プロ雀士吉田光太の横向き激闘記

最高位戦日本プロ麻雀協会 吉田光太のblog。

2007年03月

鬼神

 深夜二十六時――。
 客も散り散りとなった店のフロアに電話の呼び出し音が鳴り響いた。

「モシモシ――?」
「ちょっと!ウチの子、また行ってませんか!?」

 マネージャーが電話口に出ると、中年のご婦人とおぼしき女性が鼻息荒くまくし立ててきた。

 またか――。
 と、マネージャーはウンザリした顔で卓で打っている青年の方へと視線をやった。
 
 電話のやり取りに聞き耳を立てていたのか、金髪の青年は顔の前で指を交差して、頭を下げている。

「えっと、今はお見えになっていませんよ。昼は判りませんが」
「いつになったら出禁にしてくれるんですか!?アノ子には雀荘なんかに行って欲しくないんです!」
「いや、ですから何度も申し上げているとおり、こちらもやんわりとお断りしているんですがね。正直、お母さんからこういった電話を頂くのは営業にも差し支えがあるので……」
「とにかく、もうアソばせないで下さい。それでも、というならこちらも不本意ながら深夜営業していることを訴えますよ」
「いや、勘弁してくださいよ。こちらも迷惑しているんですから」


 受話器を置き、ジャーマネは一つ溜め息をついた。
 フリー雀荘にとって顧客は確かにかけがえの無い存在である。だが、それはあくまでも優良客若しくはトラブルの要因を抱えていない客に限った話だ。
 

 私よりも一つか二つ上だったその青年はどうやら良い所の坊ちゃんらしく、奔放に育てられてきたようだ。大学に行かせて貰うも授業には出ず、買い与えられた車と小遣いで夜な夜な遊びを繰り返していた。
 親も、酒や女といった遊びには寛容だったようだが、勝負事だけは頑なに禁じられていたらしい。

「雀荘通いだけ止めたら――?」
 いつか私はそんな風に諫言したことがあったが、彼にとっては雀荘が一番のお気に入りの場所らしい。
「何て言うかさ、格好良いじゃん。大人の社交場みたいで。みんなとも打ちたいしさ」
 と彼は云う。
 彼にとっては雀荘に通うことが一つのステータスであるようだ。


 そんな彼が、あるとき随分長いこと卓に座り続けていた。
 聞けばもう二日目の夜に突入しているという。

 オーラス。
 対面に座った私と彼の和了勝負だった。
 
 並びの良い配牌を手にした私は第一自摸で聴牌。

(南家 ドラ 三索


 二萬四萬六萬一筒三筒五筒五筒五筒赤五索五索七索八索九索   ツモ  三萬


 和了トップの局面だが、私は穴 二筒 待ちでダブリーをかけた。

 三着目のラス親と対面の彼が押してくる。
 だが、ラス親は今ひとつ手が伸び悩んだのか、途中から退き気味になった。
 流局、これ良しの私だが、残り三巡になっても彼の押しは止まらない。

 そして、残り一回のところで彼がリーチときた。
 聴牌さえしていれば聴牌料でトップだというのに。

 そして、気合もろとも一発で 一筒 を手繰り寄せたのである。


 一萬二萬三萬二筒二筒二筒三筒四筒五筒六筒七筒七筒七筒   ツモ一筒


 値段はリーのみだが、私の待ちを暗刻にしての八面張である(一筒四筒七筒 二筒五筒八筒 三筒六筒)。

「これなら、勝負に行くでしょう!」
 そんな台詞を言い終わらない内に、点棒を掻き集める彼の動きが急に止まった。
 雀荘の入り口を凝視したまま、何か恐ろしいモノでも見たような表情で口をぽかんと開けているのである。

 慌てて私が振り向くと、扉のところには中年の婦人が鬼神の形相で立っていた。
 
 婦人はマネージャーの制止を振り切って一気に卓まで詰め寄り、彼の頭を一叩き。
「アンタにはもう打たせん!!」
 そういって、サイドテーブルの籠に入った現金と彼の財布を持ち去ってしまったのである。


 必死で母君を追う彼を尻目に、私とマネージャーはただ顔を見合わせた。

 



