プロ雀士吉田光太の横向き激闘記

最高位戦日本プロ麻雀協会 吉田光太のblog。

2007年09月

野暮

 朝埜プロが異形の牌を打ち出してリーチをかけてきたのは十巡目のことだった。

(東二局 北家 ドラ 五筒


北二索九索發九萬四筒
南一索七索五筒赤横(ダイヤ)   リーチ


「麻くん」名物である祝儀が倍取りの“ダイヤ五筒”を切り出してのリーチ……。

 七対子が本命で、あって対子系の手、若しくは全帯公といったところだろう。七対子だとしたらよほど自信のある待ちか、メンホンの字牌単騎か。

 そんなことを思案しながら場を見回してみると、もう一つの名物牌が顔を見せていないことに気がつく。
 それは、リーチ後であればいつ持ってきてもオールマイティー牌として扱える“白ポッチ”だ。

 この白ポッチというやつが中々気まぐれで、一日で二回〜三回遭遇することがあれば、一ヶ月近く引いてこないこともある。
 そして朝埜氏はまだこの店でリーチ後にポッチを持ってきたことがないとかねがね公言していたのである。


 一発目。
 牌山に腕を伸ばした朝埜氏の表情が一瞬だけ曇り、そしてすぐさまそれを手牌の横に置いた。


 二萬二萬四萬四萬八萬八萬一筒七筒七筒六索六索中中   ツモ  白(ポッチ)


「これ、いいんでしょ……?」
「白ポッチ!一発自摸ですね」

 成るほど、場を見回してみると確かに一筒は良い待ちになっている。

「白ポッチにも祝儀がつくから、満貫の二枚オールだね」
「おめでとうございます。ようやくですね」

 難しい待ち取りを白ポッチで決めることができ、よほど嬉しかったのだろう。朝埜氏が破顔一笑する。

「いやー、嬉しい。思い切って一筒単騎で曲げて良かったよ」
「あ、でもドラのダイヤ五筒待ちで曲げても自摸ですよね……」
「え……」
「そうすると倍満のチップ十二枚だったんじゃ……」
「……」


 朝埜さん。せっかくお喜びのところ、申し訳ありませんでした。
 どうかこんな無粋な男をお許し下さい。







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The Longest line

 
 今日までの過酷な道程や辛かった全ての出来事に、今心から感謝をしたい。

 もう、どうあっても駄目だと思った。
 五回戦の戦いを最悪の4着、4着スタート。断トツの、足切り候補である。

 しかし、今までの経験が、口惜しい思いをしてきた時間が、私に諦めるということを忘れさせた。


 奇跡の、怒涛の大トップ三連勝条件をクリアしての、総捲り。
 ついに、とうとう、そのときは訪れた。


 第七回野口恭一郎賞受賞者は、吉田光太でした。
 五年越しの一つの夢が、叶いました。









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Great Expectations

 blog 過去log

「Life is a carnival」
 http://blog.livedoor.jp/golden_arm/archives/50892203.html#comments

「Reborn」
 http://blog.livedoor.jp/golden_arm/archives/50895211.html#comments


 あの日、あのとき止まったままの時計の針が、明日再び動き出す。

 第七回野口恭一郎賞。
 過酷な予選を勝ち上がり、五度目の挑戦にして四回目の決勝に辿りつくことが出来た。


 誰にどう嗤われても構わない。だが、男が、勝負の世界に生きる人間が、こだわりを捨ててしまったらお終いだろう。
 ここで、ここで勝たなくちゃ男じゃない。

 頑張るとか、最善を尽くすとかそういった台詞はもう要らない。今日までの想いと、今の自分の底力を存分に見せてくるだけである。

 この意気込みは、今から十数時間の後には塵芥と化しているかもしれない。
 それでも最後の半荘、最後の局、最後の一打が終わるそのときまでは、そう思い続ける。


 明日、あの場所で、幾度も取り逃した大きな忘れ物を取り戻してこよう。






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軌跡(供

 準決勝。
 対するは、現發王位の竹内孝之プロ。そして一昨日から五回にわたる予選を勝ち上がってきた新人の岸本健秀プロと綱川隆晃プロ。
 
 緒戦、またしても親番で和了を重ねることに成功し、トップを飾る。
 吉田、岸本、竹内、綱川の順。

 二回戦オーラス。ラス親の竹内プロが一人大きく沈み、私は同点トップの二人と2600点差で迎えた31300点持ちの三着目。
 点数的には条件クリアながら、仕掛けている二人に対して超危険といもいえる牌が出る格好の聴牌。

