プロ雀士吉田光太の横向き激闘記

最高位戦日本プロ麻雀協会 吉田光太のblog。

暴走族の男 -第57話-  雀豪列伝[1]

 <東一局 北家 3巡目 ドラ 九萬:麻雀王国

 九萬:麻雀王国九萬:麻雀王国一筒:麻雀王国二筒:麻雀王国三筒:麻雀王国五筒:麻雀王国六筒:麻雀王国九筒:麻雀王国九筒:麻雀王国九索:麻雀王国九索:麻雀王国發:麻雀王国發:麻雀王国  ツモ 五筒:麻雀王国

 

 こんな手が来たとしてさ。


 麻雀はいつだって色んな選択肢が待ってくれている。


 ここから 五筒:麻雀王国 をツモ切っても良し、 六筒:麻雀王国 を打つ人も多そうだ。

 また、デキ面子の 三筒:麻雀王国 を切って、チートイツを狙うこともあるし、 九筒:麻雀王国 からポンをして行くことだってある。



 私と鬼塚はまだ18歳だ。
 身体も五体満足で毎日働ける。


 別に大層な理想を掲げている訳じゃない。
 ちょっとだけドロップアウトした人間がさ、ささやかな生き甲斐を求めているだけではないか。



 だが、世の中という“空”は思っていたほど広くはないようだ。


 現に、鬼塚はもう一つの選択しかない所まで追い詰められている。

 凶暴なものだと思っていたチーマーの鬼塚にも人生があり、一瞬だがこうして分かり合えた。
 今にも泣き崩れそうな彼の痛みが私にも伝わってくる。


 辛いはずだ。この先、ここでもっと夢を見たかっただろう。
 “分かる”よ。俺も同じだからな…



「それで、ドコへ――?」


 鬼塚はやや不安そうな目で私を見たが、答えてくれた。


「横浜に居る、昔のダチの所へ行くんだ」


「俺に話しても大丈夫なのか?」


「ああ、実はチームの仲間は理解をしてくれていて。吉田クンの所に詰め寄るような事はしない…」



 私は財布に入っていた五千円札を鬼塚の手に握らせた。
 そして、鬼塚は佐々木にも世話になったからと事情を話して、その夜に飛んだ。



 あの手牌が――


 五筒:麻雀王国五筒:麻雀王国九筒:麻雀王国九筒:麻雀王国      九萬:麻雀王国九萬横:麻雀王国九萬:麻雀王国 九索:麻雀王国九索:麻雀王国九索横:麻雀王国  發:麻雀王国發:麻雀王国發横:麻雀王国


 
 こんな手や、


 九萬:麻雀王国九萬:麻雀王国九萬:麻雀王国一筒:麻雀王国九筒:麻雀王国九筒:麻雀王国九筒:麻雀王国九索:麻雀王国九索:麻雀王国九索:麻雀王国發:麻雀王国發:麻雀王国發:麻雀王国



 もしかしたらこんな手になる事も、私たちの未来には待っているのかな……。




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*当物語はフィクションです

暴走族の男 -第56話-  雀豪列伝[1]

「あんな放銃、吉田クンらしくないな」


 卓を抜けた鬼塚が赤ラークを咥えながら言ってきた。

 私は下を向いて溜息をつく。


(南3局 南家 ドラ 四萬:麻雀王国


裏:麻雀王国裏:麻雀王国裏:麻雀王国裏:麻雀王国     五索横:麻雀王国六索:麻雀王国七索:麻雀王国  白:麻雀王国白:麻雀王国白横:麻雀王国  北:麻雀王国北:麻雀王国北横:麻雀王国