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名言

 ほんの一瞬の気まぐれで、先打ちをしてしまった。

(東一局 西家 ドラ 四萬


六萬七萬八萬三筒四筒七筒七筒二索三索四索六索七索七索   ツモ  發


 自分がペースを握っているときは、分厚く構えた方が功を奏することが多い。
 だが、なまじ筒子と索子の二面が良すぎた。

 二筒 五筒五索 八索
 そのいずれも数巡以内に引ける感覚があった。

 どうせ横を引けるのだからという理由で、打 七索 とした。
 次巡、引く 四筒


 六萬七萬八萬三筒四筒七筒七筒二索三索四索六索七索發   ツモ  四筒


 七索 を先にリリースした以上、この牌を手に留めることは出来ない。
 そのまま河に放ると、下家の動きが止まった。

 私は祈るように目を瞑ったが、時すでに遅し。
 下家が逡巡しながら筒子の二面を開いた。


 裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏  四筒横五筒六筒


 私はもはや観念していた。
 これは、酷いことになる。

 案の定、 二筒 五筒 が三枚食い流れ、下家は有効牌を引いたのか忙しく手出しを繰り返す。
 そして、フィニッシュは赤牌で決められた。


 三萬四萬五萬赤五索五索六索六索六索八索八索   ツモ  五索赤  四筒横五筒六筒


 “覆水盆に返らず”とはよく言ったものである。
 ツキは私から下家に流れ、五連勝を飾られた。
 



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挽歌

 麻雀プロは手放しで喰える世界ではない。

 周知の通りだが、対局料や賞金だけで生計を立てて行くのは難しい。
 必然的に他に生業を持ったり、または学生や若い世代などのようにそれを考えなくて良い身分である必要がある。

 スター選手として活躍したり、長い間ストイックに打ち手として研鑽するモチベーションを保ち続けられる人間はほんの一握りだ。

 プロを続けたくとも仕事や家庭、または病気などといった理由で夢半ばにして業界を去る者も数少なくない。と言うよりも大半のプロが一人また一人とそうやって辞めていき、十年持つ選手など一割にも満たないのが現状である。
 要するに麻雀プロの世界に居続けるためには、資質と環境が必要なのである。

 
 先日も、また一人とあるプロが団体を去った。
 彼の人は私をプロの世界にいざなって呉れた人だった。

 卓上で凌ぎを削り、また卓から離れてはプロ像や団体について幾度も話をした。
 だが、彼の人と私の追い求める理想はまるで異なった。
 プロである以上、互いに頑ななまでの拘りがある。

 それでも共に夢を語らい、戦い、エールを送り、時に諍い、プロとして私にとって非常に大事な存在だった。


 同士の離脱は、正直ショックだった。
 進退について私自身も考えたりした。

 だが、私はもう少し追い求め続けたい。
 それは、茨の道かもしれないが。

 私は、数多くの“戦友”との出逢いをもたらしてくれるこのプロの世界を誇りに思う。

 



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忌憚

 トップと8700点差の二着目で迎えたオーラス。
 八巡目にラスト走者である下家がドラ牌を曲げてきた。


(南家 捨て牌 ドラ 五萬


北一筒九萬二索八筒白
三筒五萬横 リーチ


 一発目、親の私にも聴牌が入る。


 三萬三萬三萬六筒八筒八筒一索二索三索六索七索八索九索  五索

 
 一気通貫含みの聴牌。
八筒 が三枚見えており、リーチ者が 三筒 を捨てているので、余剰牌の 六筒 はワンチャンスだ。
 躊躇うことなく追っかけリーチと出る局面かもしれない。

 私は、点棒表示を検めた。
 三着目とは9200点差、そしてリーチをかけてきたラス目とは13000点差だった。

 下家のファイトスタイル、摸打、息遣いからしてある程度の打点の手であることが分かる。もし、ここでリー棒を出して下家に打つとラスまで落ちる可能性がある。
 また、静観するはずのない三着目も満貫出和了で二着になれる。

 ウマが2・4の東風戦。
 二着の比重がとても大きいルールだ。
 

 私は 八筒 を抜いて、オリた。
 ドラ跨ぎの 三萬 が打てず、イッツー目が崩れる可能性の高いシャンテン戻し。回ったという表現は適切ではないだろう。

 これでラス目がハネ満を自摸るか、三着目に満貫を自摸られない限り二着を確保できる。


 トップ目と二着目がオリ、三着目もあまり前に出てこない。
 私はもう 二索六索 といった牌も抜いている。
 局面は下家の一人旅となった。

 不意に、下家が 四索 を自摸切った。


 北一筒九萬二索八筒白
 三筒五萬横九萬六索七萬發
 二筒四索
 

 私は、ただ黙って手牌に視線を落とす。

 流局し、下家が手を開く。


 四萬五萬六萬四筒五筒五筒赤六筒六筒六索七索八索九索九索


「無い――」


 私が掴んだ牌の中に 四筒七筒 は無かった。


 ストライカーとして生きる人間が、和了逃しをするようでは商売上がったりだ。
 況してや――、今日まで培ってきた感性で退いたのではなく、理で選んでしまっている。


 私は大きく一つ息を吐き、天を仰いだ。 

 



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女傑

 女性は、強い。
 改めてそう思わされた瞬間だった。

 私の倍近く歳を召されているそのご婦人は、東風を四日三晩打ち続けた。
 その数、実に182半荘。


 高高、半日打ち通したぐらいで、疲れただの胃が痛いだのと。
 汗顔の至りである。

 もっと強くなろう。 

 