(南四局 北家 ドラ 九索


四萬五萬六萬六萬六萬七萬四筒五筒四索四索四索九索九索   ツモ  八萬


 結果論ではなく場に通っているドラ落しも考えられたが、出和了でほぼ決勝進出を決定づける聴牌の誘惑に打ち勝つことができず、 六萬 を勝負。

 これを綱川プロに捉えられて、白星を献上してしまう。
 二回戦は綱川、岸本、吉田、竹内の順。

 運命の最終戦――。
 あと一つ、あともう少しで再びあの舞台に立つことができる。

 ここまでのポイントは、
 岸本  +22.8p
 吉田  +22.1p
 綱川   ▲5.0p
 竹内   ▲37.9p


 私と岸本プロは二着に入れば勝ち上がり。三着でもお互いのどちらか、もしくは竹内プロがトップならば問題ない。
 綱川プロとは二着順差つけられた場合、7200点差まで。
 竹内プロは私か岸本プロのどちらかをラスに沈めてのトップが条件。
 落ちるシナリオとしては、綱川プロがトップないし二着で、私が岸本プロよりも下の三着か四着というパターンが濃厚。すなわち、綱川プロを走らせないか、岸本プロとの着順争いを制すれば勝ち残ることができる。


 東一局。
 今思えばこの重なりが全ての縺れの始まりだったのかもしれない。
 北家スタートの私は五巡目に緑発を重ねて下の十四枚。

(北家 ドラ 八筒


 三萬四萬四筒四筒六筒八筒五索五索白白發中中   ツモ  發


 三元牌は、緑発が先ほど場に打たれただけである。
 牽制も兼ねて、積極的に飛びつくべきかどうか……。もし、もしも役満を和了ることが出来れば、全てが解決する。

 またしてもそんな甘い勘定をしていた私だったが次巡に 四萬 を重ねる。


 三萬四萬四筒四筒八筒五索五索白白發發中中   ツモ  四萬


 これで、三元役の未練はきっぱりと断たれた。
 ドラを打ち出してまでの役満リャンシャンテンよりも、七対子のドラ単騎を選ぶ。間違ってどこかから零れれば、またはひょっこり持ってきてしまえば、二着条件のこの戦いを相当有利に進めることが出来るのだ。

 結果は、綱川プロの1000・2000自摸和了。


 次局、綱川プロの親番。
 今度は、仕掛けていた。正確に言うと、仕掛けの道中で絵が入った。

(東二局 西家 ドラ 八索


 五筒六筒六筒發發中中   一萬横一萬一萬 白横白白


 六巡目、竹内プロがリーチときた。打点を作ってきていることは間違いない。
 私の自摸は 五筒 。竹内プロの河の 二筒 と綱川プロの河の三巡目の 六筒 に視線をやり、そのまま自摸切る。


 竹内プロが緑発を持ってきた。
 無論、叩いた。そして――。


 五筒六筒六筒中中   發横發發  一萬横一萬一萬 白横白白


 この半荘の条件だけを考えれば、打 六筒 の満貫二面聴牌が正着だ。 四筒 七筒 は悪い待ちじゃない。
 だが……。
 通っていない 六筒 勝負に日和ったのか、紅中が打たれたときの衝撃から逃げたのかは解らないが、私は打 五筒 とし、高め大三元の聴牌にとった。

 そして、次巡。卒倒しそうになりながら、 七筒 を自摸切った。

 結局、竹内プロがドラと一筒のバッタを自摸り上げて、2000・3900の和了。

 東三局は私が綱川プロに放銃。

 
 これで、綱川、竹内、岸本、吉田の順。
 この並びは、非常に拙い。
 大トップが条件の竹内プロと、トータル首位の岸本プロがどこまで和了競争に参加するか。綱川プロに押し切られるようでは、捲くられてしまう。