 「 二萬四萬中中 のテンパイ形に 中 を引いて、ドラの 四萬 単騎に。そこからホインツになる 九索 に待ち変えだよね…。上手くやられたよ」



 鬼塚とはここ最近、よく麻雀の話をする。

 初めはチーマーである彼の存在。そしてたまにやって来る彼の仲間達が怖かったが、今はもう慣れた。


 普段、先輩や大人のお客ばかりを相手にする私にとって同い歳の友人は貴重だ。
 仕事が休みの日などは、共に街に繰り出すようになっていた。

 不良という同じ匂いが心を許すのか、佐々木も鬼塚を可愛がっている。
 

 鬼塚は麻雀のキャリアの浅さを気にしてか、仕事中に私をよく“立てて”くれる。
 そして、熱心に麻雀の質問などもしてきてくれた。

 私は、「今日は一本取られたよ」と正直に言うことで彼が喜ぶかと思った。

 しかし、彼の表情が妙に暗い。


 どうかした? 私がそう尋ねると彼が口を開いた。


「実は、俺――。今週で飛ぼうと思ってるんだ。せっかく仲良くなれたのに残念なんだけど…」


 “飛ぶ”という行為。
 この時の私がまだ知る由はないが、麻雀店においては日常茶飯事だ。


 流れ者が多い世界である。様々な事情があるのだろう。
 
 また、もう一つに“アウト”という要因が大きい。
 その所為で店に借入があったり、出走金から抜いてからでないと先立つものもない。

 綺麗に退職する者の方が少ないのが実態だ。


 だが、鬼塚は実家暮らしだし、借金も無いはずだ。
 彼がポツリポツリと私に事情を話してくれた。


 ギャングチームに在籍する鬼塚。
 だが、それは若気の至りであり、もうチームを抜けて真面目に働きたいらしい。


 つい先日も――、鬼塚が疲れた表情で話す。


「対立するチームとの抗争のため、相手のたまり場に乗り込んだんだ。
 顔も知らない、恨みもない奴を全力で殴るんだぜ?」


 チームの全員でゲームセンターに殴り込んだと言う。


「その帰りに国道で追いつかれてさ、鉄パイプで頭を殴打されたんだ。
 もう、やってられねぇ」


 待て待て待て。
 喧嘩をしたくなければ行くなよ。何のためにするんだ?


 私が問い詰める。


――命令なんだ。とにかく暴れて、チームの名を上げろ。人数を増やすんだって。


「嫌ならチーム抜ければ良いのでは?」


――抜けるには、上の組織に30万円を支払う必要があるんだ…





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暴走族の男  -第55話-  雀豪列伝[1]

同僚の鬼塚が不穏な仕掛けを入れていた。

(南3局 南家 ドラ 四萬:麻雀王国


裏:麻雀王国裏:麻雀王国裏:麻雀王国裏:麻雀王国     五索横:麻雀王国六索:麻雀王国七索:麻雀王国  白:麻雀王国白:麻雀王国白横:麻雀王国  北:麻雀王国北:麻雀王国北横:麻雀王国


 捨て牌

 一索:麻雀王国一筒:麻雀王国二索:麻雀王国八筒:麻雀王国東:麻雀王国二萬:麻雀王国


 オタ風の 北:麻雀王国 をイチ鳴きし、すぐに場に出た 白:麻雀王国 をポン。

 そして 五索:麻雀王国 をやや躊躇しながらチーして、 手出し 二萬:麻雀王国 とした所だ。


 ソーズの一色には少し見えない。
 オタ風からポンということは、すぐに鳴けた 白:麻雀王国 の他に役牌をトイツか暗刻で持っていそうだ。


 場には ダブ 南:麻雀王国發:麻雀王国中:麻雀王国 が、いずれも顔を見せていない。



 私は役牌を掴まされており、大した手でもないので受けに回っていた。


 一萬:麻雀王国一萬:麻雀王国三萬:麻雀王国六萬:麻雀王国二筒:麻雀王国四筒:麻雀王国九筒:麻雀王国九筒:麻雀王国六索:麻雀王国東:麻雀王国南:麻雀王国西:麻雀王国中:麻雀王国



