだ反町の様子を見に行く、お前は店に戻って待機しててくれ。
 15分後に電話をかける、と言ってきた。


 動揺していた私はその言葉に従う。
 現場のスタッフに言い訳をして、バックヤードで時間を待った。


 反町に何か逼迫した事情があるなら、私たちが力になる。
 仲間じゃないか。


 金…。
 私は働きだしてから貯めていた僅かな貯金額を頭に浮かべた。

 投げても良い…。皆も同じ思いのはずだ。



 何百回と聞いた店内のラストコールがまるで他人事のように響き渡る。
 30分が経ったが、まだ佐々木から着信はない。


 店から寮までは車で五分だ。



 つっ、と頭の中に一筋の読みが走る。
 先刻の麻雀のように全てを反芻した。


 佐々木は“15分後に電話をする”、と言ったのだ。
 渋滞や、寮で何か起こっていることも考えられるが、おかしくないか?


 こんな事は一度もない。


 震える手で、私は携帯のリダイヤルを押した。






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暴走族の男 -第64話-  雀豪列伝[1]

<南二局 北家 ドラ 三筒:麻雀王国

三筒:麻雀王国三筒:麻雀王国三筒:麻雀王国六筒:麻雀王国六筒:麻雀王国六筒:麻雀王国四索:麻雀王国四索:麻雀王国五索:麻雀王国五索:麻雀王国二萬:麻雀王国四萬:麻雀王国九萬:麻雀王国九萬:麻雀王国


トップ目の北家でこんな手だった。


 場に 四索:麻雀王国五索:麻雀王国 は一枚切れ。


親 
一筒:麻雀王国中:麻雀王国白:麻雀王国四索:麻雀王国二萬:麻雀王国四萬:麻雀王国
西:麻雀王国四筒:麻雀王国西:麻雀王国


南家 
四筒:麻雀王国九萬:麻雀王国五索:麻雀王国七索:麻雀王国發:麻雀王国五萬:麻雀王国
南:麻雀王国九索:麻雀王国


西家 
二萬:麻雀王国四萬:麻雀王国六萬:麻雀王国九筒:麻雀王国東:麻雀王国二筒:麻雀王国
五筒:麻雀王国八筒:麻雀王国
 
 

 いつものように、各人の手出しを反芻して頭の中で呟く。

 南家は123の三色。
 ドラの 三筒:麻雀王国 が埋まっているだろうか。


 初手の切り出しをみると、 一筒:麻雀王国二筒:麻雀王国 の形が濃厚だ。

 上家はソーズの一色と思っていたが、一枚切れの 東:麻雀王国 の後に 二筒:麻雀王国 を手出ししてきた。

 私にドラの 三筒:麻雀王国 が暗刻なので、一筒:麻雀王国 がトイツか暗刻かもしれない。
 一色ではなく、トイツ系の手も考えられる。


 下家の親は少考して、西:麻雀王国 をトイツ落とし。 合間の 四筒:麻雀王国 をツモ切れる、ということはドラ周りはスッキリしていそうだ。

 上目のイーシャンテンか、三筒:麻雀王国六筒:麻雀王国 受けが残っているはずだ。


 “手役”を大事に捉える私は四暗刻を目指すべきだが…


 様々な要素を加味して、私は 五索:麻雀王国 を切り出した。


 そして、次巡にテンパイ。


<南二局 北家 ドラ 三筒:麻雀王国

三筒:麻雀王国三筒:麻雀王国三筒:麻雀王国六筒:麻雀王国六筒:麻雀王国六筒:麻雀王国四索:麻雀王国四索:麻雀王国五索:麻雀王国二萬:麻雀王国四萬:麻雀王国九萬:麻雀王国九萬:麻雀王国 ツモ 三索:麻雀王国