 それでも何とか東ラスの親番で細かく加点し、原点付近まで戻すことに成功する。
 そして、“私の親番での竹内プロにリーチ”に岸本プロが飛び込む。

 これで、私と岸本プロの点差は一万点以上差がついた。
 私と上位陣との差は3000点ほど。だが、岸本プロが下にいる限り上位を狙う必要はない。後は、流せば終わりである。


 だが、ここで私にとって最悪の出来事が起こった。
 岸本プロが南家の親番で4000オールを自摸和了り、一躍トップ戦線に躍り出たのである。

 綱川、岸本、竹内、私の順。
 僅差ながら、このまま終わらせれば岸本プロと綱川プロが勝ち上がりという状況になった。ラス親の私は非常にキツい。
 拙い、拙いぞと思うも並びは変わらず綱川プロが全力で局を落とす。
 
 ラス前、竹内プロの親番。
 竹内プロが執念でリーチを打つ。

 流局して一本場。必死で局落しに来る者が二名がいる中、奥歯を噛み締めながら闇に構えて綱川プロから1000は1300の直撃打をモノにした。


 これで、オーラス。
 
 岸本   33900
 綱川   29900
 竹内   29000
 吉田   27200


 厳しい……。昨日から続く胃の鈍痛がさらに腹部を刺激する。

 私と綱川プロは現在二着順離れた2700点差。
 27.1pのアドバンテージがある私はウマの20p差を差し引いて、4400点リードしていることになる。
 だが、綱川プロが岸本プロを捲くってトップになった瞬間に、アウト。
 私は逆に岸本プロに3900までなら差し込むことが出切る。ここでも、放銃をしなければ残る岸本プロと役満条件の竹内プロがどこまで前に出てくるかが問題となる。

 そして、何よりも痛いのが、綱川プロの一人聴牌を許すことができないという点だ。綱川プロが同点トップを獲ると、私は捲くられてしまう。
 脇が、いや岸本プロが和了らない限り私は必ず聴牌し、そして手牌を開いて続行しなければならないのだ。

 
 息を飲み、骰子を振った。
 配られた十四枚の並びは、悪い。
 岸本プロは、初巡から安牌を貯めこむ作戦に出たようだ……。
 しかし、何事も今目の前にある全てのことを受け入れなければ先に進むことは出来ない。

 これ以上ないという要所を一つだけ喰って、有効牌を立て続けに引いた。
 十二巡目に、和了った。和了ることが出来た。


 五萬五萬六萬八萬三筒四筒五筒五索六索七索   ツモ  七萬   五筒横四筒六筒


 この500オールで、200点差ながら私と竹内プロが入れ替わった。
 だが、綱川プロの条件はそう変わらない。

 私は彼の手牌進行を睨みつつ、脇に振ることもなく、終局の用意をしなければならない――。


 戦いが終わり、私は人目をはばかることなく憔悴しきった表情を顕にした。
 それほど、重圧を感じながらギリギリの戦いだった。
 卓上で開かれている岸本プロの手牌と、綱川プロの河に捨てられている 南 をもう一度見比べた。


 残った。残された。再び決勝の舞台に立つことが出来た。


 今はただこの喜びに浸りたい。
 そして、すぐに軌跡の続きを描くために始動しよう。






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軌跡

「ここで、ここで潰えるのか。まだ、終わりたくない。もう一度、軌跡を描いてみたいんだ……」 

 南場に入ってからの数十分間、ずっとそんなことを思っていた。

 麻雀において、緊張することなどもうないと思っていた。
 だが、半荘が開始意されてしばらくしても、勝負の前日から私に圧し掛かっていた重圧が消えることはなかった。


 連覇をかけて挑んだ第二期オータムチャレンジカップ準々決勝の舞台。
 そこにはつい先日まで共に鎬を削り、幾度も麻雀の議論を交わしたあの男の姿があった。

 斉藤勝久プロ、大窪貴大プロ。そして、木原浩一プロ。

 一発裏ドラ、オカ無し。ウマが5-15のオータムルール。半荘三回戦の戦いを行い、卓内上位二名が次の準決勝へ勝ち上がりとなる。
 本当に当たり前のことだが、負けたら、その瞬間に終わりである。


