金曜の夜19時過ぎ。
 すれ違う仕事上がりのサラリーマンや買い物客たち。
 
 私は電話で聞いた住所を頼りに新宿通りを伊勢丹の方へ抜けて行った。


 おおよその場所は説明されたが、指定された店は新宿の外れの方にあるという。
 私は途中で銀行に立ち寄った。
 今日、麻雀を打つ心算はなかったので、財布には2〜3万円しか入っていない。

 そう言えばレートを聞くのを忘れた。
 だが、そんなに安いということはないはずだ。いくら用意して行けば良いだろう…。


 負けてから不足分を下ろしに行くのではバツが悪いし、初めての場で懐中が細いと萎縮してしまう。


 30か、40か…。

 しかし回数も聞いていないので、もし長丁場ならば展開によってはいくら溶けるか判らない。

 私は5本用意をした。


 20代前半の私のサラリーは大した額ではない。

 だが、上京し麻雀をゼロから始めてちょうど一年が経っており、私はその間好調を維持していた。

 何より私は麻雀以外にすることを知らなかった。
 趣味を持ったり旅行に行く事はなかったから、金の使い道も麻雀以外には無い。


 ATMで50万円分の札束ズクを作り、念のためそれを財布に3本、そして鞄に2本と分けてしまった。
 私は決して博打依存症ではないが、こういう勝負に出るときの胸の高揚感はえも言われぬものがある。


 駅から15分ほど歩き、目的地である店に辿り着く事ができた。
 
 ここか…。

 薄暗い地下の店の扉を開けると、どうやら貸卓専門店らしく中年の女性店員が出迎えてくれた。
 しかし、店内には他に人の姿が見当たらない。


「あの、ワシオさんのセットで来たのですが…」


 そう告げると、いつもの卓ということで私は店の奥にある卓へと案内された。
 そしてやや遅れてテレビ局の面子が1人、麻雀プロの先輩が1人やってきた。

 私は簡単に挨拶を済ませ、共に待った。
 しかし、約束の時間を過ぎてもなかなか歌手は現れない。

 1時間、1時間半が過ぎたがまだ来ない。


「いつも遅くなる事が多いのですか?」


 そう尋ねると今日は特別に遅れているとのことだった。


 今夜の予定はもう無いが、明日は王位戦というタイトル戦の予選なので出来れば遅くなるのは避けたかった。

 私には別に待つ義理はないし、この先芸能人と繋がりを持とうという気もない。
 私は電話をくれた先輩の顔を立て、2時間待って来なかったら帰ろうと思った。


 そして、私が席を立とうとしたところでようやく彼が姿を現した。



  

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