 親と西家が徐々に押してきている。
 むしろ終盤に向けて二人の安全牌を貯め込みたい。


 
 南家の鬼塚は所謂“チーマー”と呼ばれる不良で、金髪をオールバックにしている。
 顎にヒゲも蓄えており凶悪な風貌だ。

 
 私と同い歳で、学校は離れていたが、かなりのワルで有名だった。
 高校を中退して、ギャングチームに入っているという。

 私が入店した一ヶ月ほど後に彼もここで働き始めた。


 私のマークはまだ麻雀歴の浅い鬼塚の仕掛けよりも、親と西家に注がれていた。


 すると、二萬:麻雀王国 の手出し以降、ツモ切りを続けていた鬼塚が手中からドラの 四萬:麻雀王国 を切ってきた。


 
裏:麻雀王国裏:麻雀王国裏:麻雀王国裏:麻雀王国      五索横:麻雀王国六索:麻雀王国七索:麻雀王国  白:麻雀王国白:麻雀王国白横:麻雀王国  北:麻雀王国北:麻雀王国北横:麻雀王国


 捨て牌

 一索:麻雀王国一筒:麻雀王国二索:麻雀王国八筒:麻雀王国東:麻雀王国二萬:麻雀王国
 七筒:麻雀王国二索:麻雀王国一筒:麻雀王国四萬:麻雀王国



 注意力が散漫だった私は、将来親に危なくなりそうな 九索:麻雀王国 を切った。


 すると、鬼塚がバタッと手を倒す。


 九索:麻雀王国中:麻雀王国中:麻雀王国中:麻雀王国   ロン 九索:麻雀王国      五索横:麻雀王国六索:麻雀王国七索:麻雀王国  白:麻雀王国白:麻雀王国白横:麻雀王国  北:麻雀王国北:麻雀王国北横:麻雀王国



 あ、イケねっ――!


 私は鬼塚がマンズがシャンポンや上に変化したものだと思い込み、単騎の変化を忘れていた。
 全くの甘い一打である。



 客をご案内し、卓を抜けると鬼塚が喋りかけてきた。




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暴走族の男 -第54話-  雀豪列伝[1]

 朝方まで遊び回った私はその日の夜番のために、泥のように眠った。

 昼過ぎに目を覚ますと、携帯の着信ランプが光を帯びている。


 着信の履歴は昨夜会ったばかりの美女・リサ。
 それと、カジノのディーラーであるカザマからだった。
 

 昨日の今日で電話を寄越してきたということは、二人とも冷やかしではないようだ。


 私はすぐに電話を折り返さず、目覚めの珈琲を一杯飲んだ。
 カザマの夕べの言葉が頭をよぎる。


「お互いもうカタギの道って訳じゃないんだ。一緒に楽しく稼ごうぜ」


 もっともな言い分だ。
 誘ってくれたのは嬉しいし、アングラな世界ながら花を咲かそうとしている同世代のリサにもカザマにも私は人間的に好意を持った。
 

 だが、テーブルの上に置いた携帯を俯瞰しながら考えた。


 金は――、使ってしまえば無くなる。
 惚れてもいない女への渇きも、満たされればそれまでだ。


 だが、麻雀への“熱”はずっと変わらない気がする……。


 
 カンチャンやペンチャン、欲しい牌から埋まっていくアノ感覚。
 どれだけ負けていても、次の半荘へ向けて点棒を揃えていると湧いてくる勇気。



 夜の街に一歩を踏み出すのが怖かった、というのも本音だ。

 だが、この半年間、狂ったように麻雀に時間を捧げた。
 私はこの先も麻雀だけをやった方が良い気がした。
 

 
 私は二人に連絡をしなかった。
 店にももう二度と行かないと決めた。


 その二週間後――、カザマの店に手入れが入ったと人づてに聞いた。






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暴走族の男 -第53話-  雀豪列伝[1]