 緒戦、細かい和了を重ね、斉藤プロとトップ争いを演じる。
 勝負所はラス前の私の親番。

 仕掛けて聴牌を入れていた私が掴んだ牌は 八萬 だった。

(南三局 東家 ドラ 三索


二筒三筒四筒七筒七筒三索三索   ツモ  八萬    八索横六索七索  八筒八筒横八筒


 ドラで和了れば11600。そして筒子の上が安く、片割れの 七筒 が絶好の待ちになっている。


 しかし、下家の斉藤プロがダブ南と白板を仕掛けており、こちらも聴牌。


 裏裏裏裏    白白横白 七萬横六萬八萬 南南南横


 萬子を晒した後に手出しで打 四萬 。さらに白板を叩いて打 四萬 ときた。
 手の内の残された受けは四萬の対子よりも上位の萬子、もしくは字牌。または、混一色を放棄してまでも残したかった牌ということになる。

 木原プロが二枚目の 四萬 を喰って、タンヤオ模様。点棒状況を考えると、ドラを使っていたいところだ。
 そして斉藤プロの仕掛けに対し、生牌の白板を打ち出した大窪プロも勝負手なのだろう。

 この牌を勝負か、退いてオーラス勝負か。
 退けば二着は固いが……。

 七萬 は場に三枚見え。
 斉藤プロによほどレアケースな手牌変化がない限り 八萬 は通る。木原プロには勝負をして問題のない牌だ。
 そして大窪プロの河には大分前に 五萬九萬 が捨てられている。

 勝負を決定付けるやもしれない聴牌を崩すことが出来なかった私は、 八萬 を放った。


「ロン――」


 声を発したのは、意外にもラス目の大窪プロだった。


 一萬二萬三萬四萬五萬六萬七萬九萬三筒三筒三筒三索三索   ロン  八萬


 白板打ちを嘗めていたわけではないのだが……。
 確かに絶好の待ちだ。

 オーラスは木原プロの自摸牌が安目だったことに救われて、辛うじて二着。
 斉藤、吉田、木原、大窪の順。


 第二戦目。
 東初に七対子をモノにした後、大窪プロが斉藤プロから12000の出和了。
 その親番を軽く仕掛けて2600で落としたのが幸いしたのか、親番で2000オール、2600オールと二局連続の自摸和了。


 三萬三萬六萬七萬七萬八萬八萬九萬九萬九萬一索二索三索   ツモ  六萬


 四萬五萬六萬六萬七萬七萬七萬五筒六筒七筒七筒八筒九筒   海底ツモ  五萬
 

 南場の親番ではリーチに押し切って4000オールの自摸和了。
 残りの局も失点を回避して、大きなトップを手中に収めることに成功した。

 並びは吉田、斉藤、大窪、木原。


 最終戦。
 木原プロの手が止まって苦しそうな様子が伝わってくる。ただでさえこういったトーナメントの戦いで二人に先行をされると、あらゆる面で不利なのだ。

 結局、木原プロ、大窪プロに反撃の糸口を与えることもなく、斉藤プロと私が軽く流して吉田、斉藤、大窪、木原の順。 

 吉田、斉藤が準決勝へ勝ち上がる。


 あと、一つ。
 あと一つであの舞台に辿り付くことができる――。




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調和

 よく晴れた日曜日。
 幾つものブランド店やオープンテラスのカフェが並ぶ表参道に降り立つ。
 
 路地を入り、五分ほど歩いたところにあるヘアサロン「gokan」へ。
 まだキャットストリートに在った頃から通いだして、もう三〜四年経つだろうか。偶然出会った、一人の新進気鋭のスタイリストに惹かれて通い続けている店だ。

 サロンのマスコットキャラである大きな黒い犬がシャンプー台に我が物顔で座り込んでいる。
 いつものように黙ったまま視線を絡めて、笑いかけた。だが、犬は私に興味がないかのように直ぐに別の遊び場所を探すためにフロアを闊歩し始めた。