 親の佐々木は上目の可能性もあるが、第一打目が 一筒:麻雀王国 だ。
 “ドラの 三筒:麻雀王国 が無い可能性が高い”のに、 一筒:麻雀王国 から切ってきた。


 二筒:麻雀王国四筒:麻雀王国 や、 四筒:麻雀王国五筒:麻雀王国 という持ち方の可能性が高い。


 三筒:麻雀王国 六筒:麻雀王国 は殺せているかもしれない。追いかけられて酷いことになるリスクは少ないだろう。



 嵌張でリーチをかけた私の一発自摸は 三萬:麻雀王国 だった。



 未熟ながらも上手く行った手に得意顔になる。


 卓を抜けた佐々木に講釈を垂れた。



「オマエの記憶力と計算はコンピューターみたいだな」


 いつもそう言って、はやし立ててくれた。


 だが、佐々木の体幹や博打感はそれに劣らず優秀で、いつも勝った負けたを競い合っていた。



 こんな日常が、急に壊れることがあるだろうか。
 それがある、のがこの世界だ。



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暴走族の男 -第63話-  雀豪列伝[1]

 物語の終焉が始まる。
 勝負の世界で理不尽なこと、不条理をたくさん味わった。

 それを“負”と捉えるならば、この世界から抜け出せば良い。
 極めて単純なことだ…


 胸騒ぎ、は全く無かった。
 感性や勘を磨いているなどと自負していても、実際には役に立たない。



 いつもの仕事終わり。
 私の携帯に、オーナーから電話が入る。

 記憶している限りでは初めての事だった。


 佐々木と牛丼を喰い始めたところだ。
 田舎のこんな街では、朝方の仕事終わりにやっている店は牛丼屋かファミレスしかない。


 メンバー業の七不思議の一つ。
 徹夜明けで眠いのに、どうにも離れがたい同士とはいつも行動を共にする。



「珍しいですね。どうかしましたか?」


 オーナーが切迫した声色で返す。


「反町が、飛んだ…」



 元・銀行員の反町が!?


 鬼塚が消えて、人手の問題もある。
 海千山千のクセ者が集う中で、私が唯一尊敬をしている人物だ。


 たまたま、出勤日を勘違いしているだけだろう。
 何かの手違いだ。


 ましてや、つい昨日も寮で同じ釜のメシを食って結束を高めたところだ。
 

 先輩、上司、兄貴分…
 共に働くセンパイ達には、家族のような絆もある。



 耳を疑ったが、反町は東京から都落ちをしてきた男でもある。
 よんどころのない緊急事態によっては、その可能性も考えられなくはない。


 佐々木にその旨を伝えると、とりあえず寮に向かおうという話になった。





 そう、私はこの時点で異変に気付くべきだった。



 “佐々木にではなく、私の方へ直に連絡が来たこと”を…





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暴走族の男 -第62話-  雀豪列伝[1]

<東一局 南家 ドラ 一筒:麻雀王国


 三索:麻雀王国三索:麻雀王国四索:麻雀王国五索:麻雀王国五索:麻雀王国六索:麻雀王国七索:麻雀王国八索:麻雀王国一萬:麻雀王国二萬:麻雀王国三萬:麻雀王国一筒:麻雀王国二筒:麻雀王国三筒:麻雀王国
 