「条件があってな……。」

 カザマが私にカジノのディーラーになるための素質を語りだす。


「まず、博打に長けていることだな。客の心理や、店の売り上げも考えなきゃならん。そして、夜の時間に動ける奴だ」


 カザマがニヤリと口の端を上げて笑いかける。



「僕は別に、博打は得意じゃないですよ」

 私は一線を引きながら話を聞いた。


「そうかな? ずいぶん高いマンション麻雀で打ち子をやっていたそうじゃないか。それに、夜に時間も体も空いているんだろう?」


 確かに私は週に3日しか働いていない。
 だが、それは残りの4日間を麻雀に費やすためだ。


 必ず毎日毎日、寝ずにひたすらフリーかセットで打ち続ける。
 もう楽しいとか、麻雀が打ちたいといった感覚はない。

 しかし、他人から見たら遊んでいるのと一緒に見えるのだろう。
 

 カザマも最初は未経験で入り、講習を何度も受けてディーラーになれたのだという。



「吉田クンだったら飲み込みが早そうだし、客受けも良さそうだ。すぐにカードを配れるようになるぜ」

 カザマが上機嫌で続ける。


「それに、お互いもうカタギの道って訳じゃないんだ。一緒に楽しく稼ごうぜ。俺は先月フルで出勤して給料が50万円だったよ」


 50万円……! 主任の安岡の給料より多いのではないだろうか。
 
  

「いや、カザマさん大学は? 国立の三年か四年生でしょ」


「ああ、こっちで稼げるからもう辞めちまったよ。俺さ、ローンでスポーツカーを買ったから、今度見てくれよ」



 私といくつも違わないのに、羽振りの良い話だ。

 確かに、私も学校へ行ったり、就職をしたりという一般のレールからは外れてしまっている。
 どうせ稼ぐなら効率が良い方を選ぶべきだ……。



「な! 今度、電話をするから考えておいてくれよ。あ、番号」


 今日はよく携帯の番号を聞かれる日だ。



 夜の街――。
 そこは18歳の私にとって誘惑の坩堝だった。



 

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暴走族の男 -第52話-  雀豪列伝[1]

「この前は、珍しく勝たせてもらったな」

 カザマがグラスを磨きながら微笑する。


<南3局 東家 ドラ 二索:麻雀王国


 六索:麻雀王国五萬:麻雀王国北:麻雀王国南:麻雀王国八萬:麻雀王国七索:麻雀王国
 白:麻雀王国五索:麻雀王国四筒:麻雀王国發:麻雀王国五筒横:麻雀王国  リーチ



 私が局落としの仕掛けを入れて、手牌を短くしていた。
 すると、ラス目の彼からリーチが入る。


 私は安全牌に窮していた。
 候補としてはスジの 二筒:麻雀王国 か、 七筒:麻雀王国 ……。


 変則的な捨て牌なので、下の三色をケアして私は 七筒:麻雀王国 の方をソロリと河へ置いた。



「ロン――」
 
 
 
 
一筒:麻雀王国一筒:麻雀王国一筒:麻雀王国三筒:麻雀王国四筒:麻雀王国五筒赤:麻雀王国六筒:麻雀王国八筒:麻雀王国八筒:麻雀王国八筒:麻雀王国中:麻雀王国中:麻雀王国中:麻雀王国




 二筒:麻雀王国三筒:麻雀王国六筒:麻雀王国七筒:麻雀王国 待ちの四面張。


 四筒:麻雀王国 のスジも、 五筒:麻雀王国 のスジも通さないダブル引っ掛けの待ちだ。



 バーカウンターで、カザマと向かい合いながら私が呟く。



「あのリーチは、待ちが芸術的すぎるでしょ」


 私は苦笑いをして、そこから彼に連勝されたことを思い出した。



「アライさんも、よく遊びに来るんですか?」


 私は、いつの間にか安岡と肩を並べてバカラに興じているアライを指差した。


「ああ、そうだな。しょっちゅう来るよ。まあ、彼の場合は半分仕事も兼ねてるんだろう」


 仕事も? 私は首を傾げた。


「個人のブローカーだからな。こういった場や飲み屋なんかで顔を広げて、中古車の依頼を受けるんだ。そして、客の注文に合った車をオークションで仕入れて来るんだとさ」


 はあー、なるほど。世の中には私の知らないことばかりだ。
 確かにアライは雀荘の上客でもあるので、私も中古車を探すことがあったら、彼に相談をするだろう。


「それはそうと……。吉田君、カジノの仕事とか興味ないか? 今、ここでスタッフを探しているんだよ」


 私の興味はバカラよりもカザマの話に注がれ始めていた。


  