 髪を切り、久しぶりに入れた朱色が映える頭で代官山へと足を向ける。
 鷲谷町でタクシーを降り、秋冬物が立ち上がったばかりの“pledge”を物色する。
 カタログで目にしたNIKONAR COATに狙いを定めていたが、週末の二日間で完売してしまったとのこと。店内を見回すと、成るほど確かに行列が出来るほど今期は出来が良いようだ。

 猿楽町を抜けて、“JULIUS”と“attachment”も覗いてみる。
 別にお洒落でも、似合っているとも思っていない。ただ好きだから、見たいショップは隈なくチェックする。
 attachmentのペコスブーツのフォルムの美しさが印象的だった。

 その後、いつものように六本木の雀荘「麻くん」へと足を向ける。


 麻雀打ちも、変わったなと思う。
 私が知る読み物の中の麻雀打ちや、この道の先輩達のライフスタイルと今とでは大きな隔たりがあるだろう。
 
 今はネットをいじり、テレビやゲームに出演し、雀荘にもプロの世界にも身近に女性の姿が見ることができる。
 安アパートに住み、いつも同じ服を着ていて、競輪・競馬もお手の物…。なんていうのは一昔前のことだ。
 
 
 だが、麻雀打ちがハイカラになったとはいえ、それはまだまだこの世界でのこと。実際に毎日麻雀漬けの人間や、雀荘のメンバーなんかは格好も風体もあまり気にしないことが多い。
 私が住んでいた地方では移動の手段が車なので、雀荘の夜番なんかはジャージにボサボサ頭なんていうのが普通だった。
 退廃的な生活を送っている麻雀打ちは、誰に見られるでもない服装や外見のお洒落はどうしても二の次になる。
 
 しかし、私は麻雀にノメればノメるほど、身だしなみに気を使うようになる。


 おそらく、あまりにこの世界だけに埋もれてしまうのが怖いのだろう。
 麻雀というゲームは貌つきや人格を変えてしまうほど、心に入り込んでくる。無意識のうちに、どこかで心と生活のバランスを取ろうとしているのかもしれない。
 

 暮れなずむ夕日の中で、そんなことを思った。
 






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鉄槌

 生ぬるい空気の中に落ちてきた篠突く雨を避けるように、雑居ビルのエレベーターに飛び乗った。
 饐えた匂いのする狭い空間に耐え、いつもの雀荘のあるフロアに到達する。

 お座り、二分。
 三巡目嵌 七筒 聴牌が、五巡目にダイヤ 五筒赤 を引いての二面に振り代わり、リーチを打つ。

(東一局 東家 ドラ 二索


四萬五萬赤六萬六筒八筒二索三索四索四索四索五索六索七索   ツモ  五筒赤


 下家に三牌無スジを通されたが、すぐに自摸りあげて 倍満の四枚オール。


 四萬五萬赤六萬五筒赤六筒二索三索四索四索四索五索六索七索   ツモ  七筒   裏ドラ 五萬


 一日の勝負にしろ半荘にしろ、幸先が良いというのは悪くない。
 北家が1500の懸賞点をモノにする和了をし、無傷で親落ちをした。残りは三局、実入りのデカいトップスタートを勘定していた。

 しかし、親が私の上家からあっさりと18000点を出和了る。
 一本場は私の一人ノーテン。
 二本場も琉局。
 平素の半荘であれば充分すぎるほどの決定打をモノにしたにも拘らず、勝負の帰趨は一気に判らなくなってしまう。


 東二局三本場。
 
(北家 ドラ 二萬


一索二索三索三索四索五索五索  ツモ  東   中中横中 七萬横八萬九萬


  仕掛けて聴牌を入れていた私だが、ドラを鳴いている上家の最後のバック牌を持ってきてジ・エンド。


 裏裏裏裏裏裏裏  一筒横二筒三筒  二萬二萬二萬横


 非聴牌、もしくは東が暗刻――。
 私の勘と上家の手出し自摸切りのバランス、その全てが双方の可能性を否定していた。

 東は上家に切れない。
 だが、弱ったことに対面に通りそうな牌が手中にないのだ。
 仕掛けに対する聴牌読みの精度、待ちのゾーンの絞り込みは東風戦を勝ち抜く上で必要不可欠な力だ。