<北家 リーチ>

六萬:麻雀王国七筒:麻雀王国七索:麻雀王国九筒:麻雀王国七索:麻雀王国四萬:麻雀王国
一索横:麻雀王国  リーチ


 北家のリーチ、下目の牌が“臭い”。
 あらかたのスジが通ったが、私の待ちとしては 二索:麻雀王国五索:麻雀王国八索:麻雀王国 がバツグンな状況だった。


 少考して、通っていない 三索:麻雀王国 の方を切って追いかけリーチをかけた…



 自分のアガリが見えた時は、放銃の危険度よりもアガリ率を追求すべきだろう。

 麻雀は観戦者が口出しをして良いものではない。
 ましてや酒のツマミにされることなど許せない。


 激昂したオザキだが、一応、ゲームが終わるまで待ってくれた。
 待ち客に席を譲り、店外に連れ出される。



「さっきの口の利き方はなんだよ!」


 ラークを吸いながらオザキが詰め寄ってくる。

 私もキレていたが、頭の中で算盤をはじく。
 身の安全、店のこと…。まぁ、折れるしかないだろう。


「言い方が悪かったのは謝ります。でも、アレは無いでしょう」


「俺はオマエのこと、嫌いじゃねぇんだ。でも、あんな態度は許せないな」


 今すぐに手を出してくる感じではなかった。
 言葉と態度での恫喝が続く。


 店の階段で押し問答を繰り返す。
 トラブルはいつだって時間がかかるものだ。

 
 本当に事務所に連れていかれるのか? そもそも事務所って何だよ。
 こんな田舎じゃ私の実家などすぐにバレる。

 怖いな…内心はビビッていたが、勝負を冒涜する行為だけは許せない。



 すると、オザキのセット面子の一人が顔を出した。
 店でも一番のやからの風体をした、30前後の目つきの鋭いミカミという男だ。


 
 オザキもミカミも普段は私を可愛がってくれている。


「おいおい、オザキ。俺らのマスコットの光ちゃんを苛めるなよ。セットも終わったから飲みに行こうぜ」、とオザキを取り成してくれる。



 オザキは誰もが分かりやすい怖さがある。
 だが、ミカミは…


 後で耳にした、とういうか新聞記事に載ったミカミは“本職”のそれ、だった。




 オザキも着地点を探していたのだろう。
 不良の格、でもミカミが上のように見える。


 蟀谷に青筋を立てていたオザキだが、ミカミの言葉に従って退いてくれた。


 ミカミが気にすんなよ、とウィンクをして、一同で店を去る。
 そして戻って来たミカミは私を朝方、サウナに連れていってくれた。



 佐々木が言った一般の学生の道に進めば、こんな面倒ごとは無いだろう。
 “普通”の青春、ってやつも謳歌できる。


 だが、私は無色の世界よりも、色の有る世界に生きたかった。
 自分と同じかそれ以上に麻雀を愛する強敵手たちに、この世界で出会いたいのだ。



 
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暴走族の男 -第61話-  雀豪列伝[1]

 真剣に話すとき、人の瞳は黒くなる。
 根拠はないが、そんな気がする。


「オマエの将来のため、と言っても聞いてはくれないだろう」


 黒目の佐々木が言ってきた。


「なら、“オマエの家族と、麻雀のために”考えてみてくれよ」



 
 俺は、どうなろうが構わない。
 どう思われてもだ。

 だが、親が世間に対して恥ずかしい思いをするのは俺も悔しい。


 大事に育てて教育をした長男が、将来のことを考えずに麻雀店で下働きをしているのだ。
 牌に生きる、といえば格好良いが世間から見たら穀潰しだろう。


 感情などとうに捨てたはずなのに、胃の奥が熱くなる。



「考えておきます。すみません」


 点数をつけたら20点の回答だ。
 こんな社会落伍者たちに説き伏せられるのも悔しい。

 だが、佐々木は…
 本気で言ってくれているのが私にも判る。


 この答えは翌日に保留した。



<東一局 南家 ドラ 一筒:麻雀王国


 三索:麻雀王国三索:麻雀王国四索:麻雀王国五索:麻雀王国五索:麻雀王国六索:麻雀王国七索:麻雀王国八索:麻雀王国一萬:麻雀王国二萬:麻雀王国三萬:麻雀王国一筒:麻雀王国二筒:麻雀王国三筒:麻雀王国
 


