私にはずっと疑問だった。
 彼ほど強く、そして歌舞伎町で凌いでいた人間が、安レートでレベルも低いこの雀荘に打ちに来るのかが。

 店側の人間としてあるまじき発言だが、思い切って聞いてみた。


「自分がこう言っては何ですが――、なぜこの店に打ちに来るのですか?」

「何故――?」

「そう、何故かです」


 思えば橋健と口を利くのはこれが初めての事である。
 私はいささか緊張したが、意外な返事が返ってきた。


「お前が居るからだよ――」 


 彼の真意は計り兼ねるが、そう言って彼は言葉を続けた。


「ずいぶん打ってきたけどね、初めて土を付けられた」

「いえ、そんなに勝っている記憶はありませんが……」

「初めて打った時だ、完敗だった。俺は君の麻雀に惹かれた。それで顔を出し続けている」
 
「たまたま、でしょう……」


 そう言ってくれるのが嬉しくないわけはない。
 私は橋健の言葉を信じ、堰を切ったように悩みを打ち明けた。


「俺は、本当に強くなれるのでしょうか? 東京はどんな麻雀ですか? このまま麻雀を続けて良いのか、俺は本当に自分が知りたい」

「技術とかそういった部分を抜きにして、今の強さは本物だと思う。純粋に強さだけを思い続ける生活はそう簡単に出来るものじゃない。今は君と良い勝負が出来るかもしれないが、俺じゃあそこ止まりだ」

「歌舞伎町には強い奴が居ますか?」

「一人だけ、歌舞伎町で一緒に打っていて化物のように強い奴が居た。エンペラーという雀荘の後藤っていう奴だが、僅か半年で恐ろしいほどの金字塔を打ち立てた」

「俺がそこに行ったらどうなりますか?」

「それは、判らない。俺はもしかしたら後藤が人生の中で異常に強かったときだけを目にしたかもしれない。運の訪れ方は均等じゃないし、様々な人間が居る。中にはそういう人種や時期があっても不思議じゃない」

「それでも化物のように強かったと」

「だが、歌舞伎町や人生には色んな事がある。彼は誰もが羨むような金を残したが、それがその後の人生の大成や麻雀の強さに繋がるかは判らない。たまたま最初の五年間だけツイている奴だっているだろう? あの街ではそういったことも有り得る。結局、麻雀だけに生き、麻雀が命だという者が一番強いのかもしれない」


 昔を懐かしんだのか、橋健は珍しく饒舌に語ってくれた。
 彼が麻雀で凌ぐ道から足を洗い、この地へ辿り着くまでにも色々とあったのだろう。


 未だ見ぬ土地の強者たち……。
 私は東京で勝負をしてみたいという気持ちも抱いたが、その反面、この地でしっかりと根を張り、自分の麻雀を打てば良いじゃないかという思いになれた。

 
「どうせそのうち東京に打ちにいくんだろう? アッチに遠征に行くときは良い店を紹介するから言ってくれ」


 そう言って、橋健は初めて私に人懐っこい笑顔を向けてきた。







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