なぁ、吉田――
 卓を抜けた私に佐々木が尋ねてきた。


「さっきのリーチだけど、どうして 二萬 四萬 の巡で切ったんだ?」

 さっきまで打っていたゲームを思い出す。
 私はこんな手だった。


[ 東三局 親  ドラ  九筒 ]


二萬四萬七萬八萬九萬四筒五筒七筒八筒四索五索赤八索八索   ツモ  六筒


「まだ七巡目とはいえ、 四萬 から処理した方が安全なんじゃねえのか? 345の三色にはならないし」


 なるほど、マンズのカンチャンを外すことは外すが、内寄りの牌である 四萬 から処理した方が良いのでは、という問いだ。


「河を弱くしたくないからです」

「河を?」


 僕の捨て牌が......。
 私は空いている卓の牌を並べて説明した。


[捨て牌]
北西九索白北東
四萬二萬横  リーチ



四萬 二萬 の順でリーチをかけると、待ちがリャンメンだと透けてしまうでしょ。それに、 三萬六萬 待ちや、カン 七萬 なんかも通し易くなってしまう」


「別に内側から切ったからといって、他の部分がリャンメン形とは限らないんじゃないか?」


「じゃあ、センパイ。仮にピンズかソーズの受けが 三筒五筒 や、 六索八索 といった形だったら、マンズをどちらの順番で外しますか?」


「そりゃ、五萬 を引いたときの事を考えて、 二萬 から外すよ.......」


「ね、だから“内→外側の切り順はリャンメン待ち”という大雑把なセオリーが成り立つんです。これは仕掛けている相手にも言えます」


「まぁ、そりゃそうだが」


 佐々木は今一つ納得がいかないようだ。


「じゃあ、南家がマンズを 三萬八萬 と切っているが、間4ケンの 四萬 は危なくないのか?」


 まだ、情報が古い時代の話だ。
 私以外の先輩たちは、全員が流れや感覚的なものを大事にする。


「センパイ、間4ケンだから危ないというのは誤りです。 四萬四筒 を持っていたとして、 三萬 八萬 と切られている河に対しての 四萬七萬 よりも、一枚もピンズが切られていない 四筒七筒 の方が多いに危ない。カン四筒 やシャンポン待ちもありますからね」


「あと、今回の外側から外しにはもっと大きなメリットが有ります」

 佐々木がセブンスターを吸いながら黙って聞く。


「この場合は“先手”、“親番”、“河に数牌が少ない”という点です」


「ふ......ん。判ったよ、なるほどな」


 私がニヤリと笑うと佐々木が言葉を続けた。


「ピンズとソーズの受けが良いから、この手はだいたい先制でリーチが打てる。親のリーチだ、子方はオリることが多いわな。ただ、この情報の少ない河では安全牌だって不足がちだ」


「そう。したがって、 四萬 二萬 の順で外して、マンズを通し易くしない方が良い。こっちの待ちはピンズかソーズになるわけですからね」


「“内→外側の切り順はリャンメン待ち”ね」


「もちろん例外は有りますよ。例えば、残った受けがペンチャンでも手役が絡んでいる場合などね」


 言い終わる前に佐々木が返してきた。


「あとは、手順上で自然と逆切りになるケース......。 二萬四萬四萬五萬六萬六萬七萬 といった連続形、そして 赤を使い切りたい場合の 二萬四萬四萬五萬赤 からの四萬二萬 外しか」


 私は得意げに講釈を垂れていたが、佐々木の頭の回転の速さに舌を巻いた。
 やはりこの男は相当頭が切れる。


「でも、お前昨日は 六筒 八筒 の順でリーチをかけていたよな?」


 佐々木が昨日のゲームのことを聞いて来た。


「あの時は親の捨て牌が......」


[捨て牌]

發白中五筒二索四索
一筒三萬七索


「でしたからね。“3・7牌が二つの色で出て来たらテンパイ間近”だ」

「それもセオリーか」


「ええ、親は悪くてもイーシャンテンでしょう。ましてや、上目の数字が高い。789の順子をベースに手を作っているでしょう。この場合は 六筒 の処理順を優先しますよ」


「ふーん、お前の麻雀と記憶力はコンピューターみたいだな」


「確率のゲームですから。効率を重視しなくちゃ勝てないでしょう」


「おい、お前らいつまでお喋りをしてるんだ!」


 そう怒声を飛ばしてきたのは主任の安岡だった。




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*当物語はフィクションです