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体現

 「槓っ!!」

 七巡目、徐に下家がドラの 五筒 を四枚晒し出した。


 裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏   裏五筒赤五筒裏


 やや鼻孔を膨らませながら、下家が嶺上から引いた 五萬赤 を叩きつける。


 二萬二萬二萬五萬五萬二索二索二索五索赤五索   ツモ  五萬赤    裏五筒赤五筒裏

 
 ドラを暗槓してのオールスター四暗刻。
 あんぐりと開いた口を閉じ、点棒と祝儀の五千両を支払う。


 面子が入れ替わっての数半荘後。
 下家の青年が序盤に三元牌を二つ引っ掛けている。


 裏裏裏裏裏裏裏  發發横發 白白白横


 八巡目に 三萬 を手出しの後、対面から打たれた 一萬 にロンの声をかけた。


 一萬七索七索七索中中中   ロン  一萬    發發横發 白白白横


 
 日を同じくして、今度は私の手牌。
 
 八種八牌で始めた国士だったが、するりするりと有効牌を引き、六巡目には二向聴に辿り着いていた。


 五萬九萬二筒九筒一索九索東南西北白發中


 次巡、親リーチを受けたところで、すっぽりと 一萬 を引いてきた。


  五萬九萬二筒九筒一索九索東南西北白發中  一萬


 余剰牌はいずれもリーチに通っていないが、仕方無い。
 だって私の河には一枚も公九牌が並んでいないのだ。
 
 十三面張の一向聴ということは、安牌と成り得るような牌のストックが利かない。


 目を瞑って無スジを叩き切る。
 まだシャンテンだが、 一筒 ならば珠玉の十三面聴牌。また、どの公九牌を引いてきたって国士聴牌なのだから行くしかない。


 一萬九萬二筒九筒一索九索東南西北白發中


 だが、何とここから八巡ものあいだ公九牌を引くことが出来なかった。
 終盤にようやく聴牌を果たすも、何の道 一筒 は場に顔を見せず和了れずじまい。


 一萬一萬九萬九筒一索九索東南西北白發中


 私のは、未遂で終わった。

 しかし、いくら何でもここのところ私の周囲が役満付いている。
 私自身、サクっと和了れてしまう手が来そうな感はある。

 だが、それは同時に私の放銃の危機をも孕んでいるのかもしれない。

 



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布武

 そのチャンスは、実に八年ぶりに私の手元に舞い降りた。

 東一局、北家スタート。
 いつもよりも少しだけ忙しく理牌をした。

(北家 ドラ 一筒


二萬四萬五萬六萬七萬一筒二筒三筒三索四索五索八索八索


 あと――、二つ。
 “天和”と“地和”を和了れば、全役満を制覇できる。
 最後のチャンスはいつだったであろうか。
 これほど牌を握っていても、そう数えるほど機会はない。

 西家が 中 を放った。
 その牌に声をかける者は居なかった。


 そして、私の自摸番。
 それは、長い間待ち焦がれた溝を埋める牌ではなかった。


 八筒 を、ただ押し黙って自摸切る。
 二巡後、 六萬 を引き込んでリーチ。


 八筒六筒二萬横 リーチ


 金 五萬赤 を一発で自摸り上げて、ハネ満と4500両の和了。


 四萬五萬六萬六萬七萬一筒二筒三筒三索四索五索八索八索   ツモ  五萬赤


 あと、二つ。
 それは変わらない。




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交錯

 第一ツモを持ってきて下の十三枚。
 久しぶりに、アレを狙ってみた。

(東二局 北家 ドラ 一萬


二萬五萬一筒二索三索三索四索六索六索八索八索北東  ツモ  八索


 オールグリーンは過去二度ほど和了ったことがある。
 だが、記憶を辿ってみるとかなりご無沙汰していることに気付いた。

 二巡目に 六索 が鳴けて、直ぐに価値ある 二索發 引き。
 八巡目、手牌はかなり現実味を帯びてきていた。


 二索二索三索三索四索八索八索八索九索發  六索六索横六索


 あと一枚、 四索發 が入れば待望の聴牌だ。


 親と南家も序盤から仕掛けており、上手い具合に他者の視線は散っている。
 上家はよく解らない。だが、私の目には場に合わせて牌を切り出しているように見えた。

 緑発は場に一枚見え。
 今なら間に合う。
 
「竹模様が、指先に抜けろ」
 と念じながら自摸ったが、私が引いてきたのは安目の 一索 だった。
 
 
 二索二索三索三索四索八索八索八索九索發   ツモ  一索  六索六索横六索


 あくまで役満に固執し、 一索 を自摸切る手もあるが、場には 七索九索 が良い塩梅に散っていた。

 已む無く、緑発を切り出して満貫の聴牌にとる。


 すると、次巡。
 前巡に突如 五索赤 を切り飛ばしてきた上家が四枚目の 南 を手元に引き寄せた。

 
 一萬九萬一筒九筒九筒一索九索東西北白發中   ツモ  南


 音無しの、国士無双。
 恐らく、それと気付いていた人間は一人も居ないだろう。 

 どうせなら――、役満対決で競り負けたかった。




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プロフィール


吉田光太

吉田光太

最高位戦日本プロ麻雀協会


池袋「麻雀ひろばキングダム」
に居ます
ホームページ
https://www.mahjong-kingdom.com/





第1期オータムチャンピオンシップ 優勝
第7回 野口恭一郎賞 受賞
第10回モンド21杯準優勝
VS研究会 第7期、第8期連覇中


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