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暴走族の男 -第51話-  雀豪列伝[1]

 
 私は安岡に連れられてカジノへ来た。

 広い店内に二台大きなテーブルがあり、客とディーラーが勝負をしている。


 すると、雀荘で見たことがある人間が二人いた。

 
 ようっ、と言って私たちに笑顔を向けるアライという男。
 左利きで鮮やかな麻雀を打つ、ウチの店でも勝ち頭の客だ。

 確か、中古車のブローカーをやっているはずだ。


 そして、もう一人はバーカウンターの中で働いているカザマという青年。

 隣町の国立大学生のはずだが、どうやらここでバイトをしているようだ。
 カザマはサーファー風の茶髪で、学生にしては垢抜けた風貌だ。



「バカラをやろう。こっちがミニマムだ」


 ミニマム、おそらくレートのことだろう。
 安い方ということか。


「バカラ、っていうのはイタリア語で“ゼロ”を意味するんだ。まあ、日本でいうオイチョカブみたいなものだ。プレイヤーとバンカー、三枚のトランプの目の強い方を当てるんだ。」 


 私は安岡の説明を聞きながら賭けチップに手を下した。


 戦術やセオリーが判らないので、適当に流して張る。
 どうせ考えたところで丁半博打。確率は二分の一なのだ。


 安岡はどちらが勝ったか、出目のシートに毎回記録している。
 確率の偏りや、勝負所の波を読んでいるのだろう。



 そんな安岡が連続してバンカーで当てだして、目の前のチップがガシッ、ガシッと増えていく。

 その波に飲まれるように、私の二つ隣の中国人の客がアツくなり始めた。
 一気になくなったチップを補填するために、大声で中国語をまくし立てる。


 ここかな……。
 私はそう読んで、中国人の張りと全て逆の方にチップを置いた。
 
 バカラは素人だが、勝負事は毎日やっている。



 私の手元のチップが1.5倍ぐらいに増えた。

 だが、全く気が乗らない。
 チップが減るのも面白くないし、増えてもあまりアツくなれなかった。


 私は安岡を残して席を立ち、バーカウンターで飲み物を貰った。
 こういう所は食事も煙草も無料のようだ。



 すると、カザマが親しみを込めて喋りかけてきた。






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暴走族の男 -第50話-  雀豪列伝[1]