 対面も聴牌。
 そして、色は索子だった。
 
 祈るような思いで、一番待ちのパターンが少ない 一索 を放った。


 一萬二萬三萬三筒四筒五筒赤二索三索五索五索   ロン  一索   南南南横


 本場地獄がついて、3900は8400点の放銃となる。


 トップまで4000点差の二着で迎えたオーラス。
 楽勝ムードで始まった半荘が、いつの間にか追いかける立場になっている。
 
 だが、願ってもいないことに手牌にはドラが三丁あった。

(東四局 南家 ドラ 四索


四萬七萬五筒六筒一索二索三索四索四索四索六索六索七索  ツモ  八索 

 まだ三巡目。手拍子で、打 七萬 とする。
 だが顔を上げて場を見回してみると、親以外の第一打目が 一萬 だった。

四萬 は持たれている?重なりとくっつきを考えると、上の 七萬 残しが正解だったか……?」

 そんなことを考えながら山に手を伸ばすと、次の自摸は 七萬 だった。
 そして次巡、親リーが入って私の自摸が 七筒 ……。

 結果的にこの形のハネ満を逃したことになる。


 七萬七萬五筒六筒一索二索三索四索四索四索六索七索八索   ツモ  七筒


 ここで退ける人間を、まだ私は生涯で一人しか知らない。
 五巡目の親リーチ。通っていない牌は山ほどある。それだけ一牌が通る確率が高いってことだ。

 満貫出和了でトップ。そして、三面張。
 今の私は判っていながら切るし、判っていながら目の前の旨味と痛手を受け入れようとしてしまう。


四萬五筒六筒一索二索三索四索四索四索六索六索七索八索   ツモ  七筒



 私がリーチの声を発するよりも早く、バタッと親の手牌が倒される。


 二萬三萬三萬四萬五萬赤三筒四筒五筒五索五索五索六索七索   ロン  四萬


 裏ドラが二枚乗って、18000の四枚だという。
 牌の織りなりは非情だというが、それにしても強烈な一撃だ。

 次局、ラスまで落ちた私に一人でもかわす力は残されていなかった。


 短い東風戦でも様々な鬩ぎ合いがあり、押し引きの妙こそがものを言う。

 攻め味だけでなく、押し引きにももっと“キレ”を。
 さなれば、あの男に追いつくことなど夢のまた夢である。







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後塵

 リニューアルオープンしたので、今日も遊びに来てください。
 こんなメールが後輩から届く。

 別に言われなくても、その雀荘にはここ最近日参している。
 正午に。とだけ短い返信文を返す。


 地下鉄を乗り継ぎ、その雀荘の扉を開けると見慣れた端正な顔立ちの男が出迎えてくた。
 抜けるような白い肌に妖艶な瞳。
 プロ麻雀会でも屈指の美青年だ。

 その後輩を交えて卓が立てられる。
 残った二人のメンバーのうち一人は、これまた団体の後輩であるプロ雀士。もう一人のメンバーも二〜三軒の雀荘で顔を会わせている手練の若者だ。


 楽な相手ではないが、こういった面子の方が純粋に勝負に没頭することが出来る。マナーや相手のことかそういったフリー雀荘特有の気遣いが要らないのは、心地良い。


 緒戦をトップで飾り、その後も三連勝などを挟んで順調に勝ちを積み上げていく。
 しかし、やはりレベルが上がると容易に突き抜けさせてくれない。途中、大分目減りさせられた。

 誰とは、言わないが。
 ここ最近、ひたひたと迫り来る後輩たちの気勢を感じさせられることがある。正直、サシでじっくりと手合わせを願いたい奴もいる。

 だが、私が比べなければならないのは、彼らの“今”ではない。
 勝利や名声にひたすら貪欲に餓えていた、今の彼らのような頃の自分に想いも技術も気合も勝たなければならない。
 