<北家 リーチ>

六萬:麻雀王国七筒:麻雀王国七索:麻雀王国九筒:麻雀王国七索:麻雀王国四萬:麻雀王国
一索横:麻雀王国  リーチ


 北家のリーチ、下目の牌が“臭い”。
 あらかたのスジが通ったが、私の待ちとしては 二索:麻雀王国五索:麻雀王国八索:麻雀王国 がバツグンな状況だった。


 少考して、通っていない 三索:麻雀王国 の方を切って追いかけリーチをかけた。


 すぐに親の切った 八索:麻雀王国 でロンする。


 すると、背後で観戦をしていたチンピラが口を挟んだ。


「危ねぇ選択だな。たまたま勝てて良かったな」



 20代後半の色男…名はオザキという。

 元は新宿でホストをやっていたらしい。
 歌手の氷室京介さんのように細身で、擦れた雰囲気を醸し出している。

 なるほど、昔は売れっ子だったのだろう。



 普段はフリーの客だが、この日はフリー客の中でも“とっぽい”奴らでセットをしていた。
 酒が入った抜け番の此奴が、私の打つ卓の後ろに陣取って講釈を垂れてきた。


「今のは、こうだろう」


 後ろ見をしている者が麻雀に口を出すのはご法度だ。
 だが、普段の彼はフリーの良客であるし、私を可愛がってくれていた。


 適当にあしらう。


 しかし、悪ノリが過ぎた彼が行き過ぎた口出しをする。
 メンバーの仕事中である私は横槍を流していたが、さらに口を出してきた。



「オザキさん、口を挟まないでくださいよ…。てゆうか、五月蠅ぇんだけど!」



 自分でも驚くほどの声量で怒鳴ってしまった。
 ヤバイと思いつつも、後には引けない。


 酩酊状態のオザキも席を立つ。


「あぁん? テメえ、事務所に連れてくぞ!」


 
 面倒ごとが起こった。




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暴走族の男(掘法-第60話-  雀豪列伝[1]

 いつもの日常が始まる。

 麻雀を打って、給料を貰い、最初は嫌いだった先輩たちとアソぶ日々。
 牌のひじりを目指してこの道を選んだ私だが、今はだらしないこの先輩たちに絆を感じ始めていた。


 いや、この日は日常ではない。
 私と佐々木が言い争いになった。


 “マル”になった店内で、暴走族上がりの佐々木が素っ頓狂なことを話し始める。


「市内の法律専門学校でな、中央大学の法学部の卒業資格を取るコースがあるんだとよ。学士の習得は困難だが、チャレンジする価値はあるんじゃねぇか?」


「何のギャグです…?」


 ご丁寧に学校のパンフレットまで用意してきた佐々木に突っかかる。


 青二才の私でも、意図を汲み取ることはできた。
 
 言いたいことは理解できる。
 私の将来を心配しているのだろう。


 感謝の気持ちと同時に、寂しさを感じたのを覚えている。


「オメェはよぉ、やっぱり俺たちとは違うんだよ…」
 苦々しい表情で佐々木が言う。


 だが、出会った時の佐々木はこう断言した。
「お前もすぐに染まるよ、この世界にな」、と。
 


 週7で徹夜の麻雀を打ち、この界隈では少しだけ恐れられる打ち手になった。
 アングラカジノ、キャバクラ、スロット、違法ゲーム、全て先輩達が教えてくれたことだ。



 麻雀を打っていると、“先のことを考えるのが酷く億劫”になる。
 

 愉快な仲間、すぐ手が届く娯楽、堕落、今のルーズな生活。



 反発の意味も込めて、私は初めて佐々木にタメ口を利いた。


「あまり、嬉しくはない気遣いだね…」



 セッターを吸い、少し迷いながら佐々木が返してくる。


「育ちとか、人としての凛、ってわけじゃないんだがな。柔軟に考えてくれよ。アノ高校の卒業生で、こんな生活を送る奴はいないだろう」



 アンタも同じ高校の出身…。
 自身に対する迷いを私に投影しているのだろうか。


 先述の通り、嬉しくもあり、おせっかいな提案だ。


 勉強もそうだし、物の読み書きなんて、もう4〜5年はやっていない。
 センパイが思うほど、俺はもう“普通”ではないんだ。


 コレで生きていく。もうすっかり染まっちまってるよ…



 高卒で就職をせず、進学もしなかった私だ。
 カタギの道で日を浴びることなど無いだろう。


 
 逆転の方法など無い。
 別にしたくもない。この場所で一生麻雀を打って、鬼になって、それでいいや。



 だが、佐々木が意外なほど真面目な表情で言葉を足した。




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暴走族の男(掘法-第59話-  雀豪列伝[1]