 夜、20時。
 私は安岡を迎えに寮へ向かった。
 
 部屋に着いてノックをするもなかなか返事はなく、安岡はまだ眠っていたようだ。
 シャワーを浴びるから待っていてくれという。


 夜番が飲みに行くときは、いつもこんな具合だ。


 身だしなみをバッチリ決めた安岡の後に従って、街に繰り出す。
 すると、一軒の小料理屋の前で立ち止まった。


「よし、ここで飲んでいくぞ」

「あれ? キャバクラへ行くんじゃないんですか?」


 首を傾げる私に安岡が渋い表情をする。


「いきなりキャバクラへ行って飲む奴がいるかよ。あそこはメシも無いし、まずは居酒屋で勢いをつけてから行くんだよ」


 初めてのことだらけ、というのは新鮮だ。
 
 小料理屋は安岡の顔馴染みの店らしく、カウンター席で大将と談笑をしながら飲んだ。


「おし、行くぞ!」


 安岡がしこたまビールを飲み、充電完了といった様子で店を出る。


 キャバクラのエレベーターで安岡が言ってきた。

「いいか、会計はいくらでもお前は5000円だけ払ってくれれば良いからな」



 エレベーターを降りると、ラウンジという言葉が似あう上品な店だった。


 安岡の隣に目当ての嬢がすぐやってきた。
 そして、こんなことを言う。


「今、ちょうどNO.1の子が空いたから、お兄さんの方につけてあげる」



 NO.1という嬢が私の隣に来た。
 一見して驚いたのは、その若さである。


 細身で、ラフな格好。確かに色白で綺麗な子だ。
 そして何よりも圧倒的に若い。


 NO1.というから、私は派手なドレスを着たお姉さんが来るものだと思っていた。


 お嬢は私の隣へドスンっと座った。
 かなり飲んでいるようだ。


「ようやく抜けられたー。すごく飲まされちゃって。私、リサって言います」


 私が曖昧に頷くと、リサが顔を寄せて聞いてきた。


「お兄さん、何歳? お父さんと来たの?」


 私は違う、上司に連れて来られた。
 歳は、たぶん君と同じぐらいだ、と答えた。


「そっか、そっか。じゃあ、リサと同じ18歳ぐらいだね」


 そう明るく返してくる。
 なるほど、おそらくポップな感じとその若さで店の人気者なのだろう。


 年齢が近いという親近感から、私は気を使わずに話すことが出来た。
 安岡の視線を忘れ、会話を楽しむ。


 しかし、リサはだいぶ酔いが回ってきたようだ。



「ねぇ、連絡先を教えてよ」


「別に良いけど、俺もうここには来ないから無駄になるよ」


 リサが口を尖らせながら聞いてくる。


「どうしてもう来ないのー」


「金が無い」


「じゃあ、お店じゃなくて外で遊べば良いじゃん。同じ歳なんだし」


 酩酊状態のリサが絡んできた。


「お金が無いなら、私がアナタの時間にお金を払うから遊ぼうよ」


「金が無いというのは、ここで遊ぶ金がないってだけだ」


 じゃあ、大丈夫だね、と言いリサが携帯電話を取り出した。
 まぁ、営業だろうなと思いつつ、私たちは電話番号を交換した。



 そして時間が来たようで、安岡に促されて席を立つ。



「吉田、付き合ってくれてありがとうな」


 安岡がエレベーターの中で言ってきた。


「いえ、いつもお世話になっていますから」


 キャバクラに抵抗はあったし、もう来ることはないが、安岡の役に立つならそれで良かった。
 今日は安岡と遊んだと思えば、それはそれで楽しい。


 私のそんな想いを知ってか知らずか、安岡が切り出してきた。


「もう一軒――、次はトランプ捲りに付き合ってくれ」





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暴走族の男 -第49話-  雀豪列伝[1]

「キャバクラへは行きません!」


 私は安岡の頼みを無下に断った。


「ナゼ?」


「行きたくないし、興味がないからです」


「そこを何とか頼むよ、吉田」


 安岡が手を願い事のようにかざして頼み込んでくる。


 18歳の私と、40代の安岡。
 普段、良くしてもらっているので、こうなるとキツい。


「関根さんか、反町さんと行けば良いじゃないですか。自分みたいなガキにはまだ早いですよ」


 そう答えたが、関根と反町はニヤニヤして私と安岡のやり取りを面白がって見ている。


「コイツらはなぁ、昨日つき合ってもらったんだ……」


「き、昨日……!? どうしてそんなに行きたいんですか?」


「狙っている子が居るからに決まってんだろ!」


 安岡がまた弱い表情で頼み込んで来る。
 いつも卓上で見せる暴君のような威厳はどこへ行ったのか。


「いやいや、でも高そうだし。嫌ですよ」


「お前、店に入ってから女と遊んだか? 毎日毎日、麻雀ばかりじゃ体に悪いぞ」


 
 言われてみれば、この半年ほど女性と会っていない。 
 というよりも、女性と会話をした記憶がない。

 毎日、家と雀荘の往復だけだ。
 ましてや、夜番の私が女と接する機会など皆無だ。


「でも、なんか嫌なものは嫌なのでお断りします! すみません」


「判った、判ったよ、吉田。じゃあ、こうしよう」


 何が判ったのか判らないが、安岡の力説は続く。
 “力説”とは、本当にこういうものなんだなと思った。


「次、ツー欠けのあそこの卓だ。1半荘の着順勝負で頼む」


「仕事中にサシ馬っすか……」


「あれ、なんだ? 吉田は真剣勝負の申し出を断る男だったかな?」




 勝負は途中まで私の圧勝だった。
 しかし、オーラスの安岡の親番。

 4000オール。4100オールと強引にツモられてマクられてしまった。


三萬:麻雀王国四萬:麻雀王国五萬赤:麻雀王国一筒:麻雀王国二筒:麻雀王国三筒:麻雀王国三筒:麻雀王国三筒:麻雀王国七筒:麻雀王国八筒:麻雀王国九筒:麻雀王国中:麻雀王国中:麻雀王国   リーチ・ツモ 中:麻雀王国