 良かった頃や誰よりも燃えていた自分を追い求めて、そしてそこから更なる境地を目指す。
 麻雀なんて、きっと一生その繰り返しなんだと思う。






 六本木駅 6番出口徒歩1秒
 若手プロと勝負が楽しめるお店

 フリー麻雀荘「麻くん(まーくん)」
 TEL 03-5411-0678






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前進

 その男の目前に、待望の初トップが迫っていた。

 二着、二着と着実にスコアを伸ばして迎えた第三戦目。
 このまま二連勝スタートの首位を沈めて終われば、タイトル争いは二人に絞られ、優勝はぐっと近付いてくる。

 南二局の親番。
 二面で有効聴牌を入れていたものの、下位者のリーチにダマで対応し、退き際にはキッチリ手を崩して回った。
 続く南三局、タンピンの聴牌からリーチ者に競り負けたが、ラス目の和了で局は進んだ。

 南四局。
 仕掛けも捨て牌もトップ者のそれと思わせる自然な動きで大物手の聴牌を入れた。

(南四局 西家 ドラ 四筒


 三筒四筒五筒五筒五筒南南    七筒横八筒九筒  白白白横


  一発・裏ドラ・オカ無し、ウマが4000点-8000点の連盟ルール。
 ここで満貫を和了ることが出来れば、素点の上でも非常に大きな意味を持つ。

 四者が前に出てきているオーラス。待ち牌は、すぐに零れもおかしくない牌である。
 早く、早くそいつもモノにして終わらせてしまうんだ……。
 そして残りの二回戦でフィニッシュだ。
 

 私の心の叫びとは逆に、沈んでいるラス親が牌を叩きつけてリーチときた。


 九索北一索三筒九筒六索一萬横


 二連勝スタートのこの親に浮上されるようだと、残りの戦いがかなり厳しくなる(原点以上浮いていると、三着でもウマは+ポイントになる)。


 親指で軽くなぞった 五索 を、西家は叩き切った。
 高い手を打ったら、全てが無となる可能性がある。

 だが、こんなところで退いている奴にタイトルは獲れない。
 一発・裏ドラ無しのルールなのだ。リーチが破壊力を伴った手とは限らない。

 しかし、無常にも親がその自摸牌を手元に引き寄せた。


「値段は――!」

 と手牌に視線を走らせた私と松崎のまなこに、ドラの対子が映った。


 二萬三萬四萬六萬八萬四筒四筒五筒六筒七筒三索四索五索   ツモ  七萬


 これを機に彼の一つの夢は、瓦解した……。


 手にした配牌は構想と異形を成し、搦めとられるかのように弱っていった。
 満足に攻められた局は一つか二つ、あっただろうか。

 敗因も、急失速の理由も在りはしない。
 ただ、届かなかった。それだけである。判ってはいるが、何と残酷な世界か。


「せっかく応援に来てくれたのに、不甲斐なくて申し訳ない」


 薄っぺらいはずはない。今日までの彼の想いが。
 知人に頭を下げて回る彼に、私はかける言葉が見つからなかった。


 自分に近い人間の苦難は、自分のそれよりも苦しい。
 しかし、私も彼も誰もみな、こうやって歩みを続けていくしかないのだろう。




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忘我

 あの得も言えぬ緊張感は、どう言葉にしたら伝わるだろう。
 常日頃の点棒やチップだけのやり取りの麻雀とは異なり、条件戦というのは互いの情操だったり執念に近いものすらを感じ取れる趣がある。

 対面の男。プロ麻雀連盟の仁科勇人プロとの差は、16.8p差だった。 

 四半荘を終えた時点での暫定首位である私は、トップならばもちろん文句無しで優勝。
 一発・裏ドラ・オカ無し、ウマが5-15の王位戦ルールなので、二着の仁科プロには二着順差をつけられた時点でアウト。一着順ならば6700点差以内まで。
 また、仁科プロより上の着順になっても、三番手にトップを獲られると私は二着に食い込まなければならなかった。


 先ずはトップ。次いで仁科プロよりも上の着順を、と臨んだ私の構想を打ち砕くように最終戦は幕を開けた。
 開始早々の東一局一本場に、当の敵である仁科プロが3000・6000の自摸和了。

