「どうしたんですか――? 珍しいですね」

 下家に座った後輩が、携帯を手にした私の顔を見て言ってきた。
 おそらく、今まで卓上で見せたことのない表情をしていたのだろう。

 麻雀というゲームはちょっとした精神状態のブレで、その日の出来不出来が決まってしまうことがある。

 それが報われるかどうかは別として、全員が必死になって集中し、少しでも良い麻雀を打とうとしているんだ。悲惨な状況下であろうと、私生活で何がしかのトラブルを抱えていようとそれを卓内に引き摺ってしまった時点で負けなのである。 

 その日、卓に着く直前に交わした知人との電話で私の精神状態は大きく揺らいでいた。
 だが、生半可な覚悟で卓に座り続けてきた訳ではない。どれほどの苦境でも細部の押し引きにブレを生じさせてたまるか、という気負いが私の胸のうちに在った。


 半荘が開始されて間もなく、サイドテーブルに置かれた私の携帯の背面がメールの着信を知らせる光を帯びた。
 まったく麻雀とは関係の無いプライベートの、たった数行の着信文を読んだだけで先刻まで滅入っていた心が精気を取り戻し、あろうことか私は卓上で弛緩しきった表情を顕にしたようだ。

 いや、何でもないんだ。
 そう後輩に短く伝え、直ぐに戦いに入り込もうとしたが、妙に肩に力が入ってしまいミスと呼べるような放銃を二つ続けてしまった。
 そんな私を咎めるかのように、周囲が面白いように大物手の花火を打ち上げる。


(ドラ 一索

 三萬三萬五萬赤五萬一筒一筒一索三索三索五索赤五索北北   ツモ  白ポッチ  裏ドラ五索


(ドラ 八萬 )

 三萬三萬四萬四萬五萬七萬八萬九萬三筒三筒西西西   ツモ  五萬  裏ドラ西


 ポッチで倍満の2500オールを自摸られ、次局その倍満を親被りした北家に倍スリーを自摸られた。
 その後も成す術がないまま静観する私を三者が嬲り続ける。


 今日は完敗だな、と思い早々に席を立った。
 そもそもスタートで戦う姿勢が取れていない。

 心に隙が生じても、気負いすぎても良い麻雀は打てない。
 ましてやその原因が卓外での慶び事であるなんて言語道断である。







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