「じゃ、夜の20時に寮に起こしに来てくれ!」


 安岡は飛び切りの笑顔を私に向けて、帰宅していった。






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暴走族の男 -第48話-  雀豪列伝[1]

「ねぇ、センパイ――」


「なんだよ、後輩」


 深夜の店内で、最近よく来るようになった年配のアオキという客のことについて、尋ねてみた。


「言い辛いンですけど……。2卓で打っているアオキさんって、なぜカツラをしているのでしょうね?」



 見て判る他人の容姿を指摘するのは、とても失礼なことだ。
 
 
 歳をとれば禿げるのは普通だし、カツラを付ける人だって居るだろう。
 だから勿論そういう人には指摘をしないし、頭髪に関する話もしない。


 だが、アオキという客は店に入って麻雀を打ち始めると、長めの髪のカツラを取り外し、サイドテーブルに置いておくのだ。
 そして、帰りもそのままカツラを付けずに手に持って帰る。



 人前で付けないのならば、何のためのカツラだろう……?
 アオキはかなり年配なので、女性と遊びまわっている風にも見えない。


 あともう一つ、凄く気になるのが……。


 アオキは皺くちゃの顔をしているのだが、瞳の黒目の色が異様に薄いのである。
 初回来店時にオシボリを差し出した私に会釈をしてくれた際、私は思わずマジマジと目を見てしまった。



「ああ、あの人か……」


 いつものように茶化してくるかと思ったが、佐々木が割と真面目な顔で灰を灰皿に落とす。



「オマエ、“にんぷだし”って知ってる?」


「に、にんぷ、だし??」


「そう、人夫出しな。日雇いの力仕事なんかを斡旋する手配師のこと」


 初めて聞く言葉だ。この男は社会の裏事情に本当に詳しい。


「早朝、駅や公園でその日の労働者を募って、そのままトラックに積んで行くんだ。まぁ、仕事にあぶれてる者や、ホームレスの人が職を求めに集まるわけだ」


 なるほど、人夫出しのことは判った。
 だが、カツラとどういう関係があるのだろう。


「手配師から仕事を貰えるのはごく一部でな。当然、若くて力のありそうな奴をピックアップして連れて行っちまう訳だ。アオキさんも仕事が欲しいんだろう。それで少しでも若く見えるために、カツラをしてんだよ」


 そのために、カツラを……。
 あくまでも想像だが、食事すら満足に取れずに、瞳にも精気がないのかもしれない。


 その日暮らしの生活……。
 私が打つ相手は、そういう世界の住人も居るのか。



「オメェはよ、そういった人たちの日銭を暴力的な麻雀で毎日奪ってるんだ。いつでも真剣にやれよ」


 
 私は思わず神妙な面持ちとなった。
 確かにその通りだ。


 厳しい持ち金で勝負している人も居る。
 だが、そういった大人たちは私に麻雀で裸に剥かれても、嫌みの一つすら言ってきたことがない。

 これが、麻雀。
 そして、打ち手同士の矜持――。



 私が佐々木の厳しい言葉を噛み締めていると、主任の安岡が卓から抜けてきた。

 185cmに90kgの屈強な体格。
 浅黒く焼けた肌に、ソフトなパンチパーマ。


 この辺りでは誰もが恐れをなす最強の打ち手の一人だ。
 その、歴戦の猛者が言ってきた。



「おい、吉田。いや、吉田くん。一生の頼みだから、明日、キャバクラに付き合ってくれよ」



 安岡が言い出した。





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第7回 野口恭一郎賞 受賞
第10回モンド21杯準優勝
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