病院に着くと、すっかり弱りきったホリタが眠りについていた。
 よく見ると頬は痩け、何だか一回りぐらい小さくなった気がする。

 ナガタが奈良から出てきたホリタの母親を迎えに行くと言って病室を後にし、入れ替わりにホリタが目を覚ました。


「吉田クン……。来てくれたんか、悪りのぉ」


 そう言うと、ホリタはいくつも冗談を言い出した。
 倒れたときのことを面白おかしく話し、病院の看護婦をナンパしたなどといつものように饒舌に喋りかけてくる。

 そして最後に仕事に出れないことを詫び、私に穴埋めをしてくれるよう頼んできた。


 言われなくても私はそうする心算だったので、ホリタの替わりに働き続けた。
 ホリタのためではない、店の事を考えてだ。


 そして、退院となる一週間後にナガタに誘われてホリタの元を訪ねた。
 ナガタの車で寮に帰る準備をする。


「迷惑かけたからよぉ、二人にメシ奢るわ」


 帰りしな、ホリタがそう言い出した。

「色々と出費もあっただろうし。いいですよ」

 固辞する私にホリタが言葉を続けた。

「いつもいつも他人行儀やなぁ。上のモンが後輩に奢るんは当たり前やん」


 実は、それはホリタの気遣いなのであった。
 ホリタの替わりに仕事に出た私は不甲斐ないことに麻雀の調子が悪く、余分に働いた分もガミ(マイナス)を喰うような成績だったのだ。

 そしてホリタは逐一店に電話を入れ、どうやら私の成績を確認していたのだ。



 以前、5人打ちの高いセットをやっていたときのことだ。
 私は時間に制約があったのだが、一人が遅刻をし、私が席を洗うと卓が続かない感じになった。

 私はその日、芽が全く出ず、かなりの額を走っていた。
 何よりも次の用事に行かなければならないし、集中力と気持ちが切れた状態で規定の回数を超えて打つ道理は無い。

 場主が何人かに電話を入れているが、誰も捕まらない。
 私はこの場主に世話になっていたので、禁を破ってもう一人のために卓を繋いだ。


 私は案の定、その半荘もラスだった。
 遅れてきた者に席を譲り、帰ろうとすると場主が人目のつかない廊下で私にラスの分の札を差し出してきた。


「悪かったね、大事な客に不義理をしないで助かったよ。気持ちだから」


 差し伸べられた札を受け取るのが、最もスマートな方法だ。
 だが、向こうも私が受け取らないは判っていたと思う。

 これを受け取ってしまうのならば、他の仕事をやって生計を立てた方が良い。


「仮に俺がトップでも、テラ(場代)を払う心算は無かったですから」

 そう言って場を後にした。

 
 この世界で信じられるのは、己の右腕だけ……。
 人に借りを作るのは大嫌いだ……。



 しかし、このときの私はもう変わりつつあった。
 ホリタの男らしさや人を惹き付ける魅力を前に、考えを改め始めていた。


「じゃあ、旨いものでもご馳走になるかな。ホリタさんは何を食いたいの?」

「ワシは天丼や!」


 思わず顔を見合わせる私とナガタ。


「アンタ、何で入院してたんだっけ?」



 そう笑い飛ばす私たちをよそに、ホリタはその後、本当に天丼を二杯平らげたのであった。








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*当物語はフィクションです