 スロットで大勝した翌日の仕事終わり、私は佐々木に一軒のゲームセンターに連れて来られた。

 
 プレハブ建ての小さな建物。
 ゲーセンにありがちな装飾ネオンは無い。


 店に入ると、ゲームの筐体が20台ほど。
 しかし、店内は無人でその全てが麻雀の台という異様さに目をみはった。


 佐々木がセルフサービスのお茶を淹れ、顎で促す。

「好きな台をやれよ。お前の得意分野だ」



 流行りのグラフィカルな麻雀ゲームとは異なり、牌を切り集めるだけの平坦な二人麻雀のゲーム機である。「かぐや姫」という台だった。
 

 1クレジットは概ね100円からで、満貫は10点と和了に応じた配当が定められている。


「いまさら麻雀のゲームをやって、何が面白いの…?」


 そんな私の表情を見透かして、佐々木が言う。


「役満は100点。後は懸賞役と、ダブルベッドで資金を増やせ」


 ははぁ、なるほど…
 アングラカジノの経験もある。そういう事なのだろう。



 佐々木によるとこのゲームは機械割が決まっており、「アガれる時は何でもアガれるが、アガれない局は何面張でもダメ」、「客が入れたクレジットの○○%しか出ないようになっている」、とのことらしい。


 1〜2時間遊んだが、高い手をアガることが出来ない。
 二人麻雀の相手のCPUが強すぎるのだ。




 何度目かの両替で財布はめっきり薄くなっていた。
 


 私の弾丸が尽きかけたとき、突如チャンスが来た。
 八巡目にしてツモリ四暗刻を聴牌したのである。


 四萬:麻雀王国四萬:麻雀王国四萬:麻雀王国六萬:麻雀王国六萬:麻雀王国六萬:麻雀王国五筒:麻雀王国五筒赤:麻雀王国九索:麻雀王国九索:麻雀王国九索:麻雀王国西:麻雀王国西:麻雀王国 リーチ
 


 もはやベット数も大きい、役満をアガれば一気に取り戻せる。

 祈りを込めながらリーチをかけた、ツモはあと十回。
 高まる心を抑えることなく、一牌一牌ツモった。


 すると五回目ぐらいのツモで 五筒:麻雀王国 引き当てた。
 確かにツモアガリ牌である 五筒:麻雀王国 だった。


「あっ、あ――!!」


 昨今のそれと異なり、オートツモなんて機能は無かった。
 私はツモってきた牌を勢いあまって捨ててしまったのである。


 何たる大チョンボ。当然のごとくそのまま流局――。
 私は椅子から足を投げだし、負ける時はこんなもんかと虚空を見つめていた。

 ところが、まだやることがあった。


 このゲームには“ラストチャンス”と称してクレジットを追加することによって、海底牌を五枚引けるオプションがある。
 しかし、そこでアガリ牌を引けることはほとんど無く、過大投資の一因となりそうだ。


 私は仕方なくクレジットを追加した。
 もういくら投資しようと一緒なのである。


 機械割が決まっているという事は…、まだチャンスはあるかもしれない。



 自動的に次々と牌がめくられていく。


 二萬:麻雀王国 ! 二索:麻雀王国 ! 中:麻雀王国 ! 五筒:麻雀王国 !




五筒:麻雀王国 ?!」 
  

 四萬:麻雀王国四萬:麻雀王国四萬:麻雀王国六萬:麻雀王国六萬:麻雀王国六萬:麻雀王国五筒:麻雀王国五筒赤:麻雀王国九索:麻雀王国九索:麻雀王国九索:麻雀王国西:麻雀王国西:麻雀王国 ツモ 五筒:麻雀王国



 あわてて周囲を見渡すと、いつの間にか佐々木が背後に立っている。



「やっぱ引いたか、ラストチャンスでツモると思ったよ」

 噂はどうやら真実だったようだ。 



 

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吉田光太

吉田光太

最高位戦日本プロ麻雀協会


池袋「麻雀ひろばキングダム」
に居ます
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第1期オータムチャンピオンシップ 優勝
第7回 野口恭一郎賞 受賞
第10回モンド21杯準優勝
VS研究会 第7期、第8期連覇中


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