(東一局一本場 南家 ドラ 二筒


 二筒二筒五筒六筒   ツモ  四筒   九筒九筒九筒横 白白横白 南南南横


 東一局のノーテン絡みも含んで、僅か一局にして19400点のリードを許す。
 一発・裏ドラ無しのルールでこのビハインドは言わずもがなキツい。

 東場、南場に入っても私はノー和了。必死に耐え凌ぐ時間が続く。
 和了れはしないが、失点も最小限に防ぐ。自分が放銃をしないということは、同時に仁科プロの放銃の可能性を残すのだ。

 ラス前を迎えて、その差は8400点差にまで迫っていた。
 ここでようやく私がこの半荘始めて声を発する。
 
(南三局 南家 ドラ 八索


 二萬二萬六萬七萬七索八索九索   ロン八萬   四筒横五筒六筒  南南横南
 

 これで、点差は4500点差。
 着順は私の方が下だが、先の6700点のアドバンテージを含めると、トータルで私の方が2200点上に立った。


 オーラス。
 私は彼に和了らせるわけにはいかない。無論、振り込むことも出来ない。
 しかし、ノーテンで手牌を伏せることも赦されないのだ。
 
 今日は、タイトル戦の決勝を見据えたセットである。この半荘のトップを獲るために松崎良文プロが和了に向かう可能性がある。ただし、それでもサブロクを被ると終焉。
 やはり、和了続けてノーテン罰符で変わらない点差をつけてから手牌を伏せるのが本線である。


 零本場。五巡目に緑発を暗刻にして先制リーチ。
 これに四暗刻イーシャンテンだったという松崎が飛び込んで、3900の和了を物にする。

(南四局 東家 ドラ 九索
 

一萬二萬三萬四筒五筒六筒一索一索四索五索發發發   ロン  六索


 6100点差で臨んだ一本場。

 ここで、この局で彼に条件成就の手牌が入らなければ、私の逃げ切りである。
 しかし、私のそんな思いはまたもや一瞬で打ち砕かれた。


 北二筒八萬八筒八筒三萬横   リーチ


 牌を横に曲げたのは松崎ではなく、対面の仁科プロだった。
 一方、こちらも平和手の一向聴。

(東家 ドラ 三索


 五萬六萬六萬七萬七萬一筒二筒三筒六筒七筒三索三索八索


 この巡目、この手恰好であれば押さなくては駄目だ。
 オリきれる巡目になるか、自分の和了の方が遅いと感じたときまで前に出る。

 切り裂くように、無スジを一牌河に放った。声がかかれば、間違いなくラストなのだ。通っていない牌は、どれでも痺れる。
 次巡、手中に浮いていた 八索 も通す。下家も私に倣って、打 八索

 それは、私が自らの和了に見切りをつけ、オリにまわったあたりの出来事だった。
 十一巡目、だったと思う。


 牌山に伸ばした対面の男の腕が、疾く、とても綺麗な弧を描いて見覚えのある牌を手元に手繰り寄せた。


 一萬二萬三萬七萬八萬九萬一索二索三索六索七索中中   ツモ  八索


 直撃すら条件を満たさない先にある、文句無しの決勝打である。
 後ろの観戦者によれば、私の下家の十三枚の手牌には四枚の 五索 が塊を成してそこに在ったらしい。


 あの局、あのとき 八索 が描いた弧は、数日経った今でも私の脳裏に焼き付いている。
 まるで、執念を感じさせるような自摸だった。

 私には頑ななまでに牌にしがみ付いている不器用で、歪な同士が居る。彼らは皆、取り憑かれたかのように、人生の中で赦される時間目一杯まで麻雀にしがみ付くだろう。

 こんな残像を見せてくれる対戦相手が居るこの世界に、私もまた取り憑かれている。






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プロフィール


吉田光太

吉田光太

最高位戦日本プロ麻雀協会


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https://www.mahjong-kingdom.com/



<獲得タイトル>

第1期オータムチャンピオンシップ 優勝

第7回 野口恭一郎賞 受賞


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